報告
「つい先日、使者を寄越したばかりだと言うのに。よっぽどの事なのだろうな?」
本部長は書類を見ながら言う。
『あ〜やだやだ。こう言う偉そうな奴、嫌いだなぁ』
一矢はクレアをチラリと見る。
クレアも眉をひそめていた。
クレアが一矢の視線に気付くと口パクで本部長の真似を始めた。
それを見て一矢の脳内で音声が再生される。
『つい先日、使者を寄越したばかりだと言うのに……』
ここからクレアの表情は崩れ、舌がだらし無く出てくる。
『にょっぽどの事にゃのびゃぼうにぁ?』
一矢は目を逸らし、吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
『ヤルなクレア。腕を上げやがって』
そして一矢は笑いの衝動が治まるとクレアに視線を戻す。
クレアの口は舌を出したままで、白目までむいていた。
『ヤバイ! ガチだ! ガチで笑いを取りに来てる!』
そんな一矢達を他所にベティーナは説明を始めた。
「既に報告済みかと思いますがケンタウロスとサテュロスが正面から襲撃を行い、その隙にウェアタイガーの主力部隊が裏から急撃されました」
『危ない危ない。ここはリーダーらしく毅然とした態度で挑まねば』
一矢は改めて姿勢を正す。
「砦に侵入され、不意を突かれた事により多くの兵士が命を失いました。そして、砦の司令官であるシャガール殿も戦死されました」
本部長はそこで眺めていた書面を置き、ベティーナに視線を移した。
一矢もシャガールの話しを聞くと、心が沈んだ。
一矢がもっと戦えていれば彼もまだ生きていたかも知れない。
そんな思いが一矢の胸の内に蘇ってくる。
ベティーナは報告を続ける。
「しかしウェアタイガーも指揮官を失い、現在砦と魔族の間で停戦協定のもと、一時休戦となっています」
「魔族が停戦だと? そんなまさか?」
「部隊内でも否定的な者も多く居ましたが、先の戦いで多くの兵を失い、砦防衛も危うい状況。正規部隊は割く事出来ず、失礼ながら我等が報告に参りました」
『流石ベティーナは真面目だなぁ。警備隊隊長なだけあるよ。よし、俺を養わせてあげよう』
一矢はウンウンと一人頷く。
「御苦労であった。至急援軍と補給部隊を送ろう」
「後は兵長殿より書簡を預かって参りました」
作戦部長はベティーナから嘆願書を受け取り、中身を確認するとみるみる表情を変えた。
「まさかと思うが、この王都へ魔族を侵入させたのか?」
さっと本部長室の空気が変わった。
「彼女は停戦の使者として参りました。……御理解頂けませんか」
「それは無理だろう。迅速に処理するしかあるまい」
本部長は一矢達を案内した兵士に目で合図を送る。
「まさか……」
ベティーナはその仕草に動揺を隠せなかったください
「勿論生かしてはおけん」
「そんな……」
本部長の言葉にベティーナは言葉を失った。