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0303 旅路(中)①

R4/06/20 追記

此方にも「いいね」を頂きました。

自分でも気に入っている作品ですので、とても嬉しいです。

投稿をする上で、何よりの励みになります。

本当に有り難う御座いました。

0303 『旅路(中)①』


1月3日の夜。

夕食の後片付け当番を終えて、リビングへ移動。

後片付けと言っても、未だお節料理中心の食事だから楽勝。

まあ、少し前まで、皿洗いは本職(?)だった訳だし。


そして夕食後のお茶の時間。

いつもより豪華なケーキを不思議に思っていると、姫が教えてくれた。

「ふふふ、実はね、今日はSさんの誕生日なんですよ。」

「え、おめでとうございます。」

「ありがと、26才にもなってって気もするけどね。」

「前もって知らせて下されば、プレゼントを御用意致しましたのに。」

「あら、プレゼントは何時でも受け取るわよ。」


Sさんは悪戯っぽい笑顔。

これは明日、早速買いに行った方が良いな。うん、そうしよう。

「はい、何が良いか考えておきます。」

横から姫が俺をつつくので振り向くと、少し不満そうな顔で俺を見ている。

「分かりました。Lさんの分も考えます。一ヶ月以上遅れちゃいましたけど。」

姫は満足そうに頷いた。可愛い娘だ。


「でも、こうして3人でお正月を一緒に過ごしてるなんて、何だか不思議。

随分と長い間、年末年始の事なんか、考えてる余裕も無かったのに。

Lが無事で本当に良かった。本当に、R君にはどんなに感謝しても足りない。」

「いや、僕が一番良い思いをさせて貰ってます。まるで夢のような生活で。」

「Rさんは4月から大学に戻るんですか?」 姫が首を傾げた。可愛い。

「10月から戻るつもりです。それまではバイトして、

大学は一応卒業しておこうかと。」

休学した分、学費が余計にかかるけど、両親に負担はかけられない。


「Lも4月から高校、行きたいんでしょ?」

え、姫が高校へ?思わず姫を見る。

「行きたいって言うより、集団生活も経験しておかないと、

将来少し困るかな?と思って。それでSさんに頼んだんです。

Rさんが大学に戻ったら一日中一緒にはいられないし、丁度良い機会だから。

でもRさんが10月からなら、私も10月からにしようかな。」


一応、Sさんに確認する。確か、姫は以前メールで。

「あの、Lさんは中学校には行ってないんですよね。」

また、Sさんは悪戯っぽい笑顔になった。

「『中学から高校に進学したけど家庭の事情で転校』って事にするの。

一族の中には学校を経営してる人もいるし、大して難しくないと思う。」


...そうだ、この一族の「社会的な影響力」をすっかり忘れていた。


「でもL、折角自分で考えて決めたんだから、4月から高校に行きなさいよ。」

「は~い。」 姫は少し、不満そうだ。

「Lさんが4月で僕が10月なら、半年間は僕が毎日Lさんを送迎できますよ。」

「あ、それが良いです。4月からにします。」 本当に可愛い娘だ。


ふと、会話がとぎれた後。

一気にコーヒーを飲み干して、Sさんが言った。

「私も今日で26才になったし、色々考えて決めた事があるの。」

姫は無言のまま、優しい笑顔でSさんを見ている。

何の話か知っているのだろうか。知ってて、黙ってる?

だとすれば、ここは俺の役割だろうと思ったので、Sさんに尋ねた。

「あの、何を決めたんですか?」


「子供をね、産もうと思って。」

「へ?」


一瞬、何が何だか判らなくなった。思わず聞き返す。

「ええと、だ、誰の...」

Sさんは少し、眉を顰めた。

「R君に決まってるでしょ。何言ってるの。」

その言葉を聞いて俺の頭の中は完全に真っ白になった。

「あの、何で。何で僕の?」

「『何で?』って...R君、良い加減にしないと怒るわよ。」


Sさんの眉間に小さな皺。もう既に怒ってる。待って、もう少し時間を。


「あのう、RさんはSさんが好きで、SさんもRさんが好きで、

それで2人は同じ屋根の下で暮らしてるんですよ。

子供が出来ても何の不思議も無いです。

Rさんは何故そんなに慌ててるんですか?変なの。」


姫、GJ!! ナイスフォロー。


「あの、Sさんがあまりにも綺麗な人で、器も大きくて。強い力も持ってるし。

いや、確かに僕は凄く大事にして貰ってましたけど、

まさか『子供が欲しい』と言われるような、

そんな感情からではないんだろうなと、そう思ってて。

そう、誤解です、誤解してたんです。だってSさんみたいに素敵な女性なら、

凄い許婚とか居そうじゃないですか。一族の人に。」


「ふうん、私、許婚がいるのに別の男と一晩過ごすような女だと思われてる?」

「いや、だから、それはLさんの事があって仕方なく、と。あ。」

...しまった、自爆したか?


「あの時、『君が好きよ』って言った筈だけど。まあ、良いわ。

で、誤解は解けたんでしょ?それじゃ、改めて君の意見を聞かせて頂戴。」

「そんな風に想ってもらって嬉しいし、その、とても光栄だと思います。」

「うん、良い返事。最初からそういう返事が聞きたかったわね、女としては。」

「済みません。」俺はそれとなく額の汗を拭った。


「一件落着ですね。私も二人の事、応援します。」


!? 姫、それは一体どういう?

「この件を決める前に、Lにも相談したの。

Lが嫌だと言うならあきらめるつもりだった。一応説明しておくけど、

私達のしきたりには千年前から変わってない事も沢山ある。

だから結婚の形式も一夫一婦制とは限らない。

もちろん今の日本の法律に則って婚姻届けを出す場合もあるけど、

事実婚や通い婚もまだまだ多い。一夫多妻も、その逆も普通にある。」


「私もRさんが大好きだから、

大人になったらRさんの子供を産みたいと思う筈です。

だからSさんの気持ちは凄く良く分かるし、応援したい気持ちです。

それにRさんが、Sさんの事も私の事も、

真剣な気持ちで凄く大事にしてくれているのが分かりますから。」


「L、ありがと。」 Sさんは右手の中指で目尻の涙を拭った。

「R君、そういう訳だから。私が妊娠するまでは、私の部屋で寝て貰います。」

あの、それは一体何時から?と尋ねようとしたら、姫がいきなり手を叩いた。

「そうだ、それを誕生日のプレゼントにしたら良いんじゃないですか?」

眼が輝いている。 待って...俺、まだ、話の展開に追いついて無いから。


「さすがL、良い考えだわ。最高のプレゼントね。」

それは今夜から、と、姫の一言で決定した。


Sさんの部屋のドアをノックする。

「どうぞ。」 Sさんはベッドで本を読んでいた。

俺はベッドの向かい側にあるソファに座った。

「2つ、質問があります。」 「Lの前では出来ない質問ね?」

「そうです。」 「できるだけ真剣に答えるわ。」


「もし子供が生まれたら、その子は、その、一族の一員として術者に?」

「...やっぱりね。君は優しいから、絶対その質問をすると思ってた。」

Sさんは丁寧に本を閉じ、ベッド脇のナイトテープルに置いた。


「一族の中でも術者になるのは少数、術者になるかどうかは先天的な能力次第。

でも君が聞きたいのはそんな一般論じゃないのよね?」

「それは、何しろSさん、いや○△姫様の子ですから。」

「そうね。でも考慮すべき要因は私だけじゃない。」

「ええと、それはどういう?」


「自分では全然自覚してないけど、あなたは相当な資質を持ってる。

私が今まで何度も言ったでしょ?今、調べてもらってるけど、

多分あなたのお母様は私達の一族と血縁があると思う。」

「え、でも、俺は全くの零感で。その方面は全く。」

「あなた、自分の事を冴えない男だと思ってるみたいだけど、

それ、多分違うから。私ね、Lの件で君の行動や言動を見ていて思ったの。

あなたはLを救うため、そして私やKのため、ある存在から遣わされたのだと。

それは、あまねく魂を悪しき縁から解き放ち、良き縁を結ぼうとする力。」


「その力が、『良き理』なんですか?」 「あなた、何故?」


Sさんは息を呑み、次いで溜息をついた。

「それも管から?」

「はい、とても大事な言葉だろうと思ったので覚えていました。」

「心臓が止まるかと思った。でも、直接その言葉を遣うのはなるべく避けてね。

それは仮の名だけど、それでも生身の人間には言霊が強過ぎるから。」

「分かりました。肝に銘じます。」


「じゃ、話を戻すわね。

多分あなたはLを救う任務を帯びていて、

その時が来るまで『隠されていた』んだと思う。

去年の5月、Lに出会った時点であなたに『普通の』彼女が居たら、

Lはあなたに模擬恋愛の相手を依頼せず、自分の気持ちを殺した筈。

結果、術は完成していたかも。つまり、今のLはいなかったかも知れない。」


「あなたのお母様に私たちとの血縁があって、

あなたの資質が私の予想通りだとしたら、

あなたと私の子が『力』を持って生まれる可能性は高い。

そして、もし女の子なら、その可能性は更に高まる。」


Sさんは一度眼を伏せた後、真っ直ぐに俺を見つめた。

「これが正直な答。どう?やっぱり断る?今ならまだ間に合うけど。」


「いいえ、僕にとって大事なのは

Sさんが正直に答えてくれるかどうかだけでしたから。

どんな人間も、持って生まれたものと向き合う人生以外あり得ない。

なら、幸せになる方法を、僕とSさんがその子に教えてあげれば良いんです。

僕は少し頼りないかも知れないけど、Sさんが母親なら絶対大丈夫。

保証付きです。断る理由なんか有りません。」


俺はベッドに潜り込んでSさんを抱き締めた。

Sさんも俺にキスをして、悪戯っぽく微笑んだ。

「面倒くさいから、もう一つの質問にも答えます。

今の日本の法律上、生まれてくる子の立場は非嫡出子、いわゆる私生児ね。

そして私はシングルマザーの仲間入り。」


俺は思わず体を起こした。

「『私生児』って、『シングルマザー』って、そんな...」

「あら、じゃ私を『内縁の妻』にして、生まれる子を認知してくれる?

それなら法律的にはほとんど不利な事は無くなるんだけど。

私にも、子供にもね。」


「Sさんは、それで良いんですか?『内縁の妻』で。他にもっと良い方法が。」

「今の日本では重婚は禁止されてるし、『法律上の妻』の座はLの予約席。

私は『内縁の妻』で満足よ。

もともと法律上の立場なんて私には全然関係ないんだし。」


そうなのだ。この人は法の保護など必要としていない。

自分で自分を守る力を持っている。

だから誰にも頼る必要は無い。つまり、真の自由。

そんな人が、これ程までに俺を想ってくれている。胸の奥が熱くなった


「分かりました。『内縁の妻』になって下さい。」

「変なプロポーズね。でも、謹んでお受け致します。」

「ありがとうございます。」

Sさんはもう一度俺を優しく、でもしっかりと抱きしめた。


「じゃ、私も妻の義務を果たさなきゃ。」 「え?」

「夫を支えて家庭を守るのは妻の義務。だから、もうバイト探すのは止めて。

お金の心配はいらないから、しっかり勉強して早く卒業して。ね、お願い。」

「ええと、それは普通『内縁の夫』じゃなくて『ヒモ』って言うんじゃ?」

「馬鹿ね。人聞きの悪い事言わないの。」


『旅路(中)①』了


本日は2回投稿予定。1回目、任務完了。

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