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父の日前後 2020 6月   作者: 倉門 輝光
2/2

勇者が家にやって来た

翌日の話。

 2020年6月21日(日)。

 

 今日は夏至で新月で日食で大安が揃い踏みの珍しい日だ。 


 昨日は天赦日と一粒万倍日が合わさった今年の最大ラッキーデー。 

 二日続けてこんな日がやってくるとは…2020年侮りがたし。


 天にゆるされる日であった昨日、俺は「今までにやったことがないけどやってみようと思っていた事」にチャレンジしてみた。 

 ゆるされるということで、「女子の気持ちで恋愛小説を書いてみる」にチャレンジだ。 


 短編のつもりが想定外に長くなり、3話完結と思っていたがそれすらも怪しい。しかも全然女子の気持ちで書けていない気がする。

 何よりも、天にゆるされる日である6月20日中に完結させるつもりで取り組んだ…が、負けた。 

 別に勝ち負けではないのだが、天赦日中に完結させるという自分の決意を貫くことが出来なかったのだ。 


 考えてみれば、新しく始めるだけで縁起が言いので、完結させられなくても何ら問題はない。そこに(今)気付いたので、まあのんびりとやるかという気持ちに切り替えられた。切り替えてしまったので、…完結しないかもしれない。

 

 それはそれとして、迎えた今日の夏至で新月で日食で大安の日。

 今日は何をしよう。こんなにワクワクする休日は久しぶりだ。 


 夏至なので長い昼を楽しもう。

 そして新月なので、新月の願い事をしてみよう。

 日食なので外に出て観察するぞ。

 大安なのでおめでたいから踊ってみよう。 


 楽しみだ。

 コンビニで買った冷凍そら豆をチンして、外に椅子を出してのんびりと過ごそうじゃないか。 


 昨日のデートでプロポーズしてもらえなかった妹が、家の中で荒れているから居辛いわけではない。 

 慰めるつもりで「いいじゃないか。新月なんだから願い事でもしてみろよ」と言って、「しね!クソが!!」と言われたからではないのだ。母が「黙ってろ」と睨むからではないのだ。 

 

 あ、父さん、いたんですか。家の中重苦しいよね、一緒に日食でも見ませんか。椅子出しましょうか?いい?あ、そう。え、父の日だというのに?…うん、そうだね。まあ、あんまり触れない方が良いよ、きっと。

 

 一人で曇った空を見上げて俺は思う。こりゃ日食は見られないんじゃないか。ネットで中継を見た方が良いかもしれないな。でも、もう少し外で風を楽しむことにしよう。ヘッドホンで低く音楽を流しながらチビリチビリとビールを飲む。階下から醸し出されている重い空気から逃れるように。


 そしてふと気づく。もしかしたら、家に向かって花を持って坂道を上がって来る男の姿に。

 緊張した面持ちでスマホを出したり閉まったりしながら歩いてくるあの男は、もしかすると妹の彼氏なのではないか。 

 

 ああ、そうか。俺にはわかる。天赦日とか一粒万倍日とか、そんな事よりも、男は「大安」とか「仏滅」とか、父の日の方が馴染みがあるのだ。 


 彼はもしかしたら、大安であるこの日に、父に挨拶に来たのではないのか。

 

 いや、早合点はいけない。彼はただの道行く見知らぬ人かもしれない。だから俺は家の中に声を掛けずに黙ってそら豆をつまんでいる。


 一応、父に「ちょっと着替えてちゃんとしておけば?」とだけ言って、俺は余裕を見せて椅子に座ったまま空を見上げるフリをする。

 だが待て。彼は恐らく今日は家に家族が揃っていることを聞き出してあるのだろうが、妹の様子を見るに不意打ちで来たのだろうから、やっぱり皆にも「ちょっと小綺麗にしておくと良いよ」と言っておこうか。


 「うるせー!」と妹に罵られ、「余計なこと言わないのよ」と母に叱られながら、だが後の惨事を可能な限り防ぐことを試みる。 

 

 今日は実に珍しい日になりそうだ。 


 ほら、彼が門に辿り着きインターホンを押す勇気を出そうと手を上げたり下げたりしている。

 

 叱られた俺は呼ばれるまでベランダに出ていよう。

 急に訪れた客人によって(もたら)されるであろう祝い事の喜びと、それであるが故に反動が大きくなるであろう、喜びの一瞬後の「来るなら来るって言ってよね!ばかじゃないの?!」という妹の怒りの流れ弾から身を守る為に。 

 

 

 



 

この時に本当に書いてみた恋愛ものは2話目で止まりお蔵入りに。いずれまた取り組みます。

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