王都到着
異世界平定奇譚の続きとなります
野村一矢が馬車の外を覗くと重厚感の有る建物が並び、沢山の兵達が行き交っているのが見えた。
「これから今回の魔族討伐作戦本部へ向かい、報告をします。エイミー殿とディナ殿は馬車の中でお待ち頂いた方が宜しいかと思います」
ベティーナ・ルアルディがエイミーとディナに言う。
「ベティーナに任せるわ」
そう言ってエイミーは頷く。
「ディナはお姉様と一緒なら何でも良いですわ」
ディナはピクシー特有の小さな体でエイミーの肩に座り、両手でエイミーの頬に抱き付いた。
「あの、わたしはどうしましょう」
クレア・ベルリオーズは自分を指差して尋ねる。
「クレアさんは……一緒に行きましょうか。王宮魔法団の推薦についても作戦本部経由で通してもらいましょう」
「は〜い。あぁ、やっと憧れてた禁断の花園に入れるんだ。どんな欲望と愛が渦巻いてるのかって思うと胸がキュンキュンします!」
クレアは両手を合わせ、恍惚の表情を浮かべる。
「……推薦状破いた方が魔法団の為じゃない?」
クレアが一矢に呟いた。
「クレア、綺麗でボインのお姉ちゃん居たら紹介してね」
一矢がクレアに言う。
「フフフッ、一矢さんには俺様系の美男子を紹介しますね」
クレアの丸眼鏡が不敵に輝いた。
「……遠慮します」
馬車は一段と立派な建物の前へと到着すると行者係の兵が降り、馬車を開けた。
「ベティーナ殿、到着致しました」
「有り難う」
一矢達が馬車を降りるとベティーナは兵士に耳打ちをした。
「馬車には誰も近付けるな」
「心得ています」
「ベティーナ殿! お久し振りです!」
衛兵に作戦部長への面会を申し入れようとした時、中から出てきた兵士に声を掛けられた。
「確か、砦の?」
「はい、騎馬隊の者です。ケンタウルス戦ではお世話になりました。もしや作戦部へ御用ですか?」
「作戦部長殿へ報告に参りました」
「ベティーナ殿がわざわざ来られるとは。……何か御座いましたか?」
「あの後、魔族に砦が襲われまして。その事で参りました」
「何と! 分かりました。案内しましょう」
兵士は衛兵に目で合図し、中へと入って行く。一矢達もそれに続いた。
「砦への補給部隊が襲われていた事を報告し、ある程度の部隊を編成してから出発しようと準備していたところです。ロバート隊長は御無事ですか?」
「ロバート殿は勇敢に戦われましたが……」
「まさか! 砦は、砦は無事ですか?」
「何とか。……詳しくは作戦部長殿に」
「そうですね。さぁ此方です」
兵が扉をノックすると中から返事が返ってくる。兵が扉を開けると重厚な机の向こう側に白髪混じりの将兵が座っていた。
その眼光は鋭く、如何にもな軍人然だと一矢は思った。
「どうした? 何の用だ?」
作戦本部長はチラリと一矢達をチラリと見て、また手元の書類に視線を戻した。
「はっ、本作戦に御助力頂いておりますベティーナ殿が報告に参りました」
案内してくれた兵士が踵を鳴らしながら答える。
本部長は手を上げると指を二度曲げ、『入れ』と合図した。
ベティーナと兵士は部屋の真ん中へと歩み出て、一矢とクレアもその後に続く。
『めちゃくちゃ堅苦しいじゃん! マジか〜。俺、こう言うの苦手だ。ううっ、俺も馬車で待ってれば良かった。』
一矢は早々に後悔し始めていた。