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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど面倒なので婚約破棄は回避しません

作者: すばる

 ヤンデレ描写が出てきます。ちょっと流血等の描写が出てくるので、苦手な方は回避お願いします<(_ _)>



「お初にお目にかかります。私は第一王子アルフォンスです。婚約者としてどうぞよろしくお願いいたしますね、エンフォード公爵令嬢」


 あ、詰んだかも。


 私、ファティリア=エンフォードはダイヤモンド級のキラキラ王子を前にして悟りを開いた。






 本日は第一王子と私の婚約式の日。この国の王家の婚約では婚約式まで婚約者同士顔を合わせない(絶対に婚約内定者を逃がさないため。子供といえど貴族なので、万一「王子/王女様と結婚したくなーい」とか公言されると拙いんだとか)こともざらで、私もその御多分に漏れず、王子と初めて会うことになった。

 やたらフリフリなドレスで婚約式のために登城するまで、本物の王子様に会える!と今年5歳になるいたいけな私は無邪気にウキウキワクワクしていた……のだが、ここに来て、しかもよりによって式の直前に所謂『前世の記憶』を思い出す羽目になった。


 ええもうお察しの通り、見事なまでに乙女ゲー転生悪役令嬢仕立てですよ。しかも超テンプレな婚約破棄&悪役令嬢断罪モノ。悪役令嬢はルートによっては冥界に召されます。南無。

 当然ながら、メインヒーローは目の前にいる、ミラーボールの擬人化みたいなヒトです。幸い彼のルートでは『ファティリア=エンフォード』は死なないけど。でもどうせ婚約破棄されるなら初めっから婚約しない方が私的には凄くありがたい。

 それに何よりも王子の妃とかめんどくさ過ぎる。超逃げたい。……が、



 何故に婚約式直前!? 逃亡不可避じゃん! ……いや待て、こんな時こそあれだ、仮病を使おう! せめて何か手を打つ時間稼ぎができるかも……。よしここは、必殺『なんか気分が悪いの♡』で婚約式は回避——



「……どうかしたの? さっきから変だよ?」

「へ?」

「あ、もう僕たちの出番だ。ほら、手を出して」

「え、あ、はい」


 ぽん、と思わず左手を王子の右手に置く。


「第一王子アルフォンス様、エンフォード公爵令嬢ファティリア様、ご入場」


 ……あれ、『ぽん』?

 ……

 …………。


 ——っああああああーっ! しまったぁあああ! 混乱しすぎてうっかり会場に入ってしまった——!!


 王子の何気ない調子にまんまと乗せられた―!!



 手をつないで赤い絨毯を進みながら横目で第一王子をちらりと伺う。


 うわまぶしい。目がつぶれる。



 その時王子がこちらを向いて、他の人から見たら仲睦まじげで微笑ましいであろう仕草で身を寄せてきた。


「……まさか、逃げよう、なぁんて、思っていないよね?」


 背筋が一瞬で凍りつきますね。


 ばれてた……。


 ……もしかして、本当にもしかしてだけど、さっきの『お手を拝借』的なくだりって、確信犯、だったりします……?


「———多分、君の思ってる通りだよ?」


 背筋がもはや氷河期。王子はエスパーだったようです。



 ……とりあえずまぁ、この式典が終わってから色々考えよう。何か疲れた……。






 婚約式を終えると、私は王子の婚約者の義務として王子妃教育を受けることになった。アルフォンス王子は第一王子でありとびぬけて優秀なため、実質的な王太子として扱われている。……何が言いたいのかっていうと。


 王子妃教育とか言いつつ実質王妃教育! 王子妃教育だけでも太〇の達人で言ったら『オニ』クラスの難しさなのにその更に上をいく王妃教育!


 よくイメージされる〇カ国語を習得とかマナーがどうとかだけじゃなくって、王家代々の慣習がどうとか、王に何かあった時のために、議会の運営や、軍の運用なんかも学ぶ。しかもこれ、まだ序の口。最終的に、文武両道のクイーン・オブ・ザ・淑女どころか、『何それどこのスーパーウーマン? 一国に一台欲しい戦略兵器☆』な感じに仕立て上げるつもりらしい。どおりでちっちゃいうちから婚約するわけだね。でもこんなに早くから教育しても、結婚してからもまだ終わらないらしい。嫌すぎる……。まじで血反吐吐く……。


 前世では怠惰にゴロゴロ過ごすのが趣味の枯れた干物女でした。あの頃が懐かしい……。


 いっそ王妃教育に躓いて『使えない』って判断されたかったけど、婚約前から高位令嬢の中では一番優秀だったから、今更できないフリとか無理だし、もう婚約しちゃったから少なくとも王妃の座からは逃げられない。実際、今のところ教育についていけちゃってるし。



 そしてとどめの乙女ゲーム。


 古今東西、乙女ゲーム転生小説の先輩方がまず初めにすることがある。それは、乙女ゲームの内容を記録しておくことだ。彼女もしくは彼らは大概その乙女ゲームの内容を熟知し、ほぼ全ルートを登場人物のセリフや行動まで詳細に書き留める。

 ……でもさぁ、私思うんだよね。


 め ん ど く さ い 。


 長編小説並みに乙女ゲームについてひたすら書かなきゃいけないとかどんな苦行だ。私はハシビロコウになるのが夢なんだ、邪魔をしないでくれ。

 それにもう婚約しちゃったし! 乙女ゲームのシナリオから逃亡不可避なのは確定してるし! すなわち、どんな形であれ断罪される可能性がある。ひょっとすると悪役令嬢モノらしく、他に素敵な人と結ばれるとか、王子と良い関係を築いて無事に結婚する可能性だってある。

 ……いや、第一王子はナシで。腹黒エスパーとか、結婚したらほぼ毎日のように顔を合わせるだろうから、そのうち胃に穴が開きそう。あんな永久凍土には足を踏み入れたくない。



 あー、めんどくさい。……めんどくさい、けど、どうせ『ファティリア=エンフォード』の死亡フラグは一つだけで、しかもかなりレアだから、それについてだけ書き留めておこう。




 『ファティリア=エンフォード』の死亡フラグがあるのは1ルートのみ。内容について一応言っておくと。


 ヤンデレ枠の弟系攻略対象である、ヒロインの後輩。天使な微笑みを浮かべる伯爵令息で、学園の女生徒、主にお姉さま方の母性本能をくすぐるが、ヒロインと出会い恋心を自覚したことを機にヤンデレに覚醒する。何事もなければ、過去のトラウマと相まってヤンデレ色に染まった彼の心を癒し、真人間と言えるレベルの精神状態になった彼とハッピーエンドを迎えることができる。しかし、彼の好感度があるレベルより高く、彼に恋愛感情の自覚がある段階でうっかり他の攻略対象との好感度を上げる行動(選択肢)をとってしまうと、監禁ルートへと問答無用で放り込まれる。


 いきなり後ろから羽交い絞めにされたと思うと、眠り薬を嗅がされ、画面が暗転。


[「ねぇ、僕という男がありながら……どうして先輩は他の男に色目を遣うのかなぁ?」]


 それはそれは美麗な笑みを浮かべた、ハイライトの消えた瞳の伯爵令息が檻の外からこちらを覗き込むスチルがお目見えする。


 ベタだ。


 と、思われるかもしれない。しかし、恐ろしいのはここからだ。


[「色目なんか……」

「遣ってた。僕はこんなにも先輩を愛してるのに……」]


 スチルが切り替わり、伯爵令息の立ち絵が映る通常の会話画面の背景に、血だまりと画面の端から突き出すように見える一本の腕が。


[「ほら見て。先輩のためになら、僕はなんだってできるんだよ?」

彼の背後に、血まみれの女性が見える。

(あの人は、まさか)

「なにを——したの」

「君を虐めていたエンフォード公爵令嬢に、この世から消えてもらっただけだよ?」]


 微笑みながら可愛らしく小首を傾げる伯爵令息。但し瞳にハイライトはない。

 背景はその後場面が切り替わるまでそのままだった……。


 怖ぇよ。


 乙女ゲームだよね? 間違ってもホラーゲームじゃないんだよね? 制作陣出てこいや。放課後に体育館裏に来い。ハルマゲドンだ。


 一応15歳以上を対象にしてるからってそれはないよ奥さん……。


 まぁ、追々対処していこう。5歳の幼女じゃ大したことは何もできない。

 それに、監禁ルートの条件である伯爵令息の好感度の基準値はちょっとあり得ないぐらい高いから、ヒロインがヤンデレ厨とかじゃない限りは大丈夫だと思う。


 万が一の時も、ゲームのシナリオから外れる方が色々対処しにくいはず。


 だから、とりあえずまぁ、面倒なので回避はしない方向で。











 15歳になった。今年、学園に入学だ。いよいよシナリオが始まるということですねぇ。


 あの、恐怖の婚約式から10年。第一王子は依然として何を考えているのか分からない微笑みを浮かべ、腹黒に磨きがかかっている。私は、かなり頑張って『ファティリア(悪役令嬢)』を演じていた。


 『ファティリア』は、優秀ながらも高慢で贅沢好き。華やかな出で立ちで、小社交界ともいえる学園で令嬢たちのトップに君臨する。トレードマークは扇子と巻き髪。テンプレだ。

 このスタイルを生み出すためには実はかなりの資金力や労力が必要となる。お肌をモチモチプルプルにするためのエステや、頻繁にお茶会などに参加するための最先端のドレス。髪は実はくせ毛なだけで天然コロネではないので毎日巻き巻きしている。公爵家といえども、材料費、人件費とかなりの出費だ。一応王子の婚約者として予算は下りるが雀の涙なので、王子の付き添いで諸国への訪問や国内巡察なんかすればTNT並みに吹っ飛ぶこと請け合いだ。世知辛い。


 そういうわけなので、私はゲームの描写にない行動を一つだけ行わざるをえなかった。実は裏で潰れかけていた大商会であるファルク商会にこっそり支援を行い、ある程度立ち直ったところで事後承諾でエンフォード公爵、つまり私の父にバックについてもらったのだ。実はうちの兄も攻略対象者なので、兄にばれないようにあれこれ理由をつけてそのことは黙ってもらっている。支援を行う時の契約書には、私のお買い物のときは商会に『お勉強してもらう』旨が記載されているので、ドレスや宝石、化粧品類などが割引されたり、優秀な人材を優先的に派遣してもらえる。新商品を考えたり、改革してみたりだとかは一切していない。しかし十分に節約できた。


 動かずして勝つ。最高。


 婚約者様に気づかれたかどうかが気になるが、気にしてはいられない。……まぁ、多分気づいているんだろうな。安く買えたドレスや宝石を身に着けていると、いつもの3倍くらい爽やかな笑顔で「似合ってるよ」って言われたし。……何で分かるんだろう。ちょっとしたホラーだよね。


 そういえば最近、殿下と父の様子がおかしい。二人が顔を合わせると、殿下は腹黒120%のとびっきりのイイ笑顔(※但し目が笑ってない)になるし、父は若干緊張感を滲ませているが、いつも夜会で浮かべる実に美麗かつ臨戦態勢の笑みを見せている。


 なんなんだろう、一体。






 入学式。


 桜舞い散る並木道で、ライトブラウンのふわふわした髪をハーフアップにした愛らしい女子生徒がキラキラ王子の目の前ですっ転んだ。当然のようにその少女を助け起こす王子。少女は驚いたように零れ落ちんばかりに目を見開きながらも、ほんのり頬を染めて丁寧に礼を述べる。王子は微笑んでその場から立ち去ろうとする。


 ———今だ。


 ギンッ、と音が聞こえそうな鋭い目で私は女子生徒を睨みつけ、プイっと顔を背けて王子の後についていく。



 最初のイベント、成功だ。


 このイベントを含む、ルート分岐前のイベントは3つある。この3つのイベントが攻略対象との出会いイベントだが、このうち、アルフォンス王子のイベントにのみ『ファティリア』が登場する。セリフは無いが、ヒロインを睨みつける瞳の鋭さはのちの波乱を予感させる。


 『ファティリア』はここから王子やその他攻略者と仲を深めていくヒロインに、嫉妬から嫌がらせを行っていく。

 どんな嫌がらせがいいかなー? ゲームには具体的な描写はベタな飲み物掛けと嫌味だけだったけど、その他にもあったことを匂わせる描写があったから、何か他にもすべきだよね。私物を隠すとかは定番だけど、やっぱりノートに落書きとか? できるだけ他の生徒にはご迷惑をお掛けしない方向で行きたいんだよねー……。


 ……。

 やっぱりめんどくさい。




 難航するかと思われた嫌がらせ作業だけど、周囲の皆様のおかげで何とかなった。

 飲み物掛けだけでも皆さん過敏に反応してくれまして、実際に行った嫌がらせはほぼ嫌味だけ。チクっと言っただけでヒロインは涙目、うちの兄を含めた攻略対象者たちはキレる寸前。

 これがひょっとして『ゲームの強制力』かな?とか思ったりしたけど確かめる術がない。残念!


 攻略対象者たちの好感度は私の尊い犠牲のおかげで順調に上昇中だ。でも見ている限りではヒロインはアルフォンス王子を選んだっぽい。二人でいる時の空気は何だか甘ったるいし、私と某エスパー・ダイヤモンド王子との接触は極端に減った。それ以外の攻略対象者たちは件の伯爵令息を含めて、一応親しい友人止まりのようだ。


 つまり!! まだ確定ではないけど、私が死ぬ確率はほぼゼロになったと思われる!!


 ——いいいいいやっほぉぉぉぉぉおおおお!!! ヒロインちゃん愛してるぅぅぅうう!!!



 ティリア感激です!!! 絶対王子とくっつけたげるね!!!






 そうそう、最近私趣味ができまして。アルフォンス王子がヒロインに落ちた(と思われる)時点で私の断罪フラグは完全に立ったので、どうせ断罪されるなら一回ぐらいこの世界の街を歩いてみたいなーと思いたち、公爵邸脱出を決行。王子にばれてももはや怖くないのだから、気軽に楽しめる。


 世界って、晴れた空ってこんなに美しいのね……。気分は最高です。お妃教育は峠を越えているし、協力者もいるので、ちょっとやそっと抜け出しても影響はほぼない。出かけるときは厳重に庶民的変装(協賛:ファルク商会、面白がった一部のメイド陣)を施した上で、屋敷に出入りする商会の荷馬車に紛れ込んだりとか、塀を忍者よろしく乗り越えてみたりだとか。ミッション・イン○ッシブル(ドヤァ)。……楽しい。


 そんな感じで王都を街歩きしていると、可愛らしい雰囲気の雑貨店を見つけた。アクセサリーを主に扱う店で、華奢なものからセンスが光る逸品まで、色々なアクセサリーが所狭しと並べられていた。その中で、細かな細工がされた、目の覚めるような青の色ガラスがはめ込まれたバレッタに一目ぼれをした。

 その店の店長はなんと私と同い年の女の子だった。可愛らしいアクセサリーね、と褒めると、彼女は本当に嬉しそうな様子で、わずかにそばかすの散った勝気そうな顔にひまわりがほころぶような笑みを浮かべた。


「このバレッタをもらえるかしら?」

「はい、お買い上げありがとうございます! 今、お包みしますね」


 その後も何度も彼女———エイミィの店に通い、気が付けば数か月が経ち、私たちはすっかり友人になっていた。店に並ぶアクセサリーは実はほぼ全てエイミィが金属加工スキルで自作したものだそうで、私はエイミィの技術の高さとセンスの良さに驚いた。しかし、以前エイミィが新作アクセサリーのデザインで行き詰まった時に軽くアドバイスしてみると、『それ、いいね!』と言われ、そのまま商品化と相成り、存外好評だったそうで、以来、デザインについて時たま意見交換するようになった。


 楽しい。


 ……断罪されたら、エイミィの店で雇ってくれないかなぁ。そしたらきっと毎日楽しいだろうな。











 私がエイミィの店の常連になった頃、王都にある噂が流れだした。


 第一王子の婚約者である公爵令嬢が、王子のお気に入りの子爵令嬢に嫌がらせなどをしている。

 子爵令嬢は庶子だが優秀で、心優しく可憐な少女らしい。

 子爵令嬢は第一王子や騎士団長子息などの、高位で美形の貴族子息達に溺愛されており、彼らは愛しの子爵令嬢が受けている嫌がらせに怒り心頭である。


 ……んんん? なんかおかしい気がする。

 王子は分かるんだけど……他のヒーロー達って、そんなにヒロインのこと、『溺愛』してたっけ……?


 ……ちょっと調べる必要がありそう。






 事実は、案外あっさりと判明した。

 どうやら私の知らぬ間に王家と公爵家の間に密約が交わされたらしい。

 どうやら先代公爵が何やらやらかしていたらしく、それを公表しない代わりに私との婚約を破棄、公爵位を次期公爵であるうちの兄に譲り、さらに近々王太子となる予定の第一王子アルフォンスの『絶対的な後ろ盾(ドレイ)』となるように、とのことだ。私が適当に罪を着せられ断罪されるのは他の貴族たちの目を逸らすためのパフォーマンスだ。


 そして残念なお知らせ。

 ヒロインとの婚約も一応取り決めの1つとして条項に盛り込まれているが、恋愛的な理由からの婚約ではなく、国民へのアピールと、ヒロインの実家である子爵家が中立かつ『害のない』家だから利用しやすいかららしい。それにヒロイン自身、王妃教育にも耐える見込みがあるそうで、まぁ、要するにヒロインは王家の仔羊ちゃんと言った方がいいのだろう。何というか、例のキラキラサイコメトラーの真っ黒なお腹の気配がする……。


 まぁ、愛するアルフォンス王子と結婚できるのだから本人的には良かったんじゃないだろうか、多分。


 私は、アルフォンスルートのエンディング通り平民堕ちとなることが決まった。しかし自分で言うのも何だが、私は有能なので、私の才能を惜しんだ父によって王家との交渉の末、ファルク商会で働くことになった。商会では諸手を挙げて喜ばれた。……解せぬ。



 まぁでもこれで、王妃という位から逃れることができる。



 ……。

 ——いいいいいやっほぉぉぉぉぉおおおお!!! あのサイコメトラー的腹黒200%ミラーボール王子から逃げられるぅぅうう!!!


 ファティリアは万年氷河期を回避した!! 万歳!! 感無量!!!


 これでようやく私的怠惰生活が手に入る!!

 働きつつも合間合間で日々の癒しとして干物を極める!! これが私の怠惰の美学!!


 ああ、断罪が楽しみ!!











 無事に断罪の日である立太子の儀が終わると、私は新しく与えられたこじんまりとした家に引っ越し、その足である場所に向かった。


 わずかな緊張感。深呼吸をし、軽やかにベルを鳴らしてドアを開ける。カウンターにいた人物がこちらに目を向けた。

 私は努めて明るく笑って言った。


「やっほー、エイミィ。突然ごめんけど、私をここで雇ってほしいな」

「……は? いきなり何」

「エイミィ前鍛冶の勉強したいのに店番のせいで時間とれないって言ってたよねー? というわけで雇って?」

「い、いや確かに言ったけど、脈略なさすぎ……」

「実は私、公爵令嬢だったんだけど、王太子の婚約破棄騒動のおかげで、実家からはした金と一緒に追い出されて平民になったの~。やー、婚約破棄頑張って良かった!」

「ぅわっつ!?」

「まずは生活の糧から得よう! ……ということで雇って?」


 突然こんなことごめん。ものすごく無理言ってるのもよく分かってる。でもこの先エイミィには『断罪されたファティリア=エンフォード公爵令嬢』としてじゃなくってただの平民、『ティリア』として見て欲しい。王子に婚約破棄され、形だけとはいえ実家から追い出された可哀想な令嬢じゃなくって、そんなことがあっても笑い飛ばして図々しくも押しかけて周りを振り回す女なんだと思って欲しい。それで、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからそばに居させて欲しい。




「……はぁ~。もう、しょうがないなぁ。じゃぁ来週から店番に入ってもらうから」

「ありがとー!! さっすがエイミィ!」


 そう私がちょっと茶化すように言うと、それ、褒めてないよね。とエイミィは溜息を吐いて、『しょうがないなぁ』と言いたげな裏表のない、苦くもひまわりを思わせるような笑みを浮かべた。



 ティリアは前世ではごくごく普通の一般家庭で育ったので、貴族的なドライな家族関係を内心寂しいと感じています。それを周りのメイドや長い付き合いのファルク商会のスタッフは感じ取っているため、街歩きに喜んで協力しました。婚約破棄後に商会が歓喜したのはティリアの能力のためだけでなく、ひそかに心配していたティリアを引き取れるからでもあります。それにティリアも自分で選んだ道とはいえやっぱり全く傷つかないわけではない(自由にはなれたが、罪を着せられたりするのは辛い……)ので、家族より気安い関係となった本編主人公のエイミィを振り回して甘えまくってます。


 よろしければ、本編である『乙女ゲームのモブに転生したけど元悪役令嬢に振り回されてます』も読んでいただけると嬉しいです。ポイントを恵んでくださると狂喜乱舞します。



 2019/11/16/22:00 異世界転生/転移恋愛ジャンル日間ランキング15位になりました!! 皆さま拙作を評価してくださりありがとうございますm(_ _)m

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