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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第7章 2017
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5402 干渉(中)①

5402 『干渉(中)①』


「薬品の調製、基本的な実験技術。全て完璧。

これなら明日にでも、研究室にLさまを推薦出来ます。」


「...暁さんに褒めて頂けるのは嬉しいです。

でも、臓器移植に関わる研究の助手としては、その。」


「臓器移植の実技が無いのが不思議ですか?」 「はい。」


「実験の準備をし、結果をまとめる。それだけが助手の仕事。

あの男は、重要な実験を全て自分一人で行います。

絶対に、研究の核心部分を他人に明かしません。」


「それは、秘密を守るためでしょうけれど。」

「再生医療は近い将来のビッグビジネス。秘密を守るのは当然ですね。

しかし、それだけでは理解出来ない事が有るのです。」


「理解出来ない事、一体それは?」

「Lさまの最初の疑問、臓器移植の実技。

実は、あの男の実験に臓器移植は含まれていません。

私が助手として潜入して約1年。

その間の実験は、マウスの人工受精に関わるものだけでした。」


「マウス...ブタでは無く?」

「そう。ブタではなく、マウスです。

標的遺伝子をノックアウトした系統を確立するためかと考えました。

将来、ブタでの実験につなげる為の基礎研究かと。」


「それなら、外法を疑う理由にはなりませんね。何故、私を?」

「この一ヶ月ほどで、男は研究結果の整理を始めました。

いえ、研究の道筋を消去しつつあると言った方が良いかもしれません。」


「近い内に、研究の成果を持って大学を去る可能性が高い、と。」

「はい。恐らく現在進行中の実験が『区切り』でしょう。

ですから、Lさまに。もう一歩踏み込んだ調査を。」


「私は、どう演じれば良いのですか?」

「平凡な日常に飽きた、好奇心豊かな女性。

そして、社会的な地位と経済的基盤で向上心旺盛な女性。」


「分かりました。でも、未だ納得出来ない点が有ります。」

「何でも、お答え致します。」


「実験材料がマウスなら、人間の臓器移植とは直接繋がりません。

どうして、暁さんは『上』に外法の可能性を上申したのですか?」


「それは、研究室に潜入した上でLさま御自身で判断して頂きたい。

私の思い過ごしなら何より。一族として、この研究を支援すべきでしょう。」


「でも、もし調査が空振りなら、曉さんの立場が。」


「立場...そんなものは、Lさまを推薦した時点で覚悟しています。

何より、万一Lさまの身に危害が及べば、この命をもっても償えません。

特に、SさまとRさまには。」


「二人の同意を得ていますから、そのような心遣いは無用。

それより何故、その研究が外法に繋がると考えたのでしょうか。

それを、教えて下さい。」


「推測で私見を述べるのは控えたいのですが、敢えて申し上げるならば...」

「はい?」


「●国との繋がりです。

異種間臓器移植の研究が進展するなら、支援者はこの国でも数多。

あの国との繋がりを築く理由が有りません。」


「人権が抑圧された環境で、次のステージに?」

「まさに、それをLさまに確かめて頂きたいのです。

最終段階の実験が何を目的にしているのか、

それが外法に繋がる事は無いのか。」


「...それまでに、一体何匹のマウスを安楽死させねばならないのでしょう。」

「堪えて下さいませ。先程の手際なら、まさに安楽死。マウスも本望かと。

それより、Lさまの身が心配です。もしも。」


「それは心配無用だと、先刻も言った筈です。

「私の名はL。この名を下さったのは誰か、知らぬ筈は無いでしょう?」


「その声、話し方。そして、表情。全てが懐かしい。」

「懐かしい、とは?」


「私は一度だけ、Lさまの母君と働いた事が有るのです。」

「母と?」


「相手は『分家』の精鋭多数、私達は怖じ気づいていました。

しかし、あの御方は微笑んで仰いました。

『心配無用、私を誰だと、思っているのですか?』と。」


『干渉(中)①』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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