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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第6章 2016
213/279

5203 選択(中)②

R4/07/25 追記

昨日、手違いで手直し前の原稿を投稿してしまいました。

本当に申し訳ありません。既に修正済みですが、

修正前の状態でお読み下さった方々にお詫び致します。


本日午後、入院検査から帰還しました。

投薬しつつ経過観察、何とか、頑張ります。

作業の精度が低い点については、何卒御容赦下さい。

5203 『選択(中)②』


「確認ですが、鑑定する作品の作者は分かってるんですよね?」

「はい。3人ともビッグネームなので、まあ、偽物かと。」


出張鑑定の5日前。

陰陽師が2人、PRを訪れていた。

以前、一緒に仕事をした男性。Rさん。

あの晩、公園で会った女性。Lさん。


Rさんの印象は変わらない。

人畜無害?イケメンのような、そうでもないような。


Lさんの印象は、あの晩と全然違う。

妖しい感じの美人に見えたのに、今日は清楚で控え目な感じ。

実は、私より年下だったりして...


でも、私は知ってる。この人は凄く強い、そして、怖い。

あの晩は満月。なのに、力も速さも、まるで敵う気がしなかった。

そして『あの声』。耳から脳へ浸潤し、心を操る術。

1つの身体に同居する、2つの、『何か』。



「貴方の言う通り、3点とも偽物でしょう。

PRの実力を試すために、本物を混ぜてあるかも知れませんが、

本物という鑑定に根拠を求められる事は無い筈。

だから貴方には、偽物と鑑定する根拠をレクチャーして頂きたい。」


「たった4日間で、ですか?」

「はい。ほぼ偽物だと分かっていますし、

最悪、『筆に勢いが無い』・『線が荒い』で押し切れば良いかと。

あのTV番組みたいに。」


「...いや、さすがにそれは。」


Rさんはニッコリ笑った。

「では、レクチャーを宜しく。」 「仕方有りませんね。」

「それから幾つか、サインを決める必要が有ります。」

「本物か偽物か、本物なら最初に鑑定するので鑑定額を知らせる為に。」

「早速御理解頂けて、有り難いです。」



それから3日間、RさんはPRでレクチャーを受けた。

熱心だし、集中力がヤバい。

何がヤバいって、レクチャーを受けている時はイケメンに見える。

いや、それはレクチャーしてるチーフの方も同じなんだけど、ね。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


深夜のリビング。

カフェロワイヤルの炎に照らされた、Sさんの笑顔。

見詰めるのが憚られる程に、今夜も美しい。


「仕事は明後日、準備は大丈夫?」

「偽物鑑定の根拠は、多分大丈夫です。あとは。」

「不測の事態への対応よね。」 「はい。」


「御影が発注した武器は届いたんでしょ?」

「はい。◆成さんのジムで『試用』も。」

「なら問題無い。◇山組も年貢の納め時、それだけの事。」

「それは、そうなんですけど。」


「なるべく死なせたくない?」

「はい。」

「あなただって、アイツ等がしてきた事を知ってるのに?」


「荒事は御影さんの専門分野です。何の不安も有りません。

でも、実際に殺すのは、Lさんの身体。それが、どうしても。」


Sさんの、熱いキス。


「初めて人を殺す前に、私も...いいえ、今更よね。

それで、あなたの気持ち、御影に伝えたの?」

「はい。僕の希望は出来る限り尊重してくれると。」

「じゃあ、問題無いでしょ。」

「いや。不確定要素が残ってます。あの、秘書さん。」


「なるほど。やっと、R君にも女の気持ちが分かってきた?」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


「正直、驚きました。3日間で、充分な成果です。」

「謙遜はしません。実際、無茶苦茶に頑張りましたからね。」


チーフの表情が曇った。意外な、反応。

「出張鑑定は明後日ですが...今日は細かい配置の件ですよね?」


ああ、そうか。


「配置...基本的には、以前連絡させて頂いた通りです。

あなたに助手を務めて頂けるのなら、何の不足も有りません。」

「僕ではなく、彼女の件です。」

「ああ、成る程。」


Rさんは優しく微笑んだ。やっぱり、イケメン?


「秘書さんについては、警察に保護を依頼します。」

「警察? でも、◇山組に手は出せないんじゃ。」


「手を出すと面倒な事になるので、控えているだけです。

具体的には今日の夕方から、警察の保護下に入って貰う予定で」


「嫌です!!」

Rさんが言っている事は正しい。それは分かる。


でも嫌だ、絶対に。

チーフが◇山組と対峙する時に、傍にいられない。

確かにその日は新月で、私は無力。でも嫌だ、そんなの絶対に。


「ちょっと待って。警察が保護してくれるなら、それが一番。

Rさん、保護する場所って、鑑定の場所と別なんですよね?」

「当然です。わざわざリスクを取る必要は無いので。」


「分かったね?君は、これから警察の保護下に入る。これは業務命令。」


心の奥深く。燃え上がる炎を消せない。


「じゃあ、今、辞職します。」 「待って、一体何を?」

「◇山組の本部事務所に張り込みます。出張鑑定の日まで。」

「も~。そんなの、メチャクチャだって。」

「メチャクチャで結構です。だからクビにして下さい。」



「取り込み中、失礼します。」

Rさんは困ったような、面白そうな表情。


「僕等としては、不確定要素が増えるのは願い下げです。

例えば、秘書さんが僕等のコントロールを外れるとか。」


「申し訳ありません。説得するので。少し時間を下さい。」

「チーフの馬鹿!!」


「こういう時、悪いのは大抵男の人ですが、その典型。」

Lさんは優しく微笑んでいた。嬉しいけど、やっぱり怖い。


「出張鑑定の場所、主任さんを一人にしたくない。そうですよね?」

「はい。私も、チーフと一緒に...」


「じゃあ、秘書さんには助手②を御願いしましょうか。」

「助手②?」 「はい。」


「あくまで建前ですが、鑑定の前に結界を張ります。」

「偽物なのに。」 「本物が混ざってるかも。」 「それは。」


「兎に角、結界を張るので...その中にいて貰えれば。」

「やります。いいえ、是非やらせて下さい。助手②。」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

夜明け間近のPR。

主任さんと秘書さんはソファで仮眠中。


助手②...正直、かなり面倒な展開。

ただ、御影さんは最初から予測していた。


『あの二人の相性は最高。引き離すのは無理だ。

特に女子。無理強いすれば、計画の成否に関わる。』


「でも。」


不意に、抱き締められた。

気管から肺を満たす、芳香。


『今回の仕事、お前無しでも完遂出来ると言われて、納得出来るか?』


姫と御影さんのタッグは、一族でも最強の部類。

一体、俺が出来る事なんて有るのか。だけど。


「納得、出来ませんね。」 『そうだ、それで良い。』

「どう言う事ですか?」


『シミュレーションは実戦ではない。実戦は想定外の事ばかりだから。』

「それは、分かっているつもりですが。」

『では想定外の事態、究極の危機。必要なのは何か?』


御影さんと姫が対応して、それでも危機を迎えたら...

俺に必要なのは『心構え』か『行動』か。あるいは両方?

しかし、具体的な内容は思い浮かばない。


「分かりません。」

『...未だ、修行が足りぬと見える。そもそも、迷う必要などない。

自分の感覚と力を信じる。それだけだ。

それと、あの女子には重々言い含めておく必要がある。

その役割、心構え。良くも悪くも、あの女子が鍵だ。』


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


眼が、覚めた。

そうだ、結局昨夜は、チーフとRさんが徹夜に。

のろのろと上体を起こす。


「秘書さんも眼が覚めたんですね。」 「はい、一応。」

「コーヒーを淹れました。どうぞ。」 「有り難う、御座います。」


Lさんは私を見ていない。その視線を辿る。

チーフとRさんがデスクで話し合っている。多分、最終確認。

出張鑑定は明日だ。


「あなたに、お話ししたい事が有ります。あの二人には内緒の話。」

Lさんは私に視線を戻し、声を潜めた。


Lさんが、私に話したい事。何となく、分かる。

私がするべき事と、してはいけない事。そして、心構え。

もし我が儘を通して、作戦に影響が出たら...


「実戦で、何より大切なもの。分かりますか?」

「...分かり、ません。だけど、最低でも味方同士の信頼は。」


「信頼ではなく、理解です。」 「理解?」

「そう。味方が何を考え、どんな行動を選択するか。

それを理解してこそ、最短時間で協調出来ます。

それが、生き残る智慧。」


確かに。チーフと私、互いの理解が不足している。

出逢ってから重ねた時間が、まだまだ足りないから。

でも、そんなの言い訳にならない。生死が懸かった仕事場で。


「出張鑑定の会場、あなたの本当の役割を伝えます。

これは命令、質問も反対意見も認めません。

そして、あなたの役割は、『その時』まで決して知られないように。

あなたの、大事な人を守りたいと思うなら。」


突然。

Lさんが、あの晩と同じに見えた。

それは妖しくて、途轍も無く美しい、微笑。


『選択(中)②』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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