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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第7章 2017
232/279

5501 まよひくら(上)

新作投稿開始です。

出来れば、クリスマスに合わせて次作の投稿まで頑張りたいのですが。

5501 『まよひくら(上)』


「18番、◎。◎、希一たかかず。」


「はい。」 「お~、良く頑張ったな。今まで一番良い点数だ。」


ドキドキしながら、答案用紙を受け取る。

92点...よっしゃぁぁああ!

最高記録!!頑張って、良かった。家へ帰る足取りも軽い。

きっと母さんも、父さんも喜んでくれる。


「凄いじゃない、92点って、最高記録でしょ?」 「うん、まあ。」

「豚カツ、買ってきて良かったな~。今夜はお祝いね。」


めっちゃ、嬉しい。


その時、玄関から声が聞こえた。

「ただいま~。」 真次まさつぐだ。母さんが玄関へ。

「お帰り。」 「うん。」


「テスト、どうだった?」 「前と同じだよ、ほら。」

「また、100点。凄~い。」 「でも、前と同じだよ?」

「それが、凄いの。もう何回連続?」 「数えてない、けど。」

「じゃ、お祝いね。豚カツ用意してるけど、ま~君は、やっぱりナポリタン?」

「それだと、嬉しいな。」 「分かった!」


真次と比べられる訳じゃ無い。

『希一は、なんで100点取れないの?』って聞かれる訳でもない。

今日もちゃんと大好きな豚カツ。でも、胸の奥が痛い。


豚カツはスーパーのお惣菜だけど、ナポリタンは母さんの手作り。

それだけじゃ無い。進級して、クラス開きの度に...


『◎、希一...ああ、真次君のお兄ちゃんか、頑張ってね。』って。


きっと、みんな良い人。それだけは間違いない。


母さんも、父さんも、先生達も。そして、真次も。

何だか変な気分になるのは、僕が悪いんだよ。100点が、取れないから。

兄弟なのに、何で、こんなに違うんだろう。


今年の夏休み。父さんと2人で、おじいちゃんちに行った。

真次はピアノの発表会の準備があったから、母さんと居残り。


「何で僕は行けないの?」って、真次は泣きそうになってたけど。

仕方ないよね。僕はピアノ弾けないし。

でも、何だかモヤモヤする。何で、僕はピアノ、弾けないんだろう?

だからお風呂で、おじいちゃんに聞いてみたんだ。


「兄弟なのに、何でこんなに違うのかな?」

「違うって、何が?」

「真次はピアノの発表会で来られないのに、僕はピアノ弾けないから。」


おじいちゃんは優しく微笑んだ。


「2人ともピアノが上手だったら、

じいちゃんとばあちゃんは夏休みに孫に会えないぞ。」


う~ん、それはそう、だけど。


「希一が生まれた時、皆、どれだけ喜んだと思う?」

「え?」


「父さんと母さんには子供が出来ないって話が有ってな。それで色々。」

「え?だって、僕も真次も。」

「だから色々有ったんだよ。でも二人が生まれてくれて本当に良かった。

今は、じいちゃんもばあちゃんも幸せだ。それで、それだけで良いだろう?」


「...うん。」 


きっと、おじいちゃんの言う通りだ。

だけどやっぱり、何となく、モヤモヤする。


それから1週間たって、父さんは家に帰った。

僕が家に帰ったのは次の日の午後。

鍵を開けて家に入る。真次の発表会だから、家には誰もいない。


きっと今頃、発表会で真次が。


大丈夫。分かってるよ。

僕がピアノを弾けないから、父さんも母さんも気を使ってくれたんだ。


おばあちゃんが作ってくれたお弁当を食べて、部屋でゲームして。

そのうち3人が帰って来る。そしたら何もかも元通り。

明日からは真次と二人、夏休みの宿題をして。

ああ、みんなで海にも行きたいな。それから...



あれ?

いつのまに眠っちゃったんだろ。ベッドの上、タオルケット。

オシッコしたい。部屋を出てリビング、トイレはその先。


その時、身体と心が震えた。


リビングのソファ。

真次が、母さんの膝に頭をもたせ掛けて...眠ってる。


母さんは僕に気付いて、人差し指を唇に当てた。

優しい笑顔。


「ま~くん、発表会で疲れちゃったのね。凄く、頑張ってたから。」


心を覆う、暗い影。

黙ったままトイレに、そのまま真っ直ぐ部屋へ。

ベッドに身体を投げ出し、天井を見上げる。


もしも上手にピアノが弾けたら、僕もあんな風に、母さんに。

どうして僕は、僕だけが。


それから、どれだけの時間が経ったのか。

不意に、天井から『それ』が話しかけてきた。


『まよひくら(上)』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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