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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第1章 1992~2007
6/277

0205 出会い(中)①

R4/06/20 追記

此方にも「いいね」を頂きました。

自分でも気に入っている作品ですので、とても嬉しいです。

投稿をする上で、何よりの励みになります。

本当に有り難う御座いました。

0205 『出会い(中)①』


姫の後にシャワーを使わせてもらい、ショッピングモールで買った服に着替えた。

センスはイマイチだが、急いでたし予算にも限りがある。 うん、許容範囲。

それにしてもデカいお屋敷だ、浴室からダイニングルームまで結構遠い。

姫とSさんはホントに二人きりで、このお屋敷に住んでいるのだろうか。


辿り着いたダイニングルーム。 テーブルに豪華な夕食が並んでいた。

「ね、Sさんは料理が上手でしょ?」

「はい、バイト先のスペシャルディナーみたいです。」

本当は料理の見事さに死ぬほど驚いたが、料理の出来を褒め過ぎて

昼間のような災難(?)の種になると困るので、極力控えめな表現にしておく。

でも、最近妙な気配のせいで睡眠不足。体力を消耗していた俺にとって、

Sさん手作りの美味しい夕食はまさに天の恵み。本当に有り難かった。


食事が終わり、姫と2人ワイワイ言いながら食器を洗って片付ける。

その間に、Sさんが食後のコーヒーとデザートを用意してくれていた。

姫と並んでソファに座る。 デザートのケーキを半分姫に進呈。

コーヒーを飲んだ...美味い。

これ、バイト先の店長が淹れるコーヒーと遜色ないぞ。


暫くして、向かいのソファに座ったSさんが少し言い難そうに切り出した。

「さて、じゃあ一通り事情を説明しようかな、ダイジェストで。」

「是非宜しくお願いします。」

「色々と、信じ難い事もあると思うけど。」


う~ん、信じ難いといえば、既に今この事態が、かなり信じ難いのですが。


「まず、私の車を使ってもらった件。」 「はい。」

「君とLがデートしている間、君の車に結界を張らせて貰いました。」

『けっかい』って『結界』のこと?

...これ、どんな顔で聞けばいいんだ?

「結界って、あの、吸血鬼撃退用とかの、あれですか?」


「昨夜、君が見たモノと関係があると言ったら、少しは信じてもらえるかな?」

いきなり心臓を冷たい手で鷲掴みされたような感覚、思わず立ち上がった。

「ちょっと待って下さい。何故それを!」

姫が俺のTシャツの裾を掴んで、心配そうに俺を見上げている。

「落ち着いて。順番に説明するから。」

「...はい。」仕方なく腰を下ろした。


「Lが君を好きだと分かった時から、式を飛ばして君の部屋を監視してたの。

そして無事に契約が成立した日、その式を使って君の部屋に結界を張った。

遅かれ早かれ、アイツ等が君の存在に感付くのが分かってたから。」


...まただ。 この人は一体、何を話してるんだろう?


「あの、『しき』って、『アイツ等』って、一体何ですか?」

「見えたんでしょ?君の部屋に飛ばした式はあれ。」

Sさんの視線の先、ソファの端に、一瞬だけ白い毛の塊が見えた気がした。

「フェレットじゃなくて(くだ)って言うんです、管狐。可愛いですよね。」

姫は俺の右肩に頭をもたせ掛けて、小さい声で笑った。

以前あれをフェレットみたいだと思ったのが、姫にも伝わっていたのか。


「アイツ等っていうのは、Lの体を手に入れようとしている術者たち。

そして式は、術者が使役するあやかし...そう、魔物ね。」

とても信じられない。

だけど、俺が一言も喋っていないのに、Sさんは俺が見たものを知ってる。

窓を開けて入ってきた、白くて小さいフェレットみたいな奴。

もしかして、窓の外に浮かんでいた赤い目玉のことも?


「そして予想よりずっと早く、アイツ等は君の存在を察知して部屋を特定した。

君がLを大事に思う気持ちが強かったから、その想いを辿れたのかも。」

想いを辿って場所を特定...テレパシーでもそんなの無理じゃ。

いや、さっきSさんは『式』って。 魔物なら、可能なのか?

「じゃあ昨夜、窓の外に浮かんでた目玉。あれがその人たちの式なんですか?」

「それは『オオハミ』、簡単に言うと大蛇の魔物。かなり厄介な部類の式ね。

結界があるから部屋には入れないけど、あなたが部屋から出たら危ない。

特に車で移動している時は狙われやすいの。注意が運転に向いてるから。」


「だから僕の車に結界を。 今日の車には既に結界が張ってあったんですね?」

「そう。管も護衛に着けたけど、管はそういう仕事にあんまり向いてない。」

「決まった『場所』を護る方が得意なんですか?」

「君、中々勘が良いわね。」


褒められた~、って...大丈夫か、俺?

読心術/透視(千里眼?)/陰陽師/結界/魔物/etc.

たった数日で、オカルトにすっかり馴染んでる自分が怖い。


「寝不足が続くと体調を崩しやすいし、結界越しでも妖気は身体に悪いんです。

もっと上手に、Rさんを護ることが出来たら良いんです、けど。」

姫は俺の右肩にもたれて眼をぱちぱちしている。かなり眠そうだ。

「君が此処で暮らしてくれれば楽なんだけど、いきなりそれは抵抗あるでしょ?

明日の夜までにはできるだけの手を打っておくつもりだから一応は大丈夫。

でも、いよいよって時には此処で暮らしてもらう事になる。覚悟はしておいて。」


俺が、此処で? 確かに、あの魔物の話聞いちゃったから、

これからアパートで寝るのは怖いだろうけど。


姫の頭が俺の右肩からかくっとズレた。意識が朦朧としているようだ。

「L、もう寝なさい。久し振りの遠出だし、人混み歩いて疲れてるでしょ。」

「は~い。Rさん、おやすみなさい。」

俺の頬に軽くキスして立ち上がると、危なげな足取りでリビングを出て行く。

その後ろを小さな白い影が追いかけていった。


姫を見送って、Sさんは優しく微笑んだ。

テーブルの上にお酒と氷、炭酸水の瓶、そしてグラスを2つ。小さな溜息。

「ふう、たまに沢山喋ると喉が渇くわ。

お酒、付き合ってくれるでしょ?もう大人の時間。」

Sさんは慣れた手つきでグラスに氷を入れ、ウイスキーを注いだ。

「あ、俺がやります。」 「変な気を使わないで座ってなさい。」 「はい。」


炭酸水でグラスを満たして軽くステア。プレーンなハイボール。

マニキュアをしていない細い指先が綺麗。つい見惚れてしまう。


「まだ訳が分からないと思うけど、説明を続けます。」 「お願いします。」

「私とLは、古い陰陽道の家系に生まれたの。陰陽師、知ってる?」

「一応映画とかで。」 それに、この地方には陰陽師に関わる伝承も多い。

「自分達で言うのもなんだけど、結構力がある家系です。

術の方面だけじゃなく、なんていうか、社会的な影響力という面でも。」


はい、それは先日身を以って知りました...○◇会の件で。


Sさんはグラスのハイボールを一口、ぐっと飲んだ。

話を続けながら、俺にもグラスを勧める。


「Lの母親は特に強い力を持っていたけれど、Lを産んで暫くして亡くなったの。

もともと体が弱くて、強すぎる力とLの出産に耐えられなかったから。

Lが成長して、母親の力の一部を受け継いでいる事が判ると、

アイツ等がLを狙って動き出した。うちとは分家筋にあたる一族だけど、

アイツ等が外法に手を染めてから交流は絶えてた。

それは、もう何十年も前の事だったから、皆、油断してたのね。」


「でも、Lの父親が殺されてLが拉致された時、

それがアイツ等の仕業だと判った。」


姫が拉致された? しかもその時、父親が殺されてるなんて。

一気に重たい話になってきた。しかし陰陽師って、そんな物騒な人たちなのか。


「陰陽師はそんな簡単に人を殺す、というか、人を殺せるんですか?」

「あら、もしLを弄んで泣かせるような男がいたら、

私も躊躇なくソイツを殺すけど。」

ハイボールをもう一口飲んで、Sさんは微笑んだ。


...あの、眼が笑ってませんよ。 やっぱりそれって、俺への警告ですよね。


「冗談よ、今日はLを大事にしてくれたし。」

「もちろん、これからもLさんを大切にします。」


何だか喉が渇く。俺もハイボールを一口飲んだ。


『出会い(中)①』了

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