1話
作品全部消えててワロタ
もっかい修正加えて書き直したので見てください。
よろしくお願いいたします。
川原に一人の少女。手を前に出し、力を込めている。やがて手がボウッと光り、
「プチフレイム!」
ボッ
叫ぶと同時に小さな火の玉が繰り出された!そして。
ボシュン…
すぐに消えていった。
「~~~!!!…はぁ」
悔しさがこみ上げるもののすぐに冷め、その場にへたり込んだ。
『プチフレイム』。炎系呪文でも構築式が簡単で最も扱いやすく、最も威力が弱い攻撃型呪文。魔力が大きい者が扱えばそれなりの威力、持続性をもつ。
武器と己の肉体のみで魔物を退ける今までの時代から、魔法も駆使することが主流となった現在、初等教育において基礎魔法として教えられる呪文の一つである。
当然、人に向けて撃てば火傷させてしまうため、その点もしっかり教え込まれる。
「私、やっぱり魔力無いんだなぁ」
プチフレイムを応用し、指先からロウソク程度の炎を出して遊び始める。親指から小指までの右手の指全てから炎を出し「フレイムフィンガー!」と技名を付けてみた。15歳にもなって私は年甲斐もなく中二病を前面に押し出してしまっていた。
(どうやったら魔力が増えるのかな~)
かつては、魔法はごく一部の人が魔法を使う程度であり、多くの人は剣技・体術によって魔物に立ち向かい、土地を広げ、世界を緩やかに発展させていった。
しかし、いつの日かは定かではないが急激に魔法が発達し、ここ数十年でこの世界は飛躍的な発展を遂げた。都市はより大きくなり、辺境の土地でも随分と便利な生活を送れるようになった。日常生活から娯楽、 今では「世界は魔法で回っている」と言われているほどだ。
魔法は世界の土台を支える重要なものとして成り上がったのである。一説には、ある大魔法使いが様々な魔法を広めたと言われるが、その辺の真偽は定かではない。
ただ、魔法は私たちから最早切り離せないし、これからも世界の根幹として揺るがないものとなるであろう。
(けど——急激に発達、か)
教科書に書いてあったか、はたまた先生が言っていたか。いずれにせよ学校で習った。
(…そんなことがあるのかな?)
今でこそ「何て遅れていたんだろうか!」と笑えるけれど、停滞していた数十年前までの世界において、魔法が突然発達するなんてあり得るの?
魔法も一丁前に使えないからこそ、疑わしくて仕方がない。
昔は私のような人だって沢山いたはずなのだ。誰もが教えられて急に出来るわけはないのだから。
スクッと立ち上がると、川原を後にし、通ってきた森を戻り帰路に就く。その間もブツブツと呟きながら考え事をしていた。
(私の住んでいる所は田舎の辺鄙な町。たった数十年で、そんな所にまで魔法があっという間に普及したってことだ。大抵そんな知識は独占するっていう見方が普通だろうし、だからこそ、ごく一部の人しか使ってなかったって見方も出来る。…となると)
隠していた魔法の体系が漏れた?
『大魔法使い』というのは、情報が漏れ出したことに対する、魔法の占有を世間から非難されないためのカモフラージュとか?
はたまた本当に形容できない魔法使いがいて…。
——下を向く私は、迫りくる影に気づけなかった。
ゴンッ!
「ぶっ!!」
前を見ずに考えていると木に激突した。お約束のオチである。
* * *
「ただいまー」
「あら、おかえりノイン…あなた、そのたんこぶ…」
「…触れないで」
「フフッ」と笑い、ママがキッチンの地下室へ向かう。その間に私は靴を脱ぎ、イスに腰かけた。
さて、ここは田舎の辺鄙な町ではあるが、魔法のおかげでいい家に住めている。私の家は、この町ではよく見かける外装と内装だ。2階建てのレンガで作られた家。
決して豪邸などではないが良い家だなと思う。
食材の保存には氷魔法を利用した箱を使い、照明には雷魔法を利用したものを。お風呂を沸かすために炎魔法。他にも魔法を利用した道具や家具が幾つもある。
魔法のおかげで何不自由なく暮らせるのだ。こういうところは「魔法バンザイ!」と褒め称えたい。
と、そんなことを考えながらイスに座る私に、氷嚢を片手に持ったママがパタパタと駆け寄る。
「また考え事しながら歩いていたの?」
「だ、だって…」
常日頃からあんな調子なのはもうとっくに見抜かれている。
「ノインのそういう何でも疑ってみる姿勢は悪くないけど、時と場所をちゃんと考えなさいね。その内たんこぶより大きいケガするわよ」ノイン——私の名前。
ごもっとも。大人しく反省する。
「またいっぱい練習してきたんでしょ?がんばったわね。冷やしたらお風呂入っちゃいなさい。その間にお昼作っちゃうから」
「はーい」と返事をし、氷嚢をたんこぶに当てながら部屋に戻る。
本を一冊本棚から取り出し、ベッドに仰向けで寝転がり、氷嚢を頭に放置しながら本を開く。本のタイトルは『魔法なぜなに』。
一昨日買った本で、その名の通り魔法について考察し、魔法についてのQ&Aが書かれた本である。
『Q.魔力量が少ない人が魔力を増やす方法は?』
『A.素質に起因するところが大きいですが、常日頃から魔力を極限まで消費し、回復するというサイクルを繰り返すことで総魔力量が増えたという事例があります。諦めずに努力し続けましょう』
私は努力しているぞ!さあ増えたまえ!
…読み進めていく。
『Q.持っているだけで魔力が高まり、強大な魔法が使える道具があるというウワサがありますが、信憑性はあるのでしょうか?』
A.世界が魔法によって発展していく前であれば眉唾として切って捨てられていたかもしれません。しかし、爆発的速度で発展したことを鑑みると「そのような道具は無い」と断言はできず、最早存在する可能性は捨てきれないでしょう』
そんな道具があるのか。少なくともこの辺では聞いたことのない噂だ。あるにしても決して売っているようなものではないだろう。この本の出版元は…。
(ラクシュリア、ね)
と、なれば。
「かなり遠いけど、ラクシュリアまで行ってみようかなぁ」
ラクシュリアとは、私たちの住む国『ヴァンクシャ』において最大級の都市だ。
この世界は5つの大陸に分かれており、その大陸毎に存在する大小様々な国家が、それぞれ自分たちの国を作り、統治している。そして国があればやはりどこにでも『大都市』と呼ばれる場所もある。大都市ラクシュリアは各大陸にも名が通っており、『栄華の象徴』とまで言われている。
そんな街だ。噂の出どころだとしても、何らおかしくはない。…魔法に秀でた街はまた別に在るけれど、遠すぎるので今回は視野から外す。
(早速、計画を立ててみよう)
向かうとなれば、途中の街や道中で泊まることを考慮して4日ほど歩くことになる。それなりに遠い上に旅費もかかるだろう。
ただ、日頃からコツコツと手伝いをしていたのが幸いし、貰ったお小遣いはかなり貯まっている。
…さて、旅というには短いが、やはり遠い。一番の問題はパパとママだ。優しく心配性のパパやママは何と言うだろうか。1人での特訓を許されているのだって、結局場所が近場だからだ。
「許可されなかったら…その時は…」逃げ出してやる。
お風呂に入るため部屋を出ようとした刹那、氷嚢を持った手を滑らせ——。
「あばぁ!!!」
足に落とした。やはり悪い癖かもしれない。
* * *
「ふぅ~、さっぱりしたー」
お風呂から上がり、部屋着に着替え席につく。悠長に浸かってしまい、お昼ご飯であるパスタはちょっと冷めていた。
「ほうひへふぁちぇーんふぁ?(そういえばツェーンは?)」
「お行儀悪いわよ。ツェーンなら図書館に行ってくるって、ノインがお風呂に入ってる間に出てったわよ」
ツェーンは4つ下の弟で、天才にして秀才である。魔力は常人の10倍は保有し、勉強好きと練習好きが功を奏して、今では常人の20倍はある魔力を保有していると聞いていた。結果、『秘境の神童』と持て囃されているが、それでいて驕ることもない、実によく出来た弟だった。
「んぐっ、んっ、ぷはぁ。後で私も図書館行ってくる」
ミルクを飲み干し、残りのパスタを流し込む。
「負けず嫌いねぇ。属性の向き不向きだってあるんだから、あれもこれもって手を出すのはダメよ?」
「分かってる!」
弟が天才で、神童で、周りよりすごいからといってずっと下でいる理由にはならない。まして私は姉だ。姉より優れた弟などいてたまるか。さっさと準備を済ませ、ドタバタと家を出た。
* * *
「…。あ、いた。ツェーン、隣いい?」
「あ、お姉ちゃん!いいよ!一緒に勉強しよ!」
図書館に着いた後、周りを見渡し、弟を見つけて隣に座る。
私が持ってきた数冊の本はいずれも炎系魔法に関する初歩的な魔導書。私の魔力は弟とは逆に、常人の4分の3かいいとこ半分程度しかないらしい。となれば必然、消費の少ない簡単な魔法を習得していくしかないのだ。対して弟は。
(…物理の本)
一見するとただの勉強。
「ね、ツェーン。どんな魔法を覚えようとしてるの?」
「物理に法則に関係する魔法を使いたいなーって。時間魔法にも応用できるかもしれないんだって」
例を挙げればキリはないだろうが、物理に関して思いついた多くのことは、大体実現出来てしまうだろう。実際に応用している魔法や道具はちゃんと存在する。そして、現在に至るまで使い手が誰もいないとされる、時間魔法を使う可能性だってある。
…それに比べて。
(私は——)
私は、何が出来る?湧いて出る劣等感。
結局、夕方の閉館時間まで私は初級魔法の本を、ボーッとしながら読み耽っていた。
* * *
「今日の夜ご飯何だろうね、お姉ちゃん」
「ん。何だろうね」
「グラタンが食べたいな~!」
帰り道、これといった話題もないまま家に近づいていた。私の炎ではグラタンも焼けないだろう。せめて弟を喜ばせられるくらいのことは出来るようになりたいものだ。指先から炎を出す。
「こんなんじゃグラタンも焼けないよねぇ」
「…お姉ちゃん器用だね。」
「そう?ありがとね」
ポカンとした表情の弟の頭をポンポンと叩く。この発言にも咄嗟にお世辞で返すこの賢さよ!
歩を早め、家に入る。
「ただいまー」
弟のお世辞はきっと魔法もロクに使えない私への慰めだろう。
誰にも同情されたくはないが、実の弟にされるのだけは嫌だ。言葉を続けさせないためにさっさと入ってしまったが、大人気なかっただろうか?リビングに入る一瞬、ツェーンの表情が視界に入る。
——その表情は、やはり何か言いたげな表情だった。
* * *
普段仲が悪いわけではないが、私が少々気にし過ぎてしまったがために、食卓にはいささか微妙な空気が流れていた。この空気で切り出すのは勇気がいる。が、話すことにした。
「ママ」
「な、なぁにノイン」
ママも少し話しにくそうにしていた。
「もう夏休みに入ってるよね?私、ラクシュリアに行きたいんだけど」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされた。これは予想の範囲内。
「…ノイン、一人で行こうとしているの?どうやって行くの?お金は?」
「今まで貯めたお金があるよ」
「でも、何日かかると思ってるの…?定期便だってまだ先だし、それに貯めたって言っても、お金はいっぱいかかるのよ?旅行は、今度家族みんなで行きましょ?ね?」
「定期便なんて待てないよ。歩いて行く」
これにはパパも口を挟んできた。
「ノイン、冷静に考えなさい。お前は賢い子だ。危険な目に遭わないと考えているわけじゃないだろう?道中だって魔物や盗賊が出ないとも…」
「私は賢くないよ、パパ。だから一人でもたどり着けると思ってる。街道に出ちゃえば人だっているし、大丈夫だよ」
チラリと視線を移すと、いつの間にかツェーンは席を立っていた。二人もそれは止めなかったらしい。
「いいかノイン。お前が思ってる以上に怖いことがあってだなぁ…」
「何がそんなに気に食わないの?旅行とかじゃないよ。夏休みの間だけでも、私はこの町より大きい場所で勉強したいだけ。……二人は、ツェーンを可愛がっていれば何も問題な——」
ダンッ!!
パパがテーブルを本気で叩いた。
「ノイン!!!!」
私は無言で席を外した。そして真っすぐ部屋に向かう。呼び止められはしなかった。
* * *
「…言い過ぎちゃったかなぁ」
帰宅してから夕飯までの間に準備したリュックをすぐに背負い、窓から垂らした縄を使って外に降りる。
怒らせることで一度完全に私に目が向かないようにすることでスムーズに脱出する作戦。成功はしたものの、私の心はひどく痛んだ。
(殴られる覚悟もしてたけど、やっぱりパパもママも優しいな。ツェーンにも後で謝らないと)
背にある我が家を振り返り。
「ツェーンにも負けないくらい強くなるから……行ってきます」
お土産は、ウワサの真相なんかでいいだろうか。
私は町の外に足を踏み出した。
(…そういえば)
ツェーンの部屋に気配が無かった。外にでも出たのだろうか。
気にかけていると。
「待って、お姉ちゃん」
後ろから呼び止められる。そこにはツェーンが立っていた。
「何だかわざとらしい気がしたから、こっそりいなくなるんだろうなって、外で待ってた。いってらっしゃいが言いたくて。…でも外にまでパパの声が聞こえてきたよ。何を言ったのか分からないけどパパとママは今、きっと悲しんでると思う。だから——」
ツェーンは、スッと手を構えた。膨大な魔力を込めた手を私に向けて。
「ボクとケンカして、お姉ちゃん。パパとママを悲しませたお姉ちゃんを、ボクは許さない」
直したかったとこをまず直せたから、消えて結果的には良かったかもしれない。
改めてがんばりまっしょい。