5203 選択(中)②
R4/07/25 追記
昨日、手違いで手直し前の原稿を投稿してしまいました。
本当に申し訳ありません。既に修正済みですが、
修正前の状態でお読み下さった方々にお詫び致します。
本日午後、入院検査から帰還しました。
投薬しつつ経過観察、何とか、頑張ります。
作業の精度が低い点については、何卒御容赦下さい。
5203 『選択(中)②』
「確認ですが、鑑定する作品の作者は分かってるんですよね?」
「はい。3人ともビッグネームなので、まあ、偽物かと。」
出張鑑定の5日前。
陰陽師が2人、PRを訪れていた。
以前、一緒に仕事をした男性。Rさん。
あの晩、公園で会った女性。Lさん。
Rさんの印象は変わらない。
人畜無害?イケメンのような、そうでもないような。
Lさんの印象は、あの晩と全然違う。
妖しい感じの美人に見えたのに、今日は清楚で控え目な感じ。
実は、私より年下だったりして...
でも、私は知ってる。この人は凄く強い、そして、怖い。
あの晩は満月。なのに、力も速さも、まるで敵う気がしなかった。
そして『あの声』。耳から脳へ浸潤し、心を操る術。
1つの身体に同居する、2つの、『何か』。
「貴方の言う通り、3点とも偽物でしょう。
PRの実力を試すために、本物を混ぜてあるかも知れませんが、
本物という鑑定に根拠を求められる事は無い筈。
だから貴方には、偽物と鑑定する根拠をレクチャーして頂きたい。」
「たった4日間で、ですか?」
「はい。ほぼ偽物だと分かっていますし、
最悪、『筆に勢いが無い』・『線が荒い』で押し切れば良いかと。
あのTV番組みたいに。」
「...いや、さすがにそれは。」
Rさんはニッコリ笑った。
「では、レクチャーを宜しく。」 「仕方有りませんね。」
「それから幾つか、サインを決める必要が有ります。」
「本物か偽物か、本物なら最初に鑑定するので鑑定額を知らせる為に。」
「早速御理解頂けて、有り難いです。」
それから3日間、RさんはPRでレクチャーを受けた。
熱心だし、集中力がヤバい。
何がヤバいって、レクチャーを受けている時はイケメンに見える。
いや、それはレクチャーしてるチーフの方も同じなんだけど、ね。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
深夜のリビング。
カフェロワイヤルの炎に照らされた、Sさんの笑顔。
見詰めるのが憚られる程に、今夜も美しい。
「仕事は明後日、準備は大丈夫?」
「偽物鑑定の根拠は、多分大丈夫です。あとは。」
「不測の事態への対応よね。」 「はい。」
「御影が発注した武器は届いたんでしょ?」
「はい。◆成さんのジムで『試用』も。」
「なら問題無い。◇山組も年貢の納め時、それだけの事。」
「それは、そうなんですけど。」
「なるべく死なせたくない?」
「はい。」
「あなただって、アイツ等がしてきた事を知ってるのに?」
「荒事は御影さんの専門分野です。何の不安も有りません。
でも、実際に殺すのは、Lさんの身体。それが、どうしても。」
Sさんの、熱いキス。
「初めて人を殺す前に、私も...いいえ、今更よね。
それで、あなたの気持ち、御影に伝えたの?」
「はい。僕の希望は出来る限り尊重してくれると。」
「じゃあ、問題無いでしょ。」
「いや。不確定要素が残ってます。あの、秘書さん。」
「なるほど。やっと、R君にも女の気持ちが分かってきた?」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「正直、驚きました。3日間で、充分な成果です。」
「謙遜はしません。実際、無茶苦茶に頑張りましたからね。」
チーフの表情が曇った。意外な、反応。
「出張鑑定は明後日ですが...今日は細かい配置の件ですよね?」
ああ、そうか。
「配置...基本的には、以前連絡させて頂いた通りです。
あなたに助手を務めて頂けるのなら、何の不足も有りません。」
「僕ではなく、彼女の件です。」
「ああ、成る程。」
Rさんは優しく微笑んだ。やっぱり、イケメン?
「秘書さんについては、警察に保護を依頼します。」
「警察? でも、◇山組に手は出せないんじゃ。」
「手を出すと面倒な事になるので、控えているだけです。
具体的には今日の夕方から、警察の保護下に入って貰う予定で」
「嫌です!!」
Rさんが言っている事は正しい。それは分かる。
でも嫌だ、絶対に。
チーフが◇山組と対峙する時に、傍にいられない。
確かにその日は新月で、私は無力。でも嫌だ、そんなの絶対に。
「ちょっと待って。警察が保護してくれるなら、それが一番。
Rさん、保護する場所って、鑑定の場所と別なんですよね?」
「当然です。わざわざリスクを取る必要は無いので。」
「分かったね?君は、これから警察の保護下に入る。これは業務命令。」
心の奥深く。燃え上がる炎を消せない。
「じゃあ、今、辞職します。」 「待って、一体何を?」
「◇山組の本部事務所に張り込みます。出張鑑定の日まで。」
「も~。そんなの、メチャクチャだって。」
「メチャクチャで結構です。だからクビにして下さい。」
「取り込み中、失礼します。」
Rさんは困ったような、面白そうな表情。
「僕等としては、不確定要素が増えるのは願い下げです。
例えば、秘書さんが僕等のコントロールを外れるとか。」
「申し訳ありません。説得するので。少し時間を下さい。」
「チーフの馬鹿!!」
「こういう時、悪いのは大抵男の人ですが、その典型。」
Lさんは優しく微笑んでいた。嬉しいけど、やっぱり怖い。
「出張鑑定の場所、主任さんを一人にしたくない。そうですよね?」
「はい。私も、チーフと一緒に...」
「じゃあ、秘書さんには助手②を御願いしましょうか。」
「助手②?」 「はい。」
「あくまで建前ですが、鑑定の前に結界を張ります。」
「偽物なのに。」 「本物が混ざってるかも。」 「それは。」
「兎に角、結界を張るので...その中にいて貰えれば。」
「やります。いいえ、是非やらせて下さい。助手②。」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
夜明け間近のPR。
主任さんと秘書さんはソファで仮眠中。
助手②...正直、かなり面倒な展開。
ただ、御影さんは最初から予測していた。
『あの二人の相性は最高。引き離すのは無理だ。
特に女子。無理強いすれば、計画の成否に関わる。』
「でも。」
不意に、抱き締められた。
気管から肺を満たす、芳香。
『今回の仕事、お前無しでも完遂出来ると言われて、納得出来るか?』
姫と御影さんのタッグは、一族でも最強の部類。
一体、俺が出来る事なんて有るのか。だけど。
「納得、出来ませんね。」 『そうだ、それで良い。』
「どう言う事ですか?」
『シミュレーションは実戦ではない。実戦は想定外の事ばかりだから。』
「それは、分かっているつもりですが。」
『では想定外の事態、究極の危機。必要なのは何か?』
御影さんと姫が対応して、それでも危機を迎えたら...
俺に必要なのは『心構え』か『行動』か。あるいは両方?
しかし、具体的な内容は思い浮かばない。
「分かりません。」
『...未だ、修行が足りぬと見える。そもそも、迷う必要などない。
自分の感覚と力を信じる。それだけだ。
それと、あの女子には重々言い含めておく必要がある。
その役割、心構え。良くも悪くも、あの女子が鍵だ。』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
眼が、覚めた。
そうだ、結局昨夜は、チーフとRさんが徹夜に。
のろのろと上体を起こす。
「秘書さんも眼が覚めたんですね。」 「はい、一応。」
「コーヒーを淹れました。どうぞ。」 「有り難う、御座います。」
Lさんは私を見ていない。その視線を辿る。
チーフとRさんがデスクで話し合っている。多分、最終確認。
出張鑑定は明日だ。
「あなたに、お話ししたい事が有ります。あの二人には内緒の話。」
Lさんは私に視線を戻し、声を潜めた。
Lさんが、私に話したい事。何となく、分かる。
私がするべき事と、してはいけない事。そして、心構え。
もし我が儘を通して、作戦に影響が出たら...
「実戦で、何より大切なもの。分かりますか?」
「...分かり、ません。だけど、最低でも味方同士の信頼は。」
「信頼ではなく、理解です。」 「理解?」
「そう。味方が何を考え、どんな行動を選択するか。
それを理解してこそ、最短時間で協調出来ます。
それが、生き残る智慧。」
確かに。チーフと私、互いの理解が不足している。
出逢ってから重ねた時間が、まだまだ足りないから。
でも、そんなの言い訳にならない。生死が懸かった仕事場で。
「出張鑑定の会場、あなたの本当の役割を伝えます。
これは命令、質問も反対意見も認めません。
そして、あなたの役割は、『その時』まで決して知られないように。
あなたの、大事な人を守りたいと思うなら。」
突然。
Lさんが、あの晩と同じに見えた。
それは妖しくて、途轍も無く美しい、微笑。
『選択(中)②』了
本日投稿予定は1回、任務完了。




