8:けじめの付け方の件
固まった。僕は静止した。
今日、僕はポチ助と散歩をしていただけなのに同棲することになったりと情報量が多かった。
それでも僕はその情報量にも難なく対応し順応し適応していた。
どんな展開にも順応した。
しかし、それ以上の情報量が僕の脳を行ったり来たりとし、キャパを完全に超えてしまった。
負荷超過。
僕の脳内は収集が効かない自体へと発展していた。
プニッとしてるプニッとしてるプニッとしてる
柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい柔らかい。
重量があった。それでもなお、柔らかかった。
張りがあった。それでもなお、柔らかかった。
柔らかかった。それでもなお、柔らかかった。
「しずくん?しずくん?」
秋の声がする。
「どうしたの?しずくん。そんなに私のおっぱい好き?」
「おぱ、ちが、これは不可抗力でその...............いや、責任取らせてくれ」
「責任なんていらないよ〜。事故だから気にしないでね♪」
声をかけられて我に返り、僕は手を離し深々と頭を下げた。湯におでこが付くくらいに頭を下げた。
僕の脳内にいる自分自身と話し合いをした結果である。
責任を取る。
それが僕なりのけじめだ。
無駄な言い訳は今は辞めよう。ただ触ったことに変わりは無い。僕は十秒程度頭を下げた後、顔を上げた。
「しずくんが手を離したら見えちゃうよ〜」
「うぇあ、すまん!」
僕はもう一度手を秋の胸に当てる。僕が胸と言っているのは少しでも理性を保つためである。
「そういうことじゃなくて......しずくん、もう一度触ってってことじゃないよ?バスタオルを付けるまで待って......しずくんが付けてほしくないならつけないけどね♡」
「あ、いや、隠そうとしただけで...............................」
僕は黙って目を閉じてから手を離した。
顔が熱い。体が熱い。のぼせそうだ。
水の音が聞こえる。バスタタオルを秋が体に巻いているのだろう。巻き終わったであろうタイミングで僕は勢い良く立ち上がった。
「さ、さき上がるぞ」
「うん!」
僕は浴槽を勢い良く飛び出し脱衣所に向かおうとした。
「しずくん、待って!」
「お、おう。どうした?」
「さっきのあれ嬉しかったよ♡.........いつでも触りたい時に触っていいからね?」
「......」
あれは当然さっきの僕がやらかしてしまった行為のことを指すのだろう。しかし、二回も触れてしまうなんてどうかしてる。
不可抗力と言われれば不可抗力だが、二回目のはかなり際どいラインだ。
テンパっていたとは言え、二回も触れてしまったことはかなりグレーゾーンに位置している。
僕はあの行為に対して悪意は完全に無い。しかし、女性のデリケートゾーンを悪意が無いからと言って触れていいとなるのはいささか問題がある。白寄りのグレーとは言い難い。
「触りたくなんか.........無い」
「そ、そうだよね。変なもの触らせてごめんね。あははは、つ、次から気を付けるね」
「み、秋!...............僕は今、ウソをついた。ほ、本当はめちゃくちゃ触りたい。下心が無くても下心が合ってもだ!下心が無くても触りたいし揉みたい時はめっちゃ揉みたいし触りたい!それぐらいに秋は魅力的だ。だ、だから触ったとかそういうわけじゃなくてな。不慮の事故とは言え、触れて嬉しいか嬉しくないかで言ったら......嬉しい。って何言ってんだ僕」
僕は急になんてことを言い出すのだろうか。まあ、本当のことだ。あれだけのことをしてしまったのだし、触っといて自分のプライドを守るために触りたくなかったとか言うのは男として駄目だ。心が男なら皆触りたいと思うのは当然なのだ。どこの部位が好きかは置いといて。
「そ、そこまで触りたいんだ」
「!?......ま、まあな」
「ふ〜ん。いいこと知っちゃった」
「いいことって......」
「えへへへ」
「あ、あと、すまなかった......」
「その代わり!」
「その代わり?」
「これからは私のことをちゃんと秋お姉さんって呼んでね!」
「わ、分かった」
「試しに言ってみて」
「み、秋お姉さん。お風呂先に出るよ」
「うん!ふふふ」
(本当はね、あれを嬉しいって言ったのは触ったことじゃないんだよ。しずくんが『責任を取る』って言ってくれたことが秋お姉さんは嬉しかったんだよ?)
✚✚✚✚✚
「お先に〜」
僕は脱衣所の外で秋が着替え終わるのを待ってから皆の所に来た。
「遅かったじゃない、秋!なにもしてないでしょうね!」
「冬姫ちゃん、私は何もしてないよ。私はね。ねえ、しずくん?」
「う、うん。そうだよ。何もされてない」
「........そう。ならいいわ」
冬姫は問いただすのを辞めた。
「ごはん、出前頼んどいたわよ」
「お、ないす冬姫」
「べ、別にそれくらい当然のことよ。秋。あんたはお金払いなさいよ。他の皆からも貰ったわ」
「え〜」
「雫!あなたが好きなチキン南蛮にしといたわ」
「え、嬉しい!ありがとな」
「うん!」
「あれ、ポチ助と寧夏は?」
「寧夏さんとポチ助ちゃんは今一緒に雫さんの部屋で遊んでますよ」
春香が割り込んで答えてきた。僕の部屋で遊んでるのか。ポチ助良かったじゃないか。
どれ、僕もポチ助に会いに行くか。
「じゃあ、次は誰が入るんだ?」
「私が入ります」
「春香か、気をつけて」
「ええ」
「じゃあ、僕は自分の部屋に行ってくる」
僕のアパートはさほどボロいとか狭いとか言うわけでも無く、それなりに広い。
自分の部屋。僕にとって寝室となる部屋で勉強机と本棚がある。
残念ながら僕は特にこれといった思春期グッズ(18禁の本など)を持ち合わせていないため誰を部屋に上げても良いようになっている。なので男友達の家でそういう物を探して見つかるイベントは起こりえない。
ちなみに残りの部屋はリビング、特に何もない部屋、トイレ、お風呂で構成されている。勿論リビングとなる部屋の近くにキッチンもある。
自分の部屋には漫画も多少あるが大体医療系統の漫画だ。それ以外は特に何もない。
「ポチ助ー、寧夏に遊んでもらってるのかー?」
「あ、しずくー。ポチ助、駄目そこは舐めちゃ。あはははははははは」
「おー遊んでもらってるのかポチ助ー。よしよし」
「くぅぅん。ワンッ!ワンッ!」
「こらこら、大きな声出しちゃ駄目だろぉーよしよし」
「トイプードルだよねー。すっごいかわいい!」
「タイニートイプードルだ。トイプードルより少し小さめの犬でめちゃめちゃ人気なんだぜ」
「へー、すごい!しかもこの犬は恋のキューピッドだねー」
「ん?なんでだ?」
「だってー、この犬が居なきゃあそこでばったり十字路で出会えなかったでしょ?」
「......ああ、確かにそうだな」
と言っても。前方から春香は来ているわけだから必然的に春香には出会っていたわけか。となると寧夏と秋、冬姫にとってはあのタイミングじゃないと意味がなかった。
かと言って前に春香が来ていたとしても通り過ぎていただけだろうし、本当にポチ助は恋のキューピッドなのかもしれない、あの四人にとってだけれど。
なにより、ポチ助に出会えた時点で僕は満足だ。
それなのに美少女四人があの場所で僕のことを好きになるなんてな。僕には勿体無すぎる。それなのに僕のことを好きって言ってくれるんだ。僕も同棲を気に、真面目に向き合わなくてはいけない時が来たのかもしれない。
僕は時折釣り合わなすぎて周りの目が気になってしょうがない。
『え、あいつが?』『あの子が好きなの?いがーい』『やめときな他にもっといい人がいるよ』『げっ、あれ』という目を向けられてると思うと学校も居心地が悪い。
僕はそれが嫌で四人の気持ちをないがしろにしている。
これからは、ちゃんと向き合おう。きちんと。
「しずく、悲しい顔してる」
「いやなんでも無いよ」
「大丈夫?こっち来て!膝枕してあげる」
「ひ、ひざ枕!?」
ガチャッ。とドアを開ける音がする。わざと音を出しているようなそんな音だ。
実際わざとだった。
「寧夏......この女狐。させないわよそんなこと」
「そうだよー寧夏ちゃん」
冬姫に続いて秋も入ってくる。
「冬姫、み、秋お姉さん」
「え、いつから『秋お姉さん』って呼ぶようになったのよ」
だよな。すぐ気づくよな。今までさんざん拒んできているし、言ったとしても棒読みだ。
「寧夏も知りたい!しずくーなんでー?」
『胸を揉んじゃったから、しかも二回も。だから、お詫びというか感謝というか、とにかくけじめを付けるためにそう呼ぶことになったんだよ。ははは』とは言えねーし。
どう答えれば良いんだ!?
✚美少女4人の雫の呼び方✚
鉛前春香「雫さん」
右方寧夏「しずく」
喜佐谷秋「しずくん」
道後町冬姫「雫」
✙備考✙
右方寧夏と道後町冬姫は読み方は同じでも呼び方のニュアンスは違う。
天然でいつも元気で明るい右方寧夏は明るいイントネーションで呼びかけ、お嬢様でツンデレのお硬い道後町冬姫は硬いイントネーションで呼びかける。
読み方は同じでもそこには明確な差があるのだ。
差が理解しにくい場合はひらがなとカタカナの違いをイメージをすると理解しやすい。
ちなみに寧夏はひらがなで「しずく」と呼ぶが自分のことは「寧夏」と漢字である。
おそらく、幼少期のころから触れてきた名前なのと自分の名前に特に感情を抱かないためだろう。