第5話
「エリス!エリス!」
エリスの息がある事がわかったボクは、泊まっていた宿に連れて行った。
エリスの傷はそれほど深くはなく、一通り手当ては済ませた。
あとは意識が戻るのをただ待つだけだった。
2日後エリスは目を覚ました
「気分はどう」
ベッドの横にある椅子に座りそう尋ねた。
「ここは」
「宿だよ。君がいた場所から少し離れたとこにある」
「なぜあなたが」
「倒れている人がいたら助ける。当然だろ」
「そうじゃなくて、なぜあなたがあの場にいたの」
「君は正義感が強いから計画も無しに行動するかもしれないと思ってね、様子を見に行ったんだよ。そしたら君が上から落ちてきた。あの高さで落ちて意識を失っただけって、身体が頑丈なのかそれとも、そのスーツに秘密でもあるのか」
「短時間、私と話しただけなのに。こうなる事を予測してアノルドのことを話したのね」
「あくまで予想しただけだよ。君ならこう動くかもしれないってね。それでも一戦交えるとは思わなかったよ」
「譲れないものがあっただけ」
エリスは目を閉じた。
「助けてくれてありがとう」
そう言ってボクの方に背中を向けた。
それから1日が過ぎた
「だいぶ体は回復したんじゃない」
「これでここから出て行けるわ」
「やっと2人で行動出来る」
「何言ってるの」
「政府にもう君の居場所はない、行くところがないじゃないか」
「初めからあそこに私の居場所はなんて無いわよ」
「寂しいね」
「うるさい!それでもあの組織を変えなければならない」
「ボク達の目的は一緒じゃないか」
「あなたの目的、聞いてない」
「クロノスCo.に対して革命を起こす。それかボクの目的」
「アホね、あなた」
「ありがとう」
「無謀、あの会社どれだけ強か知っているの。私の目的よりもずっと無謀ね」
「恐怖による支配はいずれ崩れる。一つの会社に力が集中すれば、他の会社から不満が生まれる。その不満は次第に大きくなり、その国を覆う。そうなれば新たなリーダーが生まれない限り、消えることはない」
「あなたはそのリーダーになるつもりなの」
「そればっかりは、なりたくてなれるものではないよ」
「そのための革命、なんでしょ」
「それはなんとも」
エリスは不満そうな顔でボクを見つめた。
「話を先に進めよう。ここ3日で大体のことは掴めた」
「たった3日で何を掴んだの」
「アノルドは自分の実績を積むためにあの会社を利用していたのではない。もっと上の者が絡んでいる」
「どういうこと」
「君達が拠点としていた場所は、ウーティスCo.とクロノスCo.が治める領土の境目の位置。そしてあの会社があるのはクロノスCo.側の領土、そしてその会社が人造人間を送り込んでいたのは、ウーティスCo.側の領土の街。つまりクロノスはウーティスに向けて、宣戦布告をしていることになる」
「待って待って。それはアノルドが実績を積む為にやっていることでしょ」
「違う。もしこのことがウーティスCo.に知れたら、間違いなく戦争になる。そうなればルール無用の殺し合い、そして他国を治めるCo.は強いクロノスを疲弊させる為に、ウーティス側を支援しかねない」
「実績を積むにはリスクが大きすぎる…」
「政府に属すアノルドが知らずにやってるとは思えない」
「そうなると上の者からの指示が濃厚ってことね」
ボクは頷いた。
「でもなぜアノルドは街を守っているの、私達が担当していない遠くの街を狙わせれば、すぐにでも、ウーティスCo.に知らせることができるのに」
「信頼を得るための行動だよ。利用されている会社はこのことを知らない、不自然に遠い街を襲わせては気づかれる恐れがある。だからあえて近くの街を襲わせて自分達が守っている姿を見せている」
「その会社の見返りはなに」
「ボクなら、優秀な人材の斡旋をしてやると言う話を持ちかける。優秀な人材は回ってこない会社は、この話に乗らない手は無いと思うからね」
「それらを裏付ける、確証はあるの」
「君が意識を失っていた間に、あの会社から、ウーティス側の街に人造人間が送られた、そこにルーキーを守る政府の者はいなかった。今までに起きた出来事を繋ぎ合わせて、これから起こる出来事を想像した。確証とまではいかない、どうする」
エリスは少し考えて答えた。
「私には何ができる」
「ウーティスCo.は今、状況確認と言って戦の準備を整えている。それが整い次第、本当の理由はどうであれ、宣戦布告をされたと世界に情報を発信するだろう。そうなればクロノスCo.は準備が整っていない状態での戦になる。だからボクと一緒にクロノスCo.に向かって欲しい。政府の事情は政府の人が話した方が信用度は高い」
「なら早く行きましょう、日が暮れる前に」
「ここからクロノスCo.までの距離は約1万5000キロ、ボクなら朝までには着けるけどついてこれる」
「政府を舐めないで」
宿を出てエリスは、機械の馬を転送させ、またがり走り出した。
「早く行くよ」
ボクは雷を纏い空を移動した。
「そんな速度じゃ見失っちゃうよ」
移動する方向に雷を発生させて、その方に自らが纏った雷を誘導する移動方。前方の雷が導雷針の役割をしているのね。
「その移動方は、誰かに教わったの」
「こうやって移動してるのを見ただけ」
「見ただけって、あなた以外に雷を使う人がいるってこと」
「話してる暇ないよ」
ボクは速度を更に上げた。