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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第7章 2017
241/279

5704 干渉Ⅱ/交錯(下)②

物語の都合上、(結)の投稿は此方が先になります。


R5/02/05 追記

当初(結)を①と②に分けて投稿しましたが、

バランスが良くないので(下)を①と②に分ける構成に変更しました。

大筋には変更ありませんので御容赦下さい。

5704 『干渉Ⅱ/交錯(下)②』


5時25分、◎間の海岸に到着。

ビーチ入口に車を駐めた。水野君を降ろした広場。


あれから約3時間が経過している。料理は5品の予定と聞いた。

勿論、1人で準備をするのは大変だ。

でも大きなトラブルがなければ料理の準備は整っている頃。


車のドアをロックして、女性陣の後を追う。

コンクリートの階段を降りた先は砂浜。50m程歩くと大きな岩。

その岩に海神様の祠がある筈だ。


岩に生えた木の枝を利用して張ったタープが見える。

小さなテーブルとグリル。本格的なグリルはツーバーナー?

そして、料理をしているのが水野君。


「司君、お待たせ。準備は大丈夫?何か手伝おうか?」


星野さんが駆け寄る。次に瞳ちゃん、Sさん。

しかし水野君の視線は俺に釘付け。一体、何故?


「司君...どうか、した?」

「いや。だって、Rさんは一足先に。

『手伝おうか?』って言われて、大丈夫ですって言ったら、

『じゃあ海を見てくる。』って。まだ、20分も経ってませんよ。」


「R君が?」

途端に、Sさんの表情が引き締まる。

「瞳ちゃん。急いで!!」 「了解っす。」


大きな岩、高さ1m半ほどの所に大きな窪み。

星野さんはそこにキャンドルを置いて、火を点けた。

やがて、辺りに良い香りが漂う。


瞳ちゃんはキャンドルの前に跪いた。

一礼、目の高さで柏手を1つ。何か小声で呟いて、柏手をもう1つ。



『おや。今宵の亭主、星野ではないのか。』


何時の間にか、テーブルの前のチェアに少女が座っていた。

リクライニング最大限、両足をブラブラ揺らしている。


俺達は全員、テーブルの前に片膝をついた。

先頭に瞳ちゃん、左後方に星野さんと水野君、右後方にSさんと俺。


「間に、合った。」

Sさんの呟きが聞こえた直後、大きな岩を回り込んで現れた影。

これは...

確かに、寸分違わず俺と同じ姿。顔も、服も。俺を形代に?


『やれやれ。姉上に先を越されたか。』

『短気な弟に好き勝手されては堪らんのでな。』


「海神様、山神様。御出で下さり、心から感謝致します。

自分の名は瞳。浜○、瞳。そしてこちらは。」


瞳ちゃんは右手を掲げた。

「陰陽師のSとR。勧請の手順を教授して頂きました。そしてこちら。」


瞳ちゃんが掲げたのは左手。

「我が師、星野。そして今夜の料理番、司で御座います。」


跪いたまま、声を張る。

瞳ちゃんの表情は真剣そのもの、と言うか、まさに鬼気迫る。

しかし、俺と同じ声が冷たく告げた。


『勧請の手順は良し。問題は勧請の用件。

一体、姉上と私を呼び出すのに見合う話かどうか。』


瞳ちゃんは額を砂に擦り付けた。そのまま、数秒後。


「始めに、海神様と山神様への謝罪を。」

『謝罪、だと?』


「はい。私達一族の度重なる悪行。

皆を代表してお詫びします。本当に御免なさい。」


瞳ちゃんの兄が海神様に罪を被せた。それは聞いている。

しかし、山神様への謝罪とは。


山神様もチェアに腰掛けて、小さな溜息。


『恨み言の1つも言ってやろうと思っていたが...

すっかり出鼻を挫かれた。其方は、姉上を祀る一族の者だな。』


すかさず水野君と星野さんが立ち上がる。

水野君がクーラーボックスから取り出した硝子瓶。

星野さんが受け取り、再び片膝をついて2つの杯に酒を注いだ。


海神様が一気に杯を干し、満足そうに頷く。

続いて山神様も杯に口をつけ、驚いたような表情。


『やはり、この酒は美味い。御前も、そう思うだろう?』

しかし、山神さまは未だに不満そうだ。


「今宵は別の酒も用意致しております。」

Sさんが取り出した硝子瓶、中身は微かに黄色みを帯びた酒。

鵬とその配下達が毎年醸しているドングリの酒。

昨夜Sさんがリクエストし、今朝早く、鵬が届けてくれた。


もう一組の杯。Sさんも片膝をついて、ドングリの酒を注ぐ。


口を付けた山神様の表情が緩んだ。

『これは...本当に美味いな。椎の実を醸した酒、か。』


「御明察。気に入って頂ければ幸いです。」


『其方の名は、S、だったな。陰陽師の。』

「陰陽師の末裔。神々と人々の縁を繋ぐ事を生業としております。」


『それ故この娘に手助けを頼まれた、か。

まあ良い。ところで、この椅子。どうにも落ち着かん。』


山神様は杯を持ったまま立ち上がり、辺りを見回す。

そのまま歩を進め、大きな岩を背にして胡座をかいた。


『姉上。古来、酒盛りなら車座と決まっている。宜しいか?』

『それも良かろう。』

『ならば良し、皆も座れ。話はその後だ。』


大きな岩を背にして海神様と山神様。

御二人を囲み、俺達も足を崩して車座に座った。

水野君だけは立ったまま、グリルの傍で料理を準備している。


「料理の一品目はクレソンと豚肉、木綿豆腐の白和えです。」

『クレソン...湧水のほとりに生える青菜だな。』

「はい。豚の挽肉と木綿豆腐は湯通しして白和えにしました。」


『美味い。青菜の辛味が豚肉と豆腐に合う。』

『相変わらず、司の料理は絶品だな。司、皆にも酒と料理を。』


海神様の指示で、俺達にも酒と料理が配られた。

紙コップ、小さめの紙皿。


「二品目はアヤメエビスのカルパッチョ。オリーブオイルと塩で。

皮は固いので湯引きして、糸作りに致しました。こちらはポン酢で。」


『美味い酒と料理。油断すると今夜の用件を忘れてしまいそうだ。

今宵の亭主。瞳、といったな。用件は謝罪だけではあるまい。

其方の用件を聞こう。』


瞳ちゃんは正座して、両手をついた。

俺達も瞳ちゃんに倣う。

辺りの空気がぴぃんと張り詰める。


「山神様を、お祀りさせて下さい。

山神様をお祀りしていた一族の巫が絶えて50年余り。

お祀りの行事も殆ど廃れてしまいました。

どうか自分に、そのお役目を。」



『虫が良すぎる。其方達は姉上の威光を笠に着て金儲けに走り、

挙げ句は姉上に罪を被せて痴れ者を庇うなど...言語道断。

それに、私を祀っていた巫が絶えた時。

姉上と私を合わせて祀って欲しいという依頼を断ったのは其方達だ。』


『依頼を断ったのは瞳ではないぞ、瞳の祖父だ。』

『いいや姉上、言わせて頂く。人は同じ過ちを繰り返してきた。』


山神様は、ボンヤリとした紅い光に包まれている。

これは多分、憤怒。この怒りを沈める策は...

そっとSさんを、そして星野さんの様子を伺う。

しかし2人も俯いたまま動く気配は無い。ここは瞳ちゃんに任せると言う事か。

つまり、これは試金石。このまま、瞳ちゃんを見守るしかない。


『干渉Ⅱ/交錯(下)②』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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