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0201 出会い(上)①

R4/06/20 追記

此方にも「いいね」を頂きました。

自分でも気に入っている作品ですので、とても嬉しいです。

投稿をする上で、何よりの励みになります。

本当に有り難う御座いました。

0201 『出会い(上)①』


誰でも一生に一度は、人生を左右する事件に遭遇するだろう。

俺は大学生の時、ある事件に巻き込まれたのがきっかけで3人の女性に出会い、

それが俺の人生の進路を全く違う方向に変えることになった。

大切な記憶の数々は、今も俺の心の底で煌めいている。


ただ、どんなに大切な記憶でも、時間が経てば少しずつ色褪せてゆく。

全ての記憶が色褪せてしまう前に、人生の真の出発点になった事件について、

大切な記憶の断片をここに書き残して置く...備忘録として。


思い返すと、もう7年も前の事だ。 当時俺は大学2年生。

定期で大学に近い某レストランのバイト(週3・夕~夜・主に皿洗い)と、

不定期でいわゆる「何でも屋」のバイトを掛け持ちしていた。

「何でも屋」の方は大学入学直後に学部の先輩の伝で登録してただけ。

月に2・3回仕事受けて、ちょっとした臨時収入があればラッキーって程度。


プチ人材派遣みたいな形態で、時々ヤバイ仕事やデカイ仕事もあったみたいだが、

もちろんそんな仕事の依頼が無資格の大学生に廻ってくる事はない。

年寄りの家の草刈りとか、小学生の宿題とか、テレビとビデオの設置・配線とか。

当地区事務所のボスで配置係のNさん(男性・当時40代?)から

電話があった時に、自分の予定と相談して仕事を受けるかどうか決める。


時給換算で大体1000円前後のショボイ仕事ばっかりだし

Nさんが気さくで話しやすい人だったんで、気が向かない時は

「済みません、大学のレポートの締め切りが近くて。」

そんな言い訳で断ったりしてた。

ただ、受けた仕事は全身全霊でやってたからか、

Nさんに「おまえ評判良いぞ。」って食事奢ってもらうこともあったし、

少し特別扱いされてる?とか思ってた。

それにしたって、今考えるとかなり縛りが緩かった気がする。

案外人材豊富で優良経営だったのかもしれない。


あ、マズい。前置きが長くなったな。


それは大学2年の夏。 学期末が近づいてきた頃。

俺も一応は真面目な苦学生。

安アパートの部屋で、夜遅くまでテスト勉強やレポート作成に頑張ってた。

最初に異変を感じたのは5月の終わり頃だったと思う。

決まって1時過ぎた頃から、部屋の外に妙な気配を感じる事が多くなった。

俺の部屋は3階でエアコンなんて無い、部屋にいる時は窓開けっ放し。

もともと霊感なんて全く無く、怖い体験なんかした事が無かっただけに、

窓の外に妙な気配を感じると怖くて勉強は滞る。

だからって窓閉めたら暑くて寝られない。

テストが終わる頃にはすっかり寝不足と夏バテで、体調はもう最悪。


で、夏休みも目前に迫ったある日、大学サボって寝てたらNさんから電話が来た。

夏バテでダルかったし、またいつもの言い訳で断ろうとしたら、何だか様子が変。

「...R、今回は下手な言い訳は聞かないぞ。」 ←まあこれは想定内。

「それに今回はお前を名指しで依頼が来てるんだよ。」 ←これは全くの想定外。

「断るにしても、一応話を聞いてもらわないと困る。」 ←で完全に???

ヤバイ仕事か?ってビビったが、Nさんは「事務所で話す。」の一点張り。


いつに無く凄みのあるNさんに日時を指定され、渋々了承。

全く気は進まなかったが仕方ない。指定された日曜の午後、

俺は卒業した先輩から譲り受けたボロい軽自動車で郊外の事務所に出かけた。

ノックして事務室に入ったら、Nさんが渋い顔して一人でソファに座ってる。

挨拶して「依頼人はまだなんですか。」と聞いたら

「もうおいでだ。奥の応接室(防音・エアコン完備=通称VIP室)で

お待ち頂いているが、約束の時間までは間がある。

依頼の内容を説明してからの方が良いだろう。」と言う。


散々ビビらせてからの「バーカ、ガキの自由研究だよ。」

って展開を期待していたが、これは本当にヤバイらしい。

恐る恐る「断れないんですか?」って聞いてみた。

「言いにくいが、断るのはかなり難しい。お前、○◇会は知ってるだろ?」

もちろん知ってる...この地域の住民なら誰だって知ってる怖い団体。


「この依頼は、○◇会の偉いさんの口利きだ。こういう商売してると、

どうしてもああいう団体とのトラブルが起きるもんだが、

○◇会側はこの依頼を受けてくれたら過去のトラブルは水に流すし、

今後はうちの商売に一切干渉しないと言ってる。

つまり依頼人は、○◇会に随分大きな貸しがあるらしい。」

...これ、一体何のフラグだよ?


頭の中がグルグル廻り、右の瞼がピクピク震えた。

それでも必死に考えて食い下がってみる。

「いや、おかしいですよ。自分、今まで○◇会に関わる仕事なんか!」

Nさんが口の前に人差し指を持ってきて「R、声がでかい。」と遮った。

「あたりまえだ、大学生にそんな仕事廻す訳ないだろ。5月の仕事だよ。

Sさんって依頼人、憶えてるか?」そう言うと、ソファから立ち上がり

書類の保管庫から依頼カルテを取り出して来てテーブルの上に置いた。


それは電話で受けた依頼の内容を記録しておくA4のファイル。

Nさんは眼鏡を額の上にずらし、目を細めてページをめくる。

「ほら、これ。」

走り書きされた依頼人の住所と仕事の内容、それで一気に思い出した。

山の中の大きなお屋敷、自転車の修理、美形の依頼人。


その年のゴールデンウィーク、土曜の午後に自転車修理の依頼を受けた。

いつも同じ、Nさんから電話があったんだ。

「おまえ自転車詳しいだろ。修理もできるか?」

「フレームが逝ってたらさすがに無理ですけど、それ以外なら何とか。」

「じゃあできるだけ早く事務所に来い。」

そんなやり取りの後、午後一番で事務所へ。


Nさんが電話で依頼人のSさんに取り次いでくれた。

直接話してみるとSさんは女性、自転車には詳しくない。

とりあえず自転車のメーカーと型番、トラブルの内容を聞いたら、

大した修理じゃなさそう。部品も手持ちでОKっぽい。

ただ、Sさんの家の近くには自転車屋が無く、

事情が有って長く家を空けられない。

電話帳で何軒か自転車屋を探して出張修理を頼んだけど断られたって話だった。

声と話し方が何か良い感じ。

翌日の日曜、少しウキウキしながらアパートを出た。


約束の時間は午後2時。近くのコンビニで時間調整、ピッタリに到着。

指定の場所にはえらく大きな別荘、というよりお屋敷みたいなデカイ家。

玄関脇のウッドデッキに、女性向きのクロスバイクが立て掛けてある。これか。

インターホンのボタンを押すと、「は~い、ただいま。」って聞き覚えのある声。

すぐに20台半ば位の女性が出てきた。長い髪を首の後ろで軽く束ねている。


Sさんは、隙が無くキリッとした、文字通りの美人。微かに良い匂いがした。

内心「こりゃラッキーな日曜じゃん。」とか思いながらクロスバイクを確認。

トラブってるのは変速関係。 自転車自体の状態は悪くないんだけど

何故か変速ワイヤの端がほどけて止め具から外れ、変速ができない状態。

しばらく使ってなかった自転車を、最近倉庫から出してきたのかなって感じ。


「変速ワイヤの交換と調整、ブレーキのワイヤも変えたほうが良いですね。」

「どのくらいかかりそうですか?」 「1時間もあれば。」

そしたらSさんは「いいえ、あの、部品代です。」と言ってくすっと笑った。

あのね、ふわっと花が咲いたような笑顔。もう俺すっかり骨抜き。


咄嗟に「あ、聞いてませんか?うちは一件いくらで仕事受けますから。

基本、ワイヤみたいな消耗品は無料なんですよ。」と胸張って答えた。 ←馬鹿。

正直な所、Sさんが自転車関係で常連になってくれたらという下心満々だった。

「じゃ、普通の自転車屋さんに頼むよりお得なのね。」


Sさんの笑顔を思い出しながら、気合入りまくりで作業に取り掛かった。

正直、クロスバイクの変速ワイヤ交換・調整なんて難易度★☆☆☆☆。楽勝。

でもSさんのためだ。丁寧に丁寧に作業を進める、それこそ没頭。

そろそろ作業も山場って所で、背後にヒンヤリした気配を感じた。

恐る恐る振り返る。


麦藁帽子を目深にかぶって俯いた、白いワンピースの女の子。

かなりビビったが、麦茶のグラスとお菓子が乗ったお盆を持ってたので一安心。

細身でSさんより背が高い。顔は良く見えないがショートカット、中学生くらい?

Sさんの娘さんにしては明らかに年齢が近過ぎるし、妹さんにしては...

まあ、それはさておき、関係者なのは間違いない。

なら愛想良くしてた方が良いに決まってる。明るく声を掛けてみた。


「え~と、君はこの家のお嬢さん?」

→ 黙って頷く。 → 俺?


「それ、もしかして僕に持ってきてくれたの?」

→ 黙って頷く。 → 俺??


「今手汚れてるからデッキに置いといてくれる?」

→ 黙ってお盆を置く。 →俺???


「ありがとね。」

→ 黙って頷く。 → 俺????


女の子は腰の後ろで手を組み、俯いて立ったまま。

かなり微妙な空気だが、作業を続けるしかない。

見つめられたまま作業するのは慣れてないし、照れくさい。

「ずっと立ってたら疲れるでしょ?」

女の子は頷いて、さっき置いたお盆の隣、デッキに腰掛けた。

あ、家には戻らないのね...こ、これは長期戦か?


「僕も自転車乗るんだよ。ロードバイク。

ええと、ハンドルがこんな感じに曲がってる奴。

でも街中だと、こういうクロスバイクとか

マウンテンバイクの方が断然使い易いんだよね。」

女の子が黙ったままなので、ほとんど独演会状態。

でも、もしドン引きされてるなら、そのうち家に戻るだろうし、

喋ってると不思議に気分が良かったんで、喋り続けた。


作業は順調に進む、あとは変速の微妙な調整が済めば作業終了。

女の子はやっぱり俯いて、黙ったままデッキに座っていた。


しばらくして、ふと気が付いた。 振り向いて声をかける。


「あのさ、もしかしてこの自転車、君が使うのかな?」

→ 黙って頷く。


「それだと、ちょっと乗りにくくない?」

→ 黙って頷く。


この女の子が乗るとしたらサドルが低すぎるし、

明らかにポジションが合ってない。


「身長とかに合わせて少し調整しても良いかな?」

→ 黙って頷く。


初対面だし、直接体に触れたりするような無神経な真似はできない。

それに何より、Sさんの関係者。 失礼の無いように質問主体で調整。


「君の身長って155センチくらい?」

→ 黙って首を振る。


「じゃあ、160センチに近い?」

→ 黙って頷く。


「ちょっと両手を横に広げてみて?」

→ 口元が少し笑って手を広げる。


大まかだけと、ポジション調整が終わって、「完了~!」

→ 口元がまた少し笑う。


そうこうしてるとSさんが出てきた。

女の子が麦藁帽子を取り、駆け寄ってSさんの耳元に何か囁く。

その横顔が思っていたよりずっと美形だったので驚いていると、

Sさんが「オプションの作業もして下さったのね。」と声を掛けてくれた。

「あ、これも無料です。」

「一件いくらで仕事を受けてくれるから?」

「今後も何でも屋○○○を宜しくお願いしま~す。」

Sさんの笑顔を見ながら、凄く充実した気分で俺は幸せだった。

今になって思えばこれが...『フラグ』だったのかもしれない。


『出会い(上)①』 了

できる限り、1日1~2回の投稿目指して頑張ります。

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