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1 ギャル転生

新連載はじめました。

ゆるゆる異世界ものです。

息抜きがてらゆっくり更新していくつもりです。

もしよかったら見てってください。


「ねえ、ユキナぁ、見てぇ。これマジでウケるんですけどぉ」


 スクールカーストのおそらく最上位に位置するだろう、ユキナの『いつめん』。


 彼女たちに、スマートフォンに映る、動画配信サービスアプリのなんか踊ってるだけの動画をみせられながらユキナはげんなりしていた。

 別に他人の趣味をとやかく言うつもりもないが、正直ユキナにとってはどうでもいい。


 スマホより、ダンスより、前の席の前田には何色のリップが似合うかと考えている時間の方が何倍も楽しい。

 彼女が勧めてくれた携帯小説の続きの方が何倍も気になる。


 連絡さえ取れればいいと、ユキナがもっているのは携帯電話(ガラケー)だ。流行ならば雑誌で追える。

 前田は、そんな前時代的なユキナの連絡手段を目にしてもバカにすることなどなく、それなら、と携帯小説を教えてくれた。


 こんなに小さな画面の中に、こんなに面白い物語が詰め込まれているのかと感動し、ユキナは最近それに夢中である。




「それより、今日の現国の課題おわった?」

「それよりって、ユキナぁ、空気読もうよ。なんかウザいよ?」

「最近、彼ピがぁ」

「げっ、陰キャじゃん。キモ」

「うわ、あの女センス悪ぅ。キャハハ」




 ユキナはギャルである。

 少なくとも世間一般的に見ればそう認識される格好だ。


 バチバチの濃いメイクに短いスカート。ゆったりしたルーズソックス。太陽みたいな明るい髪色。

 

 実際はメイクをしなければこれといった特徴のない顔なだけだし、足を出すのは少し寒いので大抵カーディガンをまいている。

 明るい髪色は中学校まで水泳部だったからだ。


 ルーズソックスは何でかって? 普通にかわいいでしょ。


 ユキナからしてみればただ自分が楽でかわいいと思う格好を選んでいるだけだ。

 けれど周りはそうは思ってくれない。


 ユキナを第一印象で頭の悪そうな女だと判断する人もいるし、社会に反発する子どもだと判断する人もいる。


 一方で、自分の好きなものを貫くなんてかっこいいと褒めてくれる人もいるし、ユキナらしくて似合っていると言ってくれる家族もいる。

 うわべだけで判断せずに、そばにいてくれる友人もいる。

 

 たしかに人は人を判断するとき大抵見た目を参考にする。

 ユキナだってそうすることがないとは言わない。


 わかりやすいからだ。おおむね正しい判断だと思う。

 そんなに大きく性格と乖離していることもない。


 その方が楽だし、人と深くかかわるのが面倒くさい人にとっては何ともありがたい方法だろう。

 

 けれど見た目を理由に忌避したり嫌がらせをする輩がユキナは好きではない。

 気に入らなければ関わらなければいいし、近づいてこなければいいのにと思う。

 悪口なんて言わずとも、本当に嫌いなのであれば話さなければいい。気にしなければいい。



 そういう人たちは一定数いるが、そんなときに限って見た目ではわからなかったりする。


 だからユキナは自分の見た目を利用する。


 ユキナを見た目で弾き悪口を言う人は、ユキナがそうでなくても他の人に対してそうするだろう。

 気に食わない人や自分と合わない人を見下すだろう。

 よく知らない人なのに、勝手なことを言うだろう。


 自分が好きな格好でいることが、そういう人とそうでない人を見極める試金石になるのなら、むしろラッキーである。


 派手な見た目でも怖がらずに傍に居て、本来の自分を見てくれる人とユキナは一緒にいたい。

 ユキナのことを知りたいと思ってくれる人と一緒にいたい。


 だからユキナはそうすることを選んだ。



 けれどユキナは最近思う。

 自分は方法を間違えたのかもしれないと。


 なんで気づかなかったのだろう。

 自分に近づいてくる人間全員が、中身のユキナという人間を見てくれているとは限らないということに。


 

 


 小学生の頃はよかった。

 この頃から、誰かの世話を焼くのが好きだった。

 学校に怒られない範囲で女の子たちの髪をかわいく結ったり服のコーディネートをしてみたり。

 みんなが喜んでくれるのはうれしかったし、かわいくなっていく女の子を見るのも好きだった。

 子ども心に、いつかはファッション関係の道に進みたいと考えたりした。


 シングルマザーの家。母は看護師。強く、そして優しい人。いつも遅くまで働いて、ユキナを養ってくれていた。

 姉は現在大学生。授業料は全額免除の特待生だった。余ったお金はユキナが本当にやりたいことのために使えと、母がためた学費はほとんどユキナのために残された。

 父はユキナが赤子の頃に交通事故で他界した。優しくいい男だったというのは、ユキナの母談である。


 ユキナは家族が大好きだ。自慢の家族だ。美しさには外見以外のものがいることを、ユキナは家族から教わった。




 中学校だってそれなりによかった。


 中学生というのは、肌が荒れるし気を抜くと太るし汗をたくさんかく年齢だ。


 しょうがないのだ。新陳代謝がいいからだし、要は健康なのである。


 清潔感を大事にしようと努めた。

 中身を磨く時期なんだと思った。

 ハンカチは絶対に忘れなかったし、爪は切っても美しく手入れした。髪の毛はサラサラを目指していつもきれいにしたし、肌もしっかりと丁寧にスキンケアをした。


 校則にさわらない髪型でもかわいく、持ち物も可能な限りセンス良く。


 行きたい高校があったから、勉強だってがんばった。賢い姉に憧れていたし、ユキナ自身勉強が好きだった。特に国語。

 時間も忘れて夢中で本を読んだ。

 


 そうしていたら、いつの間にか成績が上がった。

 学年トップをとれたことも、一度や二度ではない。



 中学校は校則が厳しい。

 制服だし、スカート丈が決まっているし、靴下の長さも髪型も、爪も眉もリップも、下着の色さえも、全て統一され、破ると怒られる。


 別に不服ではなかった。だって誰も、綺麗になるなとは言ってない。


 『学校は社会を学ぶ場所だ』

 それについてはユキナにも異論はない。


 中学生という不安定な年代をまとめる難しさも、それゆえの理不尽な大人の事情も分からなくはない。


 先生と話をするのが楽しかった。

 そうするたびに、自分の価値観をアップデートしていくような感覚があった。

 先生には恵まれていたと思う。

 いつも生徒に対して一生懸命で、丁寧に授業をする人たちだった。


 担任のえりちゃん先生は、初老の穏やかな女性だった。

 なんで中学で化粧はダメなのと聞けば、上品にうふふと笑って言う。


『お休みの日に試してごらんなさい。

朝の忙しいあの時間、中学生の要領で、お化粧にどれだけ時間をとられるのか。運動したらどれだけ崩れてしまうのか。きっとわかるはずよ。皆がすっぴんでいてくれる、お化粧しなくていい安心感が。お化粧しなくていいうちに、崩れる心配もないうちに、勉学も部活も一生懸命やりなさい。好きなだけ変な顔になったらいいわ。失敗してしまえばいいわ。

それが中学生の義務なんですもの。いいよと言われているうちに、一通りの恥は済ませてしまいなさいな。どうせ急がなくたって、いやというほどするようになるわ。

それでもどうしても、お化粧をしたいんだったら…』


 そして不敵に笑って続けるのだ。


『やってごらんなさいな。そして気づけばいい。ほんの少しの休み時間で、あんなに狭いお手洗いで、お化粧を直す時間のなんと短いことかということに。お化粧が変じゃないかしらと気にしながら授業を受けるときのあの怖さと、勉強が手に着かない感覚に。たった一日さぼるだけでニキビどころか見るに堪えない肌荒れを顕現させる中学生の健康な肌に。

誰が何を言おうとも、学校に通う以上は生徒の本分は勉強よ。義務教育なのだもの。

勉学が手につかなくなってしまうなら、その原因を許すわけにはいかないわ。

一ヵ月続いたら上等ね。がんばりなさい』


 それは経験者の笑みだった。


 ユキナはもちろんやってみた。あえなく撃沈したのは言うまでもない。





 雲行きが変わったのは高校に入ってからだった。

 念願だったおしゃれをするようになって、中学の頃より要領が良くなったからお化粧する時間もできた。


 はたから見ると結構遊んでいるように見えたのかもしれない。

 今いる『いつめん』のグループから声をかけられた。


 ユキナが派手な見た目だったにもかかわらず絡んでくれたから、仲良くなれるだろうと思った。

 ユキナを知ろうとしてくれているのだと。


 けれど違った。


 ユキナに声をかけたのは、アクセサリー感覚だったのか、それとも仲間が欲しかっただけなのか。

 自分たちと同類だと思ったのかもしれない。

 あるいは、ユキナと一緒にいれば、校内で多少のわがままが通るようになると思ったのかもしれない。


 成績はいい方だったし、ギャルには珍しく先生や生徒会とはそれなりに仲が良かったから。


 そんなにうまくいくわけないのにとユキナは思った。

 ユキナは誰かの宿題を代わりにやるために学校に来ているわけじゃない。

 人脈のことに関しても、すごいのはユキナではなく彼ら本人である。

 

 けれど一度交流を持ち、それなりの時間を過ごしてきた『いつめん』たちに面と向かってそんなことを言えるはずもなく、ユキナはずるずるとそのグループに居続けた。


 『いつめん』たちの話はあまり面白くない。

 自慢、悪口、SNS。そのどれかだ。

 

 写真のために食べもしない(もちろんユキナはおいしく食べた)パンケーキのお店に行くなら、前田と近所のお好み焼き屋でおしゃべりしたい。


 誰かの悪口よりも、担任のまりちゃん先生の雑学を聞きながらお弁当を食べたい。


 一生懸命に生き、頑張る人たちを必死だと見下して笑うより、家族とわいわい笑い合いながら夕ご飯の餃子を包む方が楽しい。


 ユキナはこのグループから抜け出したくて仕方なかった。


 めんどくさいし、もっとたくさん時間を過ごしたいと思うような大切な友達もいる。

 あの居場所にこだわることもない。


 挨拶以外で極力関わらないようにして、徐々にフェードアウト。うん。それでいい。


 そういえば、昨日前田に教えてもらった携帯小説は面白かった。

 あとで感想伝えよう。

 それから今日の夕ご飯はお野菜多めにしよう。

 姉も母も最近疲れ気味だし。


 そんな風に、ユキナはのんびり考えていた。


 そんないつも通りの朝。


 ユキナはいつもの通学路を歩いていた。ふと見やれば、登校をして横断歩道を歩いている小学生。

 いつも目にしているのとなんら変わらない景色。

 圧倒的平和。


 しかしユキナは気づいてしまった。

 小学生の後ろから、超蛇行の居眠り運転ドライバーのトラック。しかも結構スピード出てる。

 ユキナはとっさにダッシュした。


 考える間もなく、転びながらも小学生たちを歩道に突き飛ばす。

 なんとか間に合ったと顔を上げると、目の前にはすでにトラックがいた。


 大きな衝撃と同時に骨が折れる音がして、ユキナの視界は真っ暗になった。


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