第6話
早朝
「やっと着いた、ここがクロノスCo.本社だ」
「あなた早すぎ」
「休憩する」
「必要ない、行きましょう」
階段を上がり、扉に手をかけ、開けた。
「ルイス様、何用でしょうか」
扉を開けてすぐに、1人の男性が声をかけてきた。
「クロノスに会わせてほしい。大事な話がある」
「会長は今不在でして」
「いつ戻る」
別の人物が答えた。
「もうすぐ帰ってきますよ」
ボクはその声を知っていた。それはクロノスの秘書を務めるテスモスの声だった。
「なら外で帰りを待つ」
「会長の息子を外で待たせるわけにはいきません。中でお待ちに、お部屋まで案内致します」
「構わない」
ボクはそう言ってエリスと共に外に出た。
「あなたクロノスの息子なの!」
エリスの顔を見るまでもなく、その声で驚いている顔が想像できた。
「そう」
「意味がわからない!なぜ父親の会社に革命を起こすの」
ボクは階段に座り込みエリスに尋ねた。
「この国をどう思う。そこにいる人達はどう見えてる。クロノスCo.はどうだった」
「さっきの人はあなたしか見ていなかった。隣にいた私に目を向けず、そこにいないかの様にあなたたげと話していた。この国にある無数の会社も同じ様な扱いをされているのだとしたら、それはまるで…」
「奴隷のように見えたか。確かに、良い人材を育てては引き抜かれ、優秀な人材は巡ってもこない。会社を強くしようと画期的なものを開発すればその会社ごと吸収され、ほとんどの情報がクロノスCo.に流れるようになっている。ここの国にいる以上全てがこの会社に、良いように利用される」
「でも、それがこの会社をここまで強くした。世界を相手に戦えるほどに」
「人の笑顔と国の利益。どっちに価値があると思う」
「比べる対象が違いすぎる、その質問はナンセンスね」
「クロノスは確かに強い、でもそれだけの会社だ」
「それだけって、強さがどれだけ影響を与えるか知ってるでしょ!この時代は強さが全てなの!」
「ならその時代を終わらせるよ。ボクは強さで支配するより、弱さをみんなで補える世界にしたい」
「結局強い人が弱い人を守るってことじゃない」
「強さと弱さは表裏一体。どちらを表にしているかの違いだよ」
「なにそれ、あなたとは合わないね」
「なにを言っても傷付かないと思ってる。意外と内面弱いんだから言葉使い気をつけて」
突然落雷の音が周囲に響いた。そして3人の人物が階段を上がってきた。
「到着したようね、あなたのお父さん」
「そうみたいだな」
ボクは立ち上がり、クロノスと目を合わせ、話始めた。
「戦争が始まる。準備を整えた方がいい」
「話はそれか。その根拠は」
「あなたが管理している筈の会社がウティース領土内で人造人間を使いルーキーを襲っている。それをウティースCo.が知った」
「その情報が嘘の可能性は」
「極めて低いです。それを仕掛けたのは我々の政府の者です。不徳の致すところであります。申し訳ありません」
「君とは話していないよ」
そう言いクロノスはエリスを一瞥した。
「エリスはボクの言葉の信憑性を高めるために連れてきた。自分が認めた人とだけ話をするから、この会社はこれ以上大きくはなれなかったんじゃないの」
クロノスの身体から雷がオーラの様に出てきた。
「ルイス様。今の言葉、撤回なさって下さい」
クロノスの左に立つテールスが言った。
「忠告はした。動かなければこの国は負ける」
ボクとエリスはその場から立ち去った。
「どうしたら親子でそんなに仲悪くなるのかね」
右に立つ人物が首を傾げながらそう言った。
「どうされますか」
「準備を整える。急げ」
「かしこまりました」
「信じてはいるみたいだね」