0407 入学式と卒業式(結)
本日の投稿予定2回、任務完了。
『入学式と卒業式』は完結。明日から次作を投稿。
R04/6/03 追記
こちらにも「いいね」を頂きました。
次作以降の投稿に向けて、何よりの励みになります。
本当に有り難う御座いました。
0407『入学式と卒業式(結)』
ひゅっ! しゅるるるるる。
キラキラと光りながら、小さなルアーが彼方へ飛んでいく。
続いて微かな水音。リールを巻く手の動きを追いかける衣擦れの音。
時折彼方此方で魚が跳ねる。
ゆっくりと時間が過ぎていく。
どこまでも静かな、穏やかな、休日の午後。
姫と並んでルアーを投げていた。
Sさんの提案で、温泉で有名な某県の秘湯、古い温泉旅館に小旅行。
5連休となるゴールデンウィークは、この温泉でのんびり過ごす予定だ。
此処は温泉旅館に併設された管理釣り場。平たく言えば高級な釣り堀。
近くの清流を引き込んでニジマスやヤマメ、イワナやアマゴを放流している。
スチールだのブラウンだの、外国産の魚を導入していないのも俺的には好印象。
お得なペアチケット、午後の半日券を購入した。
2人で20尾までキープ出来るし、各種の釣り具もレンタル出来る。便利。
俺と姫はルアーのタックルを選んだ。
ただし、ルアーはエサと同じ扱いでレンタルではなく購入しなければならない。
まあ20cm~30cmの魚がほとんどの釣りだから、
1~2gくらいのルアーの方が良く釣れるのだろう。
でも、軽過ぎるルアーは、初心者の姫には投げにくい。
だから柔らか目の竿、5gのルアー。
姫のキャスティングも随分と様になってきた。
既に2人で10尾余りを釣り上げていて、夕食の確保は十分。
Sさんは岸際に座り、水面に向かって両の素足を投げ出している。
そして、時折魚が釣れると大喜びで拍手してくれた。
華やかな笑顔を照らす、柔らかな日差し。
時折吹き抜ける風が、Sさんの長い髪を揺らす。
静かな休日に、ゆっくりと夕暮れが迫っていた。
不意に、姫が口を開いた。
「明美さんって、本当に素敵な人でしたね。まるでお姫様みたいに。」
「何故、お姫様みたいだと思ったんですか?」
「彼女、最後は私に『ごきげんよう』って挨拶してくれたんです。
『ごきげんよう』って、お姫様が『さようなら』の代わりに使う言葉ですよね?
だから私も挨拶したんです。『ごきげんよう』って。」
...姫が微笑んで『ごきげんよう』。
萌え、むしろ萌え全開。頭がクラクラする。
「え、Lさんは何て言ったんですか?さっきはちょっと聞いて無くて。」
「だから、彼女は『ごきげんよう』って。それで私も、心の中で。」
「あの、もう一度だけ...あ痛っ!!」
Sさんに思いっきり左腿をつねられた。
「変態!!」
「変態って何ですか?」
「女の子にセーラー服着せたり、『ごきげんよう』って言わせたりして、
はあはあ興奮する馬鹿な男の事よ。」
「え、じゃあRさんって変態なんですか?」
「違います。誤解です、本当に聞き逃しただけなんです。」
「嘘つき。」 もう一度左腿をつねられた。
「だから痛いですって、反省してます。ごめんなさい。」
Sさんと姫の軽やかな笑い声が、静かな水面に響いていた。
『入学式と卒業式(結)』了/『入学式と卒業式』完