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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第7章 2017
236/279

5505 まよひくら(結)

『まよひくら』 何とか年内に完結できました。

年明けから暫くお休みを頂きます。

皆様、どうか良いお年を。

5505 『まよひくら(結)』


次の日は日曜日。

真次の発表会は終わったばかりで、次は三ヶ月後。

だから日曜のピアノ練習も午前中の1時間だけ。

母さんと真次、二人は昼前に帰って来た。


父さんは台所、昨日の魚で料理を作ってる。

僕は何となくテレビを見たり、マンガ読んだり。

ホントにひさしぶり、だと思う。

家族4人、何の予定もなくてノンビリしてる日曜日なんて。


さすがに、退屈してきた。時計を見る...4時前。

夕ご飯まで昼寝しても良いかな。


向かいのソファ。

寝そべってテレビを見ていた真次が体を起こした。


「お兄ちゃん。テレビ、録画見ても良い?」

「良いよ。僕は部屋で昼寝するから。」

「アリガト。」


真次は片手でリモコン、もう一方の手でテーブルからお煎餅。


!?

今、見えた。真次の耳から、黒い尻尾。

思わず、急いで部屋へ。ベッドに倒れ込む。


間違いない。いつもと同じ尻尾だった。

アレをひっぱり出す? でも、どうやって?

タチウオはお腹を割いた。

でも、攻略本はページを破っただけ、モデルカーは車体を分解して。


じゃあ、ちょっとだけ傷をつければ。

ほんの少しだけ、カッターナイフとかで...

カッターナイフは机の引き出しに。


カッターナイフを手に取った時。黒い紙袋が見えた。

少し、気持ちが落ち着く。


...何を考えてるんだ、僕は。

真次にわざとケガをさせて? それで、どんな願いを叶える?

カッターナイフと紙袋をポケットに押し込んで、部屋を出た。


「希一、どうしたの?顔色が悪いけど。」背中から、母さんの声。


「ゴメン、公園行ってくる。友達と約束してたの、忘れてた。」

「そう。夕ご飯までには帰るのよ。」 「うん。」



日曜だけど、それほど人は多くない。

芝生の広場に家族連れとか。


入口近くのトイレ、様子を見る。

大丈夫、トイレに入ってる人はいないみたい。

車椅子OKのトイレに入って、少し安心。


ポケットから、黒い袋を。少し、手が震える。

花のような星のような、黒い紙。取り出して、水道の水でぬらす。

破らないように、そっと鏡に貼り付けた。

全部、みどりさんの言った通りに。大丈夫、あとは鏡を見るだけ。


正直、怖い。一体、何が見えるのか。

でも僕の手で真次にケガをさせるなんて、絶対ダメだ。

そのためには、鏡を。


深呼吸、鏡を見る。

...体中にトリハダが立った。


左耳から、黒い尻尾。動いてる。

1本、2本。全部で4本。

4本? そうか、今までひっぱり出したトカゲは消えたんじゃ無い。

僕の中に入り込んでいたんだ。


そう、僕が悪かったから。弱かったから。

みどりさんの言葉を思い出す。


『妖精とかなら大丈夫だけど...もし、鬼だったら。』

『人の心の影を見つけてゲームを仕掛ける。』


心の影。そう、羨ましかった。僕は、真次が妬ましかった。

だから心に影ができて、そこに鬼が。


でも、まだ大丈夫。大丈夫だ。

相手が『鬼』だと分かった。この尻尾をひっぱり出せば僕の勝ちだ。

でも、どうやって?


ポケットの中、冷たい感触。カッターナイフ。

4本の尻尾をまとめて掴んで...体のどこかを少しだけ傷付ける。

そうだ、それしかない。カチカチカチ、軽い音。


出来ない。怖い、自分の体を。きっと、すごく痛い。

でも、このままだと僕は、僕の体は鬼に。


頭の中で、何かが聞こえた。キレイな声。

この声は...みどりさんの?


目の前に、あの時の光景。

金曜日、みどりさんは校門で僕を待ってた。


『希一君、・・・・・。一緒に帰ろうよ。』


何で忘れていたんだろう。あの時、みどりさんは。思い出せ。


!!!


『希一君、見いつけた。一緒に帰ろうよ。』

そして、校外学習の日。

『多分『まよいくら』。かくれんぼの古い言い方。』


そう。これは、かくれんぼ。なら。

4本の尻尾を掴んだ左手に力を込める。


「見いつけた。」


左手の中、尻尾が激しく動いた。逃がさない、もっと力を。

その時、鏡の中から優しい声。


『かくれかんじょう、見いつけた。』


これは、みどりさんの。

左手が大きくずれて、力がぬけた。手の中の尻尾がスウッと消えていく。

これで、終わったのか。これで、良かったのか。


分からない。でも...

とっても、疲れた。トイレを出て、家へ帰ろう。今は、家に。


ゆっくり歩いている途中、対向車線に車が停まった。

僕を呼ぶ声、足音。それから強く抱き締められた。

母さん?


「希一、大丈夫?大丈夫なの?」 母さんは泣いていた。

「大丈夫、だよ。」 少し恥ずかしくて、とても気持ちよかった。


「10分位前、家の中で変な聞こえたんだ。大きな声で、叫び声っていうか。

母さんが『希一の部屋からだ』って言うから、見に行ったら...

ベッドがメチャクチャで、枕はズタズタになってた。

希一に何か有ったんじゃ無いかって、それで車で迎えに来たんだよ。」


「いや、何もないよ。何もない。」


何があったのか、どうしてそうなったのか。話せるはずがない。


「それなら良いけど。」


車の後ろのシート。母さんの腕と胸は暖かくて、とても気持ち良い。

助手席からのぞく真次の、うらやましそうな顔...

今だけ、今だけゴメンな。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「お父さん。式が帰って来たよ。」

「鬼は?」 「処理済み。」


「どうしたの?上手くいったのに、御機嫌斜めだね。」

「だって、上手くいくかどうか分からない方法しか、無かったの?

お父さんやお母さん達なら、もっと良い方法が。」


「もちろん、もっと強い術は幾つも有るよ。

だけど鬼を引き寄せたのは、その子自身の心の影。

無理に鬼を祓っても意味が無い。

その子の心の有り様が変わらなければ、すぐに次の鬼を引き寄せる。

キリが無いんだ、そして...」


「だんだん強い鬼を引き寄せて、間に合わなくなる?」

「そう。今回は、その子が自分で気付いたから術が効いた。」


「『救えたとしても術者の手柄ではない、救えなくても術者の罪ではない。』

お母さん達がいつも言ってるのは、そういう事?」


「そう、『旅の目的地を決めるのはその人自身』だ。

今回はその子が頑張ったから上手くいったし、翠の術も無駄にならなかった。

その子の幸運と術の成就を、『良き理』に感謝しよう。」


「うん。『良き理』に、心からの感謝を。」


『まよひくら(結)』了/『まよひくら』完

本日投稿予定は1回、任務完了。

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