7:美少女と一緒に風呂に入ってしまった件
「何を言ってるんだ馬鹿。僕は一人で入るぞ」
「そ、そうなるとスケジュールを変更しきゃいけないわ」
「......そんなの知るか!入らないもんは入らないんだ」
確かに、あれだけのスケジュールを考えてくれたことに関しては本当に感謝している。そして、それを僕のわがままで変更させてしまうのも申し訳無いと思っている。
でもな、なんで僕が一緒に入る前提なんだよ!
「小さくても秋お姉さんたちは全然気にしないよ?」
「そういうことじゃねーし!」
「寧夏といっしょに入ろーよ」
「全員駄目だって」
「そうですか、全員駄目みたいですね」
「え、春香がいつもより物分りが良い!......そうだ!全員先に入っていいよ。後で僕入るから......」
「じゃあ、じゃんけんで決めたとおり秋が一緒に入るってことで皆さんいいですね?」
「やったー!しずくん!お姉さんと一緒に入ろうねー」
「えー、寧夏は明後日かー」
「まあ、いいわよ。それで。私は明々後日ね」
「待て待て待て、なんでもうすでにじゃんけんしてあるんだよ!一緒に暮らすってなったのついさっきのことだろ?」
「「「「.........」」」」
皆、口を塞いでいる。開かれる気配は無い。重く固く閉ざしている。
「なんで皆黙るんだよ!」
「もしかしたら雫さんが入りたい人が四人の中に居た場合、私達が勝手に決めちゃってたら可哀想ですので、雫さんの意見を尊重するためにも聞きました」
「いや、僕の『一人で入りたい』っていう意見が全く尊重されていないんだが?」
何だこの暴君四人組は。何だこの圧制政治は。これが民主主義か。少数の意見が尊重されない国日本。
「......さあ秋さん。入ってきてください。時間はたっぷりありますので」
「じゃあ、遠慮なく。しずくん一緒に行こうねー」
「行かないし入らないし入らない」
風呂場に連れて行かれても服を脱ごうとしないで駄々をこねる僕。旗から見ると聞き分けの効かない幼稚園生みたいだが理不尽なのはあっちの方だ。思う存分駄々をこねさせていただく。
それに僕は心の準備が全然できていない。かと言ってできたら入るとかではなく、単純に恥ずかしい気持ちのほうが強い。
まあ、秋は折れないだろうから結局一緒に入ることは目に見えている。
「う〜ん。じゃあ、一人で入ってきてもいいよ。」
「だから、嫌だ......え?良いのか?」
「いいよ〜。しずくんがそうしたいなら良いよ!私は一緒に入りたいんだけどね」
秋が急に一緒に入らなくて良いって言うなんて。いつもあの四人は半ば無理やり物事を進めてくるのに......なんてことだ!
逆に裏がありそうな気もするけれど逆にただの好意な気もするし、どっちだ?
「ほ、本当にいいのか?」
「いいよー。だって、しずくんは一人が良いんでしょ?」
「まあ、そうだが」
これも日本人の性なのか、別に約束とかしていたわけでも無いし、あっちが無理やり決めたことではあるけれど、急に手を引かれたりするとちょっと可哀想な気もしてくる。
誰だって好きな人に拒まれまくったら心は折れる。そのことを僕が言うのはちょっと恥ずかしいが。
まあ、秋も一人で入って大丈夫って言ってるわけだし。お言葉に甘えさせていただくか......。
「じゃあ、お言葉に甘えて一人で入ってくる」
「うん!しずくん気をつけてねー」
「ああ、ありがとう」
✚✚✚✚✚
というわけで、僕は今、湯船に一人で浸かっている。ちなみに冬姫が泡風呂にしてくれた。
さっきのことを思い返すと悲しい顔していたから、秋には悪いことをしてしまったようにも感じる。
喜佐谷秋。全然年の差は無いし、3ヶ月しか変わらないのにお姉さんぶってくる。髪の長さは鉛前春香と同じくらいで長髪だ。だが、春香はストレートなロングなのに対し、秋はゆる巻きのロングだ。そして若干の茶髪である。
いつも、セーターを着用していて萌え袖をするか腰に巻くかの二パターンである。ちなみに今は夏なので腰に巻いていることが多い。萌え袖に関しては顔が悪いと両性から恨まれるが、顔が良いため何も言えない。そして前も言ったが胸が大きく。夏は第三ボタン以上開けているため、谷間が見え隠れしている。それも男子からの人気の理由にもなっているのだろう。口調から分かるとおり、ゆるーい性格でいつも眠たそうな目をしている。『綺麗:可愛い』の比率は8:2だ。身長は女子にしてはまあまあ高いほうだと僕は思う。閑話休題。
「......ポチ助と散歩していたら春香に会って四人と同棲することになって家乗っ取られて......んで、同級生の女子と二人でお風呂に入りかけて...」
よくよく考えたらとんだ災難だな。とんだ災難と言うよりかは飛んだ展開だ。展開が早すぎてついていけない。
今日は学校の三日分を丸々凝縮させたくらいの疲労感だ。勿論あの四人が居る時の学校の三日分だ。
でも、お風呂はいいよなー。一日の最後の締めがお風呂だとなお良い。
その日に溜まった鬱憤を洗い流すと言うかなんというか...
勢い良く風呂場のドアが開く音がする。
突然のあまり、湯船から飛び上がる。決してびびったとかではない。防衛本能だ。身を守るためだ。
「しずくーん待ったー?」
なんだ、秋か......とはならないし、なれない。
「待ってないし、入らないって......や、その、ば、馬鹿!見えるだろ!......って、バスタオルがあるか」
旅番組でお風呂に入るときみたいに、秋の身体周りには白いバスタオルが一枚巻かれていた。
!? そして、僕はあることに気づく。とんでもない事実に気づいてしまった。今までの僕の固定概念が一気に崩れ落ちる。
秋は!Fだ!もしくはそれ以上だ。
前に『でも、喜佐谷秋きさだみのりはこの4人の中で胸が一番大きい。Eはある(多分)。』みたいな感じで淡々と答えていた僕だが今ここで訂正させてもらう。
僕の憶測は今この場で覆ったのだ。完全にFである。おそらく、押さえつけるブラとかを着用していたに違いない。それほどまでにいつもと違う大きさの山が二つ、そこにはあった。タオルで押し付けるあまり、肉がはみ出るほどである。
「バスタオルは付けるよ〜。あれれ、しずくんは私の裸がそんなに、見たかったのかな〜?」
「別に見たくなんか......ない。それに入ってくんな!今度は僕のが見えるかもだろ」
「だから〜秋お姉さんは小さくても気にしないよ?」
「ち、小さくねーし」
「じゃあ、証明して見せて」
「み、見せるものじゃないし」
「小さいんじゃん。かわいい〜」
「なんかさっきから性について上から目線だけど秋は経験ないだろ!」
「ないよー」
「無いだと?無いんじゃないか!ふはははははは馬鹿め!散々『リードしてあげるよ〜』とか『そういうの経験無さそうでかわいい〜』とか色々言ってきたくせにそっちだって無いじゃないか。ふはははは、そっちこそ可愛い奴め」
って......僕も無いじゃん。
悲しっ。何この悲しい会話。
自分も経験が無いのに無い相手にマウント取り罵り言葉を浴びせる。そんな悲しい会話がそこにはあった。
誰か、この哀れな男子高校生を救ってやってください。
「初めては好きな人が良いなぁ」
「......」
それは勿論僕を指していっていることを僕は分かっているわけで、僕自身からは何も言えないのであった。
「ていうか入らないんじゃなかったのか?」
「えー、もう脱いじゃった」
「『脱いじゃった』って......」
「このまま待ってたら風邪引いちゃうよ〜」
多分服を着ろと言っても意味ないだろうな。
「......いいよ。しょうがない」
「やったー」
「バスタオルは取るなよ」
「うん!......しずくん。早速湯船に浸かっていいかな?」
「ああ、いいぞ」
「もっとそっちつめてくれなきゃ入れないよ〜」
「ああ、すまん」
僕は浴槽の端に寄った。秋は、きめ細やかな白い脚を湯船にゆっくりと付けていく。
妖艶。というか綺麗。美少女だからこその綺麗さである。バスタオルという完全な白から出てくる白色より不完全ながらも、透き通る白い肌が湯船に入っていく動作だけでここまで他を圧倒するというのは美少女、美人ならではだろう。
他の人がやった暁には「早く入れ馬鹿」と言ってしまうであろうこの一連の遅い動作。当然この動作も「足を風呂に突っ込んだ」程度の描写で終わる。というか、動作をいちいち分けて言わないだろう。きっと「風呂に入ってきた」、そんな程度だ。
しかし、この遅い動作に僕は見惚れていた。魅入っていた。見惚れていた。秋だからこそ、美少女だからこその綺麗さと美しさだ。存在が芸術だ。あの三人にも言えることだが。
長い長い時間がまるで一瞬に感じるこの時間が終わるのは、これまた一瞬だった。
「...ひあ」
何故一瞬で終わったのか?
結論を言うと秋は足を滑らせた。半分の足が湯船に浸かっていたこともあり、倒れてくる方向は当然湯船側。
つまり、端に寄った僕の方に倒れてくることを意味する。
「みのりっ!」
咄嗟に出た言葉である。この言葉を発したときには時既に遅し。
僕は壁に頭を打った。
瞬間的に両手を出し受け止めようとしたものの、僕の力では抑えきれず弾き返され壁に頭を打ち付けてしまった。壁と頭の距離が十センチほどだったことが原因だろう。
痛みが僕をおそ......あれ、柔らかい?『柔らかい』という信号が送られてきているのはどうやら両手からみたいだ。秋の顔がとても至近距離にあり目が合う。
秋も咄嗟に両手を出したのだろう。現代で言う”壁ドン”という状態になっている。相手は僕、使用者は秋だ。
「しずくん大丈夫?ごめんね。足滑らせちゃった」
「大丈夫心配ない。少し頭を打ったくらいだ。こっちの方こそごめん。受け止めようと思って両手を出したんだけれど僕の力が無いばかりに......それより秋の方こそ怪我とか無いか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
「体を起こしてくれないか?」
「あ、そうだよね。ごめんね」
秋が僕に言われたとおり体を起こす。それと同時に僕の両手も引っ張られる。
秋は体を起こしたが、それでも二人の距離はさほど変わらなく近い状態のままだ。浴槽が狭いからだ。
「しずくんがそうしてたいなら......そのままでいいよ?」
突然、秋が訳の分からないことを言った。そのが何を指しているのか分からない。
「なにがだ......!??」
すぐに理由は分かった。
おそらくと言うか確実に『その』は僕の両手を指していた。
僕の右手と左手がそれぞれ秋の胸を触っていた。というか掴んでいた。がっちりと捉えていた。揉んでは居ないけど直に触っている。
「タオルが無い?なぜだ?」と考えたが視線を下に落とすと直ぐに見つかった。
秋が身につけていたタオルはずり落ち、腰の位置にまで達していた。
そう、僕は今、秋のを僕の両手で手ブラをしている状態になっている。
僕はフリーズした。