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【pixiv走り屋】コラボ小説プロット2【ミッドナイトウルブス】

作者: 石田 昌行

・シーン1

ステージ: 焼き肉店「王騎」 夜

女子会中の看護師ふたり。


紗香「(呑みかけのビールジョッキをドカッと置いて)あ~、オトコ欲し~。どっかにイイオトコ転がってね~かな~」

純「(引き気味に)紗香さん、なんだか最近そればっかですね」

紗香「悪ィか? (ガバッとまとめて肉をほおばる)だいたいなァ、『恋人募集中で~す』とか言いながらちょこちょこつまみ食いしてるようなアンタと違って、こっちゃあマジで『恋人いない歴=年齢』なんだよ。こんな時ぐらい、率直な本音ぶちまけたっていいじゃないのさ」

純「つまみ食いって、んな人聞きの悪い」

紗香「うるさいなァ。あたしゃね、いまこの上もなく切実なんだよ。たまの週末オフにはさ、見知った同僚なんかとじゃなく、イケてる彼氏とこうした場所に来たいわけ。わかる? と言っても、アンタみたいなファッション喪女には、ヤラハタどころかヤラミソに突入しそうなオンナの気持ちなんて、これぽっちもわかんね~んだろ~けどさ~」

純「ファッション喪女……って、紗香さん? ひょっとしてあたしのこと誤解してません?」

紗香「こういうことに五階も六階もあるっかってーの。ファッション喪女はファッション喪女だろ? 先月だって、男衆から合コンお呼ばれしたんだろ? あ~、くそッ! あたしにゃ、そんなお誘い一向に来ないってのに。同じ走り屋で同じ看護師だってえのに、なんでこんなに差があったりするんだ? やっぱり顔か? 顔なのか?」

純「顔に関しちゃ、あたしだって人並みレベルがせいぜいですって。紗香さんは、そっち方面のコミュニケーションが足りないんじゃないですか? 本気になれば、オトコの一人や二人、けっこうどーにでもなると思うんですけど」

紗香「あのな。そううまくならねーから、こうして愚痴る羽目になってるんだろーが。あんまり無責任なことほざいてると、さすがのあたしも終いにゃ怒るぜ」

純「あはは、ごもっとも」

紗香「それとも何か? いまの発言の責任取って、あんたがあたしに誰かイイオトコ紹介してくれるってのかい? それだったら、ま、いまの無礼は水に流してもかまわねーぞ」

純「イイオトコって……あたしがですかあッ?」

紗香「そーだよ。オトコの一人や二人、努力次第でどーにでもなるっていま言ったじゃんよ。あんたの手腕で、見事その証明をしてもらおーじゃないのよ」

純「証明ったって、いったいどうやって?」

紗香「簡単なことさ。とりあえず、あんたの視点で『これはッ』っていうオトコをひとり、このあたしに紹介してみて頂戴な。あたしもその日、目一杯のおめかししてくからさ。それでカップリングがうまくいけば、証明完了であんたの勝ち。で、うまくいかなかったらそん時は、あんたが戯言ほざいたってことだから、罰としてあたしに腹一杯の晩飯ってのはどーだい?」

純「あは、あははは……」


(回想シーン終了)


・シーン2

ステージ:八神街道駐車場

ミーティング中のチーム「ロスヴァイセ」


純「──というわけなんだけど、先輩。誰かイイ人、知り合いにいません? 山本呉服店の関係者で、いいところの御曹司とか取引先の若社長とか」

加奈子「あのね、純。いくら私が老舗の跡取り娘だからって、そんな知り合い、当たり前みたいにいると思ったら大間違いよ。少しは常識で考えなさい」

純「ですよねー(溜息)」

眞琴「あの~、純さん。そもそもなんでそんな賭け事引き受けたんです? 純さん自身には、なんのメリットもない話じゃないですか?」

純「う~ん、成り行きっていうか、なんというか。実は最近、うちの職場が結婚ラッシュでさ。その先輩看護師より年下の看護師が、パタパタっとふたりばかし片付いちゃったのよね。そんな状況、適齢期の独身オンナとしては、さすがに焦っちゃうものでしょ?」

眞琴「はあ」

純「そのひとね、真面目で面倒見もいいひとなんだけど、人相悪いから患者さんやら男性看護師やらが寄り付かなくってさ。優良物件なのにもったいない。なんとかしてあげたいって、ちょうどみんなが思ってたタイミングでそんな話を持ち掛けられたら、あたしの一存じゃ断れないわよ」

眞琴「でも当てがないから、ボクたちに話を持ってきた、と」

純「平たく言えば、そーいうことね」

倫子「平たく言わなくてもそういうことですけどね」

純「眞琴ちゃんのほうはどう? 誰か手ごろなオトコのひといない?」

眞琴「ウチの大学に、ですか?」

純「まっさか。彼氏のツテで、よ。同僚に三十前後のオトコのひと余ってないかって壬生さんに聞いてみてよ。市役所の職員だったら常勤ナースとでも全然釣り合う相手だと思うからさ。なんなら、あたしの分もついでにひとり」

眞琴「そういうひと(恋愛対象)を翔兄ぃの知り合いに期待するのは、かなりのギャンブルだと思うんですけど。結婚相手にするならまだしも、恋人にするんだったら不適合なひとばっかりですよ」

純「眞琴ちゃんが言うと説得力あるわね。確かにあのひと見てると、周りに趣味人が多いというか、そういう路線から外れてるひととの付き合いがメインみたいな感じだしな~」

眞琴「本質的に恋愛向きじゃないんですよね」

純「うんうん、わかる。今回のも基本は『お見合い』じゃないし、壬生さんタイプはオミットか。となると、残るはリンのツテになるけど……ハァ、話すだけ無駄か」

倫子「わかってくださって感謝します」

純「あ~、くそッ! いざ紹介するってなると、イイオトコって意外といないものよね~。ホント、どこかに転がってないかな~。オトコらしくて強引で、クルマ趣味にも理解のある、安定した職に就いた社会人。そいでもって、顔と収入は妥協するから、相手の顔と収入にも妥協してくれるような、そんな器の広いアラサー男性」

加奈子「まあ、ニッチな層であることは間違いないわね」

眞琴「同感」

倫子「……」

純「やっぱり~。いるわけないかァ、そんな都合のいいオトコ」

加奈子「諦めて、おとなしく謝ったほうがいいんじゃない?」

純「今月お財布厳しいんですよ。『スターレット』の車検もあったし……」


駐車場に黒いランエボが進入してくる。

それを見て、眼を輝かせる純。


純「先輩……いた! いましたよ! 格好の獲物が!」

加奈子「格好の獲物?」


・シーン3

ステージ:喫茶店「イオタ」店内 日中

ボックス席に着いている、女性二人と男性一人。


純「では、改めて紹介しますね。(男に向かって)二階堂さん。こちらは『里崎紗香』さん。あたしと同じ病院で、看護師をなさっておられます。(もうひとりの女に向かって)で、紗香さん。こちらは『二階堂和也』さん。現在、武蔵ヶ丘市で実家の接骨院に勤めてらっしゃいます」

二階堂「……(ひきつった笑い)」

紗香「……(視線はテーブルの上)」

純「え~では、第三者はここまでということで、あとはおふたりでごゆっくり」

二階堂「ちょ……ちょっとまて『ロスヴァイセ』の」

純「あら、何かしら、二階堂さん?」

二階堂「話がある! ちょっとこっちこい!」

純「いやだわ~、恥ずかしがらなくても全然いいのにィ。オホホホホ」


いったん店の外に出るふたり。


二階堂「おいッ! なんだありゃ!? 聞いてた話とまるっきり違うじゃないか!」

純「(目を反らしながら)あ、あらァ。なんのことかしらァ」

二階堂「ばっくれるなッ! 紹介したい同僚がいるからってノコノコついて来てみりゃあ、ありゃあなんだッ!? ナース服着た白衣の天使じゃなくって、特攻服着た暴走天女じゃねえかッ! あれのどこが『優しくて温厚でいまどき珍しい大和撫子』なんだッ! 納得いくように説明して見せろッ!」

純「あらら~、八神街道の『弾丸野郎バレットクラブ』ともあろう走り屋が、女の子を外見だけで判断しちゃうんですかァ? それって随分ダサい真似だと思っちゃったりするんですけどォ」

二階堂「うぐッ! 痛いところ突いてきやがって、コノヤロウ!」

純「だってそうでしょッ!? あたしは嘘なんて言ってませんよッ! 紗香さんは、れっきとした『優しくて温厚でいまどき珍しい大和撫子』な・ん・で・すッ! だいたいですねッ、『彼女は美人だ』なんてこと、こっちはひとっ言も言ってないのに、勝手に期待だけ膨らませてたのは、百パーセントそっちのミスじゃないですかッ! 文句言われる筋合いなんて、これぽっちもないんですけどッ!」

二階堂「開き直りやがったな」

純「これが開き直りだってんなら、千回だって開き直ってあげますよッ! と・に・か・くッ、女性を待たせるのは厳重なマナー違反ッ! 一度引き受けたからには男らしく責任取ってくださいッ!」

二階堂「おッ、おいッ! 背中を押すなッ!」


店内に押し込まれる二階堂。

仕方ないな、という顔付で席に戻る。


二階堂「え~、あ~……改めまして、二階堂和也です」

紗香「あ……その~、こちらこそ。里崎紗香……です」

二階堂「なんかお互い、あの女に担がれてたみたいですね」

紗香「ハァ……そうですね。ひょっとして、ご迷惑だったんじゃないですか?」

二階堂「?」

紗香「(俯きがちに)もしご迷惑だったら、このまま帰っていただいても、あたしのほうはかまいませんよ。その……あたしみたいなのとこういった時間過ごしても、オトコのひとはきっと苦痛だと思いますし」


プッと吹き出す二階堂。

何事かとばかりに顔を上げる紗香。


紗香「どうしました?」

二階堂「いやいや。いまのは一方的に俺が悪かったと思いましてね」

紗香「?」

二階堂「見てくれだけじゃ、人間なんてわからないことだらけだ。だからこそ、こういった出会いの場があるんだってことすっかり忘れちまってた。正直に言います。スンマセン。そっちのこと、ぶっちゃけ顔だけで判別してました。心から謝ります」

紗香「あ、いえ、そんな」

二階堂「ツラに関しちゃ、俺もひとのことは言えねェわけで……せっかくのタイミングだ。今日は立派な初対面同志、恥の掻き合いっこしましょうぜ」

紗香「ハァ」

二階堂「さァてと、んじゃまず、飲み物でも注文しますかねっと。里崎さんって言ったっけか? 俺が相手じゃ楽しい時間にゃならねェかもしんねェけど、こっちもそれなりに努力しますんで、このあとは、お互い楽しくいきましょうや」


・シーン4

ステージ:火久士武峠駐車場 深夜

愛車の側でタバコを燻らしている紗香。

星乃奏が近寄って来て話しかける。


星乃奏「随分と黄昏てますね、紗香さん」

紗香「ああ、星乃奏ちゃんか」

星乃奏「何かあったんですかァ? いつもの紗香さんらしくないですよォ」

紗香「あ、う~ん。やっぱりあたしらしくないか(愛想笑い)」

星乃奏「悩み事ですかァ? 私でよければ相談に乗りますよォ」

紗香「うん、まあ、悩み事っちゃー悩み事なんだけど……う~ん」

星乃奏「???」

紗香「星乃奏ちゃんさァ、率直に言って、あたしって魅力ない?」

星乃奏「魅力って?」

紗香「オンナの魅力」

星乃奏「何かあったんですね?」

紗香「(しばらくためらってから)う~ん、実はね──」


二階堂とのデート内容を語る紗香。


星乃奏「えーつまりィ、その二階堂ってひとが、デートの最中、自分に手出ししてくる気配がさっぱりなかった。だから自分にはオンナの魅力がないんじゃないかって凹んでた。とまあ、そーいうことですかァ?」

紗香「う……うん、まあ、そういうことになるか、な」

星乃奏「(ジト目で)紗香さんて、ひょっとして莫迦なんですかァ?」

紗香「莫迦とはなんだよ、莫迦とは! もう少しまともな言い方があるだろ?」

星乃奏「いや、莫迦だから莫迦って言ってるんですけどォ。そんなの、ちょっと考えればわかることじゃないですかァ。会ったばかりのオンナのひとにいきなりそういうの求めてくるオトコなんて、ろくでもない率百パーですってェ」

紗香「えッ! そうなのか? レディコミとかだと、そういうアタックがあたりまえだったから、あたしゃてっきり──」

星乃奏「あー、なるほどォ。紗香さんって、莫迦なんじゃなくって乙女だったんですね。それで合点がいきました。あのですねェ、その手の情報は、まず綺麗さっぱり忘れてください。その上ではっきり言います。会ったばかりのオンナのひとに即日そういうの求めてくるひとは、ひとり残らずロクデナシです。疑うんなら、ほかのひとにも聞いてみてください。言っときますけど、あそこのマスタング乗りみたいなウェイ系男子に聞いちゃダメですからねッ!」

紗香「(唖然として)マジか……あたしゃいままで、この三白眼と悪人顔が悪さしてるもんだとばっかり思ってた」

星乃奏「救いようのないアンポンタンですね。んじゃあ、もっと言います。女性の顔を理由に手を出す出さないの判断決めるオトコのひとも、もれなくロクデナシボックスにポイ!です。いいですか、紗香さん! その二階堂ってひととどんな流れのデートをしたか、いまここでもう一度思い出してください!」

紗香「え、え、え~っと……まず喫茶店で話して──」

星乃奏「それから?」

紗香「映画館にアクション映画見に行って──」

星乃奏「それから?」

紗香「ファミレス行って晩飯食べて──」

星乃奏「それから?」

紗香「カラオケ行って呑んで歌って──」

星乃奏「それから?」

紗香「一緒のタクシーで送ってもらった」

星乃奏「完璧じゃないですか! 紗香さん的には、まさかそこで『実はホテル直行ルートのほうがよかった』だなんて言い出しませんよね?」

紗香「そ、そ、そりゃあ、さすがにそんなのは望んじゃいなかったけどさ。でも一応は、そういう可能性も考えて、おニューの下着を着てったんだよ。なのに相手側がそんな気配を少しも見せてくれないんじゃ、自分の魅力に問題があるんじゃないかって思っちゃっても仕方がないだろォ?」

星乃奏「紗香さん。訂正します。紗香さんって、単なる莫迦でも乙女でもなく、生粋の莫迦で乙女なひとだったんですね。いまどき、女子高生だってそんな初心い考え持ってませんよォ。それでも大人の女性ですかァ?」

紗香「面目ない」

星乃奏「で、紗香さんから見て、その二階堂ってひとはどうだったんです?」

紗香「どうだった、って?」

星乃奏「どうだったはどうだったですよォ。紹介されてデートしたんでしょ? もし次があったら、その時はまたデートしちゃうんですかァ?」

紗香「あ、あ、あたしとしちゃあ、それでもいいかな……と。気さくだし、話も合うし、あたしのことを変な風に見ないし……」

星乃奏「ってことは、それなりに気に入っちゃったってわけですね」

紗香「ま、まあ、そんなところかな」

星乃奏「だったら悩まず、こちらからアタックでしょ!」

紗香「あ、あたしからかァッ!」

星乃奏「あったりまえじゃないですか! いまの世の中、女の子だってオフェンスですよ! 機会を逃す走り屋に、勝利の二文字はないんですッ!」

紗香「そッ、そうなのかッ!」

星乃奏「そうですッ! 女の子だって欲しいものには貪欲に手を伸ばすべきなんですッ! それこそが、いまどきの女の子に求められてる才能なんですッ! さあッ、紗香さんッ! 思い立ったら吉日ですッ! その二階堂さんってひとに連絡ですッ!」

紗香「い、いや、実はそれなんだけどな」

星乃奏「はい?」

紗香「あの日、すっかり避けられてるって思いこんでたもんだから、メアドもケー番も何ひとつ交換してないんだよォ」

星乃奏「真正の莫迦たれですね、紗香さん」


駐車場に入ってくる黒いランエボ。

皆の視線が集中する中、運転席から二階堂が降りてくる。


二階堂「結局ここにいやがったか。方々探し回ったんだぞ」

紗香「えッ? 二階堂、さん? なんであたしを?」

二階堂「まったく、面倒な手間取らせやがって。社会人なら、ちゃんと電話ぐらい出ろ」

紗香「電話?」


見ると着信履歴が8件。


紗香(あちゃ~、マナー設定にしてたから気付かなかったんだ)

二階堂「あ~、誤解のないよう言っとくが、電話番号は『ロスヴァイセ』の長瀬から聞いた。決して盗み見たとかそんなんじゃねェから、勘違いするんじゃねェぞ。とまあ、前置きはそのぐらいにしておいて……とりあえず手ェ出せ!」

紗香「え、あ……うん(と右手を出す)」

二階堂「ほれッ! 受け取れッ!(と一万円札を握らせる)」

紗香「ちょッ! 何これッ!? なんのつもりッ!?」

二階堂「おめェ、こないだのデートん時、俺の上着のポケットに、これ突っ込んどいたろ?」

紗香「あ、ああ、うん。自分の分のお勘定」

二階堂「あのなァ。ああいった場の支払いってもんは、オトコが一人でやるもんだ。気を利かせたつもりなのかもしれねェが、オトナのオンナが、てめーの連れに恥かかせるような真似するんじゃねェよ。大和撫子が聞いてあきれる」

星乃奏(うっわァ。化石クラスのマッチョマンだァ)

二階堂「とにかく、これは返す」

紗香「そんな。自分の分は自分で払うよ。そっちこそ、つまんない見栄張ってないで受け取りなよ」

二階堂「やかましいッ! 連れのオンナにカネ払わせるなんて、そんなみっともない真似ができるかッ!」

紗香「(カチンときて)やれやれ、頭の固い男だね。いまは平成の時代だよ。いつまで昭和やってんだい」

二階堂「明治だろうが大正だろうが、俺は自分が正しいと思ったことをする。そいつが俺のポリシーだ。撤回するつもりはねェ」

紗香「なるほど。あんたのポリシーはわかった。けどあんた、あたしにも自前のポリシーがあるってのはわかってるかい?」

二階堂「おまえのポリシー?」

紗香「ああそうさ。オンナだからって理由でオトコに甘えない、一人前のホントのオンナとしてこの世を生きる。そいつがあたしのポリシーさ。あんたも走り屋ならわかるだろ? クルマに乗ってステアリング握った以上、そこにオトコだのオンナだのいった議論は成立しないんだ。あたしはね、夜の峠もこの世の中も、いつでもどこでも誰とでも、フェアな立場で生きていきたいんだよ」

二階堂「ほゥ」

紗香「? どうしたんだい、急に」

二階堂「いや、マジで感心した。そういうことなら話は別だ」

紗香「わかってくれたかい」

二階堂「言い分はな。だが、この万札は受け取っとけ」

紗香「あのねェ」

二階堂「勘違いするな。こいつはおまえに返すんじゃない」

紗香「?」

二階堂「この万札はおまえに預ける飲み代だ。今日以降、俺がこの峠にやってきたときは、おまえがその飲み代を使って俺に缶ジュースをおごるんだ」

紗香「なんかよくわからないけど、そいつがそっちの妥協案ってことなのかい?」

二階堂「まあな」

紗香「わかった。これ以上互いにごたごたしても、話がまとまるとは思えないしね」

二階堂「そうだそうだ。オンナは素直なのが一番だぞ」

紗香「そんな褒められかたしてもうれしくないけどね」

二階堂「じゃあさっそくで悪いが、あそこの自販機で一本頼むわ。ブラックのコーヒーでよろしく」

紗香「あいよ」


紗香、自販機に向かう。

二階堂、紗香が座っていた場所の隣に腰を下ろす。

その目の前をシャコタンアリストが通り過ぎる。

乗っているのは騒々しい風体の男性4人。

麓に向かう彼らを呆れ顔で見送る二階堂。


二階堂「しっかしまあ、火久士武ってェのは、えらくけったいな雰囲気のスポットだな。シャコタンセダンにタイプR。スターレットやヴィッツがいるかと思えば、場違いなアメ車(マスタング)までいやがる。こいつァまるで闇鍋だぜ」

星乃奏「(恐る恐る)あのォ~」

二階堂「なんだい、お嬢ちゃん?」

星乃奏「お兄さんは、この峠(火久士武)初めてなんですかァ? あッ、私、逢知っていいます。あそこに停まってる黄色いスターレットのオーナーです。あと、お嬢ちゃんはやめてください」

二階堂「がははッ! そいつァ悪かった。お嬢ちゃん、じゃなく逢知ちゃん、だな。俺の名前は二階堂だ。よろしくな」

星乃奏「こちらこそ!」

二階堂「あんたとは初めましてだが、火久士武は初めてってわけじゃねェぞ。が、俺のホームは八神だから、ここまで足を延ばすことは滅多にねェな」

星乃奏「(ランエボをチラ見して)そちらも走り屋さん、なんですよね?」

二階堂「まあな」

星乃奏「じゃあ、八神街道のタイトルホルダーだったランエボ乗りの二階堂さんって、もしかしてあなたのことなんでしょうか?」

二階堂「よく知ってるな。どこで聞いた?」

星乃奏「スッゴイ! ビッグネームじゃないですかァ!」

二階堂「こっ恥ずかしいから大声出すな」

紗香「(自販機から戻って来て)なんだいふたりとも。ちょっとの間で、随分なかよしになってるじゃないか」

星乃奏「紗香さんッ! スッゴイ大物捕まえたじゃないですかッ!」

紗香「???」

星乃奏「このひと、あの八神街道でタイトルホルダーだったひとですよッ!」

紗香「へぇ、そうなのかい?」

二階堂「間違っちゃいない」

星乃奏「私ッ、みんなに知らせてきますッ!」


駆け去っていく星乃奏。

紗香、二階堂の隣に座る。


紗香「こないだのデートの時は、そんなことひと言も言ってなかったじゃないか」

二階堂「元が付くからな」

紗香「元?」

二階堂「ああ。去年のうちに伝説と閃光に連敗した。いまじゃ負け犬街道驀進中の、単なる無冠のエボ乗りさ」

紗香「そう言ってる割にはうれしそうじゃない?」

二階堂「実際にうれしいからな。てめェより強い奴と速い奴。倒すべき目標がふたりもできた。オトコだったら、これをうれしいと思わなくってどうするよ」

紗香「はん。走り屋だねえ」

二階堂「走り屋さ」

紗香「火久士武ウチじゃ流行らないだろうけど、あたしゃ、そういう考え嫌いじゃないよ」

二階堂「火久士武ここじゃそういうのは流行らない、か。さっきも見てて思ったんだが、ここはそういった感じのスポットじゃねェんだな。武蔵ヶ丘を挟んで東西に分かれてるだけで、随分と違う世界に進化しちまってるらしい。八神街道(俺の地元)とはえらい違いだ」

紗香「八神は本気印が多いみたいだからね。噂には聞いてるよ」

二階堂「おかげさまで」

紗香「『なごばし』っていうらしいよ。うちらみたいな走り屋」

二階堂「『なごばし』?」

紗香「さっきの、星乃奏ちゃんってのの知り合いが広めてるそうだよ。なごみ系走り屋。略して『なごばし』」

二階堂「なごみ系走り屋か。そいつはいいや」

紗香「速さを求めるのだけが走り屋の醍醐味じゃないしね。そういった考えがもっと広まってくれたらいいと、あたしなんかは考えてるよ」

二階堂「違いねェ。と同時に、胸が痛えな。俺も去年、おまえは速いだけの走り屋だって、面と向かって言われたからな」

紗香「誰からさ?」

二階堂「『青い閃光シャイニング・ザ・ブルー』 三澤倫子って走り屋女さ」

紗香「なんだい。オンナがいたのかい?」

二階堂「勘違いすんな。そんな関係のオンナじゃねェよ。第一俺は、あんな可愛げのねェオンナは好みじゃねェ」

紗香「ふ~ん。じゃあ、どんなオンナが好みなのさ」

二階堂「んなもなァ決まってる。一緒に生きてて気が合うオンナさ」

紗香「気が合うオンナ、ねえ」


咥え煙草に火をつける紗香。

直後、遠くから聞こえてくるスキール音とクラッシュ音。

駐車場内で騒ぎが起きる。


二階堂「なんだァッ? 事故かッ?」


星乃奏たちのもとへ駆け寄っていく二階堂と紗香。


紗香「何があったの?」

星乃奏「優輝君の知り合いが、イキって回ってぶつかったらしいですッ! 怪我人が出たみたいで、いまケータイで詳しい状況聞いてますッ!」

二階堂「さっきのアリストか。貸せッ!」


優輝からケータイを奪い取る二階堂。


二階堂「おいッ! 聞こえてるかッ!?」

電話の相手『だッ、誰だよアンタ、いきなりッ!』

二階堂「俺が誰かなんてどうでもいいッ! いいかッ! まず、手短に状況を報告しろッ! 怪我人は何人だッ!」

電話の相手『怪我人はひとりッ! 窓から外に投げ出されて息してねえんだッ! いったいどうすりゃいいんだよォッ!』

二階堂「とりあえず落ち着けッ! おまえ、心臓マッサージはしたことあるか?」

電話の相手『そッ、そんなの、したことねえよッ!』

二階堂「泣き事言うなッ! 仲間を死なせたくなかったら、いますぐ俺の言うとおりにしろッ! 返事はッ!?」

電話の相手『わ、わかった』

二階堂「よしッ! 心臓マッサージってのはな、胸の中央に両手を当てて、体重かけて押しまくるだけだッ! 骨が折れても構わんから、目一杯リキ入れろッ! リズムはアレだッ! ドラ〇もんの歌だッ! 『あったまテッカテ~カ』って奴だッ! わかるなッ!?」

電話の相手『わ……わかんねーけどやってみるッ!』

二階堂「よーし、頑張れッ! 俺らがそこいくまで、それを交代で続けてろッ! くれぐれも手を抜くんじゃねーぞッ!」


ケータイを切る二階堂。


二階堂「救急車はッ!?」

優輝「連絡済みっす!」

二階堂「上等ッ! おいッ、看護婦ッ!」

紗香「なッ、何よッ!」

二階堂「俺ら医療従事者の出番だッ! いますぐ現地に行くぞッ! 俺のランエボの隣に乗れッ!」

紗香「了解ッ!」


・シーン5

ステージ:喫茶店「イオタ」店内 事故から数日後の日中


入店してくる紗香。

ボックス席でそれを迎える二階堂。


二階堂「おう。例の患者の容体はどうだ?」

紗香「(席に着きながら)無事に意識は取り戻したよ。いまのところ命に別状はないってさ」

二階堂「そうかい。そいつはよかった」

紗香「救急の先生があんたのことを褒めてたよ。初期対応が適切だったから助かったんだって。それがなかったら手遅れだった、さもなくば重篤な後遺症が残っただろうって」

二階堂「ありゃあ俺だけの手柄じゃねェよ。おめェさんも火久士武の連中も力を合わせて頑張ったじゃねェか。英雄がいるとしたら、あそこにいた全員がそうさ。ま、事故った連中に関しちゃあ、きつい説教かましてやるべきだと思うがね」

紗香「まったくさ。あのあと警察の巡回が厳しくなっちまってさ。とてもじゃないけど、走れる状況じゃなくなっちまった。いったいどうしてくれるんだって言いたいね」

二階堂「がははッ! そのあたりは二、三か月の辛抱ってところだな。その間だけおとなしくしてりゃあポリだって暇じゃねェんだ。巡回頻度も平常どおりに収まるだろうさ」

紗香「だといいけどね。ところで──」

二階堂「あん?」

紗香「そんなことを聞くためだけに、あたしをここに呼び出したってわけじゃないよね? 一応言っとくけど、こっちは貴重な休日だったんだよ」

二階堂「そりゃ悪かったな。実は、ちょっとおまえさんに言いたいことができちまってな」

紗香「あたしに?」

二階堂「ああ、あんたにだ」

紗香「大事な話なのかい? 遠慮なく言ってごらんよ」

二階堂「ありがとよ。実はあの日、ウチに帰ってじっくり考えてみたのさ。おめェさんと一緒にやった救命活動。あれほど息の合ったコンビネーションは、これまで一度も経験したことがなかったもんでね。正直言うと、ちょっと感動しちまったんだ。こういう相方が近くにいたら、何かと人生面白そうだなってね」

紗香「(ドキッ)え、あ、うん。それで?」

二階堂「で、だ。もとより俺とあんたは、『ロスヴァイセ』の長瀬から『こいつはどうだ?』って紹介されあった仲ってわけだ。そんなわけだから、俺ァ今回、きっぱりと決めちまったってわけさ」

紗香「(ドキドキ)い、いったい何をだい? それはあたしにかかわることかい?」

二階堂「ああ、そのとおり。おめェさんにかかわることだ」

紗香「(ドキドキ)」

二階堂「こういうことでめんどくせェ駆け引きはしたくねェ。だから誤解のないようスパっと言う」

紗香「(ドキドキ)」

二階堂「おめェ、俺の嫁さんになれ」

紗香「……」

二階堂「……」

紗香「……」

二階堂「……」

紗香「……」

二階堂「……」

紗香「……」

二階堂「……」

紗香「……はい?」


・シーン6

ステージ: 葦原大学付属病院内廊下 それから一月後の週明け


歩きにくそうに内股で進む紗香。

足を止めて、腹部を抑える。


紗香「(顔をしかめて)う~……まだ何か入ってるみたい。あんの唐変木ッ! 確かに『遠慮しなくていい』って言ったのはこっちだけどさ。だからって本当に遠慮しない莫迦が、世間のどこにいるんだよッ! そりゃあ、そっちだって初めてだったのかもしんないけどさ、こっちだって天然物の初体験だったんだぞッ! 少しはテメーのオンナに気を配れってのッ! しかも延々一晩中って……デキちまったらどうすんのさッ!」


空想上の二階堂「ガッハハハ! そんときは観念して、書類にハンコ押しやがれ! 俺はいつでもウェルカムだぞ!」


紗香「言いそうだ。あいつなら平然と言いそうだ。くそッ、デリカシーのないバリケード男め。どうしてくれよう」

純「おはよーございます、紗香さん」

紗香「お、おぅ、おはよう」

純「あれ? なんだか体調悪そうですね? 先生に一報入れときましょうか?」

紗香「い、いやいや大丈夫大丈夫。断じてそういうわけじゃないから。あはははは」

純「(にや~っと笑い)へェ~、そうなんですか。あたしはてっきり、初体験後にアフターピルが必要になっちゃって、思わず焦りを感じてる状況なのかな~って妄想しちゃったんですけど」

紗香「んなッ! なんの話かしら?」

純「いやァ~、単なる妄想ですよ、モ・ウ・ソ・ウ。この週末、紗香さんがラブホの一室で二階堂さん相手にあんなことやこんなことを体験しちゃった~だなんて、所詮あたしの妄想に過ぎませんからァ~」

紗香「(赤面して口をパクパク)純……あんた、なんでそれを知って……」

純「あはははッ! 種明かしをしますとですね、紗香さんのパートナーが、そりゃあもう至るところで真実を暴露しまくってるというかなんというか──」

紗香「(パクパク)」

純「もー、これ以上なくうれしそうに、『真っ赤な勝負下着が異様にセクシーだった』とか」

紗香「(パクパク)」

純「『桜色のちっちゃい乳首が可愛かった』とか」

紗香「(パクパク)」

純「『アソコを攻めようとしたら、恥ずかしがってキックされた』とか」

紗香「(パクパク)」

純「『初ドッキングに成功したとき、女の子みたいな涙目ウルウルアイになっちゃってた』とか」

紗香「(パクパク)」

純「『備え付けのゴムを使い切っちゃったんで、そのあとは使わずにしちゃった』とか、ま、せいぜいその程度のことですかね」

紗香「それ、デマ……じゃないんだよな」

純「さあ? それを判断できるのは、紗香さんとあのひとしかいないんじゃないですか?」

紗香「(小声で)あッの唐変木……」

純「?」

紗香「(絶叫)ぶっ飛ばしてやるゥッッッ!」


(木霊)ぶっ飛ばしてやるゥッッッ!

(木霊)ぶっ飛ばしてやるゥッッッ!

(木霊)ぶっ飛ばしてやるゥッッッ!


空想上の二階堂「ガッハハハ!」

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