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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第2章 2008~2009
62/279

1501 名残雪①

1501 『名残雪①』


「じゃ、L、しっかりね。R君も、Lの事頼んだわよ。」 「ばいば~い。」


姫と俺を駅前に残し、Sさんと翠を乗せた車が遠ざかっていく。

「Rさん。3日間、宜しくお願いします。」 姫が礼儀正しく頭を下げた。

「いや、こちらこそ、宜しくお願いします。頼りない付き添いですけど。」


話は一月程前に遡る。

妊娠6ヶ月目に入っていたSさんは、

春休みとゴールデンウィークの旅行をパスすると決めた。

もちろん姫と俺も旅行はパスするつもりだったのだが、

Sさんが『久し振りに2人きりで行って来なさい』と言うので、

春休みの3連休に合わせて二泊三日の小旅行を計画する事になった。


二人で旅行先を探していた時、

姫が突然『夜行列車に乗ってみたい』と言い出したのだ。


「列車の中で眠るなんて楽しそうですよね。

朝靄の中で到着すると、きっと良い風情です。」


早朝のホームか...

確かに語感は良いが、酔っ払って寝てるおじさんがいたりする訳で、

必ずしも、語感通りの風情があるとは限らない。

まあ、間違いなく姫は俺より先に寝てしまうし、俺より後に起きる。

姫の夢を壊さないようにするのも不可能ではないかも知れないが。


「僕はホテルとか旅館が良いですね。列車だと切符買うのが面倒だし。」

「そう言えば、列車の切符って、やっぱり駅で買うんですよね?」


俺とSさんは顔を見合わせた。


「Sさん、もしかしてLさんは。」

姫は長い間、『分家』の術者の追跡を逃れる生活を続けていた。

当然、公共交通機関を利用するのは不可能だったろう。

もし列車の中で敵に遭遇したら、乗り合わせた多数の乗客を巻き込む。


「確かに、Lは一度も乗った事ないわね。列車。」


『分家』の術者を警戒する必要は無くなったが、お屋敷の近くには駅がない。

自然と俺たちの移動手段は車中心、いや100%車。

仕事も、買い物も、姫の送迎も。 変わるとすれば車種だけ。


「今の生活なら何の不都合も無いけど、丁度良い機会よね。」

それでこの週末、金曜からの3連休に合わせた小旅行は、

姫の特訓を兼ねた列車での旅と決まった。


Sさんが決めた行程に沿って列車を乗り継ぎ、かなりの長距離を移動する。

途中、Sさんに頼まれた用事を済ませるミッションもこなす。

もちろん地図と時刻表を頼りに切符を買うのは姫だ。俺は一切口を出さない。

俺の任務は姫のボディガード(それこそ不要だと思うけど)。


3月も下旬。

さすがに雪の予報は出ていないが、予想気温がかなり低い場所はある。

その日の最終目的地で宿泊先を探す、行き当たりばったりの旅。

初めて行く場所ばかりだし、移動に手間取れば宿泊先がどうなるか...

さすがに駅のベンチで夜明かしなんて事態は避けたい。

なかなかに緊張感のある旅行が始まった。


一日目。ある程度予想していた通り、3本目の列車に乗る頃には、

時刻表の見方や切符の買い方、乗り継ぎの要領を、姫はすっかり憶えてしまった。

「ちょっと行って聞いて来ます。」 俺が口を出さなければ反則では無い。

そりゃ窓口に姫のように綺麗な女性が聞きに来たら、

職員もさぞかし張り切るだろう。


しかも姫は演技派。

『昨日沖縄から出て来て乗り方が分からないんです』とか、設定が細かい。

暫く窓口で話し込んであれやこれやと教えてもらい、

推薦の駅弁まで聞いて来たらしい。


「このお弁当、美味しいですね。」 「列車での旅行は駅弁に限ります。」

運転しなくて良いから、熱燗にした缶入りの日本酒を買って良い気分。

不安な旅の筈が、優秀な美人ナビゲーター付きの気楽な旅に早変わりだ。

うん、最高。 観光地を回る旅程ではないので列車は混んでない。

乗車率50%といったところか。


姫は、窓の外の景色や他の客の様子を興味深そうに眺めている。

4本目の列車はローカル線、今夜の宿泊先は小さな地方都市。

駅前の繁華街でシティホテルやビジネスホテルをあたれば、多分大丈夫。


目的の駅に到着したのは15時27分。

休日の午後、ホームはまだ閑散としているが、

ちらほらと学生っぽい姿が見える、部活か塾の帰りだろう。

あと2時間もすれば休日出勤した会社員の姿も増える筈。


「Rさん、私いつも思うんですけど、

どうしてみんなイヤホンをしてるんでしょう?

私の大学の学生達もそうだし、この街の学生も同じです。」

確かにベンチで列車を待つ学生も、ホームを歩く学生もイヤホンをしている。

大袈裟なヘッドホン姿も見える。そうでなければケイタイでお話中。

時折聞こえる笑い声。


「う~ん、音楽が好き...いや、きっと暇潰しじゃないですか?」

「私、Rさんに送ってもらった後、

遠回りして、学部まで10分くらい歩くんです。

短い時間ですけど、色んなものを見たり音を聞いたり、とても楽しいです。」


「季節が変わって鳥の鳴き声が聞こえたり、咲いている花の種類が変わったり。

今日も世界は綺麗だなあって、全然退屈しないのに。

あの人達は耳も目も心も自分の中にだけ向けて、

外の世界を見ないし聞かない。何だか勿体ないですね。」


胸の奥がきゅっと痛くなる。そっと姫の肩を抱き寄せた。


「お願いですから、そんな事言わないで下さい。

Lさんが生き急いでいるようで、不安になります。

毎日毎日実感しなくたって、この世界は綺麗ですよ。

もっといい加減で良いじゃないですか。

仕事や勉強で疲れていたら、自分の殻に閉じこもるのも仕方ないし、

好きな音楽を聴きながらだと、景色も変わって見えるかも知れません。」


姫は優しく微笑んだ。


「きっと私の、悪い癖ですね。

あとどれだけ、自分が自分でいられるだろうって、

そう考えていた時間が長かったから、つい急いでしまうんです。

明日も明後日も、家族みんな一緒で幸せな日々が続くなら、

もっとのんびり、ゆっくりしても良いんですよね?」


「そうです、人生はこれから、もっとずっと長いんですから。」

しっかり手を繋いで、ホームを歩く。

二度目の、2人きりの旅行。Sさんの配慮が胸に染みる。


「2番線に電車が参ります・・・」 駅の構内にアナウンスが流れた。

2番線の停車位置は30mほど先。

俺たちの背後から微かに地面の震動が伝わってくる。


もう少し歩いたところで、異変が起こった。


「あ。」 「あれ。」

何時の間にか、俺達の前数mの所に2人連れの姿。女性と男の子、親子だろうか?

すぐ傍のベンチに座っている学生も、2人に気付いた様子はない。

間違いない、あれは。


暫くして電車がホームに滑り込んできた、その瞬間。

女性が男の子を抱き上げて、線路に飛び降りた。思わず息を呑む。

しかし、何の音も聞こえず、他の客の様子にも変化はない。

そのまま歩いて、停車した電車の前を覗く。電車にも線路にも異常はない。

やはり、幽霊。


「Rさん、今日泊まるホテル、多分大丈夫ですよね。」

「はい。ここから見えるだけでも、

ビジネスホテルの広告が幾つかありますから。」

姫はホームの時刻表を確認し、メモを取った。

2番線のホーム近くに戻り、さっき学生が座っていたベンチに腰掛ける。


「次の電車は15時42分。

もし同じ路線の電車だとしたらその次、49分ですね。」


42分の電車が入って来た時は、何の変化も無かった。

学生達の姿が少し増えたように見えるが、まだ人の数はそれ程多くない。

電車は問題なく停車し、そのまま出発していった。

そして47分を過ぎ、電車の到着を知らせるアナウンスが流れる前に、

それは現れた。


女性と小学生くらいの男の子、2人の後ろ姿。俺達の目の前、1mほどの距離。

鍵を掛けず、目を閉じて感覚を拡張し、

その『存在』から伝わってくる気配に集中する。

悲しみか、あるいは憎しみか。

2人の気配に同調出来れば、何らかの手かがりが得られる筈。


それは、声。微かに聞こえる2人の会話。


「・・・・に そ・・・ら みた・・たね。」

「ごめ・・ ・か・さんが しっかり・てな・・たから こわ・・い?」

「だいじ・・・ ぼく おかあさん・だいす・だか・ ・つま・もいっしょだよ」

「・りがと・ でも ・の・・・ ・せて あげたかった。」


先刻と全く同じように、女性は男の子を大切そうに抱き上げて、

電車が滑り込んで来た線路に飛び降りた。

激しい感情の爆発、意識が呑み込まれそうになるのを必死で堪える。


次の瞬間、気配は突然消えた。 今まで通りのホームの風景。


「やっぱり、現れましたね。」

「それほど古くないです。多分、ここ2・3年でしょうか。」

「あの会話、はっきり聞き取れなかったんですが、Lさんは?」

「いいえ、会話の内容は全く。会話だとしたらRさんの領域ですね。

私は、男の子の意識に集中し過ぎてしまったかも知れません。」


姫も、伝わってくるのが会話だとは思っていなかったのだろう。

しかし、もう一度チャンスがあれば、最初から会話に絞って探知出来る。

もしかしたら、あの親子をこの場所に縛り付けているのが何なのか、

それが分かるかもしれない。


それから約一時間、ベンチで待ち続けたが、2人の姿は現れなかった。

「Rさん、明日の予定なんですけど。」

「分かってます。明日も、この街に泊まりましょう。

あの2人、とても気になります。そのままにしてはおけません。」

「はい。後でSさんにも、電話しておきます。」


「じゃこの件については、今日はこれでお終い。折角2人きりの旅行ですから。」

「あとは宿探しですね。私、Rさんと一緒なら、どんなところでも平気です。」

「僕は出来るだけ綺麗なホテルが良いですね。都会派の軟弱者なので。」


「嘘つき。魚釣りも料理も、あんなに上手なのに?」

姫は小さな声で笑った。


ふと、目が覚めた。ベッドの中に姫がいない。

姫は窓際に立ち、少し開けたカーテンの隙間から窓の外を見ていた。

窓から微かに差し込む街の灯りが姫の顔を照らしている。

この人は、何時もそうだ。 とても美しくて、でもどこか儚げで。


婚約者で、身体を重ねた事もある。俺を愛してくれているのも痛い程分かる。

しかし、姫の事を深く知る程、

いつか俺の前から消えてしまうのではないかと不安になる。

本当の姫は未だ手の届かないところにいるような、頼りない感覚。

舞を奉納した時に姫が感じていたという不安が、伝染したのかも知れない。

俺の前で舞を見せてくれた姫は、羽衣を着て軽やかに舞う天女のように見えた。


いつか、羽衣を着て天に帰っていく伝説の天女。

いや、それは駄目だ。この人と離れるなんて、絶対に。


「あの親子の事を考えているんですか?」 「はい、男の子の事を。」

「身体が冷えてしまいますからベッドに戻って下さい。」 「はい。」

姫は戻ってきてベッドに潜り込んだ。

そっと、抱きしめる。少し冷たい、細い身体。


「『男の子の意識に集中し過ぎた』と言ってましたね?」

「あの時、男の子の意識に、不安や恐れを全く感じ無かったんです。

どうしても、それが不思議で。」

「これから電車に身を投げるというのに、ですか?」

「それどころか、母親が抱き上げた時、男の子の溢れるような喜びを感じました。

翠ちゃんがSさんに抱き上げられる時に感じているような、純粋な喜びです。」


「それ程にあの子は母親を愛し、信頼していたって事ですか?」

「心中を選ばざるを得ない事情です。生活は苦しかった筈なのに、

あの母親は、毎日精一杯の愛情を、あの子に注いでいたんでしょうね。」


「私。」 突然、俯いた姫の頬を涙が伝った。


胸の奥が痛む、やはりこの人は。

枕元のティッシュペーパーで姫の涙をそっと拭う。


「どうしたんです?話して下さい。」 姫は小さく頷いた。

「私、あんな風に子供に愛情を注げるでしょうか?

自分の子供にあれほど信頼される母親に、なれるでしょうか?」


姫は以前から、その不安を口にしていた。

両親の顔さえ知らない、そんな自分が親になった時、

自分が産んだ子を愛せるのかどうか分からないという不安。

翠を溺愛し、喜々として世話をする頬笑ましい様子を見て、

そんな不安はすっかり消えたものだと思っていた。


しかし、それはあくまで『Sさんが産んだ子』を愛したのであって、

自分の産んだ子を愛した訳ではない。

翠を溺愛すればするほど、姫の不安は大きく、深くなっていったのだろう。

迂闊、だった。


「Lさん、質問があるんです。」 「何ですか?」

「Lさんは裁許を受ける時、術者になれるかどうか不安でしたか?」

「...いいえ、自分に力があるのは分かってましたし、

あとはどんな術者になるかだけで。」

「母親も、同じじゃないかと思うんです。」 「母親と術者が、同じ?」

「どちらも自ら選んで『なる』ものですよね。

『なれるかどうか不安を感じるもの』じゃないです。」


「Lさんに女性としての能力があるのは分かってます。

あとはどんな母親になるかをしっかり考えれば良いだけですよ。第一。」

俺は姫の額にキスをした。少し照れくさいが、姫の目を真っ直ぐに見つめる。

「普通の方法だと、避妊の成功率は100%じゃありません。

もしかしたら今夜、Lさんは母親になるかも知れないんです。」

「もし、今、子供を授かったら...悩んでる余裕なんてありませんね。」


右掌で、そっと姫のお腹に触れる。

「ここに僕たちの子供がいるとしたら、どんな気持ちでしょうね?」

「きっと、すごく嬉しいです。」 姫は左手を俺の右手に重ねた。

「毎日毎日、お腹をさすって、話しかけて。」 姫の笑顔は明るかった。

「そんな感じで良いんじゃないですか?

あんまり真剣に考え過ぎると疲れちゃいますよ。」

「そうですね。どうして考え過ぎちゃうのかな。

私、何時もこんなで、駄目ですね。」


「Lさんは術を使う時、楽しいですか?」 「え?」

「こんな事が出来て楽しいって思いませんか?」

「正直に言うと、楽しいと思うこともあります。

術を使うのはお仕事のためですから、

本当は、楽しいなんて思っちゃいけないのかも知れませんけど。」


「お正月のトランプの事、憶えてますよね?」 「はい。」

「Lさんと2人きりでいるのに、Sさんの事を話して御免なさい。

でも、今は僕たちのお師匠様の話だと思って聞いて下さいね。」

「はい。」

「あの時、Sさんはとても楽しそうで、得意そうでした。

『ほら私って、術って、凄いでしょ?』って感じで。

だから思わず、僕も楽しくなりました。」


「確かに、とても楽しそうでしたね。

お正月で、久し振りに従姉弟に会ったからだと思ってましたけど。

でも、一番楽しそうだったのは術を使ってる時でした。」

「Sさんだって、時々は自分が術者である事を楽しみたいんです。

いつだって、仕事に関わる辛い事や悲しい事に耐えてるんですから、

時々は息抜きも必要ですよね。」


「辛くて、悲しいから、時々は術者であることを楽しむ...Sさんも。」

姫は遠い目をした。


「さて、次はかなりディープな質問です。将来の夫婦として答えて下さいね。」

「はい。」

「Lさんは僕と、その、仲良くしてる時に、気持ち良いですか?

正直に、答えて下さい。」

「あの、とても嬉しくて、幸せな気持ちです。」

「でも、気持ち良いと思った事はないんですね?」


「はい、御免なさい。」 姫は目を伏せた。


姫と身体を重ねたのは未だ数回。

気持ち良いと感じてないのが分かるから、どうしても遠慮してしまう。

妊娠という結果に繋がるかも知れない行為。

自分の子を愛せないのではないかという不安を抱えて、

真面目な性格の姫が、それを気持ち良いと感じる事など出来る筈が無い。


「Lさん、仲良くするのは子供を作るためだと思ってませんか?」

「え?だって、それは。」

「もちろん子供を作るためでもあります。

でも僕にとって、普段はそれ以外の意味が大切なんです。」


「どんな、意味ですか?」

「コミュニケーション、互いの愛情の確認です。

身体を重ねて互いの気持ちを確かめ合う。

それを気持ち良いって感じられたら、生きている事が楽しいでしょ?」


「あの、Rさんは、私と仲良くしてる時、

気持ち良いんですか?幸せじゃなくて?」

「幸せだし、とても気持ち良いですよ。

男に生まれて、生きていて、本当に良かったと思います。でも。」

「でも、何ですか?」


「Lさんも気持ち良いって感じてくれたら、

もっともっと気持ち良いでしょうね。それこそ天にも昇る気持ち。

Lさんは仲良くしてる時、生きている事が楽しいって思いますか?」

「Rさんに抱きしめてもらって、

仲良くしてもらって嬉しいって思いますけど...」


「避妊、ちょっと後ろめたいと思ってるでしょ?」

「はい。」 小さな声、それが愛しくて堪らない。

「避妊は、一番良い条件で子供を迎えるための準備だと、僕は思ってます。」

「準備?」

「正直、僕は今すぐLさんが妊娠しても全然困りません。

それどころか、きっと、とても嬉しいです。」


「でも婚約者としてでなく、ちゃんと入籍してからの方が良いのか。

それとも大学を卒業してからの方が、Lさんの身体には良いのか。

そんな風に迷いながら、どのタイミングなら僕たちの子供を、

一番良い条件で迎えるられるのか、それを考えてます。」


「そのためにもいっぱい仲良くして、

お互いの気持ちを確かめる事が大切なんですね。だから避妊を?」

「僕はそう思ってます。だから仲良くして気持ち良くなる事も、

避妊する事も、全然後ろめたい事じゃありません。

僕たちは婚約者で、もう夫婦同然なんですから。」


「じゃあ、SさんはRさんと仲良くする時」

キスをして、姫の唇をふさいだ。


「2人きりでベッドの中にいるのに、他の女性の話をしちゃ駄目です。

さっきのは、術のお師匠様として話したんですよ。

でも、2人で仲良くするのに、お師匠様なんていません。

一番良い方法を、2人で探すしかないんです。」


「じゃあ、今夜、仲良くして下さい。

私、気持ち良くなるように頑張りますから。」

「だ・か・ら、頑張ったら楽しめないじゃないですか。

何か、こう、ガチガチな感じで。」

姫は声を立てて笑った。

表情は見違えるように明るい。そう、これでこそ姫。


でも、今この人には、茫洋とした未来でなく、

もっと身近な将来を実感する『何か』が必要なのだ。

その『何か』とは一体...

安らかな寝息を聞きながら、今度は俺が考え込む番だった。


『名残雪①』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

好きな作品なので、いつもより作業に時間がかかりました。

明日完結に向けて頑張ります。

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