13 ノル
今回は短めです。
窓から入り込んだ夜風がそっとカーテンを揺らす。
空には星がまるで銀砂を撒いたかのように輝き、月のない今日、星明りだけが王都を照らしている。
窓辺に置かれた椅子に座る少年は本を読んでいた。
文字を追う瞳は透き通るような、それでいて思わず惹きこまれるような烏羽色。
風にあおられてぱらりとめくれるページをふと見やり、ついで窓の外を見る。
誰にも知られずに瞬いていた満天の星々が、少年の目に映る。
しばしその光景に目を奪われていた少年は、ノックの音で我に返った。
ゆっくりと扉を開けて入ってきたのは真っ白な髭がチャーミングなロマンスグレーの老執事だ。
その姿をとらえて、少年は安堵したように息を吐いた。
「ノル様、やはりまだ起きておられましたか。今温かいミルクとチョコレートをお持ちいたします」
「ありがとう、じいや」
老執事は窓辺に置かれた魔法書をみつけ、ろうそくの明かりがともるように表情を緩めた。
「何か、良いことでもございましたか?」
そう尋ねる老執事。
「とても素直でお人好しな女の子に出会ったんだ」
少年はこともなげに答える。
けれど老執事は、その声音に隠しきれないあたたかな響きを感じ取った。
ここしばらくこの家で笑みを見せなかった少年の表情が、幾分か和らいでいることに老執事は驚き、嬉しさに顔を綻ばせた。
「なんというお名前だったのです? その女の子は」
内緒話をするかのように声を潜めて、楽しそうに尋ねる老執事。
少年はそんな彼をちょいちょいと手招きし、口元に手を当てて老執事の耳に顔を近づけた。
「ミラ=スチュワートっていうんだ。名前通りの勤勉な子だよ」
少年は一瞬だけ以前のいたずらっぽい瞳を取り戻して、にっと笑う。
その表情に老執事は目を見開いて、それから優しいまなざしを少年に向ける。
「ミラ=スチュワート、か。彼女ならノル様を救えるだろうか……」
その老執事のひとりごとは、椅子に戻って再び本を読み始めた少年には届かない。
ふたりの間のひそやかな会話も、老執事のつぶやきも
広い空をどこまでも埋め尽くす、星々だけが知っている。
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