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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第6章 2016
189/279

4701 影の里(上)①

『影の里』、投稿を開始します。

相変わらず体調不良の為、投稿間隔は長く不定期になりますが、

ご承知の上、お楽しみ頂ければ幸いです。

4701 『影の里(上)①』


「これ、一体どうなってんスかね?

見た目は二人とも、細っこい、可愛い女の子だってのに。

こんなの見せられたら、やってられないっスよ、全く。」


しみじみと溜息をついて、◆成さんが呟いた。


確かに、凄い。凄いと言う以外に言葉が無い。

いや、眼の前で繰り広げられる光景がどれだけ凄いのか。

多分俺には、殆ど理解出来ていないのだけれど。


姫の身体を借りた御影さん。スポーツウェアを着たソフィア。

もう十数分は続いている、凄まじい稽古。

そして何より、二人が浮かべている笑顔...メッチャ怖い。

何かの手違いで、どちらかの打撃が直撃すれば大変な事になる。



『冬眠』から醒めた翌日、ソフィアは退院した。

担当医は渋ったけれど、本人の意思が固かった。

結果、Sさんも俺も、ソフィアに同意。

更にその翌日、ソフィアは御影さんとの面会を望んだ。


「身体が覚えている内に、稽古をしたいんです。」


冬眠同然に低下していた代謝レベル。

しかし、何の問題も無く回復。そして、身体を動かしたいと言う願い。


『霊域』以外の場所で、その願いを叶える方法は1つだけ。

姫の身体を借りるしかない。そして、姫も、御影さんも同意した。


当然、稽古をするまで、更に2日の回復期間を置くという条件をつけたけれど。



突然、ソフィアが動きを止めた。

ソフィアの喉元、何かが動くのが見えた。御影さんの、左手?


「有り難う、御座いました。」

「かなり良くなっている。大したものだ。」

「ちょっと待って下さいよ。師匠がそこまで褒めるなんて、俺の立場が。」


「私は母から武術を習ったが、母は生粋の武人ではない。

『魔女』は妖達に舐められない程度の武技を身に付ければ十分。

しかし、◆成様は優れた資質を持ち、更に御影さんの指導を受けている。

当然、◆成様は私より強い。何の問題が?」


汗を拭いたソフィアは、涼しい顔。


「師匠に稽古を付けて貰ってから、2年半っスよ。俺。

なのに、ソフィアさんは。」

「ソフィアの筋力は◆成に遠く及ばぬ。◆成に勝てる道理が無い。」

「いや、筋力で女の子に勝ると言われても...」


「武の礎は筋力と体重。ソフィアの筋力は一般的な女子を超え、体重は軽い。

よって体重移動を始めとした、全ての『動き』が迅い。

それが、ソフィアの強さの理由。」


「お言葉ですがね、師匠。」 「何だ?」

御影さんは、妖しげな笑みを浮かべた。


「ソフィアさんの強さの理由、俺も大体は予想してましたよ。

でも、それだと師匠の強さが説明出来ないっス。

師匠はLさんの身体を借りてるんでしょ?

ソフィアさんの筋力も異常だってのに、Lさんは、何で。」


「以前も言った筈だ。『この身体に何の不足も無い』と。」

「いや、だから。」


「まあ聞け。」

御影さんの視線が一瞬、俺を捉えた。何で?


「この身体には、人であった時の我と、同じ血が流れている。」

「師匠と、同じ血?」

「我は一族を代表する武門の出。

この身体は、その血を引いているのだ。しかも、◆成よりも濃く。」


確かに...Sさんは以前、そう言った。

姫と御影さんには『生まれ変わりと言っても良い程の縁が有る』と。


「故に、この身体の能力は桁違い。筋力も、反応速度も。

些細な相性の問題が有って、使えない『術』は幾つかある。

しかし武に限れば、何の不足も無い。

ただ、身体を借りる際に結んだ約定故、筋力と体重の詳細は明かせぬ。

特にRの前では、な。」


「Lさんの筋力は、ソフィアより遥かに上、と?」

「当然だ。我はこの状態で◆成よりも強いのだから。」

「何で、何でそんな、規格外の?」

「この身体に、そして我の身体に流れていた血故。

それは、◆成の身体にも流れている。」


「俺の...じゃあ、俺の力も、その血が。」

「その通り。それは、我を生んだ一族を縛っていた『呪』の結果。」


心の、とても深い所から、湧き上がる疑問。

それは、かつて当主様から聞いた言葉。


『御影の心には今もある御方がいて、私にその面影を見ている。

未だ心の古傷が癒えていないから、心残りに縛られるのも無理は無い。』


そして、俺が見た、御影さんの記憶。

御影さんの腕の中で息を引き取った、若い男性。

あれは一体、誰だったのか。そして何時。


今なら、その疑問の答えを得られるかも知れない。

思わず口を開いた。


「『縛っていた』という事は、

その『呪』は既に、解けているんですよね?

それが、御影さんの一族と、俺達の一族の出逢いに関係あるんですか?」


「まあ、Rの、『言霊遣い』の前で始めた話だ。

最後まで、全てを話す以外に選択肢は無い。そして、我が話さずとも。」


もう一度、御影さんの視線が俺を捉えた。更に。

御影さんはゆっくりと右手を伸ばし、そっと、俺の左頬に触れた。

じぃん、と。深く染みて来る、暖かな感触。


「我が話さなければ、Rは『あれ』に話を聞くだろう。

我は『あれ』を好かぬ。Rには、成る可く『あれ』に接して欲しくない。」


御影さんの言う、『あれ』。

それは間違いなく、『智慧と記憶の管理者』の事だろう。

御影さんの、『好かぬ』理由。それは分からない。

でも多分、これは好機。


申請の手間も、許可を得るまでの時間も不要。

何と言っても、当事者本人から話が聞ける。これが大きい。

まさに、千載一遇。


「では、僕が資料の閲覧を申請するまでもなく、

御影さん本人から、事情を聞ける訳ですね?」


「その通り、だ。これも多生の縁だろう。

この際、全てを聞いて貰う事で、我等を縛っていた『呪』を完全に葬りたい。

それで我の、我自身の未練に区切りが付けられれば、それで良い。

R、最後まで、聞いてくれるな?」


大丈夫か。その話を聞く覚悟が、俺に有るのか。

しかし、俺を見詰める御影さんの瞳に翳りは無い。


『自身の未練に区切りを付けたい』


それは多分、御影さんの、心からの言葉。

ならば、それを聞くのが俺の役目だ。


深く息を吸い、下腹に力を込める。


『勿論です。お願いします。最後まで、話を聞かせて下さい。』


目の前に漂う、色とりどりの光。

それらはまるで、風に舞い散る花弁のように。


大丈夫。

『言霊』は発動した。

それはきっと、御影さんの心にも届いている。


『影の里(上)①』了

本日投稿予定は1回、任務完了。

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