5:ルール決めが一向に進まない件
「ポチ助、帰ってきたぞ」
「ワンッ」
僕、帰宅。流れ的に言えば当然といえば当然だけれども鉛前春香も帰宅。
「......なんか、騒がしくないか?僕の家」
「うるさくなってる理由は大体わかります」
「ん?なんで?」
「まあ、とりあえず入りましょうよ。雫さん」
そっか、冬姫達が鍵を持ってるだけで春香が持ってないのは当たり前か。
「ただいまー」
”人が居ないのは分かってるんだけれどいつも言ってしまうんだよなーついつい”という言葉を僕が毎回言うことにより時期に定番となっていたであろうこの発言は今日で無くなってしまった。
「おかえりなさいっ!」
そう。返事がくるからだ。
「寧夏か。って...なんでパジャマなんだよ」
右方寧夏。ショートカットで天真爛漫。良く言えばちょっと抜けている天然。普通に言えばシンプルな馬鹿である。人付き合いが上手く、だれにでも好かれる存在だ。当然のようにルックスは”可愛い”とかいうJKがとことん価値を落とした言葉で片付けて良い容姿ではないのは明らかである。
美少女なのだ。”綺麗:可愛い”の比率だと大体2:8だ。背はある程度低めでチビチビっとしている。この表現が合っているのか?それはわからないけれどチビではないけれど小さいからチビチビっとしているで僕がごまかした。普通に申し訳ない。色は何色がよく似合うかと言われたらオレンジだ。現に茶髪に近い髪色をしている。兎に角明るい子だ。
「...あ、お風呂お先ー!」
「そういう報告とか求めてねーよ!」
てかお風呂入るの早すぎないか?
「あははははは違ったか。あとお風呂まだ入ってないんだ。パジャマのほうが落ち着くし!ねー、しっずく!」
やっぱシンプルに馬鹿じゃん。それと、
「抱きついてくるな」
「えー」
ぶつくさ良いながら僕の体から離れていく。
「春香...お前もだ。とさくさに紛れ過ぎだ」
「バレましたか」
「バレバレだ」
「アパートなのに犬飼って良いんですか?」
「ま、まあな」
「ふぅーん」
「てか、通路にダンボール山積みだぞ」
「あー、急遽来たからね。あはははは」
リアルに住み着く気じゃん。てか用意周到さが半端ないな。この短時間で用意していたとは
思えないから随分前から用意していたな。
...やはり、リビングが騒がしい。リビングって言ってもこたつ敷いてテレビ設置したらスペースのなくなる程の部屋だけど。まあ、当然夏だからリビングにこたつは無い。
騒がしい声の原因を作っているのは消去法と声で秋と冬姫だ。
「違う違う違う!!私が雫と寝るの!だから私はここ!」
「何言ってるの?しずくんは私が良いに決まってるじゃん」
「ばかっ......雫。おかえりなさい」
「しずくんお帰り〜」
切り替えの速さは置いといて。何で争っているんだ?
「二人とも何で争ってるんだ?」
「「雫んの隣で一緒に寝る人は誰か決めてるのだよ〜」」
「...二人同時にしゃべるなよ。でも大体分かった」
なるほど。一緒に暮らすことになって僕の隣で寝るのは誰だとかどうのこうの争っているんだろう。ていうか僕自身この4人が僕の家に暮らすこと前提になってしまっている。
受け入れてしまっている自分が怖い!
「雫はどっちと寝たい?当然私よね」
「しずくんは秋お姉さんとだよねー」
「いや、自分一人で寝るから結構です」
「もうわかったから。ここをお前ら4人にやるから適当に今日は寝てくれ。そして明日になったら出てってくれ」
「なに言ってるの雫?このアパートはもう既に私のよ?」
「え?」
「さっきも電話で言ったけれど道後町財閥が買い取ったし、私名義になっているわ。だから出ていかないわよ」
「...もう思考が追いつかないよ」
ここで僕は壊れた。壊れたと言うよりかは順応した。順応したと言うよりかは割り切った。
僕の人生の中で16年とちょっとで築き上げてきた”常識”は今日を持って崩壊した。
さよなら”常識”。
「...学校ではもう何もしないんだろ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、いいよ」
「何を?」
「ここに4人で住むことを許可するよ。渋々だけれど。まあ、僕を入れれば5人になる(ポチ助も入れれば6)。この部屋、僕一人では広すぎるし。かといって5人で暮らしたら狭いけどな」
「正式に許可を貰ったわ!秋!録音してる?」
「ばっちりだよ」
こういう時だけ仲良しかよ......。ポチ助はしつけのなっている子だから大丈夫だと思うし、なんとかなるか。それでもやっぱり不安は不安だ。
「寧夏も呼んでくれ、ルールを決めよう」
ルール決め。僕の中での固定概念が壊れつつあるけれど、ようはちょっと異質なシェアハウスと思えばいい。シェアハウスでは住人同士でのルール決めが大事だ。そんなことより先に色々と確認事項もあるし。
「みんなに一応確認だけれど許可をとってるよね?」
「はい!」
「寧夏は取ってあるんだな。他には居ないのか?」
「いや...返事じゃなくて質問で手を上げたの...」
「紛らわしっ!めっちゃピンと手を上げてたから逆に疑ってたけれど、そもそも質問だったのか」
「しずくんツッコミながーい」
「ご、ごめん」
「よしよし」
秋が撫で撫でしてきた。もう分かってる。ちょっとキツめのことを言って慰めることにより合理的に合法的に撫でようとしてるのだ。抵抗も面倒くさくなってからは過度なもの以外は抵抗しないようにしている。
「じゃあ、もう決めた。質問とか全部全部後にしよう。そしてルールを決める!その時に意見がある時は手を上げる形で...」
「いいですよ」
「おっけー」
「いいよ〜」
「いいわよ、それで」
「よし!じゃあまず先に確認事項。本当に4人はここに暮らすのか?色々と問題があるけどそれをクリアしたってのも本当か?」
「それについては、私がなんとかやっといたわよ。雫が思いつく限りのことは全部対処しといたわ」
「よかった。ありがとう。冬姫が言うなら多分大丈夫だ」
ってか何で感謝してるんだ僕!危ない危ない。強引に乗っ取られたんだ。それくらいやってもらわなきゃこっちが困る。
しかし、冬姫は本当にすごいな。こういう行動力は本当に尊敬する。
道後町冬姫。道後町財閥の会長の愛娘。圧倒的お金持ち。そしてとても綺麗な顔立ちをしている。髪型はツインテール。結び目のところに赤い大きめのリボンを付けている。学校ではそれがトレードマークにもなっていたりしている。
そして、ツンデレだ。いきなりツンして突拍子もなくデレてくるから個人的には四人の中で一番揺さぶられている人物だ。そんな彼女は目もかなりツンとしていて若干の狐目だ。まあ、それがまた美しさを増加している原因でもある。あと、右目の下にほくろがある。本当に綺麗だ。独断で決めるが、合う色があるとすれば赤紫かな。
なんやかんや神は二物以上のものを与えまくっている訳だが、胸だけは恵まれなかったみたいだ。
”綺麗:可愛い”の比率だと7:3くらいだ。
「家賃とかそういう問題もあるだろ?四人で住むってなると光熱費も高くなるだろうから...」
「それなら私が払うわ。安心して」
「冬姫、本当かよ。なんか悪いよ」
「お小遣い月七桁だから大丈夫よ」
「七桁!......っていくつだ。一、十、百、千...」
指がどんどん折り曲がる。さすがお金持ちのレベルが違うとお小遣いのレベルも違う。
「雫さん。百万ですよ」
春香が即答した。
「あまり言いたくなかったわ」
「ひゃ、ひゃく、百万!?」
「でも、桁だけを言ってるのでそれ以上かと」
春香が淡々と続ける。実はこの美少女四人はまあまあのお金持ちなのだ。特に冬姫はレベルもスケールも違うのだけれども。
僕もお金持ちとは言えないがそこそこ親がお金を持っている。だから、妹が居てもこうして僕一人で一人暮らしをできているわけだ。今日から五人暮らしだが。
「そんなことよりも大事なことがあるでしょ!雫!」
「そーだよ!」
「冬姫も秋も二人してどうしたんだ」
大事なことを忘れてるってなんだろう?明日学校ということか?しかし、忘れてないしちゃんと言おうと思っていた。この必死さから見ると他に決めなくてはならないことが出てきているのか。部屋か?部屋がなにか変わってるのか?
「誰と一緒に隣で寝るか決めてないわよ」
「そ、それは今話さなくていいだろ!」
「嫌よ」
「しずくん。今決めよ!」
「ふ、二人して......じゃあ、隣は二つあるんだから二人仲良く右左分ければいいんじゃないか?」
本来なら断ってるところだけれど、もうそんなの気にしている場合ではない。夕方から帰ってきてよるご飯も食べてないしこの四人が風呂に入られたら時間が過ぎすぎる。
「もう、右は寧夏が取っちゃったのよ」
「なるほど、それで揉めてたのか。ていうかいつもの流れだと春香もこの話に入ってこないか?『私も雫さんと隣で寝ます!』みたいな感じで...」
違和感は的中した。秋と冬姫は黙っている。というよりふてくされている。
「私は雫さんの上に覆いかぶさって寝ることに決まりましたので、今日はお布団はいらないですよ」
「はひ?」
驚きのあまり声が裏返った。