これからどうする
隊長は氷の棒と化した剣を振り回し、尻餅をつく。
ディナは隊長が向ける剣先に音も無く降り立った。
剣から指、指から手と氷が音を立てて登って来る。
それを見て慌てて隊長は手を離そうとする。
だが剣は掌にくっついており、手放すには遅かった。
氷は手首を越えてくる。
「クククッ、楽には殺さん。全身が凍っていく恐怖をたっぷり味わえッ!」
ディナの高笑いが辺りに響く。
「だ、誰か助けて……助けてくれーー!」
隊長が叫ぶと目の前にデイナが飛んで来た。
「それ以上、お姉様の耳を汚させはしない」
デイナが隊長の頬をそっと撫でると、隊長の口は凍りつき、ウンウンと唸る事しか出来なくなった。
「お姉様に刃を向けた自分の不幸を呪って死んで行け!」
とうとう隊長は白目を向いて気を失った。
「ディナ、やりすぎよ。 その辺で許してあげなさい」
エイミーにいさめられ、ディナは氷を解除する。
隊長の顔は涙や鼻水、氷が融けた水でグショグショだ。
「ゴメンなさいお姉様〜。ディナはお姉様の事を思って、つい」
甘える声を出してエイミーに抱き付くディナ。
それを見て一矢はディナを怒らせないようにしよう。そう心に決めた。
一矢は気を失った兵士達を街道脇の木にロープで縛りる。
朝になればきっと誰か見付けてくれるだろう。
そして一矢達は馬車の所まで戻って来た。
「夜明け前には移動を始めるって事で、今は少し眠りましょう」
そう言ってエイミーは馬車に乗り込む。
「あぁ、分かった。面倒な事になっちまったな」
そう言って一矢も馬車に乗り込もうとする。
突然、体に電撃が走り、一矢はその場に崩れ落ちる。
「おバカには外がお似合いよ」
雷の体でディナが一矢の眼前を横切って行く。
一矢はおきあがろうとするも体が痺れて動けなかった。
「お休み一矢。今夜はもう面倒事はゴメンだから」
エイミーは振り返りもせずに毛布に包まった。
***
エイミー達が起きてくると馬車の移動を始める。
その間にベティーナとクレアの事をディナに聞いた。
クレアについては見張られてはいるが問題なし。
ベティーナは謹慎処分と言う事で兵舎から外出も許されていない。言わば軟禁状態。
それでも一矢とエイミーの事は一部の兵士しか知らないトップシークレット扱い。大体的に一矢達を探そうと言う気配は無いらしい。
「二人共、思ったより大変な事になって無くて良かったわ」
エイミーはそう言いながらもやや不安そうだ。
「お姉様が逃げた後、女兵士が『魔族は王都の外で待ってくれているはず』ってあの偉そうな奴に言ったからトップシークレットにしてるんだって」
ディナがそう言うのを聞いて一矢は微笑んだ。
「なる程。確かに俺達が逃げた後なら、あながち嘘じゃないか」
「クレアならまだしも、真面目なベティがそんな事言うなんて。……誰かさんの悪い影響かしらね」
エイミーは一矢を横目で見る。
「フフフッ。俺のカリスマ性かな? 良くも悪くも影響を与えてしまうんだよね〜。分かる? 俺の偉大さ」
「あんたがイタい奴だって分かってるわよ」
エイミーは馬車を止める。
「それよりどうするのよ? もう森の端まで来ちゃったわよ?」
馬車を移動し始めてほんの数十分。木々の隙間から街道が見える。
「この森から出るにしても王都から離れるの? 離れないの?」
一方は王都へ、もう一方は王都とは逆へと道は続いていた。
一矢はニヤリとエイミーに笑いかけて言った。
「そんなの決まってんじゃん」