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父の日前後 2020 6月   作者: 倉門 輝光
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天赦日(天が許す日)

始めの日。

 2020年6月20日(土)は天赦日と一粒万倍日が重なる今年最大で最後の超ラッキーデーだそうだ。俺はさっき知った。妹と母が話していた。


 結婚、結納、入籍、引っ越し、プロポーズ、告白、出生届、開業、財布の新調、やろうと思いながら取り掛かっていなかった事を始める、宝くじを買う、銀行口座の開設などに良いのだと言う。 



 「今夜のデートでプロポーズしてくれるかなあ」


 「そしたら、そのまま入籍して来ちゃいなさいよ。婚姻届は365日24時間受け付けてるんだから」


 そんな事を言っている。


 「自分から言ってみればいいじゃないか」と言ったら、「ばかじゃないの?」と妹に睨まれた。続いて、「自分はどうなのよ?誰かいないの?告白してみたら?」と母。


 「こんな日に告白して失敗したら万倍になっちまうだろう」と返すと、「万倍決定だ」と妹が爆笑する。


 「そんな人がいるの?」と母が身を乗り出すので、俺は力を込めて言った。


 「居ねえわ!」


 母がため息をついて哀れな者を見るように言う。「なんだかねえ…。見た目は良いんだから、もうちょっとさ、何かこう…グイッと、ねえ。男は優しいだけじゃだめなのよ」


 「兄貴はモテるのよ。より好みしてないで積極的に出ればいいんだよ。待ってるからダメなんじゃん?」


 

 勝手なことを言っている二人。


 俺にだって結婚を考えていた彼女はいた。だが、海外出張でちょっと会えないでいるうちに彼女は他の男と…くっ。いや、やめよう。この話は良くない。

 


 知らずに俺の疵をを抉っておきながら既に話題が変わっている2人を後目に、俺はそっとその場を離れ自室に避難することにした。



 コーヒーを机に置いて、ベッドで寝ている猫をひと撫でして考える。


 今日は今年最大で最後の超ラッキーデーか。このまま逃すのは惜しい気はする。とはいえ、結婚、結納、入籍、引っ越し、プロポーズ、告白、出生届…。これは今からでは無理だ。


 開業…。何を?というか、土曜日だし役所は閉まっているから、これも今からでは無理。届け出は関係なく、今日から始めます!という宣言で良いなら考えもするが、何を始めるかを23時59分までに決めるだけで一苦労な気がするぞ。

 

 銀行口座の開設もダメだろう。残るは、財布の新調、やろうと思いながら取り掛かっていなかった事を始める、宝くじを買う…か。


 実は常々財布を新調したいと思っていた。俺は「最適な日」を逃してしまったなと思った。欲しいと思いながら買っていなかった事が悔やまれる。


 今からネットでポチっても意味はあるのだろうか?と思った。いや、そう甘くはないのではないか?だが待て。確かもうひとつの「一粒万倍日」というのは、たった一粒の(もみ)が万倍にも実り、豊かな稲穂になる様から、わずかな行動、物が何倍にも膨らむという意味だと言っていなかったか? 


 一縷の望みに掛けてやってみる気概が一粒万倍になって幸運を呼ぶかも知れないぞ。


 俺はネットを開いて、予てよりカートに入れていた財布をポチろうとした。そこでふと別の考えが湧いて来た。


 気をつけろ。逆に、もしかしたらの思い込みで間違ったことをして、それが一粒万倍となって戻って来るかもしれないぞ。 


 …うむ、余計なことをしないで、財布の新調は次の吉日を待つことにしよう。そうだ、次の吉日の為に今日ポチっておくのはセーフなのではないか?

 よし、財布の件はこれでクリアだ。


 残るは、やろうと思いながら取り掛かっていなかった事を始める、宝くじを買う…だ。


 宝くじは宝くじ屋が開いていないと買えないし、今から出かけるのはだるい。やめよう。宝くじが当たるのではなく、宝くじを買う日々が万倍になってしまうのは嫌だ。 


 やってみようと思いながら取り掛かっていなかった事を始める。これで行こう。


 「天赦日」とは「天がすべての罪を許す」といわれる最上級の吉日。天が赦してくれるらしいので、俺はアレをやってみようと思った。 


 女子の気持ちで恋愛小説を書くのだ。しかも異世界ものだ。


 母や妹は、まさか同じ家の二階で俺がそんな事をしようとしているとは夢にも思うまい。何という背徳感か。キモい?何とでも言え。もう一度いうが、今日は天が全てを赦してくれる日なのだ。


 そして俺は執筆し投稿をした。


 短編のつもりが書いている内に長くなり3話程になりそうなのが想定外だが、今日中に2話目と3話目を投稿すれ天は赦してくれる。 


 俺が自らに課した時間との戦いはまだ始まったばかりだ。


 

 



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