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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第7章 2017
225/279

5310 隘路(結)

申し訳ありません。今後、題名等の変更を予定しています。


5310 『隘路(結)』


「Rさん、僕はプロの鑑定士ですよ。

売れるか売れないか、商売として成り立つか、

それを鑑定するのが仕事なんです。」


「それは重々、承知していますが。」

「なら、こういうモノを持ち込むのは止めて下さい。時間の無駄です。」

「偽物ならSさんが反応する筈はないし、サファイアじゃないんですか?。」


「...これらがサファイアなら売るのは簡単です。

ルースですから、このまま然るべき鑑定機関に鑑定書を作って貰って。

でも、これらはサファイアじゃないし、そもそも売れません。」


「サファイアじゃないとしたら、一体?」

「ダイヤです。」 「ダイヤ?」


「インドで発見され、ヨーロッパに渡った『女神の左眼』。

そして今の名前は、宝石に興味が無い人でも知っている筈ですよ。」

「もしかして...でも、そのダイヤは博物館に。」


「数百年前、『女神の左眼』は約半分の大きさにカットされました。

それを原型としてカットを重ね、現在の姿になったんです。

そして、ここにある6個の合計は、ざっと20カラット。

つまり『女神の左眼』の残り半分からカットされたモノです。

どんな経緯で日本に渡ってきたのかは分かりませんが。」


「成る程、『曰く付き』の宝石なんですね。」


「誤解しないで下さい。『呪いの宝石』は人間が作り出すんです。

おぞましい犯罪につきまとわれてきたのは、

石の持つ規格外の力が、人の欲望や悪意を増幅したからで。」


「だから、売れない...良く、分かりました。有り難う。ああ、そうだ。」

「まだ、何か?」


「これを、どうぞ。鑑定の報酬です。一番小さい石で申し訳無いのですが。」

「こんな宝石を、報酬だなんて。」

「欲望や悪意と無縁の持ち主なら障りは無いんでしょう?

そう、可愛い秘書さんには似合うと思いますよ。指輪とか。」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「鑑定士さんの眼力は確かだったわね。祭具はちゃんと機能したし。」

「予定と違う部分も有りましたが。」

「そうね、『身代わり』が不要だとは思わなかった。

あの男の始末...記憶を消して、榊さんに任せるしかない。」


正直、あんな外道はどうなっても構わない。

そのまま対策班に任せれば、跡形も無く『消して』貰える。

それよりも。


「あの男はともかく。あれで、本当に良かったんですか?」

「当主様と『上』の許可を得て、何より本人達の強い希望。何の問題が?」

「でも、人間の魂を式にするなんて。」


「死後49日を経て幽霊に変化した魂は元の身体に戻せない。

でも式なら『容れ物』として空の身体を使える。特別な術も不要。

人間と幽霊を使い分けられる式は、一族にとっても貴重な存在。

かなり事情は違うけど、御影だって元は人間でしょ。」


「老いた身体が滅びた後も、契約は有効なんですよ。それなのに。」


Sさんは哀しそうに、微笑んだ。


「とても厳しい道なのは間違いない。でもあの娘は頷いた。

『何時までも、どんな犠牲を払っても。』

そして、タケノブさんも...だから、きっと大丈夫。

2人でなら、果てしない隘路を辿っていける。」


「これから数十年、人としての幸不幸を体験して。その後も?」

「私は、それを信じる。この術の施主として。」

「...そうですね。僕も信じます。僕自身が、それを信じたいから。」


右頬に、温かいキスの感触。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「武信さん...武信さん、起きてますか?」

「アリシアさん。おはよう。ちゃんと起きてますよ。」

「いつも通り、朝の検診で~す。あと、点滴は今日が最後ですね。」

「有り難う、宜しく。」


「体温は35.4℃、血圧は111の78。少し、体温が低いかも。」

「『りはびり』の時、少し手足が痺れる感じなのは、そのせいかなぁ。

でも、頑張って元に戻しますよ。残り時間が少ないから。」


「昏睡してた時間が長かったなら、無理するのは逆効果です。

先生は『予想より回復が早い』って仰ってましたよ。

それに『時間が無い』ってどういう事ですか?」


「大切な人と約束した日まで、あと2週間なんです。

それまでには退院して迎えに行かないと。必ず。」


「大切な人って...彼女さん?

もしかして、昏睡する前の約束ですか?」

「いや、寝てる間に約束したんです。夢の中で。」

「ま~た、此処に来てから冗談ばっかり。」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「戻って来てくれて、嬉しいよ。100%の保証は無かったからね。」


「ずっと、不思議な夢を見てたんだ。」 「不思議な、夢?」


「あの日、眼が覚めたら、凄く綺麗な場所にいた。沢山の花と、鳥達の声。

そこで、男の人と女の人が手当をしてくれて。

すぐに分かったよ。タケノブさんのお母さんと、お父さん。」


「母さんと、父さん?」

「『とても美しい場所だけれど、此処にいてはいけない。息子を頼む。』って。」


「そうか。父さんと母さんに。」

「うん。だから私、絶対に離れないよ。何時までも、何が有っても。」

「...有り難う。本当に有り難う。」

「ホントに馬鹿だね。お礼を言わなきゃいけないのは私の方なのに。」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「なぁ。あれ、★野さんじゃね?」

「そうだな。病気と怪我で留年したって聞いたけど。」

「一緒にいる男は?」

「彼氏らしいよ、新入生の。まあ、留年しても良い事は有るんだな。」


「いや、そういう事じゃ無くて。」 「じゃあ、何だよ?」

「何て言うか、似てるんだ。祖母から聞いた幽霊、タケノブさんに。」

「お前見た事あんの?タケノブさん。」

「無い、けど。」

「高木君。あなた、疲れてるのよ。」

「それ、古い。」


『隘路(結)』了/『隘路』完

本日投稿予定は1回、任務完了。

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