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メイク・シンデレラ・メイク  作者: 中秋満月
5/10

5.子爵一家転落事件 ⑤

 応接室の部屋を退出すると、廊下の端にセバスが待機をしていた。

部屋から離れた場所で待機していたのは、応接室での会話を盗み聞きしていないということを示すためである。

「ナオミ様からお話を伺いました。十一月四日から十日までの間、馬の様子がおかしかったとお聞きしたのですが、そのことで色々とセバス殿にお話を伺いたいのですが? あと、孤児院にナオミ様は滞在されていたとか。孤児院でも話を聞きたいのですが、場所を教えてください」

 ナタンはさっそく、セバスに要件を切り出した。 

「孤児院は街から少し離れた場所にあるので、簡単な地図をご用意いたしますので少々お待ちください。森の中にありますので見つけ難い場所にあるのです。

 馬のことに関してですが、私も馬の異変をこの目で見ております。奇異なものでした。まるで悪霊に取りつかれたかのように暴れ回っておりました。泡を吹いて倒れた馬たちもいると報告を受けたのを覚えています」

 このセバスという領主補佐官、今度はペラペラと喋るようになったとナタンは思った。

 ナオミと会う前までの態度は調査に対して消極的という印象だった。それが地図の準備を申し出て、馬の様子も話す。

 おそらく、主人であるナオミが孤児院のこと、そして馬のことを話したので、セバス自身もその件に関しては話をしてもかまわないと判断したのだろう。

「そのような異常な状況にあった馬で、馬車を引いたと?」

 馬が狭いギルガル山の道で暴れたら、それは馬車ごと転落する危険性がある。

「御者が、一過性のもので、もう大丈夫だと判断をしたのです」

「御者はこの屋敷には何人いるのです?」

「一人でございます。とても残念なことです。ジークは優秀な御者で、エリアム様からも信頼されておりました」

「そうでございましたか。心からお悔やみを申し上げます」

 シャロン一家の遺体とともに、御者の遺体も谷底にあった。

 御者は、馬の異常は治ったと判断をしたが……まだ、馬の異常が続いていたら?

 御者の鞭を無視して狭い山道で暴れたら?

 崖から転落するであろう。

「お心遣い、感謝いたします」

「とにかく、馬小屋を見させていただきます」

「はい。この屋敷の敷地の外れに馬小屋と牧場があります。馬の世話役の少年が一人おりますので、私よりも馬の事情には詳しいかもしれません。また、牧場で暴れている馬は、この屋敷で働いている者の多くが目撃しております。ご自由にお話をお伺いください」

「感謝いたします。まずは、馬小屋に行ってみます」

 やはりセバスという男、捜査に積極的になった。やはり、ナオミが馬の異常、そして孤児院のことを話したからだろう。主人が話したことに関しては、積極的に協力をするという姿勢なようだ。ありがたいことだ。

 公安が調べる事件によっては、隠蔽工作……また、調査妨害がひどく、真相を暴きかけた公安を殺害してでも事件を闇に葬り去ろうとする輩もいる。

 おそらく、領主代行であるナオミが話さないことをセバスは話さないであろう。だが、妨害をしないだけありがたいことであった。


 

 馬小屋と牧場は、屋敷の東側にあった。牧場には、馬だけでなく乳牛も、またニワトリなども放し飼いにされていた。

 乳牛は屋敷の食卓で出される牛乳、バター、またチーズを造るためであろう。また、ニワトリは卵を産む。

 そして、屋敷の東側に建設されているのは、屋敷の風下であるからだろう。偏西風によって、家畜の臭い匂いが屋敷へと届かないようにするためである。

「いい馬がそろっていますね」

 シムアが言った。

 見事な鬣の、領主の威容を示す白馬。乗馬用や遠乗り用の身体が引き締まった馬。

 凱旋、諸侯会議、鷹狩り、遠乗り、競馬など、用途に応じた馬が取りそろえられている。

 おそらくどれも由緒正しき血統に連なる馬たちであろう。

 そんな馬たちが馬小屋にずらりと並んで頭を出し、干し草を食べていた。

 ナタンやシムアが乗ってきた、王国から公安の者たちへ支給される馬が酷く貧相に見えてしまうほどであった。

「当然だろうが。ここはシャロン領主の馬小屋だぞ」

 馬小屋をナタンとシムアは歩き、馬の様子を見る。

 温和しく飼い葉桶の草を食べ、また水を飲んでいる。

「あの? どちら様ですか?」

 空の馬部屋の掃除をしていた少年が顔を上げた。

 少年は、ブラシで馬の糞尿で汚れた床をブラシで磨いているところであった。

「あぁ、勝手に入ってすまない。一応、領主補佐官のセバス殿の許可は戴いている。少し話が聞きたいのだが良いだろうか? 私はナタン。こっちはシムアだ」

「はい……」

 少年はブラシを置いた。

「シャロン領主のエリアム様たちのことは知っているね? ここではなんだから少し外で話をしよう」

「はい……わかりました」


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