5504 まよひくら(下)②
『まよひくら』、年内の完結に向けて、何とか頑張ってみます。
5504 『まよひくら(下)②』
次の日は金曜日、下校時間。
校門の前に、みどりさんが立ってた。
「希一君、・・・・・。一緒に帰ろうよ。」
ドキッとする。ニコッと笑った顔、僕を待ってたって事は。もしかして。
「昨日聞かせてもらった話の事で。少し、ね。」
そういう、事か。まあ、そうだよね。
「学校じゃダメな話だったの?」
「昨日の事が有ったばかりだから。
あそこの角を曲がるとき、そっと後ろを見て。」
言われた通り、左に曲がりながらチラッと。
少し離れて3人の姿。
間違いない、敬君と健二君、それに実ちゃん。
3人は自称オカルト研究会だし、気になるよね。絶対。
僕の話に、あんなに食い付いてたし。
「どう、するの?きっと、あのまま尾行するつもりだよ。」
「大丈夫。少し速く歩くけど、付いてきてね。」
みどりさんは下を向いて、早足で歩く。僕はその後を追う。
早足といっても、そんなに速くない。
ただ、何度か角を曲がっているうちに、どこを歩いているか分からなくなった。
「着いた。」 「えぇ?」
何時の間にか、目の前に公園。昨日の。
一体どうなってるんだろう?
あんなに角を曲がったのに...この公園、こんなに近かったっけ。
そうだ、後ろを振り向く。もう3人は見えない。尾行を振り切った?
みどりさんはどんどん歩いて、お弁当を食べたベンチに座った。
少し離れて、僕も座る。
「ええと、これ。」
みどりさんはランドセルの中から小さな紙袋を取りだした。
ポチ袋みたい。白いのと黒いの、2つ。ベンチの上に並べる。
「中を見て。」 「どっちからでも、良いの?」 「うん。」
まず白い袋。中身も白い紙、こけしみたいな形。
「これで名前を書いて。」 みどりさんが差し出したのは筆ペン。
書道は不得意。でも、そんな事言ってる雰囲気じゃ無さそう。
「これで良い?」 「そのひとがたを袋にもどして。」
あの紙『ひとがた』っていうのか...人型かな?
みどりさんに筆ペンを返して、黒い袋の中身を。
黒い紙。すごくキレイな、花みたいな星みたいな形。
今度は何も言われない。そっと袋に戻す。
「もうすぐあの3人がここに来る。急いで説明するね。」
「うん。」
みどりさんはすごく真剣な顔。しっかり、聞かないと。
「家に帰ったら、希一君の髪の毛を一本、白い袋に入れて。
それで白い袋をベッドの枕元に置く。枕の下とか。分かった?」
「うん、分かった。」
「黒い袋は、使う時まで、机の引き出しとかに隠しておいて。」
「使う時って、どんな?」
「本気で困った時。それで大事なのは。」
「うん。」
これ以上はムリってくらい、必死で話を聞いた。
「使うのは家じゃ無くて、別の場所。例えばこの公園、そして。」
みどりさんが指差したのは、トイレ?
「袋の中身を水でぬらして鏡に貼る、できたら一人で。それから鏡を見て。」
「水でぬらした中身を貼り付けて、鏡を見る。それだけ?」
「そう。説明はこれでお終いだけど、憶えた?」
「大丈夫だと思う。」
「良かった。じゃ、私行くね。その袋はすぐランドセルにしまって。」
みどりさんは、もう、歩き出していた。なんか、速い。あっという間に。
そして、みどりさんと入れ替わりで、3人の姿。
色々聞かれたけど適当にごまかして、紙袋の事は言わなかった。
家に帰ってから、みどりさんの言った通りにした。
いや、枕の下とか枕カバーの内側だと母さんが見つけちゃうかも。
だから枕本体のジッパーを開けて、白い袋はその中に。大丈夫だよね。
黒い袋は机の引き出しの中、一番奥。
それにしても、何で『ひとがた』に僕の名前を。
もしかして、みどりさんは。
次の週末。
父さんと真次は朝早くから釣りに出かけた。
船に乗って...僕は少し熱があって、一緒に行けなかった。
まあ、そんなに釣りが好きな訳じゃ無いから、良いけどね。
昼過ぎまで寝てたら熱も下がって、楽になったし。
二人が帰ってきたのは3時過ぎ、『午前船』に乗ったんだって。
「希一、父さん達、帰って来たよ!」
呼ばれて台所に行くと、父さんがクーラーボックスから魚を出してる所。
真次は多分、先にお風呂かな。
「どうだったの?」 「まあまあの釣果だな。」
タイ2尾、イナダ3尾。ギラギラ光るタチウオ1尾、そして。
タチウオのお腹から黒いもの、尻尾だ。
まさか、こんな所に。
「父さん。エラと内蔵は僕がやっておくから、お風呂入って。」
「だって希一は熱が。」
「もう熱は下がったし。ねぇ母さん。」
「そうね、随分良いから、下拵えくらいなら。」
「じゃあ頼む。ありがとな。」
何度も手伝った事があるから大丈夫。
タイ、イナダ。最後にタチウオ。
タチウオのエラを取ってから、お腹を裂く。
...黒いトカゲが這い出して、頭をこっちに向けたように見えた。
すごく、気持ち悪い。
父さんが作ったイナダの刺身、タイの塩焼き。とっても美味しかった。
でも、太刀魚の天ぷらは、それだけは...ゴメン、やっぱムリ。
『まよひくら(下)②』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




