表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗翳の火床(アンエイのカショウ)  作者: 蒸奇都市倶楽部(シワ)
1/84

序章

 午前零時。

 新しい一日を告げる鐘が遠くから聞こえてくる。

 この年最後の朔日(ついたち)を迎える鐘の音だ。

「《時計塔》は今日もまだ順調なのか」

 はるか上空から、かすかに響く音を聞きわけながら男がつぶやく。腰に手を当てて、がらんとした広大な広間の隅でふんぞり返っている。

 そこは奇妙な広間だった。

 一階分をまるまる吹き抜けとして供しているかのように、巨大な穴が天井から床までくり抜かれている。そうして見てみると、男が立っているのは広間の隅というよりも、わずかな(ふち)といったほうが実態に適っている。

「天を仰いで何を得る! 偉大なる先人が遺した至宝かね? 我らを律する(はく)耀(よう)かね?」

 芝居がかった口調の割に声音はびちゃびちゃとしており、それを「朗々」と評するのはお世辞がすぎよう。

「その足元から狂いが生じているとも露知らぬ愚かな《時計塔》よ」

 男の周囲で何名かの人影が立ち働いていた。しかし誰も彼の言葉には耳を傾けていない。

 黙々と身体を動かす人影たちは、何かを担ぎ上げては、広間を地から天へ貫く巨大な穴に向かって放り投げている。

 その動作から一拍ほど遅れて、(ごう)! と音がして《時計塔》の鐘の音をかき消す。

 続けて獣が咆哮するかのような地鳴りがする。

「お前が帝都の象徴だと? 守護者だと? ましてや支配者? ばかばかしい!」

 一刀両断、男が吐き捨てる。

「貴様に(かしず)く蒙昧な輩のなんと多いことよ。いまこそ我が〈地下炉〉をもって、貴様への絶対的な信頼を打ち壊してやろう。人々は貴様に不審をいだくのだ。ひいては帝都の科学信奉も揺らぎ、三大碩学(せきがく)の威信も地に堕ちる。それこそが帝都崩壊の兆しとなるのだ」

 男に呼応するかのように穴の底の方が仄明るく輝き、轟! 轟! と響く。

 そのたび恍惚とした男の顔が照り返しを受ける。


 穴の奥深くでは真っ赤な炎がめらめらと渦巻いていた。

 まるで男の内で燃える妄執のように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ