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「お、サッカー部だ」

「夏休みの朝から大変だよな、あいつらも」



 灼熱の中、必死にボールを追いかけるサッカー部たちを呑気に眺める。

 似非記者に呼び出され、最近行った海デートのことを聞き出された帰りだ。

 特段ネタになるようなことも無かったのだが、こいつは大層喜んでいた。



「今が頑張り時だろうからね。君の部活の方は、夏休みには活動しないのかい?文芸部とはいえ、演劇なら発表会なんかもあると思うのだけれど」


「一応は練習とかもあるんだけどな。ただ、そんな毎日はしない。そもそもの話、うちの演劇部って顧問があんまりやる気ないんだよ。だから、部室に集まるのも週に三回くらい。大会みたいなのに出るのも、年に二回程度だな」


「へぇ。なんというか、こういうとあれだけど。楽そうだね」


「楽だよ。それに、趣味にする分にゃそんくらいがちょうどよかった。あんまり本気な部活動だと、きっと色々大変だっただろうし。まあ欲を言えば、脚本家として入りたかったんだけど」


「おや、ダメだったのかい?」


「ヒナタの奴が脚本家になっちゃったんだよ。あいつ、別に物書きが好きってわけでも無かったし。俺も、ちゃんと色々考えて、部長に脚本を見せてみたんだけど。『オリジナリティが無いからダメ』って言われてな」



 苦い思い出の一つだ。

 とはいえ、後程部長に見せられた同じような展開、同じような台詞のものが沢山載っている幾つかの脚本は、俺の心を折り、『脚本家の才能は無い』と確信するには十分な証拠だった。

 要するに俺の書いた脚本は、過去自分が読んだ台本をうわべだけ模倣しただけなのだ。



「形だけ取り繕ってる話よりかは、色んな要素を取り入れつつ、ちゃんと自分なりの話を考えれるヒナタのが脚本家に向いてるんだってよ。納得はしたけど、結構ダメージ受けたぜ」


「……なかなか面白い話だね。ところで。君がちゃんと誰かの名前を呼ぶ場面、初めて聞いたかもしれないね。僕のことも、気軽に名前で呼んでくれてもいいんだけど。何時までも似非記者だのどうだの言うのは失礼じゃないかい?」


「面倒だからやだ」


「嘘だな。ここでそう返せば、僕にさらなる深掘りされてしまうのは目に見えていただろうに。にも拘わらず君は、頑固にも否定することを選択した。つまり、労力に関わる部分以外で、君が僕の名前を呼ぶことを拒否しているというわけだ」


「……偏向報道がお得意だな」



 少しだけ語気を強めにして返してやったが、あいつは喜ぶばかりだった。



「そういう返し、少し溜めを作っちゃうと一瞬で嘘だとバレるよ。で?どうなんだい、遠藤君。君には何か、人の名前を嫌がる過去があったりは……」


「十万円」


「……流石に今手元には無いかなぁ。君にとってその情報は、それほどの価値だってことか」


「触れられたら噛みつきたくなるようなナイーブな部分だからな。撫でるにゃ相応の怪我はしてもらうぜ。さっきの情報と合わせて十万五千円な?」


「分かった分かった。今日は五千円で勘弁してくれ。バイト代がすぐになくなってしまう」


「新聞配達とかやってそう」


「お、鋭いね。正解だ」



 新聞記者からの連想だったんだが、それで正解になる辺りこいつも結構面白い人間だ。

 とはいえ俺とてまだ高校生、そりゃあ触れられたくない過去も一つや二つあるというもの。

 金に対価で情報をくれてやってんだ、秘匿性に応じて高くつくのも当然だろう?



「あと。あんまりぼさっとしてっとあぶねぇぞ」


「へ?」


「おーい!そっち行ったぞ!」



 派手にシュートミスをしたらしく、似非記者に飛んできたボールを足で受け止める。

 久しぶりに蹴ったボールの感覚は、中学の頃よりも少しだけ硬く思えた。

 そのまま受け止めたサッカーボールを、彼らのグラウンドに蹴り返してやる。

 運動不足が祟って思ったよりは勢いがつかなかったが、届きはしたので良しとしよう。



「……凄いね君。元サッカー部だったりした?彼ら、ポカンとしてるよ」


「いんや、ずっと演劇部。助っ人でちょっとだけやったことあるけど」


「そんな経歴で、あんなトラップからのパスできるんだ……」


「参考になる奴が居たしな。それを真似て練習したらできるようになった。まあ、使う機会はあんまり無かったし、宝の持ち腐れだったけど。それよりほら、さっさと五千円払えよ。約束は守れよ、わざわざ学校まで来たんだからな」


「分かってる分かってる。はいこれ、今日の──」



「ちょっと待て!」



 変に目立ってしまったので、さっさと対価を受け取って離れようとしたところ。

 突然サッカーグラウンドから大声を上げ、俺を呼び止める奴が居た。

 あまり関わりはないが、俺ですらもよく知る顔ではあった。



「サッカー部のキャプテンだよな、あの人」


「みたいだね。どうしたんだろ?」



 彼は顧問の教師に何かを伝えた後、ずかずかとこちらに近づき。

 俺の両肩を掴んで、開口一番、耳が痛くなるような大声で。



「お前が。遠藤雷知だな?沙華橘花の彼氏だって言う」


「……ええ、まあ」



 なるほど、あいつ関係かと、一人諦観しながら溜息を吐く。

 以前はテニス部のエースで、今回はサッカー部のキャプテンか。

 あいつはどうにも、自分の本性を隠すのが得意らしい。

 最悪殴られることを覚悟して苦笑を浮かべたのだが、彼が次に発したのは意外な一言で。



「俺の親友が、すまなかった!」


「……え?」



 困惑する俺と、平謝りする彼を見て。

 似非記者の奴は、実に楽しそうに、新たな愉悦の予感に笑っているようだった。

 こいつぶん殴りてぇ。

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