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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第8章 2018
251/279

5904 禁忌(下)

黄砂の襲来後体調を崩し、更新が滞っております。

どうか気長にお付き合い頂ければ幸いです。

5904 『禁忌(下)』


朝。窓の外は未だ、薄暗い。

顔を洗い、歯を磨く。翠は熟睡中。


年齢相応の不安定さは仕方ない。

しかし、上手く集中出来れば姫さえも凌駕する、翠の感覚。


『祟りじゃ無い』  『何かを隠してる』


翠が感知した事に間違いは無いだろう。それなら、この事件の真相は...


例えば、移住者2人のトラブルが原因の殺人事件?

いくら田舎に憧れて移住してきたとしても、根は都会育ちの青年達だ。

田舎故の不自由な暮らし。濃密な近所付き合いや、村独自の習慣。

溜まりに溜まったストレスが2人の関係を悪化させた。


そして、先月の27日夜。

飲酒・口論の末、●木健雄が◆川直樹を鈍器で殴打。

更に、意識不明の◆川直樹を禁足地を抜けた崖まで運んで投げ落とした。

殴打の痕跡は落下による損傷に紛れ、検死でも識別不能。


...これは駄目だ。

検死で殴打の痕跡を識別出来るかどうかはともかく。

●木健雄が錯乱したまま、現在も人事不省の理由を説明出来ない。


犯行後の興奮を抑えようと、何らかの薬物を?

いや、尿検査でも血液検査でも、薬物は検出されなかった。

そもそも、自由にLSDや麻薬を手に入れる術を持つ人間なら、

回復出来ない量の薬物を無計画に摂取する筈が無い。


窓の外、空が明るさを増している。直ぐに、翠が目を覚ますだろう。

取り敢えず、思考を中断。


既に得た情報、これから得られる情報。

それらを解析する俺自身の『才』。

全てを総動員して、翠を補佐する。


深く息を吸い、集中。何よりも、俺自身を覚醒させなければ。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


前を行くマイクロバスを追い、ロー○スのハンドルを握っている。


マイクロバスには乗っているのは村の代表、昨日の4人。

それに消防団員5人。先月28日、捜索にあたったのと同じメンバーだという。

運転手を加えて、計10人。


翠と俺が乗ったとしてもマイクロバスの定員には余裕が有ったが、

敢えてロー○スでの移動を選択した。事後、一刻も早く離脱するためだ。


翠の言う通り、事件の原因が祟りではないと仮定する。


依頼人は村長さん達、4人は祟りでは無いと知っていた。

しかし、合議の上で『上』に御祓いを依頼した。

村の人達を安心させるために、或いは移住者募集への悪影響を避けるために。


これなら大した問題ではない。

形だけ、御祓いの儀式を執り行えば足りる。

当然、マイクロバスに同乗しても問題無い。


しかし、事件の原因が殺人だとしたら...


依頼の目的は殺人事件の隠蔽、そのために祟りの存在を騙った。

これは『虚偽の依頼』。

俺達一族に対する大罪で、報復の対象となる。


昨夜、Sさんに途中経過を報告済みだ。

今頃『上』が報復の内容と時期について検討を始めているだろう。


それを告知するのは翠の、いや、俺の役割。

事後、マイクロバスで和気藹々と村役場に戻る事など出来ない。

一刻も早く、この地を離れなければ。


勿論。依頼人が逆上し、俺と翠を拘束しようとしても無駄。

管さんや鵬の力を借りれば、排除するのは簡単。

ただ...鵬はともかく、管さんは翠の事になると抑制が効かない。

一切の手加減無しで苛烈な対応を。それが、どんな惨事を招くか。

つまり、後始末が途轍も無く面倒になる。


俺の術で追っ手を足止め、翠を連れて逃げる。それが最上の策だ。

死傷者が出なければ、『上』の後始末もかなり楽になるだろう。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


村役場を出発して約10分、マイクロバスが止まった。

未舗装の広場、その先は急な斜面。山の中へ細く伸びる道。

まるで葬列のように黙ったまま、俺達は道を辿った。


暫く歩くと傾斜が緩やかになった。道の両側に杉林、薄暗い。

更に数分、道の右側。

杉林の中に、短く切られた丸太が整然と並んでいた。


「あれは?」

俺の言葉に振り向いたのは村長さん。

「ああ、ホダ木です。シイタケの原木栽培ですね。」


そうか。確か、そんな話を、昨日。


「じゃあ、此処が。田◇さん夫妻の。」

「はい。シイタケの原木栽培は村の主要な産業でしたが、

過疎化に伴い衰退。今残っているのは此処だけです。

でも、田◇さん夫妻のシイタケ、質は最高級。

『あの2人が後継者になってくれたら』と期待していたんですが、

よりにもよって、あんな事に...全く。」


突然、軽い目眩。 足がフラつく。


「Rさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。運動不足で、お恥ずかしい。」

「少し休憩した方が。」 「いいえ、大丈夫です。それより。」

「はい?」


何故、その言葉が俺の口から出たのか分からない。

しかし今なら断言出来る。それは一種の『天啓』。


『田◇さん夫妻のシイタケも、年始の捧げ物に?』


次の瞬間。山道を辿る一行が全員、息を潜めた。

村長さんも、明らかな狼狽。暫く口籠もった後で、ようやく。


「いいえ。キノコは捧げ物には致しません。

シイタケのホダ木栽培は昭和になってからで。

ええ、歴史が浅いですから...キノコは。」


その言葉を聞いて、頭の芯が冷たく冴えた。

すかさず、翠の表情を伺う。

俺を気遣うような態度とは真逆。俯いた顔に、悪戯っぽい笑顔。


間違い無い。それは、この事件の謎を解く鍵の1つ。


山道を辿ること更に数分、杉林が開けた。

すっかり落ち着きを取り戻した村長さんの声が響く。


「この先が禁足地です。」


『禁忌(下)』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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