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異世界編6-「全砲門、急斉射!」

 ついに、赤海にて、決戦の時が訪れた。

 迫りくるはAI戦艦「ミズーリ」、オリハルコン戦艦「大和」。

 迎え撃つは巡洋戦艦「穂高」を筆頭とするヒナセラ・神国連合艦隊。

 雌雄を決せよ、栄光を示せ!

                    ―*―

神歴2723年6月7日

 まだ、太陽も昇らないうちに。

 戦艦「大和」は、戦艦「ミズーリ」に先行するカタチで、セーリゥㇺ水道の入り口から南方50キロの地点に出現した。

 水平線の向こう側に出現した特徴的なマストを確認するや、2040トン級護衛通報艦「敬愛」が、帆をたたみ、煙突から煙を吹き上げ始め、大中小と箱を積み上げたような艦橋のてっぺんに赤い旗を掲げた。

 ー戦闘開始ー

 青い旗で了解と応じるのは、同型艦「畏愛」「汎愛」「慈愛」「博愛」「恵愛」「遺愛」「忠愛」の7隻。いずれも帆をスルスル下げ、煙突から黒煙を吹き上げる。

 8隻の船首楼の後ろにあるのは、こしゃくにも、愛型護衛通報艦専用装備である、61センチ4連装魚雷発射管。ヒナセラが保管している第二次世界大戦時の兵器データベースに基づき、日本海軍通常魚雷をダウングレードしたうえで、魔法的な改造を施したモノが4本詰め込まれている。そこへ、魔法使いが刻まれた模様の通り魔法を流し込み。

 発射管が、数人がかりで沖合の方角へ旋回させられる。

 「てーっ!」

 号令とともに、発射管内に風魔法により封じ込まれていた圧縮空気が、6メートルの魚雷を撃ち出す。

 空中に躍り出た魚雷は、発射管に抑えられていた整流翼をバネ仕掛けで展開し、海面に突っ込むとともに、尾部のスクリュープロペラを回転させて海中を突進し始めた。

 本来、魚雷としては太さに対し長さが足りないこの魚雷ではあるが、水系魔法によって周りの流れが調整されているため、左右に針路がぶれることはない。そして、上下については、整流翼が重力に対し揚力で相殺させるために沈んでしまうことはないー地球の魚雷設計者は涙目である。

 速度は出ないため、40キロを航走するには1時間弱もの時間を要する。相手の戦艦も同じくらいの速度で向かい合って進んでくるから、実際に接近するには30分近くかかる。そのため、2隻の戦艦は、しばらく、何事もなかったかのように航行していた。

 が、20分くらいしたところで、「ミズーリ」が、不自然に右へ舵を切った。

 32本もの魚雷ともなれば、当たり所と命中本数によっては超弩級戦艦でも一撃で轟沈する。

 続けて回避行動をとる「大和」。その艦首艦底部へ、原潜「エルドリッジ」敷設のMk60キャプター機雷3基からホーミング魚雷が発射された。

 「ミズーリ」のソナーが感知した時には、すでに遅く。

 大和型戦艦が設計されたころには、100メートルを優に超える原子力潜水艦をも一発撃沈せしめるほどの魚雷は想定されていなかった。そして、ここにいる「大和」はあくまで、各種資料に基づきオリハルコンの随意性を以て復元したもので、成形炸薬弾頭と高性能爆薬への水中防御など成されていない。そしてなにより、大和型戦艦は初期設計からして艦首防御を捨てている。

 バゴンッ!

 丸くとがった特徴的な艦首が、急にまくれ上がり、破れた。

 27ノットの進行速度で海を切っていたため、艦内に急激に海水が流れ込み、艦首が重く沈み込むとともに抵抗が大きくなったことで速度が一気に落ちる。

 「ミズーリ」が、見捨てるかのように増速し、沿岸へ退避した護衛通報艦隊を無視してセーリゥㇺ水道へ入っていく。

 うねうねと破れた部分が修復し始めた「大和」の前へ、8隻の護衛通報艦が近づいていった。


                    ―*―

 「作戦第一段階は成功か…」

 目に入ったモノすべてに敵艦隊が発砲していれば、失敗の可能性もあった。

 けれど、「ミズーリ」には特に、弾が足りない可能性が高い。「大和」に関しても、魔法が攻撃にも操艦にも修復にも使われる以上、長時間の戦闘は継戦能力をダイレクトに奪う。

 …確率的な賭けで、僕らは、無傷での2戦艦分断に成功した。けれど、もう、出血を防ぐことはできない。

 「つらいね…」

 「…だな。」

 それでも、手はこれしか、残されてはいない。

 「…せめて、守れるものは、守らないと。」

 「うん、大志っち。」

 僕は、友子と手をつなぎ、モニターの向こうへ祈りをささげた。


                    ―*―

 戦艦「ミズーリ」が、宗都がある赤海へ侵入するには、1000キロ以上に及ぶセーリゥㇺ水道を、両側に陸地を見ながら一日がかりで通過しなければならない。

 とても海図のない海峡を通航しているとは思えない勢いで「ミズーリ」は細長い艦体を幅数キロの海峡に通していった。

 そして、両岸にまたがる神国神都セーリゥㇺ市が、無事であるはずはない。

 弾薬が足りないのであろうという太田大志の読み通り、「ミズーリ」の3基の16インチ3連装砲は、発砲音をとどろかせはしなかった。

 が、それで、セーリゥㇺ市は救われなかった。

 「ミズーリ」の両舷にいくつも設置された、ドーム型監視カメラのバケモノのような半球。しかし、実際にレンズから出る光は、フラッシュなどではなく、高エネルギーレーザー光線である。

 不可視の熱線は、旧都レイ=シラッドで神国艦隊に起きたのと同じことを、神都の木造建築へ引き起こした。

 ただの電磁波であるレーザービームは、太陽光がそうであるようにして、神都を覆う障壁魔法を突き抜ける。光を防ぐようにはできていない防御魔法は、なんの役にも立たない。そして、そのまま木など燃えるものに激烈なエネルギーを与え、照射点は蒸発的に燃焼して消失、その周辺が燃焼し始める。

 運悪く人体に当たれば、直径数ミリの穴と、その周囲の焦げ跡が数秒で形成され、激痛ののち当人は死に至る。

 なぐようにして市街を横切るレーザーにより、市街のあちこちから出火。

 レンガや石畳をなぞれば、黒い痕が付く。

 そうして、両岸にまたがり視界の果てまで海岸線を埋め尽くすセーリゥㇺの町は、数十分のうちに、炎に呑まれていった。

 セーリゥㇺの誇る、海峡を横切る高い吊り橋が、対空レーザーにより焼け落ち、垂れ下がり、海中へ落下していく。

 すでに全市民が、高台や郊外へ避難していた。彼らは、2600年の都がはかなく燃えていくのを、ただ眺めるしかできない。

 大結界を成す魔法陣にも火の手は及び、結界が消滅する。

 「ミズーリ」の1番砲塔が、右岸のほうへ旋回する。

 ズグッゴドォーーーーン…!

 3門の16インチ砲が、硝煙で右舷を包み、1,2トンの砲弾が轟音を曳いていく。

 砲弾は、唯一煙が上がっていない区画ー聖典聖坐教会の周りーへ殺到した。

 神国の政治と宗教の中心である聖典聖坐には、神都そのものとは別に、防御魔法による障壁結界がある。しかし、マッハ約2,5の(スーパー)(ヘビー)(シェル)の貫通力の前では、その防御力は紙切れとどんぐりの背比べでしかない。

 砲弾は、四角錐型の教会の屋根を突き破って破壊し、歴代の神帝が信ずる神に祈りをささげる広間に、上級司祭たちが政治を執り行う長椅子の部屋に、初代神帝聖ディペリウス1世の銅像の頭に、激突、ぺしゃんこにそれらを破壊して地中へ入り込んだ。

 一拍後。

 遅延信管が作動する。

 バグッ…ズ、ゴオオオオンッ!

 地面がめくれ上がり、立ち並ぶ三角屋根が、爆風によって吹き飛んでいった。

 

                    ―*―

 セーリゥㇺ市が壊滅し、聖典聖坐教会が消し飛んだそのころ、随意金属オリハルコンによる修復を完了した戦艦「大和」の前に、8隻の愛型護衛通報艦が、背後にセーリゥㇺ水道を控え決死の覚悟で立ちふさがっていた。

 「大和」は、基準排水量64000トンにして主砲46センチ×9門。

 愛型護衛通報艦は、基準排水量2040トンにして主砲12センチ×2門。すでに必殺の魚雷は使い切った。

 一方的な虐殺が、目に見えて見える。

 「大和」の1番主砲の砲身が、鎌首をもたげた。

 衝撃波とともに、電気魔法によりマッハ4以上に加速された46センチ砲弾が、砲身から吐き出され。

 発射と同時に、砲弾は、表面に魔法陣の複雑な文様をまとって輝き始めた。

 摩擦の赤熱よりも強いルビー色の輝きを伴う46センチ砲弾3発は、徐々に四囲にその光を広げ。

 その効果は、ほぼ直線で、20キロ以上離れた護衛通報艦「慈愛」から300メートルほど離れた海面に落下した際、明らかとなった。

 海面が、大きく膨れ上がり、砲弾が爆発したとは思えないほど高い水しぶきを吹き上げ、破裂した。

 しぶきが崩れ、大津波が、「慈愛」を大きく持ち上げ、ついで海面へ叩きつける。さほど分厚くない「慈愛」の舷側・艦底装甲はペンキがはがれて大きくへこみ、2本のスクリューシャフトはへし折れて沈んでいった。

 至近弾ですらないのに、一発で、廃艦決定…

 旗艦「敬愛」の第2艦隊幕僚陣は、騒然となった。

 「馬鹿な!『穂高』にすら、あんなことはできん!」

 傍目に見てもひしゃげている「慈愛」を望遠魔法をかざし眺めつつ、艦隊司令が叫ぶー56センチ砲弾であっても、爆発による波で数百メートル先の鉄製軍艦を一撃廃艦にするのは無理があった。

 「…魔法では?」

 「水系魔法、か?いやしかし…」


                    ―*―

 「まったく、この世界の連中は骨があるからいつもいつも驚かされる。」

 男は、北京語でつぶやいた。

 「水蒸気爆発砲弾、第2射装填だ。よろしいか?」

 「上から目線で口を聞かないでくれ。」

 アディル語で、もう一人の男が答えつつ、部下にハンドサインする。

 戦艦「大和」艦橋では、2国の軍人たちが奇妙に同居していた。

 「第2射用意。照準早くしろ。」

 「無理を言うな。光学測距にはまだまだ慣れん。」

 「…貴国側が慣れるために試し撃ちしたいというから、苦労して造った砲弾をグㇻンゼゥムで使ったと言うのに、ぜいたくを言うな。」

 悪態をつきあいながらも、彼らはそれなりにきびきびと動き。

 光学測距のデータと、上空を飛ぶドローンからのデータにより、一度俯角3度に戻っていた第1主砲の砲身が、水平わずかに上向きとなる。

 砲塔内部では、帝国軍の魔法使いにより、砲身を横切る磁場が発生するように電気魔法が行使される。

 炎系魔法の魔法陣が刻まれた46センチ砲弾にも別の魔法使いが魔力を注ぎ込む。

 砲弾がそれぞれ、砲身に装填され。

 砲尾の尾栓が締められ。

 磁場と十字を描き砲身を横切るように、強力な電場が電気魔法によって行使される。それは正しく、砲3門を貫く雷であった。

 ローレンツ力が、1,5トンに及ぶ砲弾を撃ち出し。

 ー今まで、異世界の長い歴史の中で、長射程兵器があまりなかったのは、魔法の性質に依った。「魔法陣型にされた魔力が、文字の通りの効果を発動させる」魔法の仕組みは、魔力が質量体でないだけに、魔法を飛ばすことを困難にさせ、魔法攻撃を遠方へ投射するには、魔法の効果を石か何かにかけて消える前に投射するかあるいは風魔法で飛ばすしかなかった(「移動魔法」のような便利なモノはない)。

 しかし、電気魔法による電磁加速は、従来魔法では実現できないと思われていた超高速飛翔体を可能とし、その場合、魔法の効果が消滅する前どころか、発動したばかりの瞬間に飛翔体を標的へ当てることが可能となった。

 46センチ砲弾にかけられた魔法は、「周囲数十センチを灼熱とする」炎系魔法の温度を下げ有効範囲を上げた、「周囲十数メートルを水が沸騰するくらいに熱くする」魔法。それほどの難易度も魔力も必要とされない温度ではあるが、しかし、マッハ4の砲弾初速が、発射時に発動した魔法の効果が最大の時に着弾することを可能とする。

 海面に着弾した砲弾がまとう魔法は、有効範囲内の海水全てを一瞬で100度以上に加熱し。

 海水が水蒸気となることで、体積は約1700倍となり。

 周囲の海水をまくれ上がらせ、数十メートルもの水柱を吹き上げ、圧力によって大津波を瞬間的に発生させる。

 小さくは電子レンジの卵や揚げ物火事にかけた水から大きくは原発事故や火山爆発まで、水蒸気爆発が引き起こす惨事は、爆圧が大きいため想像以上の威力をもたらす。特にこの魔法は時間差0の理想的全体爆発型水蒸気爆発であるため、半径十数メートルの爆弾が爆発したようなものだ。

 かくて、爆風は数キロ内の物体を押し、波は海を乱す。

 「敵軽型護衛艦(コルベット)、1隻転覆、2隻大破!」

 「良し!的が小さいからと言って容赦するな!」

 「何を言う?あの程度、この『ヤマト』の3分の1ほどの長さしかないではないか。無視して押し通れば…」

 「我らの世界のことを知らんからそんなことが言えるんだ。現にさっき小破したのも、あのコルベットの魚雷であろう。」

 「ぐぬぬ…小馬鹿にしおってからに…」

 わりかし仲よさそうに喧嘩する2人のトップ。その視線の先では、まさしく、角ばりのある艦底を見せ、護衛通報艦「博愛」が、沈没しようとしていた。

 

                    ―*ー

 「…無茶苦茶だ…」

 強いであろうことは、「穂高」の元の元なのだから、当然だと思っていた。

 しかし、わずか2射にして、3隻が失われるとは…これでも、1隻造るのに国を挙げていると言うのに…

 …帝国と、そして、マツラ様の世界との差は、まだ、これほどあるというのか…

 「ちっ…」

 だが、沈んでいては、部下の士気も落ちてしまう…

 「巻き返すぞ!機動機雷戦用意!」

 「りょ、了解っ!」

 「全艦取舵一杯!

 第2分隊、機雷放出!」

 「落伍艦が指示を求めています!司令、如何しますか!?」

 …「慈愛」「汎愛」か…

 「陸地に向かいつつ、砲戦で「大和」の注意を引き付けよ!」

 「了解!『座礁を目指しつつ、砲戦により応戦』、送信します!」


                    ―*―

 なぜ、護衛通報艦8隻の第2艦隊が、ミロクシステムによる戦術判断を受けられず、艦隊司令ら幕僚陣に艦隊の命運が託されているのか…

 「…申し訳ないね…」

 「ああ…」

 太田友子と太田大志は、真っ暗なコンソールに囲まれ、明かりもつけず、寂しくしていた。

 機械の動作音もない、静かで暗い「穂高」艦橋。もともと無人で動ける戦艦とはいえ普段はある程度の人数が拠点として活用していることを思えば、夫婦だけの密室となっていることは信じがたいことである。

 もちろん、夫婦貸し切りと言っても、いかがわしいことが行われようと言うことではないーそれならば、艦橋はともかく、艦内全域から人間を締め出す理由も、思考回路が維持できるぎりぎりまでミロクシステムがパフォーマンスを下げている理由も、ない。

 現在、「穂高」は、完全に、外界から断絶されていた。

 「そろそろ、セーリゥㇺは燃えたかな…?」

 「不謹慎だよ、大志っち…」

 「…そりゃ、娘の教育には悪いよな…」

 「玲奈が、あたしらみたいにかっこよくなりたいって言った時、あたし叫んだよ。」

 「…こんな悪い大人になっちゃいけません、とか?」

 なんだかんだ、人間の方向性はかなり違う二人だが、15年連れ添った夫婦である。たいていのことはわかってしまうらしい。

 「…会長たちは、ホント、すごかったんだよね。」

 その松良あかねたちが、頼られ憧れられることに同じようなことを感じたかもしれない…とは、お互い、あえて言及しなかった。

 

                   ―*―

 「『遺愛』航行不能!退艦信号です!」

 「『恵愛』、沈没していきます!」

 ヒナセラ第2艦隊は、次々とその数を減じていった。

 波に翻弄されながらも12センチ砲を発射しようとしては、波に持ち上げられた拍子に砲術員が落水し。

 やっと発射された砲弾も、揺れる船体からめちゃくちゃな方角へ発射されて全く届く気配なく。

 まったく、話にならない。

 それでも、太田大志が第2艦隊によりある程度の戦いができると思ったのは、愛型護衛通報艦の兵装によるー愛型護衛通報艦の想定任務は幅広く、高角砲と機銃以外はモジュール兵装を採用、対水中用に爆雷、対空用に多連装ロケットランチャー、対地用に大口径臼砲、対魔法攻撃用に魔法陣掲示台などを積み替えるモジュール兵装システムを採用していた。そして、その中で、対艦用に搭載されているのが、魚雷、そして、機雷であった。

 翻弄されながらも、直撃ではなく波と爆風によるダメージしか受けていないため、実は、護衛通報艦隊は、なんとか、全ての機雷の放出を終えていた。

 機雷は、非対称的な海戦ではキーであり、実際日露戦争や第一次世界大戦では小さな軍艦がばらまいた機雷により10000トンを超える戦艦があっけなく爆沈した例がいくつもある。小型艦8隻分の機雷で大和型戦艦を撃沈できる可能性は、充分にあった。

 だから。

 その爆発を見て、旗艦「敬愛」の幕僚陣は、膝をついた。

 46センチ砲弾が着弾して水柱が屹立した直後。

 津波に混じって、確かに、赤い火柱が昇ったのである。

 機雷の信管が、水蒸気爆発による圧力で、誘爆していた。

 何が起きているのか説明するには少しばかり知識が足りなかったが、それでもヒナセラ第2艦隊の全員が、機雷作戦の失敗を直感で理解した。

 火柱は、なおも、水柱と津波のたびに立ち上る。

 「…敗北だ。

 決定的なまでに敗北だ。

 残存全艦、舵を岸へ向け…」

 艦隊司令の指示に従い、ファイティングトップへ信号旗が掲げられようとしたその時。

 46センチ砲弾の1発が、「敬愛」の70メートル手前に落下し、海水を瞬間的に沸騰させながら持ち前の高速と大和型主砲弾ならではの水中弾形状によりスーパーキャビテーションを起こして直進。数ミリでしかない護衛通報艦の装甲を突き破って反対へ抜けた。

 数ミリ秒後。

 艦を貫通するような直径十数メートル長さ100メートル超の体積が瞬間的に1700倍に膨れ上がったことにより、「敬愛」の丸っこい艦体は、白い蒸気に呑まれて消失した。


                    ―*―

 「…沿海域戦闘艦(LCS)は全滅したようです、ボス。」

 「あの爆発弾は他人事ではないな。燃料気化爆弾か?」

 「そのように分析いたします、サー。」

 ジョナサン艦長は、沈鬱さを隠さなかった。

 「カミカゼだったな。日本人が関わっているだけある。」

 勝算が無くなり、撤退指示に失敗した第2艦隊の悲惨な末路は、全てUSS衛星に撮影、中継されていた。すなわち、各個に突撃、あえなくも撃破されていったのである。結局「大和」がした攻撃は1番砲塔のみ8射であった。

 「…して、制空権はどうなっている?」

 それでも、原子力潜水艦「エルドリッジ」乗員たちは気分を切り替える。

 己の身を挺して2隻の超弩級戦艦を分断した勇敢さへの敬意もさることながら、しょせん愛型護衛通報艦はアメリカ海軍の艦種分類でいう沿海域戦闘艦(LCS)に酷似した「小型艦多数を連携させて1隻がやられても戦闘に支障がないようにし、兵装をモジュール化させ様々な任務に対応する」というコンセプトの艦であり犠牲は戦術上仕方がないとアメリカ人たちは思っていた。

 「はっ。報告によれば、制空権、及び赤海全域の制海権は未だ、国連軍側にあります。」

 「それは何よりだ。見つかってはならんからな。」

 戦艦迎撃作戦における原潜「エルドリッジ」の役目は、浮上と沈降により神出鬼没となり、「ミズーリ」からのミサイルを迎撃、また「穂高」の攻撃で対空能力を喪失した「ミズーリ」を攻撃することである。本来原潜に対空迎撃能力は皆無だが、異世界派遣にあたってはなんらかの予期せぬ危険にさらされる可能性に備え、「ミズーリ」が備えているモノの前世代型光学迎撃装置2基があったのが幸いした。

 「レーダー、ミサイル、いずれも正常です。敵影ナシ。」

 「…皮肉だな。捜されることへの対応に特化した潜水艦が、最高の捜索能力を持つピケット艦に抜擢されるとは。」

 「なにせ『ホタカ』が沈黙してますからね…」

 「…しかし、アマチュアだったと、軍学教育を受けていないと言うのに、なかなかの作戦じゃないか。」

 ジョナサンは、声を抑え表情だけで器用に笑った。


                    ―*―

 「…そう、ジョナサン准将、了解しました。」

 第2艦隊の艦隊司令には、あったことがある。コンプレックスの強い男だった。…実は、第1艦隊の護衛通報艦「友愛」艦長に内定していた彼を、第2艦隊司令に抜擢するようパパに言ったのは、私だ。

 あの時は、そうすれば奮起すると思ったけど、でも、裏目に出たのかもしれない。2線級部隊とは思われたくないと、踏みとどまらせ、その結果逃げられなくなってしまったのかもしれない。

 「何を考えているのかな?かな。」

 「…タマセさん…分かっているんでしょ?心が読めるなら。」

 「…うーん、えーっと…心が読めなくても、顔色で分かるよ?

 罪悪感、だよね。よね?」

 「…分かっているなら、言わないで。それとも…」

 …違う、こんな、「気持ちを取り去って」だなんて、頼んでいいことじゃない。

 「その気持ちは、持っておくべきものだからね。ね?

 …それに、誰もが加担しているこの戦い、今から罪悪感を感じてたら、きりがないし。」

 …なんか、大事なこと言われた気がするんだけど。どういう意味?

 「…ううん、忘れて?」


                    ―*―

神歴2723年6月8日

 冷たい、そう謗られることは仕方がない。

 セーリゥㇺ市壊滅も、第2艦隊全滅も、決して許容されることではないが、同時に、作戦上あり得る犠牲として想定されていた。

 目的のない中途半端な戦力投入は、生贄を増やすだけとなる。ならば「ミズーリ」にも「大和」にも、動員できる全戦力を一気に投入して挑むべきであり、それまでの損害は仕方がない。

 かくて、これも当然想定し得る結果として、「ミズーリ」はセーリゥㇺ水道を無傷で通過し、朝日を浴びて赤海へ現れたー「大和」が使った水蒸気爆発砲弾の存在を思えば、検討された海峡閉塞作戦は、中止してよかったのだろう。

 ともかくも、作戦通り、「ミズーリ」は、海峡を抜け、広い赤海へ躍り出た。

 地名の由来でもある赤いプランクトンにより舷側を赤く染めながら、対岸が見えるほど狭い幅数十キロの海峡開口部を抜けた「ミズーリ」。直上には無数のドローンと戦闘ヘリ「武直10改」3機を従えている。

 レーダーと赤外線カメラが対空・対水上目標を、磁気探知機が対水中目標を捜索する。

 主砲は45度の仰角を取り、最大射程での斉射に備えている。

 いつでも攻撃してどうぞと言わんばかりの「ミズーリ」の主砲塔3基が、まるで何かに気づいたかのように旋回を開始したその時。

 「全砲門、急斉射!」

 号砲は、突然に。

 シュッッゴッドォーオオーォーーーーーーーーンッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 その轟音は、世界すら震わせるかに思われた。

 

                    ―*―

 戦争の時、もっとも不要とされるのは、生物系魔法の植物系統らしい。めったにいない動物系統生物系魔法の熟練者であるテライズ・アモリ氏が言っていた。「動物系統なら魔物を造れるが、植物系統では後方で農業を助けるしかできない」らしい…生産効率の上昇による糧食調達増加って、有事には一番役に立つ技能だろ…

 とにかく、炎系・風系魔法が攻撃、土系魔法が防御、水系魔法が海や川でのあれやこれやに役に立つ中、植物系統生物系魔法の魔法使いは余っていて。

 だから、空前絶後の「穂高」隠蔽を、成功させることができた。

 太平洋戦争末期、日本海軍は残存艦艇に草木をかぶせて陸地に偽装したという。もちろん見抜かれてしまったのだが、しかし制空権があって空からほとんど見られることなく、なおかつ魔法が使われるとなれば、完成度はけた違いにできる。

 「ミズーリ」が、海峡を抜けた直後。

 島に偽装した「穂高」から、迎撃が間に合わないほど最接近した瞬間の急斉射で、一気に仕留める!

 「全砲門、急斉射!」

 叫び、いくつものボタンを一気にクリックする。

 シュッッゴッドォーオオーォーーーーーーーーンッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 強装薬と56センチ急迫徹甲榴弾という、最もうるさい組み合わせ。

 ブラックアウトさせていたスクリーンが次々と点灯し、艦橋が明るくなる。

 衛星回線がオープンされ、新着メールを告げる受信音が、何度も何度も艦橋に鳴り響く。

 レーダーコンソールが、対空火器自動発射システムコンソールが、目標発見警告を赤く光らせる。

 主砲の爆風が、艦を覆う草木を吹き飛ばして、窓の向こうがクリアになる。

 そして、深呼吸一回し終わらないうちに、レーダーは命中を告げた。

 「よしっ!」

 「やったね太田っち!」


                    ―*―

 異世界においては、とりわけ「透明化」や「気配遮断」といった隠密の方法がある。そして、大砲が魔法に対し優位なのはあくまで射程に勝るからであり、接近された場合、極めて近距離であれば伯仲、いや、タイムロスの長さから大砲が魔法使いに負ける可能性も高い。

 こうした検討がカイダ・リュートによりなされると、太田大志は、近距離戦闘用特殊砲弾の開発を指示した。これが、異世界独自の兵器体系である「急迫徹甲榴弾」である。

 もともとが貫通力の高い徹甲弾に炸薬を詰めた徹甲榴弾であるが、防御魔法をあらゆる角度から容易く突破して瞬発信管で炸裂、向こう側の人員を殺傷するという目的の元造られた極めて特異な砲弾であり、また用途上、即座に発射できるように配慮されていた。ただし第一撃で目前の敵を殲滅することに特化した砲弾であるため、威力と貫通力を確保するべく重量は極めて過大であり、射程は他砲弾の半分、発射音は2倍近い。

 これが、「穂高」の56センチ砲ともなると、その急斉射は、まさしく史上最強の開幕攻撃と言える。そして、約4キロを5秒という短時間で、しかも曲射ではなく平射で到達する砲弾を迎撃することは、さすがのアメリカ軍でもできない(できるのなら、大砲は無意味になってしまう)。

 9発の砲弾は、「ミズーリ」の装甲版を貫くことにより信管を作動させ、艦内で炸裂、無数の断片をまき散らした。

 戦艦の定義は「決戦距離で自艦の砲撃に耐えうる」であり、対51センチ砲弾装甲の「穂高」が「巡洋戦艦」であるのはその定義を外れているによるが、それでも随意金属オリハルコンによる自動修復で現実的には耐えることができる。しかし「決戦距離=砲戦において現実的かつ威力効率最大な距離(「穂高」で35000メートル)」よりはるかに内側からの56センチ急迫徹甲榴弾斉射では、穂高型戦艦ですら修復が追い付かず2射以内で撃沈されてしまう可能性が高かった。

 穂高型巡洋戦艦に耐えられないとされるものを、対40,6センチ砲装甲のアイオワ級戦艦が耐えられるわけがない。

 艦内の電路を、機関部を、乗員を、56センチ砲弾の断片はズタズタとし、そのまま装甲を内側から抜け、反対側へ無数の破孔を空けた。

 砲塔基部も弾薬庫もすっかり原形をとどめなくなり、保有されているミサイルは格納筒ごと破壊され、猛威を振るっていた対空レーザーも通電しなくなった。

 機関部でギアを回していた帝国軍の魔法使いも、血まみれで倒れ伏し、惰性で動いていたスクリューが徐々に回転数を下げていく。

 1斉射で廃艦となりゴーストシップでしかなくなった「ミズーリ」が、漂流を始めた。

 潜航中の原潜「エルドリッジ」の艦首水圧発射管から発射された533ミリTAPS誘導魚雷が、水中から「ミズーリ」右舷に突き刺さると、水柱が立ち上るとともに大きな破孔から海水が流入し、徐々に「ミズーリ」の細長い艦体は右へ傾いていく。

 水上に急迫徹甲榴弾が空けた破孔が海中に没することで、「ミズーリ」の傾斜速度は加速度的に速くなり、ついには勢いよく横転、そのまま、海中へ没していった。


                    ―*―

 「『ミズーリ』…沈んだんだね。だね?」

 「…タマセ殿、わかるのですか?」

 「うん、わかるよ、インテルヴィ―殿下。」

 「そうなのですか?

 …レーナ殿、どうなのですか?」

 「…ちょっと待って。

 はい、はい…

 …みんな、確かに、戦艦『ミズーリ』の撃沈を確認したって。」

 「ほら、ね。ね?

 …でも、もちろん、これで終わってはくれないんだけど。」

 「…タマセさんの言う通りでしょうね。まだ『大和』がある。」

 「で、でも、きっとレーナ様の御両親なら、勝てるかと…」

 「リットの言う通りでは?これでもう一度『穂高』が戻ってこれば、勝利は堅いように思います。」

 「それにきっと、臣民も、おかげで正気を取り戻せますわ。」

 「うん、きっと、これで後は消化試合じゃない?」

 「…まあ、消化試合ではあるよね?よね。」

 「…タマセさん、何か含みがありそうな言い方だけど、はっきり言ってくれた方がいいわ。」

 「うん?えーっと…私、嘘は言わないし、訊かれたことにはきちんと答えるよ?よ。」

 「後で『訊かれなかったからね』はナシよ?」

 「…何か契約させようってわけじゃないんだから、道理のわかってないことを言わないでほしいな。

 それに、訊かれてないことに答えないのは、そのほうが、世界とみんなのためになるからだよ?だよ?」

 「はあ…まあ、訊かないわ。」


                    ―*―

 巡洋戦艦「穂高」は、一路赤海中央部へ北上していった。

 島に偽装していた海域は岸に近く浅かったため、戦闘行動には向かない。ドローンの存在からして、「大和」に偽装待ち伏せ作戦は見られていたと思われ、二度は通じない待ち伏せよりは超弩級戦艦どうし正々堂々撃ち合ったほうがよさそうに思われたことが、狭隘な海峡開口部から、地中海の1,5倍近い海面積を誇る赤海の中央へ「穂高」が移る理由となった。

 「ミズーリ」が案外あっさり沈んだことで、作戦は改定となった。

 「大和」は、かならずセーリゥㇺ水道の赤海側海峡開口部を通過する。狭隘なそこで、神国魔法艦隊による総攻撃を行う。

 精神系魔法により人工知能が狂うのは九州戦争中に証明されているので、それによって自動修復を阻害し、痛打。それでも沈まない場合、「エルドリッジ」の巡航ミサイルで、装甲貫通は出来なくとも修復が追い付かないペースの被害を与え、最後に「穂高」でとどめを刺す。

 本当はすべての攻撃を同時に行うべきではあるが、魔法は射程が短いために56センチ砲の巻き添えになりかねず、また神国艦隊の帆船は速力的に待ち伏せしか手がないことでの苦肉の策だった。

 作戦は、護衛通報艦隊が玉砕して作ってくれた時間差6時間の間に伝達され、各艦が配置につきなおした。

 

                    ―*―

 正午。

 穂高型登場までは史上最大最強であった大和型戦艦の、その1番艦「大和」の模倣品レプリカ「大和」は、朝方にライバルであるアイオワ級戦艦がたどったルートをトレースし、赤海へとその特徴的な涙滴ヤーケヴィッチ型船体を進めようとしていた。

 その時。

 「『透明化』解除。」

 「『気配遮断』解除。」

 「『意変光ライトシフト』!」

 同時に、2つの最上級魔法が解除され、1つの最上級魔法が発動された。

 173隻の、小は20メートルから大は120メートルまで様々なサイズの木造帆船が姿を現す。

 「大和」の上空に直径100メートルの魔法陣が形成され、それを通過する太陽光全てが、ガンマ線へと波長変換される。

 致死量の放射線が、「大和」艦内の全乗員を襲った。

 乗り込んでいた帝国軍の魔法使いも、中国軍人も、等しく即死したー15年前、リュート辺境伯領の義勇軍により「門」を閉鎖され地球に帰れなくなり帝国に帰属して頑張っていた人民解放軍異世界派遣部隊は、わずか数秒のうちにメンバーを0としてしまったのである。

 大勢の神国軍司祭とリュートの魔法研究者が、長時間の隠蔽に疲れ切って帆船の甲板に倒れ伏す。バギオ・クィレもまた、これ以上の攻撃は出来ないようで風魔法を使って飛び去っていく。

 海中では、テライズ・アモリが魔法により創り出しコントロールするタコ型クラーケンが、4本のスクリューシャフトに絡みついて、プロペラに引き裂かれながらも舵やシャフトを曲げて航行能力を奪っていく。

 へし折られたシャフトやプロペラはクラーケンの死骸とともに海底へ。そして切り口はぬらぬらと随意金属オリハルコン特有の輝きを放つが、もはや意思を持つ人間のいない以上修復は遅々として進まない。

 キズこそ見当たらないのに早くも漂流を始めた「大和」。その数百メートル向こうで帯状に展開する神国艦隊の中央部では、銀色のサークルが形成されていた。

 宇宙まで届くのではと疑われる、銀光の柱。

 断罪の光は、セーリゥㇺ水道を両断するようにして、一気に倒れこんだ。

 「大和」艦内も、銀色に満たされる。

 16年前、松良あかねは「大和」を随意金属オリハルコンで再現するにあたって、省力化・少人数化が必至であったために無数のコンピューターを創造した(大和型戦艦の本来の定員は3000人弱であり、これは当時のヒナセラ人口の3分の1だった)。これは操縦・火器管制・戦術AIとして十分なモノであり、無人で大和型戦艦を運用できるほどのシステムとして今の今まで機能していた。

 しかしこの神聖魔法「永凶夢ウェイクレスドリーム」の効果は、「銀光とともに、範囲内にある異教徒の知能を死ぬまで狂わせる」というものであり、普通は護身用でしかないが、数百人規模で戦略的に使われた場合、韓国海軍をまとめて機能停止に追い込んだ実績がある。

 知能を持っていれば、人間だけでなく、一定水準以上のAIもまた、その効果を免れ得ない。

 「大和」の艦橋では、誰もが呼吸をしていない中、応えるものなくも奮闘を示していたコンソールが、突如としてアルファベットと数字のプログラムを垂れ流し、赤いエラー警告に満たされ、そしてすぐに、エラー文言すら正常に表示されなくなり、画面を虹色で満たし…とまれ、何もかもが正常に機能しなくなっていた。

 修復が始まっていたスクリューシャフト切り口は、AIの意思が狂っていき一定しないことでぬらぬらと随意金属オリハルコンが液体のように変化して崩れ落ちていったが、やがて意思と認めるべき統一性すらなくなると、シャフト全体が垂れ下がった状態で固まった。

 すでに、「大和」は、史上最強の戦艦は、それを動かす人も、それを操る意思も、およそ軍艦が機能するのに必要なソフトすべてを失っていた。

 一糸乱れず。

 精神系魔法使いが、甲板から船内へ担ぎ込まれ、代わりに炎系魔法使いと風系魔法使いが甲板へ出て整列する。

 数百人の軍司祭は、いずれも、信仰と教義が強め教会が連帯させる神聖魔法の使い手。風系魔法であれば台風すら引き起こし、炎系魔法であれば瞬間的にヒロシマ級の爆発を起こすことができる。

 そして、力を貸すリュートの魔法研究者たちは、辺境伯家の庇護を受け2700年間様々な流派で魔法を効率的に使うことを研究してきた者たち。魔法をいかにうまく使うかにおいては、あらゆる人工知能を凌駕する。

 無数の魔法陣が、帆をたたんだ帆船の海峡側舷側を包み。

 幾千の炎が、渦を巻いて、「大和」へと向かっていく。

 炎の渦は空中でヘビのようにつながり、そして、ギリシア神話のヒュドラのごとく、9つに分かれた。

 炎の大蛇の首がそれぞれ、熱気を陽炎として表し、3つごとの束となって「大和」を呑みこむように迫る。

 もたげられたまま静止した46センチ砲の砲身へ、炎の首が風によって導かれ。

 風により続々送り込まれる炎は、砲身の奥の46センチ砲弾の発射炸薬を誘爆させ、砲尾栓を破壊。そのまま、揚弾筒を通って、弾薬庫内の46センチ砲弾へ…

 もしこれが、純正の呉工廠製46センチ砲弾であれば、少なくとも十秒以上は誘爆せずに堪えただろう。しかし、この「ヤマト」の砲弾はあくまで、コンピューターに残されていたデータに従い、人民解放軍が設計を指示し、アディル帝国の魔法使いが土系魔法ででっち上げたシロモノ。工作精度が低すぎるだけに、耐えきれなかったことは責められない。

 何はともあれ。

 グゴッゴッガッグワッドグガッゴゴッドーーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 砲塔基部まで炎が満たすや、「穂高」と撃ち合われるはずだった46センチ砲弾は、次々と起爆。これを初速約980m/sで発射する予定だった炸薬ともども、自らの砲塔を、内部から食い破った。

 世界最高だった巨砲が、業火と共に張り裂け。

 前甲板2つ、後甲板1つの46センチ3連装砲は、いまや煉獄の穴と化し。

 それまで艦を取り巻いていた炎系魔法がかき消され、技巧凝らした風系魔法は爆風の前に存在しないも同じく。

 降り注ぐ破片が、数百メートル離れた帆船の甲板すら貫いて、いくつもの帆船が沈み始め、数隻が熱せられた15,5センチ副砲弾が落下してきたことで大破・沈没していく。

 砲塔がはまっていた穴を中心にして、深紅の裂け目が甲板を伸びていき。

 喫水線より上は、徐々に、いくつもの巨大な欠片へと崩壊を始めていた。

 神国艦隊の帆船は、巻き込まれてはたまらんと水系魔法で波を起こし全速退避していく。

 上空から、「エルドリッジ」のトライデント巡航ミサイルが7本、ホップアップして、主砲塔があったところへ飛び込む。

 ドーーン!!!!!!

 花火のような、太鼓のような音。

 裂け目の中心で起きた爆轟は、とどめを加えるに充分だった。

 艦橋が、おもちゃのように吹っ飛ぶ。

 直後。

 戦艦「大和」は、十数の破片に引き裂かれ、あっけなくー

 -崩壊し、海没した。

 かくて、帝国艦隊は消滅したのである。

 あえてパロディで表すとすれば、「穂高」の攻撃は

 「徹甲弾=通常攻撃が6回確率攻撃で全体攻撃

 急迫徹甲榴弾=特殊攻撃は1回攻撃で一点攻撃

 三式弾=対空攻撃が6回攻撃で全体攻撃」

 …コイツの敵を考えるのはホネでした。

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