考える女たち
僕の周りにいる女は自分の考えで動くんだよ、山田。僕が指示して動かしているわけでない。自分から勝手に動いている。そんな女ばかりなんだ。
山田、お前は、里依のことを深窓の令嬢だと思っているように、少しズレている。お嬢さん校に飽きて国立附属受けるくらいな女。本来は理工に行きたかったのを、母に止められて仕方なく経営経済にきたくらいなんだ。
女は男の意見について行くと思っているみたいだけど、違うからな。まあ僕は、有体に言えば彼女達のATMなんだよ。ただ、そのカネは、自分の見栄の為の、贅沢の為に欲しいカネでなく、これからの事を考えて、やりたい仕事を事をやる為の数千万円、いや、もしかしたら億単位のカネだ。それを引き出せる能力があのふたりにはある。それを僕は提供する、あのふたりに。だから僕は稼ぐ。人が羨むぐらい。そのカネで、自分の好きな女が、大好きな仕事を憂いなくしてくれれば、それが僕にとっての最高だから。それを見れる僕はなんて幸せなんだ。そう思ってカネを儲けている。僕は金儲けは上手いけど、みんなが欲しがるモノを作ったり(これはキョウコさん)、新しい事を物を見つけて、調整し世間に出したり(これは里依)は不手だから。だからこそ、この二人から齎された最良の未来を見せられて僕はワクワクしていたんだ。
それをつまらない、旧態以前の枠組みの柵の中の考えから、僕がインモラルに愛人を作り、妻の里依を蔑ろにしていると、義憤に駆られ、僕に対して何かするなら、それは分かる。悪いのは僕だから。二人の女性の手を取ったんだから。
それをただ里依の為に、単に須藤の愛人なんだからと、僕のキョウコさんにつまらない事実無根の疑惑をかけて、それでキョウコさんが追い詰められているなんて、僕は許さない。だから、彼奴の義憤の元である里依を使う。僕の妻である里依が、僕の愛人と言われる人の元になんの気後もなく、笑顔で赴くのを見て、どんな顔をするか楽しみだ。それに明日香も連れて行くってさあ。それで、彼奴がどんな顔するのか見たい。ワイドショーさん、こっちの方がいい絵撮れますよ。なんて言って見たい、ふふふ。
今、TVのワイドショーの中継が、里依がキョウコさんの所へ陣中見舞いへ、あのマンションに向かう所だ。丁度、マンションのエントランス付近で里依にインタビューしている映像が流れる。時間もピッタリ。
「夫の愛人とはどなたの事を言っているのでしょうか? 夫の愛人を鏑木さんの事だとお思いなら、こちらとしては無実無根と申し上げます。そして、今回のこの騒動で、鏑木さんの会社ラディッシュの業務が滞こっている事に、出資者であるミッドシズンもなにがしかの対処をと考えてます」
うん、カッコいい。さすが里依だ。明日香も可愛く映っている。
「明日香、パパは、見ているよ」
と、画面に思わず手を振ってしまう。うん、可愛い。隣にいる林田さんが、うんざりという顔をするが無視。そのまま里依は続けて話し始める。
「私がここに来た理由について、マスコミに話すことなどありませんが、夫のビジネスパートナーである鏑木さんがマスコミがマンション前にいて何もできないと、このところお困りになってるということで、少しでもお力になりたく、孫のように可愛がって頂いている娘と一緒に激励と差し入れを持って来ただけです」
本当に里依が言えばそう思える。里依は人を説得させる能力があるだよなあ。
そんな事を思っていたら、次の指示をとか聞いてきた。現場に任せるって言っておいたのになあ。
「明日香もいるから、安全のため、もうマンションに入ってもらえ。何かアレば、警察にすぐ通報する様に」
と指示すれば、TV画面は、スタッフから荷物をもらいマンションに入る、明日香を抱っこした里依が見える。こういう時の里依ってなんか綺麗だなあ。自分の妻だけど、なんか次元の違さを感じさせる。本当に高級な女なんだなあ。
「どうした?」
そんな僕の変化に気がついた林田さんが訊ねてきた。
「里依が綺麗だなあって思えて」
「ああ、惚気か? ふん、その女を放ったらかしにしているのはどこの誰なんだ?」
「そんな事ありません。ちゃんと僕は一緒に暮らして、明日香を一緒に育てているんですよ。お風呂だって入れてるし、夜寝る時は本も読んであげてます」
「ああ、アレだけ甘やかされて、なにがぁちゃんとだ」
「そんな事ありませんよ」
「ああ、なんだ気がついてないのか? 全く。嬢ちゃんは、お前さんに嫌われたくないから、全て『はい』しか言わなんだなあ。愛人がおっても、家に帰ってきてくれるからのう、子供を一緒に育ててくれるからのう。自分が望んだ仕事させてもらえるからのう。愛人の所に入り浸ったってしまわないからのう。そんなんじゃたら、気がついたら誰かのモノになってしまうなあ」
嗤いながら目を窄める。
僕の気がつかなかった事を林田さんから指摘された。僕は無言だ。
「まあ、いい、その内分かるだろよ。ふんっ」
何か含みを込めた話をするが、僕は何か分からない、何がある?
「で、これからどうする?」
「その前に、相手の方はどうしてます?」
「須藤もただの男とか、夜の社交で騒いでるらしい。昨日も六本木のクラブで騒いでいたらしい」
「やはりつまんない男ですね。もう少し面白い事してくれれば、楽しめたのに。所で、一介の官僚には六本木のクラブは似合いませんよね。どこからその金出ているんですか?」
「ああ、まあ出どころはあまり良い所ではないなあ、六本木だしのう。それに其奴がつまらないなど、分かっていたんじゃなかったか? アレが小さいとか、入れたらすぐとか言ってなかったかのう。」
「僕はそんな明け透けたことは言ってませんよ。全く。で、山田はそんなヤバい奴と、どんな知り合いなんですか?」
クッククと林田さんは声を上げ、
「まあなあ。これからが面白い。其奴のバックにいる政治家のスキャンダルが出る。そうすれば、この乱痴気騒ぎも少し落ち着くだろう。まああちらはこちらと違い、本当にしているからなあ。よくあんな杜撰な方法で考えたなあ」
「もしかしてその手引きをしたのが山田ですか?」
「いや、その前の所長だなあ。そんなに簡単に都合良くいかんのう。それにそんなに簡単だと、ボンもつまらんだろ、ああ?」
林田さんは唇を細く左右に引っ張って嗤う。
「人間って者はのう。忙しくなると変な所で馬脚を現すのじゃ。それが人により致命的な事になりやすい。
あのババアはこんな時でも何の事ないように、普通に過ごしているだろう? 人間の質が違うんだじゃなあ。マスコミに追われて、買い物に行けないとか悩まないし、困らない。誰か助けてくれるかかもしれないが。デリバリーでいいしとか、まあそれは、今回は嬢ちゃんだなあ。人の分って面白いのう。で、其奴はどうなるかのう、ふんっ」
やっぱり林田さんは怖いよ。
スマホが光る。里依からだ。
「無事、キョウコさんに会えました。元気です。少し怒っているようです。後、アレなんですか? 幾らキョウコさんの安全策としてもやり過ぎ」
とLINEにメッセージが光る。怒りマークまである。
覗き見した林田さんは
「なんだ、そのアレは」
「以前、キョウコさんの商標取られた時に、防犯カメラつけたんですよ。マンション全体に。キョウコさんの夫が自暴自棄になるといけないと思って。その事ですよ。きっと」
「マンション全体にって、お前。それを何故、あのババアか見れるのだ? もしかして」
林田さんは驚いてこちらを見ている。
「林田さんちにもあるでしょう防犯カメラぐらい。それをちょっと便利にした感じですよ。あそこの管理組合は、僕が筆頭の会社に委託していますから」
そんな事言えば、驚きもせず林田さんが、
「今度、我が家の防犯システム見直す時には、ボンに頼むか。どんなものか見てみたいからのう」
と言い、突然、手のひらをポンと反対の握った手が打ち、こちらに指を刺す。怖いから辞めて。指をこちらに向け、上下に振りながら、
「そうだなあ、今日は、ボンは暇なんだな? 妻は愛人と一緒だしのう。ならコレから飲むか」
そう言い、片手を口に持っていき盃を傾ける仕草をする。
「えっ、嫌ですよ。こんな早くから、何言っているんですか? それに、林田さんが連れて行くのは、どうせ、畳に座って、女将が三つ指ついて『いらっしゃいませ』って言う高級な料理屋さんとか、女の子が隣に座るクラブなんですよね。そんな所行くなら、僕、ここでプログラム書いてます」
「痩せ我慢は体に悪いぞ。ならどこかいい場所ないか? またこの部屋で飲むか?」
「やめてください。この間、酒臭くなって里依に怒られたばかりです。そんな未来は僕嫌ですよ。
うーん? そんなに呑みたいなら事務所に行きますか? あっちなら僕が掃除もできるし、あそこなら酒の種類多いし、干きものならつまみもある程度ありますから。行きがけにデリで惣菜買って、チンすれば…。しかし、珍しいですよね。林田さんから呑みに誘われるなんて」
「ああ、ちょっとこれからの事で、話したい事もあるしのう。まあ、なら事務所でいいか」
と言い、僕たちは事務所に場を移した。その夜は長くなり、また聞かなくてもいい事を聞かされてしまった。もう二度と林田さんと飲むのはやめようと誓いたいくらいだ。
AV でファイナルシャルドミネーションってプレイがあると聞いて、それを想像してみたしまた。




