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「自殺を前提に付き合ってください!」

「……は?」



 自分でも驚くほど、間抜けな声が出た。

 目の前の少女の言ってることが理解できなかった。


 

「……ダメ、ですか?図書委員さん」


「いや……いやいやいや」



 だめとか、それ以前に頭大丈夫?

 そう言いかけて、どうにかその言葉を飲み込んだ。


 見てくれは間違いなく美少女だ。

 自分もそう悪くはない容姿だと思うが、彼女と並ぶとモブ顔にしか見えないくらい、腰まで伸びた黒髪とくりっとした青い目が似合う、実に正統派の清楚美少女。


 前半のが無ければ、諸手を挙げて喜んだのだが。



「え、なに。自殺を前提に?」


「はい。あ、できれば一緒に自殺してもらえるとなおうれしいです!」


「頭おかしいんじゃねぇの」



 言葉を呑み込まなかった俺を責められるような人間が、果たしてこの地球上にいるのだろうか?


 目の前の女はこともあろうに、靴箱に手紙を入れて屋上に誘い出した挙句、自殺を前提に付き合おうなんて言ってきやがったのだ。


 普通の告白を期待していた俺の心は木っ端微塵に砕かれた。

 彼女のことは嫌いではなかったが、今は得体の知れない狂人を見るような目でしか見れない。



「そんな……!乙女の愛の告白を、そんな簡単に切り捨てていいんですか図書委員さん!」


「さっきから妙に役職で呼ばれてんだけど、もしかして君俺の名前覚えてなかったりする?」


「はい!」


「頭おかしいよこの保健委員」



 自分だけ役職呼びは癪なので、自分も役職で呼んでやろうと思う。

 保健委員をやってる癖に病気を患ってるらしい目の前の女は、なんとも元気な声で続ける。



「実は、私の両親が借金残して死んでしまって」


「おおう、それは大変だな」


「それで、その、よりにもよって闇金に手を出していたそうで」


「うんうん」


「親が死んだから私に返済しろってヤのつく人から迫られちゃったんですよね」


「おお、大ピンチだな」


「で、半年後までに金集められなかったら薬漬けにして売りに出すって言われちゃったんですよね」


「そうか。金集められるといいな、頑張れよ」


「なので半年後に自殺しようと思ったんですが、人生で一度も彼氏できなかったとかなんか恥ずかしいし、一回交際経験積んどこうかなと思いまして!あと一人で死ぬのは怖いので、できることならあなたも道連れにしたいなって!」


「お断りだよ」



 明るい顔で狂ったようなことを言うクソ女。

 こいつ借金漬けで頭がおかしくなったようだ。



「というか、なんで俺だよ」


「なんか希望とか一切持ってない、死んだ魚みたいな目をしてるあなたなら巻き込んでも大丈夫かな~?と思いまして」


「張り倒すぞ。嘘でも好きだからとか言えねぇのかお前」


「なるほど。好きですよ図書委員さん!だから付き合ってください!」


「ここまで嬉しくない薄っぺらな告白初めてだよ」


「普通の告白されたことあるんですか?」


「ねぇよ殺すぞ」


「大丈夫、半年後に死にます!」



 あまりの面倒臭さに脱力してしまう。

 順風満帆な俺の人生に、何故いきなり傍迷惑な自殺を図ろうとするやつが表れてくるのか。神様がいるなら恨みたい。いたらこんなことになってないんだろうが。



「冷静に考えてみてください。こんな顔のいい美少女が付き合ってくださいって言ってるんですよ?半年後に死ぬとしても付き合いませんか普通」


「やだこの子自己肯定感がオーバーロードしてる?」


「けどかわいいでしょ?」


「かわいいけども。命を代償にするほどじゃねぇっての!」



 これ以上話しても無駄だろう、と彼女から背を向け立ち去ろうとする。

 学校のアイドルと言われた女がこんなメンヘラだとは世も末だ。

 さっさと帰って二次元の世界で生きていたい。



「悪いが、俺じゃなくて他をあたってくれ。俺は自殺する予定はないし、死にたいとも思っちゃいねぇよ。適当なおっさん捕まえて、そいつに頼めばいいだろう」


「そうですか。分かりました。ではさようなら図書委員さん」


「おう、じゃあな保健委員……!?」



 あまりにも軽い様子で、彼女は命を守るための柵を飛び越える。

 そのまま別れを告げようとした足を反転させ、今にもあの世に向けて紐なしバンジーをしようとしたバカの手をつかみ、引き寄せる。



「正気かお前!?」


「え?」



 見りゃわかるだろ?なんて風にすっとぼけるクソ女。

 そりゃそうだよな、未来ある男子高校生に当然のように心中仕掛けてくる女が、正気なわけもねぇよな。


 心の底から、神を恨むぞ。



「だって、断られた以上他に生きててやることないですし……」


「やってること脅しだぞ!?お前が今飛び降りたら、最悪俺がお前を殺したってことになるんだよ!事実は全く違うけど、少なくとも学校の奴らはお前の肩を持つんだよ!俺が言ったこと信じるような奴いねぇだろうからな!」


「そうなんですか?」


「そうなんですかじゃねぇんだよ!!」


「あ、じゃあむしろ都合がいいですね」



 そう言ってニコリ、と笑うそいつの姿は、なんともまあ邪悪なことで。



「最悪だよお前」


「人生滅茶苦茶にされたくなかったら、自殺を前提に付き合ってください!」



 これは、クソみたいな女に目をつけられてしまった俺の。

 クソみたいな半年間の記録である。





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