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地球編4-「ジブラルタルへ(後編:ジブラルタル海戦 人類最強艦隊)」

 ジブラルタルにて待ち受ける、人類の旧式海上戦力全て。

 戦艦3,空母22、航空機2000機以上を擁する大艦隊が、AI搭載実験艦「ニュー・コンスティテューション」を迎え撃つために手ぐすね引く。

 人類の敵、「オーバー・トリニティ」は、艦隊の魔の手から生き残ることができるのか!?


※あとがきにて、「ニュー・コンスティテューション」と新鋭戦艦群のスペックを掲載いたします。

                    ―*―

 「艦載機、全機発艦!」

 海戦は、その一言から始まった。

 UM-11や暗剣改、オホトーニク改などの無人機が、順々に空母の広い甲板から飛び立っていく。

 もはや、雲霞のごとく迫りレーダー画面を埋め尽くす攻撃機隊に、ハッキングは通用しない。ミロクシステムが監修した艦隊統合指揮システムであるC4Iシステム「トリニティ・プログレス」は、完全に閉鎖的なサイバー環境を生み出すことができる。そのセキュリティは人体の免疫に準拠し、打ち破ることは困難であった。

 

                    ―*―

 十数キロずつの間隔を開けて戦闘する機動部隊の後背を、沿岸を縫うように、イリノイ級新鋭戦艦「イリノイ」「ケンタッキー」、ライオン級戦艦「ライオン」、モスクワ級重戦列艦「モスクワ」「サンクトペテルブルグ」が、すり抜けていく。

 それらの艦上からは、未だ、金音槌音が響き続けていた。

 

                    ―*―

 「っ、NASAより、ソドム衛星がコマンドに応じないとの通報アリっ!」

 「衛星落下警報、発令!」

 全体的に一つのトリニティシステムでくくられていても、それぞれの国において使われているシステムは異なる。西側のイージスシステム系統と東側のリアーナシステム系統は、あまり相性が良くなく、結局、戦闘にはまだまだ人間の介入は必要だった。

 ともかく、ソドム衛星から「神の杖」が投下されれば、戦術核が投下されるのと同じで、ある程度の被害が出るだろう。それを見越して、ソドム衛星まではセキュリティの手が回らない(地上から指示しているからこそ、連絡する電子ネットワークが無数であり、手の付けようがない)ために、危険の原因となる大型衛星はすべて大西洋上空から退避していたーが、自ら移動できるソドム衛星は、数十分で照準位置に到達するだろう。

 発艦が急がれるとともに。

 「10」

 「9」

 「8」

 「7」

 「6」

 「5」

 「4」

 「3」

 「2」

 「1」

 「0」

 〈0,00〉

 「ミサイル飽和攻撃、開始されました!」

 ホモ・サピエンスの栄光を賭けた一撃が、艦隊から放たれた。


                    ―*―

 その攻撃に使われたミサイルの総本数を正確に数え上げた者は、誰もいない。

 一般的に、VLS一つに装填されるミサイルは、60本が相場である。

 250隻ほどいたミサイル攻撃艦艇のミサイル本数は、合計で10000本を遥かに超え、、そしてそれらすべてが、ほぼ同じタイミングで「ニュー・コンスティテューション」に降りかかるように調節されていた。

 核ミサイルこそ1発もないが、そこらの軍艦ならば数千回撃沈されるだろう。

 流星群もかくや、まさしく、この世の終わりの様相すら呈して、無数のすじが全方位から、たった1隻の実験艦に殺到しようとしていた。

 

                    ―*―

 アイオワ級戦艦をタイプシップとして建造された実験艦「ニュー・コンスティテューション」だが、その艦容は大きく異なっている。それは、原子力航行であるために中央がすっきりと平らであって、レールガン8基16門の間に巨大な兵装スペースのハッチがあるだとか、艦橋などがステルスを意識した箱型であるとか、そういうことだけではない…前に2つ、後ろに1つの主砲用ターレットの上に載っているのは、41センチ3連装砲ではないのだ。

 地球上では最大サイズを誇る、円形の砲塔から突き出した巨大な砲身1本。それはまるで、かの絶対神ゼウスの腕のように、見るものすべてに畏怖心を抱かせる。

 51センチ単装砲ーそれが、「ニュー・コンスティテューション」の主砲だった。

 もとはと言えば、大日本帝国海軍が、超大和型戦艦に搭載するため研究していた「試製甲砲」こと51センチ連装砲。終戦時には1基と1門が完成していたとされているが、その後アメリカに持ち去られ、行方不明となり、おそらくは処分されたと考えられていたーまわりまわってこんなところにあったのである。

 グワッゴドーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 正面、4時方向、8時方向と120度ずつを指向し、1番砲、2番砲、3番砲が、一斉に火を噴いた。

 51センチ砲弾が、それぞれの方角で、高空へ撃ちあげられ。

 直後、空を包むかのように、紅色の魔法陣が展開された。


                    ―*―

 それは、懐かしのトラウマ。

 性質は、光系魔法であるとともに、バギオ・クィレの「意変光ライトシフト」も含まれていた。

 電磁場の嵐が、空を吹き抜ける。

 電子回路に高圧電流が流れ、ショートし、導線が蒸発する。

 無数のミサイルが、さまよい始め、そして爆発、衝突を起こして自滅していく。 

 電磁遮蔽すら無視するほどの電磁波は、地球磁場にすら大規模な攪乱的悪影響を及ぼし、一時的に破壊された巨大な地球磁気圏の穴から、宇宙線、とりわけ太陽風の高エネルギー荷電粒子が宇宙から大気圏内へ吹き出す結果をもたらす。

 無数のミサイルが旋回しながらヨタヨタと降り注ぎ爆発する地獄絵図の中で、あらゆる電子部品が火花を散らし。

 数百キロに及び降りかかる電磁雨は、人類機動艦隊の多くを電子的に無力化した。しかし、後背を航行するイリノイ級は、ぎりぎりその降下圏内を逃れていた。

 飛行中の無人機も、ほとんどがさまよい始めていた。

 終端誘導に入っていた数百発のミサイル、及び艦載型アバンガルド・ドゥヴァ弾道のような極超音速ミサイルのみは、それでも、直進コースのままでまっすぐに「ニュー・コンスティテューション」へと突進した。

 「ニュー・コンスティテューション」の艦体を中心に、海面上で紅色の魔法陣が回転を始め。

 不可視の防御魔法の壁が、「ニュー・コンスティテューション」を包み込む。

 何もない空中で爆発が無数に連続し、半球状の防御膜を、炎で浮かび上がらせた。


                    ―*―

 ミサイルも、無人航空機(UAV)も、またたく間に無効化され、艦隊は電子的にズタズタにされた。

 ソドム衛星上空到達まで残り約30分。

 この段階に至り、艦隊司令部は、いやいやながらも、「空母からの艦載機群と水上艦艇・潜水艦からのミサイルにより執り行う」という従来の海戦スタイルを放棄した。

 アイオワ級戦艦1番艦「アイオワ」2番艦「ニュージャージー」4番艦「ウィスコンシン」が、GRF級原子力空母「ドナルド・トランプ」からの発光信号を受け、前進する。

 水平線の、内側に、「ニュー・コンスティテューション」の単純なマストが見えてきた。

 「撃ち方よーい!」

 16”/50 caliber Mark 7 gun3連装砲。そのシステムは1943年に製造された当初のモノであり、照準系こそ全く異なるが、装填や発射の機構にデジタルは使用されていなかった。だからこそ、電磁雨の中でも、なんとか人力装填により主砲を発射することができた(もしこれがテスラコイルにより転移した「ミズーリ」であったならば、改修が災いし、発射は不可能だったかもしれない)。

 砲身が俯仰し、そして。

 「Fire!」

 ズグッゴドオォォォーーーーーーーン……!

 ズグッゴドオォォォーーーーーーーン……!

 ズグッゴドオォォォーーーーーーーン……!

 3隻の戦艦の前部砲塔2基ずつ、計18門が、轟音を伴い、中東戦役以来70年ぶりに、轟音と爆炎を吐き出した。


                    ―*―

 「ニュー・コンスティテューション」の前部艦橋脇露天甲板に前後2基、艦橋4階床に1基、後部艦橋脇に1基ずつ、両側に配置された、ドーム型でレンズがのぞくレーザー砲。

 レンズがぬるぬると動き、シャッターが一度閉まり、それから、パシャリ開いた。

 高エネルギーレーザーが、18発の16インチ砲弾へ1ビームずつ照射され、表面が蒸発する反動で砲弾は直撃コースを外れていく。

 10秒ほどの照射ののち、次の8発へ、そしてまた10秒後、残った2発へ。

 的確にあぶられた砲弾は、いずれもあらぬ方向へ。

 そのころには、次の18発が空を飛んでいた。

 これもまた、レーザーアブレーションによって軌道を変えられ、数キロ離れた海面へむなしく水柱を立てるに終わる。

 レーザーと砲弾の撃ち合いは、レーザーがしのぎきっていた。

 3隻に腹を向け、同航戦状態となった「ニュー・コンスティテューション」は、3基の51センチ単装砲を共に右舷へ向け、水平方向へ砲身を向けた。。

 グワッゴドーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 轟音が響く。電光が奔る。

 そして、マッハ5で殺到する3つの砲弾は、3隻のアイオワ級戦艦の艦首喫水線すれすれに突き刺さり、装甲の奥で炸裂した。

 「アイオワ」の艦首が大きく開いて、前のめりに傾いていく。

 「ニュージャージー」の1番砲塔が少しだけ持ち上がり、それっきりうんともすんとも言わなくなる。

 「ウィスコンシン」の艦首甲板に大穴が開き、吹き飛ばされた錨鎖が1番砲塔にかぶさる。

 「全弾命中、だと…」

 「バカなっ!」

 旗艦「アイオワ」艦長は、あまりの無茶苦茶ぶりに、手を床につけた。

 次の瞬間、「アイオワ」の後ろで、天にも届くかという炎が、噴き上がる。

 そして。

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!

 「ウィスコンシン」が、艦橋を空高く吹き飛ばしながら、爆沈し、消失した。

 「艦長っ!弾火薬庫、温度急速上昇っ!」

 「何っ!?」

 「このままでは1、2番砲塔火薬庫、自然発火します!」

 「ファック!注水してれいきゃ」

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!

 直後、数百度の猛煙が、艦橋を、包み込んだ。

 赤熱した視界の向こうで、艦橋メンバーが最期に見たのは、紅色の魔法陣だった…


                    ―*―

 「第1砲塔火薬庫注水っ!」

 「しかしそれでは1番砲が射撃不可能に」

 「注水って言ってんだろ早くしろボケがあっ!」

 「イ、イエッサーッ!」

 「それから航海士…

 取舵一杯!

 突撃(charge)!」

 ただ1隻残った戦艦「ニュージャージー」。

 重たくなった艦首からグングン水を吸い込みながらも、最大戦速で突撃を開始した。

 結果的には、それが功を奏したー艦内に突き刺さっていた51センチ砲弾は刻まれた炎系魔法を起動したが、流入する海水を蒸発させることに熱量が消費されたからだ。

 博物館として半世紀以上放置されていた機関は、応急メンテナンスを受けた今でも万全のスペックを発揮することなどできずせいぜい23ノットがいいところーそう思われていた。しかし、ゴウゴウと異音を放ち明らかに異常な白黒の煙を吹きながらも、「ニュージャージー」は32ノット、全盛期の速力を叩き出した! 

 右に左に、転舵を繰り返すジグザグ航行で、「ニュージャージー」は往く。

 「ニュー・コンスティテューション」の3基の主砲から、再び吐き出される3発の51センチ砲弾。

 すんでのところで、右に2,左に1つの水柱に挟まれながらも、「ニュージャージー」はすり抜けた。

 水柱を中心に紅色の同心円が展開されていき、文字を伴いまわり始める。

 海面が、白く、膨れ上がった。

 膨大な熱量によって水蒸気爆発が発生、「ニュージャージー」を左右から圧する。バランスがあまりよろしくないアイオワ級戦艦は、やや傾いた。

 さらなる弾着は、今度は右側に連続して落下。しかし、「ニュージャージー」には命中しない。

 敵の挙動を予測し火器統制するトリニティシステムであるが、対応が後手後手に回っていたーそれというのも、「ニュージャージー」では、「艦長がサイコロを振り、(出た目ー3、5)×右16度転舵」というハチャメチャな操艦をしていたからだ。

 いかな量子コンピューターと言えども、見えもしないサイコロの出目まで当てられない。完全なランダムが、双方の照準システムを全く無意味なモノにしていた。

 右へ、左へ、左へ、右へ、複雑に航跡をうねらせ、「ニュージャージー」は突進する。

 〈距離20451メートル〉

 「Fire!」

 号令とともに、当たらないだろうに、9門の16インチ砲が火を噴く。

 返答するように、51センチ砲弾が海面を破裂させる。

 「速力、29ノットに低下っ!」

 「機関部に浸水を確認っ!」

 「突っ込め!

 ヤンキー魂を見せろおっ!」

 損害は積もり、無視できないレベルへ。それでもなお、「ニュージャージー」は進む。

 「主舵損傷っ!」

 「距離いくつだっ!」

 「距離、17839!」

 「転舵、面舵一杯、同航戦!

 主砲斉射後、総員退艦!」

 「艦長っ!」

 「ガタガタぬかすなっ!」

 英断か、それとも愚勇か。

 「ニュージャージー」は右へと転舵し、そして、海戦始まって以来初めての照準斉射を実施した。

 ズグッゴドオォォォーーーーーーーン……!

 16インチSHS砲弾9発が、「ニュー・コンスティテューション」の斉射直前に発射される。

 「ニュー・コンスティテューション」は、以前の照準で斉射。その直後に、レーザー砲のシャッターを開きなおし、レンズを動かしていく。

 8基のレーザービーム。しかし、砲弾は9発。

 1発の41センチ砲弾が、撃ち漏らされる。

 それていく8発から、最後の1発に狙いを変えるー事はせず、レーザー砲のシャッターが再び閉じられる。

 51センチ単装砲3基が、照準を終えた。

 砲身の根元で、紅色の魔法陣とともに、黄色の電光が輝く。

 ビリッ。

 ビリビリッ。

 グワッゴドーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 3発の51センチ砲弾は、マッハ5で水平に撃ち出され、そして。

 まさにあちこちから艦載艇を下ろして艦を放棄しようとしていた水兵たちを衝撃波でジュースに変え、装甲を貫き、艦内内部奥深くで魔法を起動。

 灼熱。

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!

 そして、閃光、キノコ雲。

 アイオワ級戦艦2番艦「ニュージャージー」は、跡形もなくはじけ飛んだ。

 「ニュー・コンスティテューション」の3メートルほど手前で、最後の16インチ砲弾が、むなしく虚空にー否、防御魔法に弾かれ落下した。

 

                    ―*―

 静止軌道上に集結した、計16基のソドム衛星。それらは、4×4の配置で陣取って、一斉に神の杖と呼ばれる金属錐を投下した。

 一斉に投下された金属錐体。

 摩擦熱で赤熱しながらも、鋭い円錐針という空気抵抗の少ない形状のおかげで、音速を遥かに超えて重力に引かれていく。

 やっと、磁場破壊による電磁場嵐から復旧しつつある人類機動艦隊。それらを分断するように、16の人工隕石が落下する。

 一つ一つのエネルギーが、10の14乗ジュールに達する。

 そして、爆発。

 すべてが膨れ上がる。

 熱で赤く染まった大気が、水を瞬間的に水蒸気へと変換。その効果は、直径数百メートルの爆弾に等しい。

 空母が転覆し、潜水艦が圧壊し、駆逐艦が2つ折りになる。

 落下視点から離れていてさえも、駆逐艦が横転し、津波に持ち上げられた原子力空母の甲板から予備機が滑り落ちていく。

 巡洋艦が、数十メートルの高さの津波に両方から押しつぶされ、波が去ったときには姿を消していた。

 海底に到達した金属錐体のエネルギーによって地殻が吹き飛ばされ、その下のマグマが噴き出し。

 高温のマグマに触れた海水が、海底で数百度を超えて上昇し、水圧が弱くなったところで一斉に気化、その体積を数百倍にする。

 爆発が、海を揺るがし。

 発散される蒸気が、海面に近づくことで、最終的には当初の1700倍にまで膨れ、海を吹き飛ばす大きな泡となり、大津波を全方位へ巻き上げつつ煙を吹き上げ。

 煙がキノコ雲となっていく間に、上の海水が消し飛んだことによる急速な減圧で海底から吸い出された灼熱の赤いマグマが、噴水のように噴き上がり。

 海水が戻ってくるとともに、高熱のマグマが海水に触れ、最初の爆発を遥かに超える爆発が、赤熱した火山弾と水蒸気を、数十キロ範囲に降り注がせた。

 

                    ―*―

 「いいか?

 艦隊は全滅した。このジブラルタル要塞は、最後の砦である!

 すでに新鋭戦艦群は海峡を通過した。

 すでに作戦目標は達成されたと言っていい、しかし!

 漢ならばここで、意地を見せよっ!」

 「「「「「イエス、サー!」」」」」

 火山灰がわずかに飛来し始めたころ、英領ジブラルタル要塞に配備された戦車型自走砲「ASGー53」155ミリ榴弾砲75台と、地面にほとんどをうずめて砲口だけをのぞかせている、異世界対策で開発されていた大口径砲「AーASCー44」356ミリ固定式カノン砲1門が、同時に、爆音響かせて砲弾を標高411メートルの大岩「ザ・ロック」のてっぺんから海峡へと放り込んだ。

 真下を通過しようとしていた「ニュー・コンスティテューション」の上から、砲弾が降り注ぐ。

 レーザー砲が破格の威力を持つ356ミリ砲弾を撃墜し、155ミリ砲弾は防御魔法によって弾かれてしぶきを上げ。

 51センチ砲が、怒りを込めてジブラルタルに向けられる。

 俯角が最大まで取られ、砲口に電光が見えた。

 「今だ。

 臼砲モーター『アダム』、発射!」

 イギリス軍ジブラルタル駐留軍司令は、臆することなく、叫んだ。

 直後。

 切り立った巨大な岩壁「ザ・ロック」の中腹に覗く穴から、轟音と猛煙が吐き出されて、岩全体が震え上がった。

 ゴッォォォォォーーーーーォーーーーーンッッッッ!!!!!!!!!!!!

 ほぼ同時に、「ニュー・コンスティテューション」の3基の単装主砲も雷光を吐く。

 グワッゴドーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 空へと上昇し、きつい放物線で落下していく、要塞砲弾ーカール60センチ自走臼砲「アダム」徹甲弾。

 ここに、日本軍が製造してアメリカで保管されていた最強の艦載砲と、ナチス軍が開発してソ連・ロシアで保管されていた最強の自走砲の攻撃が、交錯した。

 51センチ砲弾が、かつて世界の最果てと思われた白い壁に食い込み、目立たない小さな傷をつける。

 主砲発射の衝撃を受けないよう、「ニュー・コンスティテューション」はレーザー砲のシャッターを開けられない。

 60センチ砲弾は、防御魔法を質量で突破し、「ニュー・コンスティテューション」の直上へ。

 どうやっても使えないほど短い鉛筆のような形状の砲弾が、「ニュー・コンスティテューション」の右舷を砕いた。

 直撃を受けた右舷2番連装レールガンが消失し、甲板に大穴が開き、くぐもった爆発音がして煙が漏れていく。

 数秒後。

 紅色の魔法陣が、「ザ・ロック」中腹ーちょうど51センチ砲弾が食い込んだあたりに浮かび上がった。

 ヘラクレスが切った切り口ともいわれる垂直に険しい壁面が、文字と3つの同心円で輝く、それはとっても荘厳な光景で。

 ーそして、「如何なる敵をも退かし得ず」と言われた「ザ・ロック」の壁面に、森の中の地面に、ヒビが入った。

 内部にある100以上の鍾乳洞が、ヒビによってつながり、そして。

 「崩れます!」

 「ダメだったか…

 …主の御名によってきたる国王陛下に祝福あれ!大英連邦には平和を、そしていと賢き地球人類に、栄光あれ!」

 400メートル以上の高さが成す重量に耐えきれず、岩がゴロゴロと転がり落ち始め、やがて掩体壕の中の砲も押しつぶされ、ゆっくりと「ザ・ロック」は、無数の岩片に別れ、崩落していった。

  

                    ―*―

 ジブラルタル沖海戦(2063年5月19日)


 喪失:戦艦3、空母7、攻撃型原潜5、巡洋艦13、駆逐艦57、その他艦艇29、航空機1702、超大口径砲1

 戦闘不能:空母20,攻撃型原潜7、巡洋艦32、駆逐艦121、その他艦艇30、航空機13、要塞2

 

 敵勢力:実験艦「ニュー・コンスティテューション」ー小破未満


 戦略目的:イリノイ級戦艦群のジブラルタル海峡通過に成功。


 備考:ジブラルタル沖250キロ地点を中心に、海底火山出現。なおも噴火し、火山島化する恐れあり。 

実験艦「ニュー・コンスティテューション」要目

基準排水量:63000トン

兵装:20インチ(51センチ)単装砲3基

   5インチ(12,7センチ)連装レールガン8基

   連続走査型高エネルギー光線砲8基

   SLBM4基サイロ4

   ファルコン・ミニ軌道往還ロケット2基↔モジュール兵装システムスペース×2

   Mk50Mod6B対潜魚雷艦首発射管6+対潜ソナー

   UM-11「フライング・ヒューマノイド」18機

原子力推進50万馬力ー3軸、巡航10ノット


人類艦隊所属戦艦要目一覧(?付きは間に合わないと思われる艦、×付きは喪失)


アメリカ海軍アイオワ級戦艦「アイオワ×」「ニュージャージー×」「ウィスコンシン×」/イリノイ級戦艦「イリノイ」「ケンタッキー」「フロリダ?」「アラスカ?」「ハワイ?」「ワシントンD.C.?」

全長×全幅:270×33/275×36

基準排水量:54000トン/52000トン

兵装:16インチ(40,6センチ)三連装砲3基

   5インチ連装両用砲6基/3インチ連装レールガン8基

   対空・対潜・対艦ミサイルランチャー多数/連続走査型高エネルギー光線砲6基

蒸気タービン推進23ノット/COGLAC推進ー35ノット


イギリス海軍ライオン級戦艦「ライオン」「テメレーア?」

※イリノイ級の小改正版


フランス海軍ノルマンディー級戦艦「ノルマンディー」

※イリノイ級の主砲を38センチ4連装砲に積み替えたもの


ドイツ海軍ロンメル級戦艦「エルヴィン・ロンメル」

※イリノイ級戦艦の主砲を16インチ連装砲4基としたもの。対空・電子兵装の重量とサイズが異なるため。


イタリア海軍ローマ級戦艦「ローマ」

※イリノイ級戦艦の小改正版


ロシア海軍モスクワ級重戦列艦「モスクワ」「サンクトペテルブルグ」「カリーニングラード?」「ウラジオストック?」

※イリノイ級の東側改正版 

変更点:レールガンは100ミリ連装10基、レーザー砲は連続走査型ではなく連発射撃型、原子力推進37ノット


中華人民共和国人民解放海軍定遠級戦艦「定遠」「鎮遠?」「統遠?」「治遠?」「届遠?」「照遠?」「護遠?」

※モスクワ級の小改正版


インド海軍ガンジー級航空戦艦「マハトマ・ガンジー」「ヴィクラント」「ヴィクラマーディヤ?」「ヴィラ―ト?」

※イリノイ級の改正版

主砲不足のため後部主砲塔を削除、UM-11を20機艦尾に搭載した航空戦艦。基準排水量56000トン


イスラム合同海軍サラディン級戦艦「サラーフ・アッ=ディーン」「ハールーン・アッシラード?」「バイバルス・アル=ブンドクダーリー?」

※イリノイ級の改正版

主砲不足のため後部主砲塔を削除、VLSを埋め込み。


日本国海上自衛隊えぞ型護衛艦「えぞ」「りゅうきゅう?」

※イリノイ級の改正版

主砲を46センチ連装砲に積み替えたもの。この主砲はEB社からのプレゼント。

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