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『藍より出でて ~ Bubbles on indigo river~』  作者: 錆鼠
第5章 2014~2015
156/279

4001 徴Ⅱ

皆様、明けまして御目出度う御座います。

新年最初の投稿は未公開の新作。『徴Ⅱ』、お楽しみ頂ければ幸いです。

4001 『(しるし)Ⅱ』


午後の日差しの中、ウッドデッキのベンチでのんびり過ごす。

晩秋とは言え、良く晴れた日は暖かくて気持ち良い。


それにしても、庭の木立を飛び回る小鳥達。雀にメジロ...

何故、小鳥達は全く警戒しないんだろう?

管さんは狐、雪は犬。此処までは、まあ分かる。

でも、鵬は巨大な猛禽だぞ?あまりにも無防備な気がするけど。


「お父さ~ん。」 

翠の声、だ。藍と二人、庭で虫取りをすると言ってたけど。

この季節、虫は殆どいない。テントウムシの越冬場所でも見つけたのか。


「お父さ~ん。早く来て。藍が、変なモノ捕まえたの。早く。」


変なモノ?翠はテントウムシを知ってるから...

翠が知らない、晩秋の虫。大型の蛾とか、カマドウマの類い?

ウッドデッキを下り、二人の所に向かう。



「今まで、見た事がないモノなんだけど...」 

俺を見上げる翠の瞳に困惑の色。翠が、見た事のないモノ?

「ガ、だよ。ちょっと、おおきいだけで。」

藍は虫籠を背中に隠した。普通の蛾なら、隠す必要は無い。

というか、何時もなら得意気に、虫籠の中を見せてくれるのに。


「藍。捕まえたのは蛾、なんだよね?」 「...うん。」

「じゃあ隠す必要は無いでしょ。虫籠を見せて。」 「でも。」

「大丈夫。蛾じゃなかったら、どうするか一緒に考えよう。」

「ホント?」 「うん。」



しかし、藍が差し出した虫籠を見た瞬間、思考がフリーズした。


何だ、これ?

ぱっと見は、大型の蛾。

翼の色と模様は、ヒメヤママユに似ている。しかし。


体の模様は...いや模様じゃない。着物?

そして頭部。俯いてるけど、髪の毛と横顔が見える。

『これ』は、虫じゃない。

あやかし、だ。


一瞬の後、思考が急加速。しかし、混乱が思考を上回る。


『これ』は、お屋敷の結界をどうやって抜けた?

何故、管さんや鵬は『これ』に反応しなかった?


深呼吸。懸命に心を静める。

「ええと、翠。」 「はい。」

「お母さんか、お姉さんを呼んできてくれる?出来るだけ急いで。」

「うん。分かった。」 次の瞬間。


「お待ち下さい。」

背後から聞こえた声。そっと、振り向く。

「お父さん。あれ...」 翠も、魅入られたように足を止めた。


虫籠の中のものより、かなり大きい。

白い、着物みたいな服が目に付く。何より、大きな眼、とても綺麗な顔。

心の奥に、不思議な感情が湧き上がる。

何となく嬉しいような、懐かしいような。何故、だろう?



「どうか、その者を籠から出してやって下さいまし。

そのままでは、長く保ちません。」


目の前、距離は1m位。

羽はハッキリ見えないけど、『それ』はフワフワと浮いている。

既視感。やっぱり、見覚えが有る。

一体、何時、何処で?


「重ねてお願い致します。その者を籠から出してやって下さいまし。どうか。」


「お父さん。このままだと、この子、死んじゃうの?」

藍の声。我に返る。

「そうだね。出してあげようか。」

「うん。もう、かんさつしたから。」


蓋を開けると、『それ』は蓋に手を掛けてた。

虫籠を出て、何度か羽を動かした後、ゆっくりと浮き上がる。


「有り難う御座います。」

『それ』は、安心したような笑顔と声音。


「失礼ですが、以前何処かで、お会いした事が?」

「はい。あなたのお祖母様とは旧い知り合いです。

その縁でお母様とも、そして何より。

幼い頃から、我らはR様を、本当に良く存じておりますよ。」


『それ』も、俺を知ってる?


「お祖母様とお母様の術で、R様の記憶は封じられました。

ただ、既に術は解けたようですし、これなら如何ですか?」

不意に、『それ』を中心にして光の輪が拡がった。

いや、光の輪では無い。光を放つ無数の羽。

何時の間にか『それら』が俺達を取り囲んでいた。


やはり、前にも、この情景を見た事が有る。一体、何時?

心と記憶の奥底から湧き上がる、激しい感情。

懐かしいような、何となく嬉しいような。


「あなた様を、我らの里にお連れするつもりでした。

それを、あなたのお祖母様とお母様は、良く思われなかったのです。

ですから、我らはお祖母様とお母様の寿命が尽きるのを待って、

目的を達成するつもりでした。」


つまり、俺を、妖の住処に?

「しかし、あなたは『あの方々』と出会い、変わりました。

我らの手など、到底及ばぬ存在へ。」


「祖母と母が、僕の記憶を封じた後も、僕の事を...」

「勿論です。最初の内は、あなたを里にお連れする機を覗うために。

あなたが『あの方々』と出会ってからは、その変化を見届けるために。

我らが、この場所に自由に出入り出来たのは、

あなたを里にお連れするのを諦めていたからでしょう。」


『あの方々』? それはSさん、姫、そして『あの人』の事か。

『それ』は、俺が3人に出逢う前からずっと、そして出逢った後も?


「左様。あなたが、この場所に居を移した後は、特に優れた者を。しかし。」

『それ』は抑えきれないように、クスクスと笑った。

「我が一族有数の...それを、まさか素手で。


そう言えば、二人は虫取り網を持っていなかった。

この季節。もう、網を使う虫はいないと思っていたから。

「それを見つけた姉君も、捕まえた弟君も。あなた以上に興味深い御方。」


一瞬で、心が醒める。


「子供達を里に。もし、そうお考えなら、私も祖母や母と同じく。」

「いいえ、それは違います。」 「では、どういう?」


「あなた方との友誼を結び、その行く末を見届けたいのです。

許して頂けるなら、あなた方の求めに応じ、我らの力をお貸し致しましょう。

『あの方々』の力に比べれば、微々たるものでは御座いますが、何卒。」


不意に、右肩に重さを感じた。視界の端に、白い毛の塊。


「申し出を受けよ。」 管さんの声。

「あれらは、極めて旧く、強い力を持つ種族。

何の影響も無いので、これまでの出入りを咎め無かった。

しかし、正式に友誼を結ぶと言うなら、姫にも若にも、将来の助けになろう。」

「でも、SさんとLさんには。」

「必要なら我から説明する。心配ない。それに、あれを見よ。」


翠と藍の周りを、『それら』が飛び回っている。

そして、翠の手や藍の肩に舞い降りているものも多い。


どうする?俺の独断で決めても良いのものだろうか...

只でも二人は人ならぬモノとの関わりが濃すぎて心配なのに。

その時、二人の笑い声が聞こえた。

屈託の無い、無邪気な。そして『それら』の笑い声も。

やはり、『悪意』を感じない。それなら...


「翠、藍。」 二人は振り向いた。

「なに?」 「お父さん?」 やっぱり、何もかも、何時もと同じ。

「それ、二人が捕まえたのは妖で、沢山いるんだけど。」

「うん。」 「すごく、キレイだよね。」


「二人と、友達になりたいって言ってるんだけど、どうする?

お母さんとお姉さんじゃなく、二人に決めてもらいたいと思って。」


「なにを、きめるの?」 藍は不思議そうな表情。

翠は、藍の後ろでニコニコ笑っている。


「...いや、だから、友達になるかどうかを二人に。」

「もう、ともだちだよ。ね、おねえちゃん?」

「うん、みんな、友達。」


「やはり、若も姫も、我らが見込んだ御方だ。」

それから暫く、辺りは明るい笑い声に包まれた。


『徴Ⅱ』完

本日投稿予定は1回、任務完了。

次作の検討と投稿準備のため、明日からお休みを頂きます。


1月7日追記

お休みの間、別系統の作品を投稿致します。

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