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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第8章 2018
252/279

5905 禁忌(結)

『禁忌』完結です。

お付き合い頂いた皆様に、心からの感謝を。


4/30 追記

加筆・修正を行いました。

投稿直後にお読み頂いた皆様にお詫び致します。

5905 『禁忌(結)』


目の前。人の背丈ほどの草叢が壁を作っている。

その真ん中に開けた、5m程の空間に注連縄。それが禁足地の入口。

無理して草叢の壁を突破しなくても、注連縄を潜るのは簡単。

2人は造作無く、禁足地に入る事が出来ただろう。


神社の巫女さんが注連縄を外し、禁足地への入口が開かれた。


最初に巫女さん、次に村長さん達と消防団員達。

最後に、俺と翠が禁足地へ入る。

良く手入れされた草地、傾きかけた日差しは正面から。

なら背面、入口の方向が東、か。


草地の中に伸びる石畳の小道。

小道を辿って数十m。苔生した、小さな祠。


翠が祠に駆け寄る。何故?

動揺を悟られないよう、ゆっくりと歩み寄り小声で囁く。


「どうしたの?祟りじゃ無いのに。」

「『色』が残ってる。調べるから、時間が欲しい。」


『色が残ってる』


と言う事は、神か高位の精霊が関わっている。祟りじゃ無いのに?

しかし、ここは翠の感覚を最優先。問題は必要な時間。


「時間って、どの位?」

「10分...ううん、5分有れば。」 「5分か、任せて。」


5分、それなら何とでもなる。

俺の適性は『言の葉』。出任せを並べて時間を稼げば良い。


立ち上がって振り返り、村長さん達を見回す。


「『この依頼には不審な点が有る』 翠様は、そう仰っています。」


村長さん達は息を呑んだ。

更に一呼吸置いて、皆の視線を引きつける。


「悪意に基づく依頼は、私達だけでなく陰陽師一族への大罪。

あなた達、いや、この村全体が然るべき報復の対象になりますよ。」

「そんな、この依頼に悪意など...何故、そのような。」


「例えば、こんな筋書きは如何でしょう。

今回の依頼、真相は殺人事件。

●木健雄さんが◆川直樹さんを殴って、崖から投げ落とした。

移住者同士のトラブルが原因の殺人事件。

移住者を募った村興し、事件の悪影響は計り知れない。

だからあなた達は、事件を祟りとして隠蔽しようと考えた。」


次の言葉を継ごうと、息を吸った瞬間。

視界の隅に、眩しい光。禁足地を境する草叢の中。

何かは分からないが、時間稼ぎには丁度良い。

光を反射したモノを確かめるために、ゆっくりと歩み寄る。


...カセットコンロ?

草叢の中に右手を伸ばし、拾い上げる。

まだ新しい、金属の筐体。つまり、ごく最近、此処に。


カチ。

頭の中で乾いた音がした。

木製の立体パズル、最後のピースが嵌まった時のような。


「カセットコンロですね。錆も汚れも殆ど無い。

此処は禁足地。儀式の時以外、村の人達は立ち入らない場所。

元旦の捧げ物を煮炊きするのに使ったモノだとしても、

神様のおわす場所で、こんな風に捨てるなんて有り得ない。

つまり、これは村の人達のモノではありません。」


村長さん達は黙ったまま、俺を見詰めている。


「今、分かりました。

●木健雄さんが◆川直樹さんを殺した方法。

そして、あなた達が●木さんの口を封じた方法。

どちらも薬物ですね。」


「薬物って、検査では何も。」


「現代の技術でも検出が難しい薬物は有りますよ。

例えば幻覚キノコ由来の薬物。もし未知の種なら尚更。」


村長さん達の顔色が変わった。


「いわゆるマジックマッシュルーム。

古来、シャーマンが神懸かりするために使われてきたキノコ。

世界各地に似た習俗が有ります。この村の神事も、その1つなんですね。

そして●木さんと◆川さんは、偶然そのキノコの存在を知った。

恐らく、年始の捧げ物を見たんでしょう。シイタケとは全く違うキノコ。

それで興味を持ち、その使い方を推測した。全く、迂闊でしたね。

田◇さん夫妻は勿論、あなた達も2人を『後継者』と期待していた。

だから、心を許してしまったんです。」


村長さん達、全員の顔色が蒼白。どうやら、ビンゴだ。


「●木さんは◆川さんを殴ったんじゃなく、言葉巧みにキノコを食べさせた。

このコンロを使って、素焼きかホイル焼きか。死のBBQ。

その結果◆川さんは『バッドトリップ』。

幻想の怪物にコンロを投げつけ、逃げて逃げて、崖から飛び降りた。

●木さんから話を聞いて事態を察したあなた達は、

殺人事件を隠蔽するために●木さんを拘束。キノコを」


『其処までだ。』


背後に、恐ろしい程の気配。 翠は?

村長さん達の視線は俺の背後に向けられている。

出来るだけゆっくりと、振り向く。気配の主を刺激しないように。


祠の前に立つ翠。

俯いたまま、しかし翠とは違う声。


『流石に陰陽師、見事な推理。ただし、誤謬が有る。』


管さんと鵬の気配を感じるが、それは未だに穏やかなまま。

つまり、この存在が何であろうと、怖れる必要は無い。


「恐れながら...私の推理が間違いなら、真実は如何に?」


『簡単だ。祠の前で吾を呼んだ者がいた故、吾は姿を現した。それだけの事。』


「貴方様を、呼んだ?」


『そう、くさびらを焼いて。それはいにしえより、この村に伝わる方法。

その方法で吾を呼ぶ者は絶えて久しい...そう、百年以上も。

ただ懐かしかったのだ、だから吾は。

しかし吾の姿を見て、2人は錯乱した。自業自得。』


「では、村長さん達の依頼は虚偽ではない。

そして『祟りでは無い』という、私共の考えも間違っていない。」


『その通り。だから、其処までだ。

あのくさびらについて知るのは、そこにいる者共を含めても極僅か。


~村の外に出してはならぬ~

~外の者に存在を知られてはならぬ~


それが、くさびらを扱う掟。

その者共は何とか掟を守ろうと智慧を絞っただけで、悪意は無い。

拙い虚偽を咎めず、このまま納めてくれれば恩に着る。』


2人の好奇心と浅慮が招いた、不幸な事故。

殺人事件でないなら、幻覚キノコの存在を表沙汰にする必要はない。

今後、それは一層厳重に管理されるだろうし。


「分かりました。この事件の始末は、御心のままに。」


『感謝する...それにしても、羨ましい。

このように優れた巫女がおれば、くさびらなど不要なのだな。』


グラリと傾いた翠の身体。駆け寄って抱き止めた。



『禁忌(結)』了/『禁忌』完

本日投稿予定は1回、任務完了。

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