吉田くんに好きだという理由(わけ)
このお話で完結です。
「それでも僕は吉田くんが好きなんです…」「隣で高木が何か言ってる…」を読んで頂けると話が分かると思います。
「吉田くん、好きです!」
僕は、こうやって吉田くんに毎日愛を囁いている。
彼のくるくる廻る表情…それが、本当に面白くて。
そして、僕は吉田くんの反応を見て安心するのだった。
それは、3ヶ月前の体育の授業中の事だった。
吉田くんはバスケの試合中にも関わらず、何故かボッーとしていた。
何故、ボッーとしているのだろうと思っていた矢先に、味方のパスのボールがすごい勢いのまま、吉田くんの頭に当たった。
それは、クリーンヒットと言ってもいい位の見事な当たりようだった。
その光景を見た先生が、何故か吉田くんではなく、僕を呼んだ。
「高木! ちょっと、いいか」
「はい!」
先生は、僕を体育館の裏に呼び出した。
その光景を吉田くんが不思議そうな顔で見ていた。
「吉田の事なんだが…」
先生が話を切り出した。
「吉田くんですか?」
「最近、変わった様子はないか?」
「いや、特に変わったとは思いませんが…」
「そうか……」
先生は、そう言って顔を下に向けた。
「吉田くんに、何かあったのですか?」
「いや、少しな…」
「何かあったんですね!?吉田くんに、何があったのです?教えて下さい、先生!!」
「何があったというより、これから起こりそうなんだよ」
「どういう事です!?」
「2ヶ月前に健康診断があっただろう?その時の結果がな…」
「もしかして、何か病気でも!?」
先生の言葉に、不安になった。
「確かに、病気だが…体には影響がないんだ」
先生は、俯きながら僕に言った。
「高木は、Apathy syndrome(無感情症候群)の疑いがあるんだよ」
「無感情症候群?そんな病気、僕は聞いたことがないです!」
「俺も聞いたことがなくてな…つい最近知ったばかりだよ」
頬を軽く掻きながら、先生は言う。
「無感情症候群はな…症状が進むと感情が無くなり、何にも興味を示すことがなくなる。最期には、生きているのか…死んでいるのか分からなくなるそうだ」
「えっ?その病気を治す薬とかないんですか?」
「今のところ、特効薬はないらしい」
「そ、そんな…」
先生の一言を聞いて、僕は愕然とした。
「でも、病気の発症や進行を妨げる方法があるらしい」
「それは、一体…何なのですか?」
「それはな…感情を動かす事なんだ。それが、例え喜びだったり、悲しみだったり。どんな感情でもいいんだ。感情さえ、動いてくれれば…」
「感情を動かすという事ですか。分かりました!僕、がんばります!」
「高木、頑張るとは何を頑張るんだ?」
「それは、僕なりに吉田くんの感情を動かすという事です!僕は、彼の事が好きです。無愛想に見えますが、他人の事をいつも気遣い、思いやれる優しい人です。そんな優しい彼を失いたくない…僕は、彼の友人として、僕も協力します」
「そうか、高木ならそう言ってくれると思った。こんな重たい話をして悪かったな」
「いえいえ、話をして下さりありがとうございます。最後に聞きたいのですが、吉田くんはこの病気の事を知っていますか?」
「いいや、あいつは知らない。まだ、疑いがあるだけであって、発症したと確信がある訳じゃないからな」
「分かりました。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうな。長い間、引き留めちまって…」
「それでは、失礼します」
ペコリと頭を下げ、教室に戻る。
気が付けば、時計は帰りのホールルームの時間を示していた。
教室の扉を開けると、吉田くんは席に座っていた。
「高木、遅かったな…何か、あったのか」
「うぅん、何もないよ!ただ、進路の事を相談してただけなんだ…ただ、それだけだよ」
吉田くんの質問に思わず、嘘をついてしまった。
僕の嘘を彼は気付いたかもしれない。
だけど、優しい彼は僕に何も聞く事は無かった。
「そっか…なら良い」
ただ、優しくそう言うだけだった。
そんな彼を見て、僕は覚悟を決めた。
彼のこの優しさを守ってみせる!
「吉田くん、好きです!」
僕の突然の告白に彼は驚いたようだ。
目の前の彼は、目を見開き、顔を赤くしている。
作戦成功。
僕が君の感情を守ってあげるからね。
だから、覚悟しといてね…吉田くん。
心の中で囁きながら、また僕は笑うのだった。
感情が無くなるとは、どんな状態なんだろうと思った事から生まれたお話でした。
私自身は、感情の振り幅が大きすぎて、もう少し落ち着けよ!って思いますが(笑)
感情というものを大事に生きていたいなと思っています。




