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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第8章 2018
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6103 付喪神(中)②

今月中に完結させたかったのですが、厳しくなってきました。

何とか頑張ります。

6103 『付喪神(中)②』


「あの店のリニューアルオープンにも、一族が関わってるんですか?」

「関わってるって言うか、あの店は一族の直営。」


本業の陰陽師以外に、病院・古書店・貿易商・バー。

県下最大の古美術商に出向中の優秀なスタッフが2名。

県庁や市役所にも(あくまで俺が把握している範囲だが)。


それに、あの中華料理店もリニューアルオープンから既に14年?

街で何となく入ってる店が、実は一族の経営って事も有るんじゃ。

いや、今はそれよりも。


「流石にビックリですが、時代に適応した多角経営が一族の方針。

それより、今は『付喪神』の件です。あの中華料理店で、一体何が。」


「何がって、気配を感じなかったの?」

「感じましたけど、あの鋏の時とは全然違いました。

何となくボンヤリしてるというか、曖昧というか。」


Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


「じゃあ、ヒントが必要ね。

閉店後20年以上が経過、安全面・衛生面で万全の対策が必要でしょ。

リニューアルオープンに備えて、厨房の設備や調理器具を一新したんだって。

水道・ガスの配管は勿論、電気設備や配線も総取っ替え。

フロアのテーブル・椅子や食器も新品。

『☆々軒』と同じデザインで、専門の業者に復刻してもらった。」


店名が変わっているのだから、当然、看板も新調した筈。

というか、内外装全体に大幅な手直しが入っている。間違い無い。

落ち着いた雰囲気は10年余の歳月から来るものだろう。

昭和っぽいレトロ感は全く感じられなかった。


「内装も外装も刷新されたけど、建物自体を建て替えた訳じゃない、と。」

「そう、鉄筋コンクリートの土台は全く傷んで無かったから。」


付喪神の本体。

それは恐らく『☆々軒』の店主が愛用していた調理用具。

特に刃物は使う人の想いに感応しやすいから...例えば、中華包丁。


俺の予想は完全な的外れ。なら、残る可能性は1つしかない。

しかし、そんな事が有り得るだろうか。


「あの建物が、付喪神。という事ですか?」

「御名答。『☆々軒』で楽しい時間を過ごした沢山の人達。

皆で美味しい料理を食べて、談笑して。

その想いを得て、建物が付喪神に変化した。」


「壊れて、捨てられた怨みではない。それどころか、道具でなくても。」

「料理店は、美味しい料理を提供するための道具。

そう解釈する事も出来るでしょ、広い意味で。」


いや、それはおかしい。人々の想いで建物が変化するなら。


「でも、お寺や神社、学校も。毎日、沢山の人の想いに触れて」


突然、左頬にキスの感触。


「素敵。批判的・合理的な精神は術者に絶対必要な条件。

R君が持つ優れた資質の1つね。

それが有って初めて、正しく『力』を使う準備が出来るんだから。」


ああ、これは『授業』だ。

運転に細心の注意を払いながら、Sさんの言葉に集中する。

唯の一言も、聞き逃す事のないように。


「神社や仏閣は『信仰』の場だから、

拝殿や金堂は神仏に祈りを届けるための道具。

そういう解釈も間違いじゃ無い。だけど。」


一瞬言い淀んで、Sさんは言葉を継いだ。


「拝殿や金堂が付喪神へ変化したという、確実な例は確認されてない。」

「どうしてですか?関わった人の数だって、中華料理店とは段違いですよね。」

「説明は難しいんだけど。R君、初詣の思い出。何か有る?」


初詣の思い出、勿論有る。

というか、最高の思い出がSさんと姫と3人で過ごした時間だ。

2人と出逢った翌年、○▲神社への初詣。

参道に並んだ沢山の出店、はしゃいだ姫が大量の食べ物を買った。

完食するのは大変だったけど、とても楽しくて...あ!?


「出店や食べ物の記憶は鮮明ですけど、参拝の記憶は曖昧というか。」

「R君だけじゃなく、殆どの人が同じだと思う。

境内や参道の出店で過ごす素敵な時間。美味しかった、楽しかった。

それは『☆々軒』と共通してるけど、決定的に違う点が有る。」


決定的に違う点?

...そうか、神仏。参拝する人々に共通する祈りの対象。


「祀られている神仏の力が優占するから付喪神に変化出来ない、と。」

「う~ん。何か変化が起きる事は有るんだと思う。付喪神とは違っても。

例えば、凄い御利益の神社とか、パワースポットが在る寺とか。

そういう変化を前提にしないと説明が難しいから。」



「じゃあ、学校は、どうですか。

校舎は長い時間の中で、それこそ無数の人々の想いに触れますよね。」


「...R君。学校は楽しい、大切な場所だった?」


「え?」

楽しい、大切な場所?心の奥がざわめく。


学校。それは、Sさんと姫に出逢う前の、記憶。

俺にとって学校は。いや、そもそも世界が『窓の外』にあった。

(俺を怪異から護る為に母が使った術の作用だったと後で知った)


『窓』から無心に覗いていた、学校の記憶。


親切な子もいたが、絡んでくるイジメっ子もいた。

理科は得意だったけど、音楽は全然駄目。

夏休みが終わって2学期初日、登校する朝。文字通りの、憂鬱。

学年始めの自己紹介は、どうしても上手く出来なかったな。


楽しさと辛さ、喜びと悲しさ。

きっと、どんな学校でも同じなんだろう。

全ての生徒が、先生達も、相反する想いや感情を抱えて。

多分、それが学校の本質だ。


「想いの質、正と負の感情は打ち消し合うんですね?」

「それだけじゃ無い、校舎は建て直されるでしょ。

そうね、現在の日本では30年から50年も経てば。」


そうか、確かに。

学校の名前は残っても、校舎は取り壊されて、建て替えられる。

付喪神に変化する条件を満たすのは、まず不可能。


「納得出来た?」

「はい。あの建物自体が付喪神だとしたら、分かる気がします。

ボンヤリした、曖昧な気配。僕達は、その『中』にいた訳ですから。」


「高木さんにとっては、曖昧なんてモノじゃなかったでしょうね。

それに、もっと具体的な、とんでもない気配を感じた人達もいたみたいだし。」


『付喪神(中)②』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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