「随分とボロボロですね」
「主にお前のせいでな」
「あ、やっぱり付き合ったことばらしたの不味かったですか?」
「困ったな。それに気づかんほどのアホだったとはもう手の打ちようがないぞ」
「大丈夫、半年後には死んでますので」
「今が辛いんだが」
このアホ、クラスで俺と付き合ってる(俺からすれば脅されてる、という方が正しいのだが)ことをさも当然のように言いやがったらしい。
この保険委員のファンクラブの野郎どもにぼこぼこにされて今に至るというわけだ。
「クソが」
「口悪いですね」
「うっせぇ。お前のせいで部活の奴らからもバッシングの嵐だぞ」
「え?部活に入ってたんですか?」
「……それも知らなかったのかよお前」
「ええ、まあ。ずっと興味があったわけでもないので」
「ほんと、なんで俺を選んだんだよ」
「なんとなく、としか」
「クソが」
「図書委員の癖に罵倒のバリエーション少なくありません?」
「死ね」
「だいたい半年後に死にますよ」
ああいえばこういう奴め。
「で、どんな部活に入ってるんですか?」
「演劇部だよ」
「なるほど、たしかに似合いそうです」
「ああ?どこがだよ」
「ほら、なんか人の真似するの得意そうだな~って」
「……誉め言葉かバカにしてんのか分かりづらいな」
「バカにしてますよ?」
「今わかった、お前に限っては時と場合によらず素直は悪徳だ」
「安心してください、あなた以外にこんなこと言うことはありませんから!」
「俺以外にそうしてくれ」
俺の言葉には全く耳を貸さず、今日も今日とて俺の家にわざわざ来て俺の横を歩ている姿に、思わず眩暈がしてくる。
ちなみに当然ながら、こいつの無遅刻伝説が消えたのも俺のせいにされた。
お前らもう少しだけ俺にやさしくしろ、こいつじゃ無くて俺が自殺する羽目になるぞ。
「まあ、俺別に役者になりたかったわけじゃないけど」
「そうなんですか?」
「俺がなりたかったのは脚本係だよ。まあ、同じ時期に入った奴にその役目取られたけど」
「あらら……才能無かったんですね」
「捻り潰すぞ。実際そういうわけだが、事実だとしてもそんなこと言うんじゃねぇよ」
「傷つきました?」
「人の心がわからないタイプの人間かお前」
「多分そうなんじゃ無いですか?」
くだらない会話を交わしながら、地獄の初日を終えて次なる地獄に向かっている真っ最中だ。昨日は電車に誰も居なかったが、今日はいつも通り電車に乗ったので、当然他の生徒もいる。
ほら、噂をすれば。
ひそひそと、ねちねちと。
俺と横の女が一緒にいることを良く思わん奴らの陰口が聞こえてくる。
なんともまぁ、単純で分かりやすい奴らである。
少しはこの女の方が悪いという可能性を考えられんものか。
ズカンと座席に座ると、当然のように保健委員も隣に座ってくる。
視線が更に痛くなるが、それを意に介した様子も無い。
実にマイペースな奴だ。
「随分と噂されてますね〜」
「主にお前のせいでな」
「あなたが傷だらけなのもあると思いますよ。不良かなんかだと思われてるんじゃないですか?」
「喧嘩なんて一回もしたことない超優等生を不良扱いとは、見た目ってのは理不尽なもんだな」
「冗談が下手ですね。喧嘩したとこ見たところありますよ私」
「はあ?」
何言ってんだお前、と言おうとして。
去年のある出来事を思い出す。
そういや、馬鹿なことでクラスのアホどもと殴り合ったな、と。
「去年、クラスの子達と殴り合ってたじゃないですか」
「……あれは喧嘩じゃない。男同士の決闘だ」
「一対多の殴り合いを、決闘って言うんですか?」
「……はいはい。喧嘩したよしてました。これでいいかよ。ていうかなんでそんなこと知ってるんだよ、お前」
「下校中に、なんとなくあなたのいる教室を見たら見えたので。まあ、その時は馬鹿なことしてるなぁとしか思わなかったんですけど」
「じゃあ今は?」
「馬鹿なのは一人だけだったんだなぁ、と考えを改めてます」
このクソ女め。
「そういえば、今日もしてないですよね」
「何を?」
「普通、恋人って登下校の時は手を繋ぐと思いませんか?」
「……」
おもむろに差し出された手から逃げるように、さっと自分の手を背中に回す。
保健委員はブーたれたように口を尖らせて機嫌を悪くする。
「そんな嫌ですか、私と手を繋ぐの」
「嫌だね。何されるか分かったもんじゃないし」
「信用無さすぎませんか?」
「信用できる要素を見せてからほざきやがれ」
なんなら、突如俺を痴漢扱いしてくる可能性も考えてる。
そうなったら何も出来ずに俺の人生ゲームオーバーだ。
「じゃあ、代わりに肩を借りますね」
こてん、と肩に何かが置かれる感触。
見れば、肩に頭を乗せ気分良さそうに目を閉じている女の姿。
「おい」
「学校着いたら起こしてください。いつもよりちょっと早く起きて、眠たいんです」
「……勝手な奴め」
「諦めてください。私はそう言う女ですので」
ではおやすみなさい、なんて言った眠るそいつを他所に。
初めて感じる女の温もりに、少しだけ感動したのはここだけの話だ。
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