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23 選考会2

いつもお読みいただきありがとうございます!

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 夕茶会と言う名の次期王妃選考会当日。ミラはソフィと一緒に会場に来ていた。


 今日のソフィアは桜色のシンプルなオフショルダーのカジュアルドレスを着ている。

 スカートの裾に繊細な刺繍がほどこされ、胸元にそっとビーズがあしらわれた一着。

 装飾が少ない代わりに、ソフィアのそのままの美しさに容赦なく視線を持っていかれる。

 耳元でしゃらりと揺れる耳飾り(イヤリング)に目を向ければ、その瞬間に彼女の美しい横顔にくぎ付けになってしまう。

 絹糸のような髪はゆるく巻いて編み上げられ、彼女がつくったドライフラワーが差し込まれていた。


「ミラありがとう! 選んでくれたドレスも髪型もアクセもとてもかわいい! ドライフラワーを差し込むなんて考えもしなかったわ! わたくしの作ったものでわたくしを飾れるなんて!」


 くるりと一回転して女神のような微笑みを振りまくソフィア。

 レーディース&ジェントルマン! ウチがスタイリングしたソフィはどうよ! いつもかわいいけど、さらにかわいっしょ? 今更気づいたのかバーカ!

 ミラはドヤ顔をする。


 ミラは今までソフィアを汚いだの触らないでだのと散々馬鹿にしてきたくせに、今になってソフィアに熱視線を送るご令息たちをじろりとねめつける。

 ただしミラもめちゃくちゃに綺麗だったので令息たちの視線は増す一方である。

 無論、ミラはそのことに気付かなかった。


 ちなみにだが今日の令嬢たちのエスコートは特別に父親が行う。

 普通であれば子供たちだけの社交場に大人が踏み込むのはマナー違反であるが、今回は第一王子の婚約者の選考会も兼ねているので令嬢がほかの令息のエスコートを受ける方がNGなのである。

 そもそもこの会場に呼ばれるのはまだ婚約を結んでいない伯爵以上の爵位を持つ家の令嬢令息だけ。

 当然、婚約者だからエスコートするということもない。

 それともちろんだが、この国の第一、第二王子も来るし王様も来る。


 よほどのことがない限り夕茶会には出ないと有名な第二王子が今日は現れると知ってか、上がだめなら下を狙え作戦でご令嬢たちのほとんどは少しでも目立とうと必死だ。

 ミラも第二王子に会ったことはなかったが、特段興味もなかった。


 ミラはここにノルがいない以上この場で誰かと婚約関係になるつもりなど毛頭なかったので、振舞われるおいしい食事と飲み物とデザートをたらふく食べようと決めている。

 ダンスとかもやるらしいが、今回は必ず一回は踊らなくてはいけないというルールもなかったので眺めるだけになるだろう。


 大丈夫。おとなしくしていれば案外誰も気づかないものである。


 ミラは食事の乗っているテーブルへと向かう。

 さすが王家の主催。

 生ハムとトマトとモッツァレラチーズのおしゃれな前菜から始まって、ジャガイモの冷たいポタージュスープやローストビーフ、バジルのパスタと、がっつり系もある。

 デザートは、桃のソルベ、オレンジケーキ、フルーツタルト、色とりどりのマカロンと豪華だ。

 飲み物は、アイスのストレートティーや、冷たい果実水、流行りのコーヒー、ジンジャーエールなんかを給仕さんが注いでくれる。

 まだまだたくさんある。


 さてどれから行こうかとテーブルを見渡すミラ。なんとも幸せな眺めである。

 てはじめに先ほどの生ハムたちの前菜を取り分けてぱくっと頬張る。

 ハムの深い味わいに、トマトの酸味とチーズのコクが相性抜群である。激うま。

 ローストビーフは火加減がちょうどよくめちゃくちゃジューシー。添えてあったレタスと一緒に食べると、これがまたいい。溶けないうちにと桃のソルベに手を伸ばす。ひんやりとした甘さが口の中いっぱいに広がり、桃の香りが鼻先からスッと抜ける。おいしい。


 あれもこれもとたくさんの食べ物を口につめこんでいくミラ。


 そこへ茶髪の男がミラに近づいてきた。


「君、可憐だね。まるで迷い込んできた蝶々みたいだ」


 そんな歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく自信満々で口にし、これで落ちない女はいないとでも言うようにキラッとスマイルを浮かべる茶髪君。

 まわりの空気が張り詰め、ソフィアがあからさまに警戒の色を目に浮かべる。

 こんなにイタくて空気の読めない男は初めてである。ユキナの記憶を含めてもだ。


「はぁ、どうも」


 これっぽっちも茶髪君に興味がないことがダイレクトに伝わるようにと営業スマイルをわざとらしく貼り付けて、話を続ける意思がないことを示す。

 それでもまだめげない茶髪君。


「よかったらぼくと最初のダンスを踊ってくれない?」


 今度はさっと髪をかき上げて手を差し出してくる。

 まわりの女の子からはキャーっという黄色い歓声が上がる。


「申し訳ありません」


 しかしミラはかぶせ気味に即決一刀両断した。

 これにはさすがの茶髪君も固まったように見えた。

 本当に申し訳ないがずっとそうしていてくれないかとミラは思った。


「は、はは! 恥ずかしがらなくてもいいんだよ? 僕たち美男美女で、お互いお似合いだと思うんだ。君は僕に、ぼくは君に会うために生まれて来たんだ!」


 ポジティブ茶髪君、めげずにミラにアタック。


 自分の生きる理由を勝手に決められたあげく、『お似合い』だとは何事だろう。

 冗談もたいがいにしてほしい。お断りである。


「君しか見えない……僕たちは前世から結ばれていたんだ! 僕たちは一緒になる運命なんだよ!」


 残念ながら、ミラの前世はユキナでこんなクサ男と一緒だった記憶もない。

 そもそもユキナは見た目こそ派手でかわいいものも大好きだったが誰かとお付き合いしたことはない。

 初恋は小学生の時に家が隣だった強くて賢いおにーちゃんみたいな人だ。

 彼が中学に上がるときに引っ越してしまったからどうしているのかは小学生であるユキナには知りようがなかった。だが断じてこんなやつではない。


 茶髪君はどんどんとミラとの距離を近くしていく。

 ついに壁際まで追い詰められ(かかと)がこつんと音を立てる。


「……つかまえた。逃がさないよ?」


 ミラの手首をつかむ茶髪君。


 そばで見ていたソフィアは鳥肌が立ちまくりである。

 ミラは気を抜けば茶髪君の顔をグーで殴りたい衝動に吞み込まれそうであった。


 はたから見ればそれなりにかっこいい笑顔なのだろうがミラは吐き気しか感じず、がんばって手を外そうと思うものの、ちっとも外れない。

 逃げられないという恐怖がミラを支配する。




「離せよ。嫌がってる」


 そこにたった一言聞き慣れた声がしたかと思うと、ミラの手がふっと解放された。

 声のした方を見上げる。


「女子だけでうろちょろしてるから、得体のしれないやつに触られるんだよ。スチュワート伯爵とハミルトン侯爵はどうしたの? もうちょっと警戒心を持って」


 そう叱ってくるのは紛れもなく、紛れもなく……


「だれ?」

「第一声がそれ? ノルだよノル! ミラわかってて言ってんだろ! てかそうじゃなきゃ凹むぞ凹むからな今ここで」


 砕けた言葉がバレないようになのか、声を落としてそう言うノル。

 たしかに彼の言う通りなのだが、一瞬フリーズしたのもしょうがないだろう。

 だってメガネがないし、服装だってなんかちゃんとしている。


「ご、ごめん。ここにノルがいるなんて、思ってなかったから。あ、会えると思ってなくて。びっくりして、うれしくて。いつもと格好も違うし、かっこよくってその、驚いたっていうか。いや、いつものノルもかっこいいけどね!? その……」


 混乱してとんでもないことを口走っているのだが、ミラは気づかない。

 お礼だけでも言おうと何とかノルの顔を見た


「もーやだ……。あーくそっ! わざとやってんのかなあ……? 無自覚でこれなの?」


 顔を片手で隠すように覆ってぼそりと何かつぶやくノル。

 けれどミラには半分も聞こえなかった。


「……いやなら話しかけなければよかったじゃん! 助けてくれてどうも! でも無理して関わってくれなくてもいい! ソフィアとごはん食べるから! 向こうで待ってるかわいい女の子たちとおしゃべりしてきたらいーじゃん!」


 まさか褒めたら嫌がられるなんて。

 思いが通じたって結局これなんだから救いようがない。


 素直にお礼も言えない。かわいくない言い方をしてしまう。

 周囲でノルを気づかわしそうに、しかしミラを敵意をもって見つめる令嬢たちの視線にさらにイライラする。





 その一方で。

 ソフィアは笑いをこらえるのに必死だった。

 ノルがミラに見惚れており、ミラの殺し文句に瀕死状態だというのがバレバレなのに本人(ミラ)にはかけらも伝わっていないのだから致し方ない。





 ノルはミラのツンツンした態度を気にする風もなく、むしろ上機嫌な顔をしていた。


「兄さんのパーティに出たからあいさつに来たんだ。第二王子なんだからいるのは当たり前」


 全く予想していなかった答えにミラは唖然とする。

 イライラも吹っ飛ぶ爆弾発言だ。


「え? じゃあ、この国の第二王子殿下って」

「うん。おれ」


 さくっと頷くノルにさらに唖然とするミラ。


「だって名前は? 偽名?」

「なに言ってるんだよ。『ノル』はオリバーの愛称だろ?」


 そう言われて、ミラは思い出した。

 ユキナだったときに図書室で読んだめちゃくちゃ面白いミステリーホラー小説に特殊な愛称になる英名があった。例えば、マーガレットはメグ、ロバートはボブ。

 それと同じでオリバーの愛称は、ナルもしくはノルである。


「てっきり第二王子の名前知らないだけかと思ってた。オリバーの愛称がノルっていうのはこの国の人ならみんな知ってるから」


 そう言われてもミラの前世は日本人である。

 たまたま読んだ小説にそんな内容のことが書いてあったから知っていただけで、そもそもさっきまで忘れていた。


 ミラは、バッとソフィアの方を向く。

 顔を逸らすソフィア。


「ソ~フィ~ア~?」

「だって、とっても面白そうだったんですもの。お従兄さまがご執心のご令嬢が、わたくしの親友だなんて……。ミラは気づいてなさそうですし。ああ、ミラにはまだ言ってませんでしたわね? わたくしのお父様はオリバー殿下の母君の弟なの。だからオリバー殿下とは血がつながっていますが、オーウェン殿下とは血縁ではありませんわ」


 ミラがジーっと見つめると、ソフィアは横を向いたまま観念したように言う。

 そんな心底楽しそうに言われるとむしろ困る。

 ソフィアがやけに詳しかった理由が分かってすっきりしたが、なんだかはめられた気分だ。

 この親友には一生敵わないに違いない。


 その展開についていけず、ぽかんと口をあけたままのミラを見て、

 ノルはおかしそうに()()()


 それを会場の椅子に腰かけて見ていた人物が、ひそかに目を瞠っていたことなど、この会場の誰も、知ることはなかった。


そろそろ山を一つ越えるころになります。

ミラの幼少期、なかなか濃ゆいですね…。


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