30 ミラとノル
今回ノルがいろんな意味でアレです(なんだよ)
砂糖じゃりじゃり嚙むくらいには甘めですので苦手な方はどうか回避をお願いいたします!
「第二王子殿下……? なぜここに?」
立っていたのはノルだった。
「ふふっ。呼んじゃった! 実は先ほどの話、もうノルにもしてしまった後なのよ」
とても楽しそうなお顔で言い切る王妃様。
「ノルが全部わかっていると知ったら、ミラ帰っちゃうかもしれんと思ってのう。出発の直前に話すと嘘をついてすまんかった……」
罪悪感にあふれた顔で指先をいじいじする王。
王様がこんなにわかりやすくていいのだろうかと場違いにもそんなことを思う。
でもまったくムーブを見せずに噓をつくんだから、やはりコントロールしていたのだろう。
王様を侮るのは良くないなとミラは再認識する。
「そ れ じゃ、あとは若いお二人でってこれいうの楽しみにしてたのよわたくし。ノル、自分の恥ずかし~い記憶もちゃんと思い出して、自分の口で、ちゃ~んと謝罪とお願い、しなさいな?」
「ふぉっふぉっふぉ! 黒歴史を持つのは早いほうがいいからのう! 特にお前みたいななんでも背負い込むタイプはのぅ」
「……」
「ちなみにわしの黒歴史は、カイに『てめぇなんて、友達でも何でもねぇ!』って言って河原で殴り合いのケンカをしたことだぞ。もちろんコテンパンにされてしもうたがの」
王も王妃もノルを容赦なく追い詰めて広間を出ていった。
「お父様、現国王陛下になにやってんの……?」
ミラは父親と王のびっくり昔話にぽかんと口を開けるしかない。
ノルは両陛下に素直に感情を見せているようで、親子間には打ち解けた空気が流れ、以前感じていたわだかまりは綺麗に払拭されていた。
ミラのいる場所は出入り口から少し離れているのでノルの表情までは見えないが、もう話がついているというのは本当のようだ。
「……」
ノルは無言でミラのいるテーブルまで歩いてくるとミラの椅子を引いた。
座れということだろうと認識しておとなしく腰を下ろす。
依然としてノルの表情は見えないままだが、心なしか顔が赤いような気がした。
ノルはミラの向かいの椅子に座るや否や、即座に頭を下げた。
「すまなかった。あんなにいやな言葉を言って。言い訳をするつもりはない。許してもらうつもりも」
王族が謝罪する、というのは並大抵のことではない。
基本、王族は自らより下のものに頭を下げることはない。
それは傲慢から来るものではなく、そもそも判断を間違え謝罪する、という状況自体、既にアウトだからである。
この状況が許されているのは、ミラたちがまだ子どもであるという証明だ。
ノルはずっとそのままの姿勢で、動かない。
きっと、ミラが目の前で何時間待っても、いなくなっても、その顔は上がらないだろう。
ノルの謝罪にはそのくらいの意志がこもっていた。
「第二王子殿下、」
ピクッとノルの肩が動く。
「金輪際近づかないと申し上げましたのに、御前に座る無礼をお許しください」
ミラは意図してノルに接触しているわけではない。
それはノルもわかっているのだろうが。
「どうか、お顔をあげてくださいませ。私は殿下に頭を下げてもらうような身分ではございません」
「できない」
「なぜです?」
「合わせる、顔がない」
絞り出すように言うノル。
ああそういうことかとミラは理解した。
「気にする必要はないですよ。殿下はずっと私のことを想ってくれるのだと私が勝手に思い込んでいただけなんですから。心が移ろうなどよくあることだと聞きます。私にはどうにもできないことです。私のことをきちんと突き放した殿下がそのことを気に病む道理もないでしょう」
「違う。君を嫌いになったわけじゃない」
「では、好きでも嫌いでもないどうでもいい人間に未練を持たせてしまうのが心配ですか? 顔を合わせたところで、何度も会いに押し掛けるほど常識知らずではないつもりなのですが」
「違う。そんな心配はしていない」
「ではなぜ?」
「……」
ノルは言うのをためらっているような、迷っているようなそんな風に見えた。
場を気まずい沈黙が覆う。
「教えてくれなくてはわかりません。今殿下が何を思っているのかも、あの時何を思っていたのかも。嫌いなら嫌い、どうでもよいならどうでもよいと、そうはっきり仰ってください」
ミラにはわからない。
前世でこばセンに習った数々の恋歌も、今のミラには役立ってくれない。
「……違う。そんなんじゃない。嫌いなわけ、ない。どうでもいいわけない」
「……え?」
「自分から、突き放して、傷つけて、おいて、なに言ってるんだと思うだろ。おれだってそう思うよ。本当にそう思う。だから、この期に及んでまだ、会いたいとか抱きしめたいとか、そんないつまでも未練たらたらなおれにはミラに合わせる顔がない。ミラはもう、吹っ切れてるみたいなのに」
なんのことを言っているのだとミラは思った。
それではまるで、と考えかけて慌ててやめる。
だって確信できない。また勘違いして独りよがりに期待してしまいそうになる。
それが、ミラには怖い。
「殿下……?」
「頼む。殿下って、呼ぶな……おれが名前で呼ぶなって言っといて、本当勝手だけど……頼むから……。ノルって呼んで。おれのこときらいでもいいから……」
「でも」
「好きだ」
「……へ?」
都合の良い幻聴が聞こえた気がしてミラは頭を振る。
「ええっと……? 親愛とかそっち系の……」
「ちがう。好きだ」
「SUKI……。でん……ノルが、私を?」
「ああそうだ! そうだよ!! 好きだよ! 好きだ!! 大好きだ!!!!」
俯いたままどこか苦しそうに自棄っぱちのようにノルは叫んだ。
「本当にごめん。傷つけてごめん。ちゃんと吹っ切れなくて……ちゃんと思いを断ち切れなくてごめん。抱きしめて、キスして、それで未練も心残りも全部、捨て去ろうと思ったのに。ちゃんとできなくてごめん。これじゃただ、ミラを傷つけただけで……そんなことしたかったわけじゃない……」
吐露されたその言葉は、ミラに聞かせるというよりも自分を責めるために言っているみたいだ。
「死ぬと思ってた。もうミラに会うことはないだろうと思ってた。そばに居られないのに心だけは死んでも離さないなんて勝手だって思ったんだ。好きな人に会えないで苦しむのは、死んでいくほうだけで十分だって。なら、返すべきだと思った。そのほうが、ミラにとっては幸せなんだと思ったんだ……」
「……」
「ごめんな困らせて。忘れて。もう言わない」
ノルが寂しそうに笑ったのが分かった。俯いて見えないはずなのに。
ミラは丘での自分を目の前で見たような気分になった。
告白が届かなかったんだと悟ったときの、あの日の自分を。
「やだ。忘れない。やめるな」
「……」
「顔見せて」
「……」
「見せて」
「……」
「見せろって!」
ミラは身を乗り出して、ノルの頬を両手で持って、無理やりこちらを向かせた。
ノルの少しうるんだ烏羽色がきらりと光って、驚いたようにミラを見つめる。
二つの灰簾石を見つめ返してミラはほっと息をつく。
「ウチも好きだよ。ずっと好き。言ったでしょ? あの日も」
はにかみながらちょっと泣き笑いのままミラが呟いた瞬間。攻守は逆転した。
慌てて手を離したミラだが、ノルの方が一瞬早かった。
気づけばノルの手はミラの後頭部にあり、もう片方の手はミラの手首を引いている。
ミラは反射的に目をつむる。
「今のは、ミラがわるいと思う」
「……」
ノルの柔らかい唇は、頭のてっぺんから順に、額、瞼、目元、鼻先に触れていく。
キスの合間に耳元に落とされたのは、少しかすれたふてくされたような声。
「けどいやなら今のうちに殴ってでも逃げて。ごめん。おれからはやめてやれない」
「……好き」
「……っ!」
ノルは驚いたように一瞬動きをとめる。
行き場をなくした手で、ミラはノルのシャツをギュッと掴む。
もう構わないというようにノルはキスを続けた。
耳、頬、口元。
そして、唇に二度キスを落としたところで、ノルはミラを見る。
ミラの深い琥珀色はうるみ、少し乱れた亜麻色の髪が、白い首筋にはらりと落ちる。
ノルは持ちうる理性を総動員して耐えた。
まだちっこくて弱いお子様の自分の欲などたかが知れているとは思うものの、ミラの可愛らしさは自分のそれを軽く凌駕しそうでノルは怖いのだ。
ミラをギュッと抱きしめ、自分より少し低い肩に顔をうずめる。
「なんで逃げないんだよ。ばか。お人好し」
苦し紛れについた悪態は涙で湿って威力がこもらない。
「好きだからだよバカはどっちだ……」
ノルの耳の横で、すぐ近くで、呆れたようなミラの声がする。
そのことがたまらなくうれしくて、ミラをもう離したくなくて、ずっとこのまま抱きしめていたい。もうこの手を離さないでいい。嫌われなくていい。好きなままでいい。
「ミラ」
「ん?」
「愛してる」
その言葉は、今度こそは行き場をなくすことなく、あるべき場所に着地した。
お知らせ
題名変更いたしました!
詳しくは活動報告をご覧くださいませ。
以下、作者のつぶやきになってます。
飛ばしてももちろん支障はございませんウソです読んでください私のつぶやき聞いてくださいツイッターでやれとか言わないでくださいお願いします(ツイッターでやれ)
七歳とは…?
幼少期ですでに18歳の精神を持つミラに、子供っぽいヒーローというのは何か違うと感じて(弟感を出したくなかった)結果。いろいろあって早くに大人びてしまった七歳という設定になりました(どゆこと)
そうなると必然的にきちんと教育を受けた立場でなくては…と悩みこうなってます(だからどゆこと)
個人的には庭師とかにきゅんとする作者です(おい)
ただ、大人びているだけで、二人ともまだまだ子供ですので、背伸びしてんなぁ、と生温かく見守っていただけると幸いでございます(背伸びしてんなア)
いつもお読みいただきありがとうございます!
ではでは。




