6104 付喪神(中)③
8月末で完結したかったのですが、既に9月。
自らの非力、言い訳は致しません。
完結まで、気長にお付き合い頂ければ幸いです。
09/05追記
かなり大きな修正を致しました。
投稿直後に読んで下さった皆様にお詫び致します。
申し訳有りません。
6104 『付喪神(中)③』
「店主が骨董好きで、高そうなお宝を店の中に沢山飾ってたらしい。
店は人気だったけど跡継ぎがいなかったから20年位前に閉店。
その後すぐに店主がオッ死んじでよ。今も店の中はそのままだ、お宝も。」
「それって噂だろ。なぁ、やっぱ止めた方が良いんじゃないか?」
「今更何言ってんだ。ほら、バール。
取り敢えずあの窓割って、アラームが鳴らなかったら突入。」
「だからさ~、セキュリティが生きてたらマズいって。」
「もしアラームが鳴っても、街の警備会社からここまで20分。余裕余裕。
あ、バイクは鍵差したままにしとけ。逃げるのは街と反対側だ、慌てるなよ。」
「何でそんなに段取りが良いんだか。」 「慣れてるから、な。」
『・・・・さまの・・・・・ます。お・・・・・さい。』
「今、何か聞こえなかったか?人の声、みたいな。」
「そんな訳あるか、ビビり過ぎだって。行くぞ。」
「お、おい、あれ。」
「何で、店の中に灯り?」
『ほか・・・様のめい・・・ます。おひき・・・・さい。』
「後ろ、後ろ。まわり全部、人が。」
『他の・客様の迷わくになります。お引きと・・ださい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
「何でだよ。何時の間に、こんな?」
「だから言ったんだ。」
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
「逃げろ! 逃げろ!!」
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
『他のお客様の迷惑になります。お引き取り下さい。』
「うわぁあああ・・・」
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「最初の情報が入ったのは1999年10月。」
「閉店から18年後、ですね。」
「そう。切掛は死亡事故、バイクの。」
バイクの死亡事故。一体、中華料理店と何の関係が。
「ええと、付喪神の話ですよね。中華料理店が変化した。」
「事故は週末の深夜。死亡した2人の血液からアルコールを検出。
榊さんが担当じゃなければ、情報は得られなかった筈。」
「榊さん、って。」
「チーム榊が形になり始めた頃ね。私が関わって直ぐだった。」
私が関わって直ぐ?
1999年って事は...Sさんが19才。榊さんは、32才。
榊さんはともかく。
俺の知らない、Sさん。19才の。何だか、胸の奥がザワザワする。
「何だか、変な顔。どうしたの?」
悪戯っぽい笑顔。
絶対、分かってる。分かってるくせに。
「『榊さんが担当じゃなければ』っていうのが、ちょっと。」
「榊さんが捜査したのは事故現場だけじゃない。『何か』を感じたから。」
「じゃあ、事故現場近くの県道●◇号を虱潰しに?」
「虱潰しまではいかないかな。事故現場から遡って、約1km。
そこに『☆々軒』。流石は榊さん、それも『加護』がもたらす感覚ね。」
「あの店の近くで、何かが見つかったんですね。」
「駐車場でバールが2本、残ってた指紋が2人と一致。」
閉店して18年、放置された建物。
一種の廃墟、心霊スポット。そんな噂が立ってもおかしくはない。
しかし。
「バールを持って肝試しとか、
廃墟マニアやオカルト好きにしては物騒過ぎると言うか。」
「肝試しなんて可愛いモノじゃない。
『☆々軒』の店主は骨董好きで有名だったらしいから、
金目の骨董品を狙った窃盗の計画。
幾つか余罪が有って、最後は未遂犯で事故死。自業自得。」
「そんな...」
いや、待て。それなら事故の、2人が死んだ原因は。
「『☆々軒』に侵入しようとした2人に、付喪神の祟りが?」
「祟りじゃ無い、何らかの異変は起きたでしょうけど。
驚いた2人はパニック。慌てて逃げて、カーブを曲がり損ねたって訳。」
「術者が『☆々軒』を調査をして、付喪神への変化を確認したんですね。」
「そう。だから『上』が動いた。未知の付喪神を放置する訳にはいかない。
窃盗犯みたいな人の感情と関わって『不幸の輪廻』の繋がりが出来たら、
それこそ取り返しが付かないでしょ。」
「それで、『上』は何を?」
「『☆々軒』を買い取ったの、土地と建物をまとめて。
親族は相続で長年ゴタゴタしてたらしくて、随分感謝されたみたいね。」
19才の...いや、その交渉はきっと別の人が。
「人感ライトと防犯カメラを複数設置して、噂も流した。」
「噂、ですか?」
「そう。『☆々軒だけはガチ/噂話をしただけでヤバい』って。
ああいう半端者は怖い話に弱いし、実際死人も出てる。
まあ本物の屑もいるから、セキュリテイ会社と契約した。
屑が侵入したら、即『対策班』が出動・対応する。効果覿面。」
『対策班』は、あらゆる面で一族の荒事を担当する部署。
長い間、炎さんが指揮を執り、『分家』に対抗していた。
武器でも術でも、ありとあらゆる手段を使って『汚れ役』を担う。
『分家』との争いが収束した後は開店休業状態だと思っていたけれど。
廃墟で肝試しする馬鹿の対応なんて、無駄遣いにも程が有る。
ふと眼に浮かぶ、端正な横顔。ニヒルな微笑み。
まあ、炎さんは笑って引き受けたかも知れない。
それがSさんの依頼なら。
「ええと、駐車場の入口を閉鎖すれば良かったような。」
「付喪神が引き寄せるのは、犯罪者だけじゃない。」
Sさんは悪戯っぽく微笑んだ。
「例えば、高木さん。」
軽い耳鳴り。
「ええと、検索のキーワードは確か...
『県道●◇号』/『中華料理店』/『美味しい料理』/『不思議な話』
そして少なくとも2件、高木さんと似た事例があると分かった。
その件で個人まで特定するのは無理だったけど。」
耳鳴りに混じって、Sさんの言葉が頭の中に響く。
『そう、偶然じゃ無いから。』
それは、つまり。
「だから、駐車場を閉鎖しなかったんですね?
ライトとカメラを設置した目的は、防犯じゃ無かった。」
「御名答。2年ちょっとで見つかったのは運が良かったわ。
それもきっと、『良き理』の加護が有ったから。」
成る程、繋がった。
高木さんが付喪神に引き寄せられ、店の入口近くで寝るまでの一部始終。
当然、駐車場に駐めた、高木さんの車のナンバーも。
起動したカメラが記録した映像を『上』は即時に把握・対応。
だから翌日、郷土史研究家を名乗る術者が高木さんに接触出来た、と。
『付喪神(中)③』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




