決裂
「ヒドイです! エイミーさんが何をしたって言うんですか?」
クレアが口を挟んだ。
「そちらは?」
「砦防衛に尽くして頂いた私の友人です」
ベティーナが答える。
「民間人か、御助力は感謝申し上げよう。だが口出し無用」
「もうすぐ民間人じゃなくなる予定です! 魔法団の推薦状貰いましたから」
クレアは推薦状を掲げてあっかんべーをする。
「ならば覚えておくと良い。我々の任務は王国の安全を守る事だ。それだけを考えろ」
そう言う本部長をクレアは睨む。
先程合図を送られた兵士も事情を知るだけにどうすべきか戸惑い、本部長と一矢達とを交互に見つめるばかりだ。
「そもそも戦争なんてしなけりゃ安全に暮らせるじゃないの?」
一矢が沈黙を破る。
本部長は呆れた様に溜息をつく。
「まったく。君もベティーナ殿の友人か? 野蛮で危険な魔族がすぐ近くに住んでいるんだぞ? そんな状況でどう安全に暮らせるのだ? さあ私も忙しいのだ」
本部長は手を振り、話しを終わらせようとする。
「……王にこの話し、届けて頂く事は出来ませんか?」
ベティーナが絞り出す様に言う。王が是と言えば本部長も従うしか無い筈。
「そんな事をしてどうする? あくまでこれは討伐隊の問題。討伐隊の事は私に一任されている」
「これが魔族全体との話なら良いのか?」
一矢も食い下がらない。
「あり得んだろう。魔族の世界は弱肉強食。自分よりも強いものにしか従わない。その魔族はそれ程までに強い魔族なのか?」
「俺達が魔王に掛け合う!」
作戦部長は一矢の言葉に声を上げて笑った。
「魔王だと? そんなもの噂ばかりで誰も見た事ないぞ? 魔王も居ない、低俗な魔族共等が停戦する筈もない。夢物語は別な場所でしてくれたまえ」
一矢は本部長の前まで歩み出る。
「魔族は低俗じゃない。文化が違うだけだ。実力主義だから、あんたのとこの兵士達より強い俺なら魔族に戦いを止めさせる」
一矢の言葉に作戦部長はより一層表情を強ばらせる。
「戯言をほざくのは好きにしたら良い。だが我等討伐隊を侮辱すると只ではおかんぞ」
「侮辱じゃない。ただの事実だ」
「貴様! いい加減にしろ!」
本部長は机を叩き、立ち上がる。
ベティーナは慌てて二人の間に入る。
「本部長殿、恐れながら一矢殿の腕は確かです。私よりも腕は立つのです。先の戦いでも相手の指揮官を一矢殿一人で倒されました」
作戦部長はもう一度嘆願書に視線を落とす。
確かにそこには一矢が敵指揮官を倒したとなっていた。
『だが……まさか一人で、だと?』
「ベティーナ殿は前回の武芸大会でそれなりの成績だったか」
本部長ですらベティーナの名は知っていたし、ルアルディ家と言えば警備隊の中では有名だった。
「……だがにわかには信じられんな」
一矢は本部長の動揺を感じてニヤリと笑う。
「なら賭けをしないか? 俺と一対一で戦い、俺が勝てばもう一度考え直してくれ。負ければ潔く引くよ」
そして一矢は更に付け足す。
「もしあんたが負けるのが怖いってんなら、誰か他の奴を代理にしてくれても良いぞ?」
本部長の片眉がピクリと上がる。
一矢と本部長の間に沈黙が走る。
「……わざわざそんな賭けをする必要はない。魔族が停戦などするわけ無いからな」
「現に申し込んで来てるだろ? 報告書を見ろよ!」
「一矢殿。もうその辺で」
今にも飛びかかりそうな一矢をベティーナは止める。
「作戦部長殿、失礼はお詫び致します。一矢殿も人間と魔族両方の平和を願うがゆえの発言なのです」
「志が高いのは良し。しかし、現実はそう簡単な話ではないのだよ」
本部長はどっかりと椅子に座り直す。
その顔は一矢の嫌いな表情に戻っていた。