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Ep.10 【上層】

 


 上層へ向かう為の関所を幾つも抜けて辿り着いたのは貴族達が住まう層 、上層(エリフ=ラグ)だ。


 ここまで来るのに何度も関所の人間に疑われ、予想よりも到着が遅れたが仕方がない。なんせ最下層からの受験者など前代未聞であり、通行証を確認した人間からはもれなく笑われる始末。


 だがアクスはそんな事を気にも留めずにいた。魔法を使える様になった事で自信が生まれたという理由もあるが、それ以上に母の言葉を信じていた。



 貴方なら大丈夫。



 母は嘘をつかない。そう言われたのなら俺にも希望はあると強く考えていたから。


 そんなこんなで上層に辿り着けば目の当たりにした現実に口が思わず開いてしまう。


 最下層(ディープ=モンド)ではお目にかかれない様な煌びやかな服に身を纏った貴族達。魔力で動く様々な魔道具はどれも洗練された作りで街のあちらこちらに設置されていた。


 こんな設備があるなら生きるのにも苦労しないだろうと改めて格差を思い知りながら、アクスは宿泊予定である学園の宿舎へと向かった。


 学園へ辿り着いた時、これまた驚愕の表情を浮かべる。自分が住んでいた村などゆうに超える広大な敷地と建物。そしてその威厳を示すように門の両側に置かれた石像。どれもが規格外と言っても過言ではないだろう。



「流石は第七空中庭園の象徴と言われるだけあるな…。」



 そんな言葉を零しながらいざ中へ入ろうと門へ近づいた時、突然目の前に木の棒でバツ印を作られて反射で身体が退く。



「待て。お前は明日行われる学園の入学試験を受ける者か?そうであれば受験票を見せろ」



 と、門番であろう二人の男に止められてしまった。それはそうだ、いきなりはいどーぞ。なんて受け入れられる筈も無いだろうと、アクスは言われた通りに提示した。



「最下層からの受験者?ハッ、そんな奴がいる訳ないだろう。何処で偽造した?」



 門番の言葉に耳を疑い思わず激情に身を任せてしまう所だったが、アクスは冷静に答える。



「それは正式な受験票です。それに偽造されたものであればそもそも此処には来れていないでしょう?」



 そう言い切れるぐらいに厳重な確認を行うからだ。



「確かにそうだな。しかし今まで最下層からの受験者など聞いたことは無い。この受験票も何処か裏のルートから手に入れたのだろう」



「俺の母はそんな事をする人じゃありません!」



「では最下層の人間が今着ている服や受験票を用意する費用はあるのか?」



 そう言われた時、何も言い返す事が出来なかった。門番の言う通り最下層に住んでいたら用意する事はおろか目にする事もないような代物だからだ。それに母は何も教えてくれなかった故に言い訳すら思いつかない。



「ふん、言葉も出ないか。これだから最下層の住民共は…大人しく地下深くで暮らしながら静かにくたばればいいものを」



「…は?」



 こいつ今なんて言った?地下で静かにくたばれ?なんでそんな事を言われなければならない。お前らはたまたま上層に生まれて苦労も知らずに生きてきた奴らだろ。そんな奴に俺の故郷と人を馬鹿にされてたまるか。こいつは今ここで…ぶっ飛ばす。


 我を失いかけているアクスは握り拳を作り今にも魔法を放とうとした時、後ろから声をかけられた。凛と鈴を鳴らしたような美しい声色に思わず正気を取り戻し視線を向ける。


 美しい銀髪を腰まで伸ばし、碧と金の瞳を長い睫毛の中から覗かせている。鼻筋は真っ直ぐ通っており薄桃色の唇は艶を見せ、容姿端麗を具現化したような少女が三人を見据えていた。



「すみません、中に入りたいのですが」



 門番は見蕩れていたもののその言葉で我に返り、アクスなどお構い無しに少女へと歩み寄った。



「これはこれは失礼しました。受験票を拝見いたします!サイ・ティル・シュピナ…様!?」



 受験票を確認した門番は目をかっぴらいて彼女にもう一度視線を向ける。この世界には名前の多さも階級に関係しており、最下層の人間は一節。つまりアクスの様な者を指す。


 貴族は名前が二節付いており、今名前を呼ばれた彼女は三節の名前。いわゆる王族を意味している。王族を見るのはアクスも初めての経験だった。



「シュピナ様も今年受験されるのですね!受験票の確認など不躾な行動をお許し下さい…!」



「構いません、必要な事ですから。そちらの方も受験をされるのですか?」



 俺の事か、と頷く。



「そうだ。でも中に入ることが出来なくてな」



 そう彼女に声を掛けた刹那、門番の槍がアクスの腹部に突き刺さる。幸い先端には何もついていない棒状の武器だったので貫かれることはなかったが、それでも胃の中のものを戻してしまいそうに成程の威力だった。その激痛に地面へ膝をついて苦しみ悶えるアクス。



「無礼だぞ!!この方は第一空中庭園を統べる国王のお孫様、サイ・ティル・シュピナ様だぞ!お前のような最下層の人間が話し掛けていい方では無い!」



 痛みにうずくまるアクスを門番は何度も木の棒で殴り叩き、手で頭への打撃を防ぐことしか出来ずにいた。



「やめなさい。」



 そんな鶴の一声に門番の手がピタリと止まる。



「私が王族であるからと言って贔屓するのは許しません。此処に来たからには皆が対等で在るべきです」



「し、しかしこいつは受験票の偽造を…」



「それを見せてください」



 門番は言われた通りに俺から取り上げた受験票をシュピナへ見せる。それを一通り確認しては視線を門番へと向けて口を開いた。



「これは正式に発行されている受験票です。偽造などではありません」



「ですが最下層の人間がこのようなものを持っている筈が!」



「どんな理由であれ本物の受験票を持っている方はお通ししなさい。仮に何処からか仕入れたとしても、実力がなければこの学園で生きてはいけません」



 彼女の言葉に納得した門番は渋々ではあるが通る事を許可し、舌打ちをしながら乱暴にアクスを立たせる。



「…ありがとうございます、助かりました」



「いえ。ですが門番の言う通り最下層からの受験者など聞いた事はありません。貴方が欲に溺れた方では無いと信じていますよ」



 表情を変えずに先に門を潜る彼女の背を見届け、自分も後から門を通った。幸い服はどこも破けておらず、身体は無駄に頑丈であるので身体の至る所に感じる鈍痛と少量の出血で済んだ。


 本当なら門番を今すぐにでもぶっ飛ばしたい所であるが、こんな扱いを受けることを覚悟してここまで来たんだ。さっきは激情に駆られた所を彼女に助けられたから、今度会った時にお礼を言おうと決めてアクスは自身が泊まる寮へと向かったのだった。



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