追われる身
エイミーは一矢と向かい合わせる様に座り、その間には体を炎に変えたディナが居る。
「ゴメンねディナ。物を燃やして、煙を上げるわけにはいかないの」
エイミーが毛布を肩に掛け直しながら言った。
「いや〜、本当に助かるな。ピクシーって結構便利だね」
そう言う一矢をディナは睨む。
「あんたなんかディナの足の裏で十分よ」
そう言ってディナは足を一矢に向ける。
「へぇ、もうそれでオラは十分でさぁ」
一矢は大袈裟にペコペコと頭を下げ、両掌をディナの足に向けた。
そんな二人を見て、エイミーはくすりと笑うが、直ぐにその表情が沈む。
「ベティ達は大丈夫かしら」
一矢はドキリとする。
「た、多分大丈夫じゃ無いのかな? ほら、ベティは警備隊隊長だし、クレアだって王宮魔法団員候補だし」
「あんたバカでしょ! 大事な話中に飛び出してどうするつもりだったのよ!」
エイミーの剣幕に一矢は体を小さくする。
「いやぁ……だって取り付く島も無いって言うかさ、エイミーの事を処刑するとも言ってたし。早く手を打たなきゃって思って」
エイミーは呆れ気味にため息をついた。
「でもそうなるかもって予め話してたじゃない。あたしはハーピーの村を人間から守りたいの。あんたが人間と魔族の争いを止めてくれなきゃ守れないわ」
「自分の女を守れ無くて、ハーピーの村が守れるかよ!」
「だ、誰が誰の女よ!」
エイミーは大声を上げる。
「そうです! お姉様はディナのものです!」
ディナは一矢の目の前で言う。その体は火力を上げて燃え上がった。
「熱いッ! 熱いから落ち着けって! それよりこれからどうするかだろ? 過去の事は過去の事! 未来の事を考えようぜ?」
「あんたが言うな。あんたが。でも本当にどうするのよ。もう王都には戻れないんじゃない? きっとあたし達を探してるわよ?」
「誰にも見られずに二人の様子を探れないかな……」
ふと、一矢の視線がディナに止まる。
「そう言えばディナって姿を消せるんだよな……」
一矢にそう言われてエイミーもディナに視線を移す。
「そうね、消せるわね」
一矢はニヤリと笑う。
「な、何よ。気持ち悪いわね」
ディナは一矢から隠れるようにエイミーの首へと抱き付いた。
「なぁ、チョットひとっ飛び二人の様子を見てきてくれないか?」
「イヤよ! 何で人間なんかの為にそんな事しなきゃならないのよ」
嫌がるディナをエイミーはそっと掌に乗せて自分の顔の前に連れて来る。
「お願いディナ。二人共、あたしの大事な友達なの」
「お任せ下さいお姉様! きっとディナが二人を助け出しますね!」
ディナはエイミーの頬に抱き付いた。
「……そんな反応だと思ったよ? おもってたけどさぁ。俺ってリーダーじゃなかったっけ?」
軽くイジける一矢を他所に、ディナは元気に飛び上がる。
「それでお姉様! 何処を探してきたら良いの?」
そうディナに言われてエイミーはドキリとする。
「何処って……やっぱり作戦本部?」
エイミーは一矢に視線を送る。
「うん? あぁ、まあ……そうじゃない?」
「もう。しっかりしてよね、リーダーさん。あたしは人間達の事を良く知らないんだから」
「作戦本部! 作戦本部って事でお願いします!」
それを聞いてディナは鼻で笑う。
「流石リーダー! 曖昧で適当な指示をありがとう! 見付からなくてもディナこせいじゃ無いからね!」
「ゴメンね。ディナ」
エイミーがディナに優しく言う。
「分からない事ばかりで不安だろうけど、二人がどんな状況なのかだけでも知りたいの。お願いだから二人を見付けて来て」
「ディナにお任せ下さい! 笹舟に乗ったつもりで待ってて下さい!」
そう言ってディナは飛んで行った。
「笹舟って……ピクシーしか乗れんだろ」
一矢はポツリと呟いた。