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16 侯爵令嬢ソフィア=ハミルトン3

いつもお読みいただきありがとうございます!


 ミラは先ほどのアンティークのテーブルについていた。

 飾られたニリンソウは、観客を得てなお美しく、背筋を伸ばして咲いていた。

 皺ひとつないテーブルクロスの上には、前回好評だったというニンジンケーキをはじめとし、かぼちゃのプリンや、桃のソルベ、色とりどりのかわいらしいマカロンなどなど、所せましと並べられている。


「お、おいしそう……」


 ミラは前世のアルバイトの一つであったパティスリーのことを思い出す。

 あの店も素朴ながら美しく、そして大変おいしいお菓子を提供する場所であった。

 売れ残ることはほとんどなかったが、たまに運よく残ったケーキを食べさせてもらえるのである。


「お待たせしました。アールグレイです」


 メイドであろう人がミラの前にとても香りのよい紅茶を置いた。


「当家自慢のお茶とお菓子です。どうぞ思う存分召し上がってくださいな」


 タイミングを見ていたのか、全員の前に紅茶が行き渡ったのを見計らってソフィアがそう告げる。

 待っていましたとばかりにケーキをほおばるミラ。

 それを見て、ソフィアが目を細める。


 しかし、ほかの三人のご令嬢はあまりそれらには手を付けずにおしゃべりを始めた。


「ねえ、ご存知です? オリバー第二王子殿下のお噂」

「ええ。離宮に閉じこもって出ていらっしゃらないのでしょう?」

「あら、私はオーウェン第一王子派の方たちに離宮に追いやられたと聞いておりますよ」

「側室だったお母様が亡くなられましたし、もとが卑しい身分の方でしたから、王宮に置いておけないのでしょう」

「仕方ありませんよ、貴族と卑しい平民では。黒に限りなく近い瞳に藍色の髪だそうよ。こわいですわ」

「頭もよくて、剣もお強いのだと聞きましたけれど」

「でも、こわいですよね。あのひとみに髪の色」

「まったくその通りですわ」


 主催のソフィアとお菓子に夢中なミラを置いて、噂話は加速する。


「あら、でも確か昨日でしたわよね。第二王子殿下に『(わざわい)』討伐の沙汰が下りたのは」

「そ、そうでしたわね! もちろん知っておりますわ!」

「まだ7歳。私たちとそう変わらない年ですのにねえ」

「平民の子は目障りなのでしょう」


 子どもらしいあけすけな悪意はテーブルの空気をどんどん悪くしていくが、本人たちはそれに気づかない。

 もっとも出席者の過半数がそれに加わっているので、仕方ないと言えばないのかもしれない。

 だからと言って、いいわけでもないが。


「ハミルトン侯爵令嬢、紅茶のお代わりをいただいても?」


 不快な会話をとりあえず遮りたくて、ミラはそう口にした。

 おいしいお菓子が台無しなので、静かに食べてほしい。


 ギャルのころから、食べ物を前にして騒ぐだけ騒ぎあげく残して帰るという行為が苦手だった。

 『いつめん』のみんなはなぜか浪費を青春であると勘違いしていた節がある。

 断じてそんなことはない。浪費は浪費だ。


 ソフィアはきょとんとした後、くすっと笑う。


「もちろん構いませんよ。好きなだけお飲みになって。それから私のことはソフィと呼んでくださって構いません。いえむしろ、そう呼んでくださらない? あと口調も砕いてくださると嬉しいですわ」


 そう提案するソフィアに驚いて、ミラは思わずソフィアを凝視した。

 しかし焦りながらもソフィアの要望通りに話してみる。


「ソ、ソフィがそれでいいなら。じゃあソフィも私を名前で呼んで口調も友達にするみたく親しげにしてくれたりする……?」


 ソフィアは目を輝かせてこくこくと頷く。


「もちろんっ! 嬉しいミラ!」


 心から喜んでいるのか、心なしか上ずった声でソフィーが言う。

 はいかわいい! はい優勝!


 悩んでたことが解決したようで、よかったとミラは安堵する。

 やっぱり暗い顔より明るい顔のほうがずっといい。


 紅茶色のふわふわの髪に、まんまるの(とび)色の瞳。

 肌は透けるように白く、ほんのり桜色に色づいている。


 この国では魔力の多いほうに分類される容姿だ。


 今日はオフショルダーの若草色のAラインドレス。

 腰ほどまである髪はそのまま背中に流れている。彼女が動くたびに、さらさらと音が鳴るようである。


 こんなに素敵な女の子なのだ。きっと、笑ったらもっと可憐だろうと思っていたが、想像以上にかわいらしい。


 ソフィには笑顔が一番似合うとミラは心からそう思った。





 この国の第二王子の名前がオリバーだということをミラは初めて知った。オーウェン殿下のほうは以前のミラがやらかしたほうの王子なので名前は知っている。


 ご令嬢方が話してた第二王子殿下の容姿がノルに似ている気がしてならない。年も同じくらいだ。

 名前が違うので他人の空似だろうが。


「私よりまだ年下で『禍』討伐……!? 何考えてんの王様」


 『禍』のことは歴史書に載っていたから知っている。それが随分えげつない代物だということも。

 普通であれば、愛している我が子に、しかも8歳の幼さの子に討伐に行かせるような対象ではない。


 喉の奥にせりあがってくるような気分の悪さを押し流しすようにして、ミラは紅茶を飲みこんだ。




前世のユキナは甘いもの大好きでした。

まあ、ケーキ屋でバイトするぐらいですからね。

スイーツバイキングに一人で入れるタイプです。

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