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0210 出会い(下)②

R4/06/20 追記

此方にも「いいね」を頂きました。

自分でも気に入っている作品ですので、とても嬉しいです。

投稿をする上で、何よりの励みになります。

本当に有り難う御座いました。

0210 『出会い(下)②』


次の週末、お昼過ぎ。 男が一人、Sさんを訪ねてきた。

背が高い。季節外れの濃いサングラスで表情は読み取れないが、

身のこなしや雰囲気からして、只者じゃないのは明らかだ。多分、武闘系。


姫と俺がウッドデッキで自転車の手入れをしている間、

Sさんと話をしてから男は帰った。多分30分くらい。

帰り際、ウッドデッキの前で立ち止まり、姫と俺を見つめた。

何か珍しい物でもみるような、視線。 それから。

『成る程』と呟く声を聞いた。そして、血の匂い。

バイト先の厨房で大量の魚を捌いた時のような...不吉だ。

男の車が遠ざかると、姫は『あの男の人、嫌い。』と呟いて、

俺のシャツの裾を掴んだ。俺も嫌いだ、あんな奴。


その日の夕食後、Sさんに男の事を尋ねた。


「あれは『上』との連絡係。大きな作戦だから万全を期す必要がある。

それに、この間の侵入経路を辿ってアイツ等の居場所が特定できそうだから。」

「居場所が特定できたら、どうなるんですか?」


「外法を使う者達は放置できない。『上』が対策班を送り込むでしょうね。

それに、対策班がアイツ等を始末してくれたら、

こっちの仕事量も半分以下になる。」


さっきの男から感じた血の匂いの記憶がゆっくりと、

確かに蘇る。 そして不吉な予感は、あれからずっと...


「あの、『始末』って?」

もしかしたらこれも、軽率な質問だったかもしれない。


「そうね、術者も人間だから。

居場所さえ判れば、刃物でも銃でも、方法は幾らでもあるって事。」

そう言ったSさんの横顔は、何処かとても、哀しそうに見えた。


それから数日間は無事に過ぎた。

しかし姫の誕生日まで一週間を切った11月20日。

もう一度、干渉による幻視に巻き込まれた。


その日も朝から特に変わったことは無く、

集中して意識をコントロール出来ていた。

夕方になっても異変は無いまま、いつも通りの夜が来ると思っていた。

しかし。

夕食前、シャワーの着替えを取りに1人で部屋へ戻った。

着替えを持って振り返った時、PCデスクの脚に躓いて、

意識のコントロールが一瞬途切れる。

その刹那、『鍵』が外れて通い路が開き、膨大なイメージが流れ込んだ。


暗い、大きな部屋。

俺は両手をロープで後ろ手に縛られ、冷たい床に転がされていた。

部屋中央のテーブルには燭台が2つあって、大きな蝋燭が3本ずつ燈っている。

さらにその奥のソファには女性が一人、ぐったりと横になっていた。

何とか体を起こして、息を呑んだ。


姫、だ。間違いない。意識がないのか。


ここは何処だ? 気を失ってた? 何故こんな事に?

混乱していると、足音が聞こえた。部屋に入ってきたのはセーラー服の少女。

21才には見えなかったが、すぐに判った。 この少女がK。

「気が付いたのね。思ったよりずっと手間がかかって、本当にイライラした。」

遠目にも、かなり不機嫌な表情だと分かる。

そして何時の間にか、その傍らに大きな黒い蛇がとぐろを巻いていた。

大きく、燃えるように赤い目玉。あの日、俺の部屋の窓の外にいた奴、だ。


少女が近づいてきた。

姫に良く似ている。あるいは姫が成長するとこうなるのか、

そう思わせるような、凄みさえ感じる美貌。

しかも年上の分だけ、女性的な魅力は姫を上回っている。


「君がKか?」 「...そうだけど、何故判ったの?」

「相手が若い女性だというのは聞いていたし、それに。」

「それに?」

「この前、干渉された時と同じ気配。とても冷たくて、寂しい感じ。」

少女の右頬が微かに動いた。


「不思議ね。術者でも『気紋』が識別出来るのは...」

「君に頼み、いや、お願いがある。」

「敵に頼み事って、一体どういうつもり?」

「君はとても強い力を持っていると聞いた。

どうか、その力でLさんの術を解いて欲しい。頼む。」


「あなた、馬鹿なの?術を解いたら、その場で私たちの計画はお終いじゃない。」

「そんな計画が実現しなくても、君は自分の好きなように生きられる筈だ。」

「一体何が言いたいのか、全然理解できないわね。」

「君に会って分かったんだ。君はとても綺麗で、しかも強い力を持っている。

それなら君は誰かを不幸にしなくても生きていけるし、

誰にも頼らずに自分の幸福を実現できる。そうだろう?」


「...仲間を裏切れって言うの? 馬鹿馬鹿しい。

これは私が生まれる前から進められてきた計画なの。

今更私一人で、どうこう出来るものじゃ無い。」

「計画したのが君でなくても、術を掛けたのは君だろう。

君が掛けた術なのに、まさか、君もそれを解く事が出来ないのか?」


「解けないなんて言ってない。それに、あんな悪趣味な術、私は使わない。」


「やっぱり、そうか。」

心が乾涸らびて行くような哀しみが、胸の奥を貫いていく。


彼女は怪訝そうに眉をひそめた。 「何が『やっぱり』なの?」

「前に干渉された時の幻視で、幼い女の子を俺は見た。

『L』と呼ばれていたが、違う。確かにあの子にはLさんの面影があった。

でも、あの子はLさんじゃない。」


「それで?」

彼女の顔色が蒼白く変わり、眼には刺すような光が宿っていた。


「あれは、あの女の子は、君だ。

幼い頃、Lさんと同じように肉親を殺され、君は拉致された。」


彼女は左手を握りしめた、その拳が小さく震えている。

「同じ哀しみを経験した君なら、Lさんの辛さが判るはずだ。

頼む、彼女の術を解いてくれ。術を解いてくれるなら、俺はどうなっても」


「...黙りなさい。」

青い炎が、少女の全身からユラユラと立ち上るのが見えた。

熱い。まるであたりの空気が燃えているようだ。

チリチリと、俺の髪と服が焦げる匂い。


「不愉快ね。あなたの欲望に細工をすれば

簡単だと思ってたけれど、それじゃ気が済まない。」

少女は俺を見下ろして微笑んだ。

「あなたの気持ちを変えるより、彼女の気持ちを変える方が面白そうだわ。

あなたの目の前で散々慰み物にされても、気持ちを変えずにいられるかしら。

妊娠の心配は無いらしいし、楽しみね。」


腹の底から湧き上る、激しい怒りと、そして哀しみ。


「やめろ!やめてくれ。そんな事をして何になる。

不幸と憎しみの連鎖を生むだけだぞ。」

「『力』が手に入る。長い間、虐げられてきた私達の望みを叶える『力』が。」

「それは組織の望みであって、決して君自身の望みではない筈だ。

他人の心や命を犠牲にしてまで叶える望みなんて、哀しすぎる。間違ってるよ。」


「あら、あなただって、あの娘を救うためなら、

私たちを犠牲にしても良い、そう思っているんでしょ?

まあ、今はそんな事どうでも良い。お楽しみの時間よ、ほら。」

2人の男が部屋に入ってきた。ゆっくりと部屋の奥に歩いていく。


その時、俺の背後、手首の上で何かが動いた。

ふわふわの毛と、ロープを齧るような感触。管さん?


ロープが解けた。

俺は跳ね起きて走り、男たちに飛び掛った。

先手必勝。全力の一撃で一人目を殴り倒し、もう1人に飛び掛る。

管さんはシェパードほどの大きさになって大蛇と睨み合っていた。

当然、二人目の男は身構えていたので先手は取れない。

反撃で何発か殴られたが、怒りのためか痛みは感じなかった。


反撃には構わず、思い切り振りかぶった右拳を叩きつける。そして左拳。

重心を落とし、のけぞる男の背後に回った。下段の蹴りで足を払う。

少女もその巻き添えを喰い、吹き飛ばされるように倒れた。


菅さんは大蛇を部屋の外に追い出したのか、双方とも姿が見えない。


管さんのお陰で形勢は一気に逆転。

床に倒れた少女は上半身を起こしているが、男たちはピクリとも動かない。

少女が悔しそうな表情でこちらを睨む。倒れた拍子にスカートが捲れたのか

白い太腿が露になっていた。 見下ろすと、怒りで眼が眩む。


「Lさんにしようとしてた事、君にしてあげようか。

どんな気持ちかな? 文字通り、自業自得だよね。」

少女は俺の視線を辿り、あわててスカートを整えた。

怯えた眼で、俺から距離を取ろうとする。

構わずに少女を押さえつけ、セーラー服を引き裂いた。

下着をずらすと形の良い乳房が露わになる。少女は小さく悲鳴を上げた。

白く美しい裸体が目の前で震えている。


激しい怒りが、昏く歪んだ欲望に変わっていた。少女の乳房に手を。

「お願い、止めて。許して。」 涙が一筋、少女の頬を伝う。


その瞬間、心の中で何かが崩れた。俺は、一体何をするつもりだった?

それこそ、不幸と憎しみの連鎖を生むだけなのに。

狂った欲望は、既に哀しく醒めていた。


ゆっくり、少女から離れて立ち上がる。上着を脱いで少女の体に掛けた。

「嫌な思いをさせて悪かった。あの娘を助けられれば、俺はそれで良い。

君を酷い目に合わせるつもりなんて、全然無かったんだ。本当に済まない。」

部屋の奥、姫が寝かされているソファへ。 一刻も早く、姫を。


「ふふふ。」 背後で、乾いた笑い声。

少女が、俺の上着を肩から羽織って立ち上がっていた。

「もう少しだったのに。あなた、面白いわね。」


激しい眩暈、立っていられない。思わず床に手をついた。


俺の部屋。手をついた先に、着替えが落ちている。

壁の時計からすると、「それ」は僅か1~2分間の出来事だったようだ。

幻視から醒めても、眩暈は一向に治まらない。


廊下を走る足音が近づいてきて、Sさんが俺の肩に手を掛けた。

「大丈夫?今、アイツの気配を感じたから。」


「...今回のは、かなりキツかったです。」

遅れて駆けつけた姫に俺を任せ、Sさんはホットウイスキーを作ってくれた。

それを飲むと眩暈が少し治まったので、リビングに移動してソファで横になる。

俺の顔色が相当に悪かったのか、

それともダイニングへ移動中、再びよろけて転んだのが悪かったのか。

涙目の姫を説得することができず、リビングのソファに横になったまま、

夕食を一匙ずつ食べさせて貰う羽目になった。


Sさんは、姫と一緒に「はい、アーンして。」とか言って

面白がっていたが、そのうち、1人で部屋に戻ってしまった。

俺は自分で食べられる事を何とか姫にアピールしようとしたが、

一生懸命な姫の顔を目の前にすると、

先ほど判明した自分のセーラー服嗜好が何とも後ろめたい。

結局「スプーン食」を完食した(させて頂いた)。

それは照れ臭いけれど、少しだけ幸せな、罰ゲーム。


『出会い(下)②』了

本日投稿予定は1回、任務完了!

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