エピローグ10 side 須藤旬
二人の立場が変わりつつあります。キョウコさんは、やはりキョウコさん。色んなことを人を巻き込んで、先に行きます。
だからさキョウコさんのところに行った。ちょっと気まずかったけどね。ご飯食べようと誘いに。
怒っているかと思ったキョウコさんは、何時ものように、僕を見ると笑ってくれた。
ほっとする。肩の力も抜ける。今までの緊張はなんだったのかと。
「ご飯食べよう」
そう誘う。
近所に作家さんのお店があると連れていかれた。
知り合いの所でいいの?なんて聞くと、あの食事会の後、会社で打ち上げしたときに世話になったからお礼だとか言ってきた。詳しく聞くと、あの時、里依が喜んで皆におごっだとか。その時仕出ししてくれたらしい。
「須藤クンのお口にあうか心配」
なんてキョウコさんが言うけど、僕だって普通に庶民なんだからね。
着いてみると、コジャレたダイナーみたいなバーだった。
席に座ればキョウコさん好みの泡が出てきて、好きそうなおつまみがお通しでてくるし、何、この至れり尽くせり。
そうなんだキョウコさんって、人を呼ぶ。ちゃんと恩を感じたら利で返すからなんだろう。キョウコさんの回りが居心地がいいのはそのせいなんだよね。
美味しい物を食べて色々お話をしたら、直ぐにボトルが空く。 これ以上飲むなら、キョウコさんの部屋の方がいいから、もう帰ろうと、残りの料理とボトルをお持ち帰りして、タクシーにを止め、キョウコさんちへ向かう。
当たり前の様に部屋に入り、お風呂の準備をして、キョウコさんに僕の浴衣を出してもらう。
それに着替えて、ソファに座った。
その間、キョウコさんが、持ち帰った料理を並べてくれた。普段はそんな事させる事ないんだけど、今日はいっぱい一杯なんで…。
グラスを2こ、持ってきたキョウコさんが僕の隣に座る。キョウコさんのグラスに泡を注いで、次は自分のグラスに注いでと、僕はさっきの話を始める。
キョウコさんは僕がここに来ている理由も分かっているし、驚く事に僕の会社での立ち位置まで理解していた。なので、キョウコさんが分かっていることを聞いた。
「そんなにわかっているわけじゃないの。ただ里依さが、林田さんがわたしに興味を持ったからわたしと仕事したいとごねていると思ったの。林田さんは会社の方の顧問の方なんでしょ?」
「そうだよ。事務所は林田さんに口を出されない為に作ったんだ、里依とのこともあったし」
「ならガラス工場の支援と投資にわたしを巻き込めとか、香港の件も会社でやれとか、言われたんじゃない?」
「なんで分かるの?」
「あんなことしてまで情報を欲しがったわりには大した情報を手に入れられなかった上に、ミスリードにのっかちゃったし、もう新進気鋭の投資家って名のれないよね、ふふふ」
僕は沈黙するしかなかった。
その時
「お風呂が沸きました」
と給湯器のアナウンスが聞こえた。
気まずかった僕はキョウコさんに
「一緒に入ろう」
お風呂に誘う。
後から入ってきた、キョウコさんが身体を洗うのをぼっーと見ていると、恥ずかしいそうに、こちらを見る。
何気ない事だけど、この日常にもうすごく満足する。この関係を壊す案はやはり却下する。
それによりキョウコさんが辛い思いを、あの時、里依の出産時に、里依ママがしたような事を、なんの関係のない人から言われるんだ。そんな選択しか、僕には残ってない。
だって僕はキョウコさんを失う訳にはいかないから。例え、どんなこと言われてもキョウコさんはキョウコさんだろう。毅然と対応すると思う。でも、僕はキョウコさんの会社のCOO. との立場もある。キョウコさんを世間に曝したくないなら、そっち方がいい。
でも、この間無理やり口を割らせた事より少し強引な事を、これ以上すればキョウコさんは僕から離れてしまうような気がする。そして好きな仕事を辞めると。そんな選択をさせたくない。キョウコさんの為に作った会社だ。好きな事を存分できるようにと。その気持ちは今も代わりない。ならもう分かっている。その事を告げよう。
「ごめんなさい。僕は投資会社の社長として会社を社員を守らないといけないんです。そして会社の為に林田さんを引き留めないといけないんです。だから、キョウコさんはこれから大変な辛い思いをいっぱいすると分かってもそんな選択しかできない僕を許してくれますか? 僕はキョウコさんの憂いを払うと決めたのに、だからあの時、キョウコさんを夫から奪ったのに」
僕は浴槽に入ってきたキョウコさんを抱きしめる。キョウコさんはからかう様に
「大変良くできました」
と応え
「もし、今度ウチの会社のCOO. としてビーズ会社の事に口を挟んできたら、わたし、須藤クンをどうにかしたかも。もう別れる事などできないからね」
など少し物騒なこと言う。そんな事言われたらもう何も言えないから、
「もう少し飲むでしょ、キョウコさん」
と言いお風呂を出る。
使ったバスタオル、下着、シャツを洗濯機へ放り込みまわす。浴衣を着て、キョウコさんのパジャマ姿もかわいいと目を細める。
二人で残りの料理とボトルを空け、酔っぱらいベッドになだれ込む。その日は、キョウコさんの優しさと強さに癒されながら眠りについた。
僕たちの関係はそのままだけど、立場が変わってしまった。僕は海外へ進出するアーティストを支援をするエンジェル。キョウコさんはその支援を受ける側。せめて上手く立ち回れる様に里依をつける。そんな事しか僕にはできないから。
投資会社の社長として報告を聞く僕は、キョウコさんとダイレクトに会うことはない。キョウコさんの方針を聞いた里依から、報告を聞く。そして指示を里依に出す。そんなまだらこしい立場になってしまった。それは僕が不甲斐ないからだと、心に刻んだ。僕の失敗は僕の大事な人達を巻き込み、フォローしてもらうこととなった。
その上、その案件が動いているときは、二人きりで会うのを制限されちゃったし、一緒に仕事していたが、昔みたいな距離感なんて夢の夢だった。
「須藤クン、コレどう思う?」
「ねえねえ、ちゃんと聞いてよ」
とかさあ、前みたいに、あのマンションで一緒に仕事していたみたいにはいかないよね。だって、今回は投資会社の仕事で、個人事務所の仕事でないから社員に仕事をさせないといけないんだよ。
まあ、須藤クンからすれば辛いけど、キョウコさんからすれば納得の選択。キョウコさんはこの頃には、須藤クンに譲った会社の経営権のことを後悔しているからね。だからお互いに暗躍しちゃうんだと。




